中条村下長井の寺地というところに大日如来の石像が3体並んでいる。3体とも智拳印を結ぶ大日如来である。真言宗では呪文を唱えると諸病が治り、安産をするという仏という。『中条村の石像文化財』によると、中条村内の大日如来は7体とあり、この下長井の属する日高という地域には3体を数える。しかし、それらは下長井ではなく、ほかの集落に存在する。したがってこの寺地にある大日如来は同書には見当たらないわけだ。さらには、同書に掲載されている写真から察すると、中条村にある大日如来は、どれも文字碑のようである。どの地区にも大日堂といわれるお堂があるものの、石像の大日如来は稀だということになる。
当初仕事で下長井地区内を歩いていて、この3体が並ぶ姿を見た折に、同書のことを思い出してそこに記録されているだろうと期待していたのだが、調べてみると記載がない。まったくの畑の中の一部にその3体が置かれているわけで、どういう空間なんだろうと近くの方に聞いてみた。すると、かなり昔のことのようだが、ここに尼さんが住む小さなお堂があったという。のちにその尼さんは正面の犀川隔てた安庭の寺に移ったというが、詳しいことは聞いた方も高齢の方だったが、かなり昔のことで年寄から聞いた話だという。
写真の3体のうち右端の像はちょっと雰囲気が違う。普通大日如来は宝冠をいただいているのだが、この像には宝冠がない。女性的でまさに尼さんが智拳印を結んでいるように見える。約4坪ほどの敷地に安置されているが、傾斜地の畑地内であってまわりからは見えないような場所である。左端のものは下の写真のように右足の裏を上に向けていて、その足の様子がリアルに彫られている。わざわざ天衣の上にあげて誇張しているようにも見えるが、何か意図があったのだろうか。
さて、『中条村の石造文化財』は、行政が地域の人たちを中心にまとめた本である。こうした本はけっこう地域ごとたくさん出ているのだが、同書を開くと、石仏写真を羅列して資料的に載せているところはほかの書とそう変わりはないのだが、石仏だけではなく、集落の様子や里山の様子が掲載されていて、そうした写真はその地域を語る貴重なものとなっている。石仏に関する解説がなく残念な部分もあるが、写真集として見るには良い本となっている。