Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

ポイはオタマ

2007-09-19 12:25:41 | 民俗学


 金魚すくいといえばお祭りである。あまりこうした夜店というものが日常やってこない地域にとっては、お祭りの夜店は、子どもたちにとってはなによりの楽しみである。そういえば、わたしの子どものころ、地元の秋祭りだというのに、夜店がひとつもやって来なくて、つまらなくてふてくされたことを思い出す。今でこそ地元の秋祭りには、いくつかの出店があるが、なぜなのかわたしの時代にはその夜店が来ないときもあったのだ。

 そうはいっても昔にくらべれば、夜店がやってくる機会は多くなったように思う。秋祭りだけではなく、夏祭りの数も多いし、自動車で移動する時代だから、遠くの祭りも今や子どもたちの標的になる。楽しいこといっぱいで、さぞ楽しいことだろう。

 さて、金魚すくいというものはどこの夜店にもあるというものじゃない。おもちゃを売るより金にならないだろうし、準備もおおごとだ。棚を広げて品物を並べるという簡単なものではない。ということで楽しそうでもなかなかお目にかからない。子どもたちもあまり喜ばないかもしれないから、賑わう祭りでないと登場しないかもしれない。そんな金魚すくいを、だれでも少なからず経験しているとは思うが、なかなか簡単そうですくえないのが現実だ。裏技のようなものがあるのだろうが、そこまでしてすくおうとも思わないだろう。なぜならそんなにたくさんすくっても後が大変だからだ。さすがに金魚すくいの全国大会なるものがある。養殖の盛んな奈良県大和郡山市では、観光事業として1995年から毎年8月に「全国金魚すくい選手権大会」を開いている。すくうときに使う網のことをポイという。検索していたら、金魚すくい用の道具を売っているページもあった。さすがに人気があるから道具もあちこちで引っかかる。「使い捨て金魚すくいポイ 1箱200ヶ入り(厚い5号・うすい6号)¥3,087」なんていうのもあった。ここからも解るように、厚いものと薄いものがある。号数が大きくなるほどに紙の厚さは薄くなる。5号はお祭では子どもや女性用として利用されるようで、男性用には6号となるようだ。6号だと、平均1~3匹ぐらいしかすくえないという。ポイについては、紙を貼ってあるものもあるが、最中に針金を指したものを使わされることもけっこう多い。

 すくうのは良いが、その後が困る。すくったものの意外にも周囲にはあまり喜ばれないことが多々ある。そんな意識が要因としてあるかもしれないが、こうした金魚は長生きしない。わざわざ金魚すくいの金魚を飼おうと、水槽と餌を購入する家庭も多いだろう。ところがすぐに死んでしまうことも多い。もともと金魚を飼おうとして金魚すくいをしているわけじゃないから、最初の発想が間違っている。実は金魚はけっこう長生きするといわれ、こうした金魚すくいの金魚でも長く飼っている話をたまに聞く。しかし、おおかたはもともと病気を持っていることが多いのか、長生きをしたという話を聞かない。

 写真は、「音の伝承」でも紹介している上伊那郡飯島町石曽根の諏訪神社の秋祭りで、15年前に撮影したものだ。地元の人たちしかやってこないような祭りだから、地元の同志会という人たちが夜店を出している。金魚すくいや綿飴なんかも作っていた。さすがに地元のひとたちが地元の子どもたちのためにやっているから、お金もとっていないのだろう、金魚すくいの風景もちょっと違う。男の子のお姉ちゃんが手にしているのはオタマである。これなら破れることはないから、いつまでもすくえる。ただ、これではいつになったら次の人に番が回るのだろう、なんて思ってしまうが、そこが地元の人たちの楽しみだから、なんとかなるのだろう。
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