Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

大物不在とは言うが

2008-09-14 13:00:30 | ひとから学ぶ
 「風をよむ」で大物不在の時代を取り上げたサンデーモーニング(TBS 9/14放送)。街頭で聞けば一様にして「大物がいない」と答えるが、はたしてそれは人々が望んでいものであって、けしてそれを不幸と思うことでもなんでもない。わたしも「巨人・大鵬・玉子焼き」と言われた時代に育った。テレビが我が家にも登場して、毎日のようにテレビに向かった。「見すぎると目を悪くするよ」というのは口癖のような大人たちの躾言葉だった。しかし、子どもたちがテレビに向かっていたばかりではない。瞬時の情報は映像という今までになかったもので、人々の心を奪った。そんな時代だからこそ、画面に登場する人物は大物になりえた。番組でも取り上げている長嶋茂男や大鵬、そして石原裕次郎や美空ひばりといった人たちは、そんなメジャー化する映像の世界でヒーロー的存在であったことは言うまでもない。それは今にして「大物不在」とひくくりしてしまうような背景ではなかったはずだ。まさに世相であり、時代が作り上げてきた象徴的人物だった。同様に政治家もまた、映像の上で十分にアピール可能であったし、血筋がものをいった時代には、そうした人々が象徴的な言葉で人々を魅了していったことも確かだ。

 街頭での大物への言葉をみると、「神秘性といったものは、情報時代では難しい」とか「飛びぬけた人も出ない、落ちこぼれた人もいない」、あるいは「隠すべきところは隠しておく必要がある」というようなあがる。みながみなこじんまりしてしまった原因にマスメディアの影響があるようだ。時代は何もかもオープン化している。そのいっぽうで個人情報保護というものがあって、どうでもよいところが隠されている。どうでもよい言うと叱られるかもしれないが、個人の住所なり年齢などと言うものが人に知られたところでどうなんだ、と思うのはわたしのような鈍感な人間なのかも知れないが、裏を返せばそういう情報でかつてにはなかった商売をしたり、悪事を働くために利用したりする人もいるからだろう。信用のおけない時代にどうでも良いことは隠さなくてはならないが、著名人ほどに詮索されることも多く、そんな大物として偶像化するほどの象徴は生まれはしない。ようはみながみな、欠点を暴き足を引きずることしか考えていないのかもしれない。その原点には人を蹴落としても勝たなくてはいけないという経済至上主義があるだろう。かつてなら一部の人たちがそうした意識にあればよかったのだろうが、これほど情報が流れると、まごまごしていると「人に置いていかれてしまう」と誰もが危機感を持っているはずだ。そうした意識が、こじんまりした人間を作り上げているし、そうした人間を求めているのかもしれない。しかし、そのいっぽうでいまだに「大物」というもの言いをする人たちは少なくない。地方の政治家であっても、決断力がないとか、行動力に欠ける、あるいは指導力に欠けるという言葉で形容されてしまう。しかし現実の中では、住民への協同という意識が広がり、自治は住民みんながかかわっていく必要があるなどと言う。もし、それが本当なら自治体の長にしても政治家にしてもそれほど「大物」など必要はない。混乱する世の中だからこそ、指導力のある「大物」を期待するのだろうが、現実的な世界ではまったくそんなものを必要としていない。

 山折哲雄氏の言葉「なにごとについてもグローバリゼーション、市場主義掛声ばかりで、ついに「大物」出現の土壌が押し潰されてしまったのだろう」を紹介している。そして大量生産、大量消費の時代にあって、「効率化」「数値化」「格付け」が重んじられ、背景は変化してきていると説く。人間の多様性を自ら消してきたわけである。だからといってそれが不幸というわけではないはずだ。佐高信氏が「不在が不幸なのか」と感想を述べたように、いないからといって嘆くことは何もない。思うに「不在」とは言うものの、巨人・大鵬・玉子焼きの時代にイチローがいたら、あるいは松坂がいたら、やはり長島や王と変わらぬほどの大物だったのではないだろうか。ひとつの象徴的なものを待ち望んでいた時代と現代とは違う。もちろん指導力というものはいつの時代も望まれるものだろうが、逆を言えば誰にもそうした影響をもたらせる機会が与えられていると思えば、けして大物などというものを待ち望まなくてもよいわけだ。与良正男氏は国民的人気などというものはふわふわしたもので、これからはチーム、組織力が問われるという。確かにそうなのかもしれないが、それだけでもないとどこかで感じる。それは協同意識を口にしながらも、どこか個人主義は前進している地方に住んでいるわたしだからこそ思うものなのかもしれない。このあたりがわたしのマイナス志向の原点なのだろうか。
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