Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

高遠だるま市へ 後編

2023-02-13 23:26:39 | 民俗学

高遠だるま市へ 前編より

 

 

干支だるま、高遠さくらだるま

 

だるまを納める

 

飾られた人形

 

石段下の参拝所

 

交渉するひと

 

 基本的に高遠だるま市に来られる方は、毎年来られている方が多い。だるまが売られている露店のすぐから長い石段が始まる。この日は前日の大雪だったこともあり、会談は滑りやすい。だからというわけではないだろうが、医師団の登り口に賽銭箱が置かれている。長い階段を登ることが困難な方のために置かれた賽銭箱なのだろう、実際はここでお参りして引き返す方が多い。とりわけ滑りやすい今回は多かったのかもしれないが。そうした中、大きなだるまをいくつか担いでやってこられた高齢の男性は、「だるまを納めるところはどこか」と石段の近くまでやってきて露天商の方に聞いた。すると「お宮までいかないと…」と言われて戸惑いの顔を見せたが、仕方なく石段を登って行った。だるまの納めどころは、境内まで上った右手にある。そこには、「お願い」という立札が建てられていて、「だるま、御神札、御守り、破風矢、熊手等 厄祓いのご祈祷お炊き上げをいたします。お祓い祈祷に対し、三百円程のご厚志賜ります様お願い申し上げます。」と書かれている。小さなだるま一つでも、大きなだるま三つでも、おそらく300円なのだろうが、ここまで上がってきて「300円なんだ」と思わず声をあげる人もけっこう多い。

 この日、やはり知り合いの女性とお会いした。隣の伊那市芦沢の方で、歩いて来られたという。毎年来られているようだったので、「だるまを納めるのですか」と聞くと、そうだという。それにしてはだるまを持っている雰囲気がなかったので、不思議そうな顔をわたしがすると、「わたしは小さいので…」と背負っていたバッグをわたしの方に向けられた。ようやくわたしも納得したわけだが、近在の方はこうしてだるまを納め、帰りにはだるまを買っていくわけだ。

 大雪だったこともあり、早く行こうとは思っていたが、鉾持神社に着いたのは午前8時30分過ぎ。石段を登っていくと、神社委員のみなさんが雪かきをされている。その様子から察して、参拝者のピークはこれからだと察した。この日は午前7時から周辺の道路が規制になった。わたしが訪れた時間帯はまだ参拝者で賑わうというほどのことはなかったが、しだいに参拝者は増え、午前11時くらいからは食べものの露店には列ができていた。

 さて、妻からはだるまは買ってこないように、と言われていた。妻はあまりだるまは好きではないようだ。前編で記した知り合いのように、必ず毎年だるまを手に入れているという方の思い入れとは全く異なる。縁起物に対する意識は人それぞれでよいが、いまだ日本人には縁起物に対する依存心はけっこうあると推察されるのは、相変わらずの初詣の賑わいでじゅうぶん理解できる。ということで「買わない」つもりだったが、マチの中を歩いていて思わず買ってしまったのは「高遠さくらだるま」だった。本町の方たちが売っているもので、聞くところによると、かつてはそれぞれの店で軒下などに人形を飾ったものだが、店で働く人が減り人形の作り手がいなくなってそうした風習が廃れたという。そのうちに町ごとに人形を飾っていたが、それもなくなってもう20年くらいと言う。それでは寂しいという声もあったのだろう、町ごとに趣向を凝らす中で、特別なだるまを売るようになったようだ。本町のだるまは桜をあしらったもので、身障者の方たちができあがった専用のだるまに桜のはなびらを貼るのだという。赤、白、黒、ピンクといった種類があったが、わたしは桜らしくピンクのものを買った。地元の新聞などでこうした趣向を凝らしただるまの予約販売のことを耳にしていたが、当日売りもあったわけだ。作った「高遠さくらだるま」は千個ほどだと聞いた。

 そういえば、と気がついたのは干支だるまも事前予約されていたことに気がついた。同じように当日売りがあるのかもしれないともう少し歩いていると、霜町で売られていた。とはいうものの、こちらはもうわずかで10個もなかっただろうか。「一つだけなら」と言われて購入したが、こちらのだるまは箱入りでカートが入っていた。そこには「佐川だるま製造所」とあり、検索してみると福島県白河市のだるま屋さんのよう。ホームページには「変わりだるま」として干支だるまが紹介されている。いずれのだるまも冒頭のような写真のものである。

 かつて人形が飾られたという十四日市。名残りで現在も人形が飾られていると聞いたが、実際は保育園の子どもたちが作ったもので、この日も町内2か所に飾られていた。久しぶりに訪れた高遠だるま市は、昔のような賑わいは感じなかったが、それでも露店に人が列をなしている姿を見て、3年ぶりの高遠だるま市は多くの人々に福をもたらせてくれたようだ。


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