Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

萌える

2008-01-26 17:42:36 | ひとから学ぶ
 1/25中日新聞社会面に「出会い系…会わないまま5年/男に会社の金1億5,000万」というものが見えた。見出しでだいたいの内容は察知できる感じである。名古屋市中川区の女性が出会い系サイトで知り合った男性に5年間で約1億5千万円送金したというものの、その男性に一度も会ったことがなかったというのだ。そしてその送金した金は、自らが勤めていた会社から盗んだものだという。ということで逮捕されてしまったわけであるが、きっとこのニュースで驚かれるのは、「一度も会ったことがない」というところだろう。しかし、考えてみれば会ったにしても会っていないにしても、だまされたことに変わりはなく、一度も会ったことがないのに送金したからといって「なぜ」を連発するほどでもないだろう。金を盗んだ女性がこの男性に初めて会ったのは法廷だったという。あらかじめ男性が送っていた写真とはかけ離れた顔だったという。これをおかしく笑うか、惨めに思うかはそれぞれであるが、同じようなことはこの世の中に溢れているような気がする。

 同日の同じ中日新聞に「萌えるモノづくり」の連載の番外編が掲載されている。ご存知の森永卓郎氏が、萌え市場の将来性を説いているのである。以前「音姫」について書いたが、その商品もこの「萌えるモノづくり」で紹介されていた。書いた通り、そ「そんなものが必要なのか」というようなオタク的な商品が、実は市場性が高いというのである。発想の転換、あるいは今までの常識ではなかった、人の単純な思いが商品開発の原点になるのである。時代の変化は激しい。もちろん高齢化社会の中で、介護社会がやってきていれば生活上の手助けをしてくれるロボットの開発は日夜進んでいるだろう。わたしに言わせれば、それも「萌え」のようなもので、いざとなったら、人に声をかけようにも人が「いない」なんていうことは当たり前になっている。孤独の時代に必要なものは、それを補ってくれるモノになるだろう。動くものもあれば動かないものもあるだろうが、いずれにしても人は、そこに感情移入をしようとしている。オタクというものはけして人事ではなく、すべての人たちを救ってくれる世界のようにも見えてくる。森永氏が「結婚できない男が増えたことが一番大きいでしょう」と萌えビジネスの背景を説く。結婚したいと思う男性がいてもなかなかできない。結婚どころではない。恋愛そのものですら遠き世界に見えてきてしまう。そこに日本人の独特な考えが結びつく。「外国人のプロ野球選手はバットやグラブを踏んづけたりするけれど、日本人はしない。バットはいつもびかびかに磨いている。それはある意味、モノへの恋愛感情であり、経済合理性とは無縁の感性です。それが萌えなんだ」と説く。だいぶ日本人特有の精神は低下してきているとは思うが、ある意味では歪曲した、あるいは偏った特有の精神が露になってきている、ともいえるかもしれない。ある意味新興宗教的といってもよいだろうか。

 そんな萌えの世界の話を記憶におきながら、冒頭の事件に戻ろう。一度も会わなくとも、送られてきた男性の写真を見ながら、女性は自分の世界を膨らませていったのだろう。思い描く世界が膨らむとともに、そこには象徴が現れてきて、不正を働いてしまった。周囲がもっと早く気がついてあげればここまで大事にもならなかっただろうに、やはりそこには「人がいなかった」ということではないだろうか。騙されるということは偽りを信じたということになる。わたしのように常に「怪しい」なんて思っていると、心はすさんでくる。それを思えば、信じることは悪いことではない。この社会に翻弄された事件が相次ぐなか、末期的現象と笑ってはいられない。
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