Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

土地改良という悪者

2007-08-19 10:05:43 | 歴史から学ぶ
 先ごろ民主党の農業政策に関連して土地改良事業に触れた。その際このことについてはまた後日記述すると言った。そこで簡単にここで触れておくことにする。ここで紹介するのは、やはり以前に円筒分水工のことで触れた西天竜用水路である。地域では「にしてん」と言われて親しまれているこの水路は、大正11年から工事が始まり、昭和3年に完成した。全長で26キロほどあるこの水路は、かつては桑園や山であった地域を水田地帯に変えたのである。主に中央自動車道に併走している水路で、この水路より西側、いわゆる標高の高いところは畑作が主体の地域になっているから、より一層この水路の上下での土地利用の違いがわかる。目に見える部分はこの中央道に併走していて開渠となっているが、実は全長のうち約半分はトンネルや暗渠となっている。素人でもわかると思うが、開渠よりは暗渠の方が工事費は高い。大正時代から昭和初期に造られたということで、それを現在のお金に換算すると土地代だけでも何億とかかっているようだ。すでに90年ほど経過しており、もちろん当初の施設のままではなく、大半は改修や補修がされてきた。おおざっぱな話として、今、この施設をすべて造り変えるとしたら、200億近くかかるのかもしれない。加えて、この施設を造成することで開田された広大な農地に、この幹線水路から支線の水路が約280キロほど枝状に流れ出ている。そうした水路も作り変えるとなると、やはり総額200億は下らないのではないだろうか。この水路の恩恵を受けている水田が、1180ヘクタールという。コンクリートの水路と言っても、耐用年数はさまざまなのだろうが、一般的に言われる40年で計算すると、1へクタールあたり年間約42万4千円が用水路費用にかかることになる。これを国の補助金、いわゆる公共事業というやつで整備したとしても、農水省の公共事業に100%税金で賄われるものはない。ようはこうした水路を利用している専門的な言葉で言えば「受益者」といわれる人たちが負担する分があるのだ。25%受益者が負担するとなれば、1ヘクタールあたり10万6千円が年額となる。実はこうした負担額も、実際は自治体が負担したりしてできるかぎり受益者には負担が少なくなるような策が講じられてきたが、今や自治体不振のなかで、ますます受益者は厳しい状況になりつつある。75%も国や県が出しているんたから当たり前じゃないか、と言われてしまうとどうにもならないが、河川や道路といった国土交通省の担当している分野とは明らかに立場が違う。

 これまで触れたのは施設建設費だけである。これだけ大きな施設ともなれば管理費に要す金額も大きい。それは毎年受益者が実際に負担してきている。そこまでしてこの衰退させられた農業者が払い続けられるかどうかが、これからの課題だろう。それならそんな施設辞めてしまえば、という意見もあるかもしれないが、この1000ヘクタール以上の広大な土地も、そのまま利用価値のないものとなる。もちろん利用価値がないというのも言い過ぎかもしれないが、食料自給率の現状などから考えれば、いかに農業の現状から将来が見えてきているかが解るはずだ。どこそのこうした幹線水路で、改修するにあたり、自然と調和した水路にしろというような話がよく出る。西天竜用水路に関していえば、水路のすぐ脇にフェンスが立ち、その上には乗り越え防止のために、釘のように尖った鉄がむき出している。なんとも味気なく、調和しない姿だと言わないのがこの地域の人々の良いところで、あくまでも農業をするためのかんがい水路なのだ。水路のすぐ脇にフェンスがあり、その外は管理道路となっているから、草が生えるようなスペースがとても少ない。だからこそ管理する手間がまだまだ少ないといえる。昭和50年代という、今のような環境を一斉に口ずさむような時代ではなかったときに多くを改修したことから、このような頑固な施設が誕生したともいえる。河川とは違うこの施設独特な目的があるのだから、この空間分けはけして責められるものでもない。

 時代は環境という名を掲げれば、それに勝るものはないほど人々は伏してしまう。だからといってこうした幹線水路にさえ受益者の負担を被せている現状で、そして農業を馬鹿にしてきた人々に、農業環境を背景としている部分に『環境』という名で圧力を加えないで欲しいものである。サンデープロジェクトは、参院選といえばこの名を冠した団体の集票を取り上げて、悪者にしてきた。必ずしも政策に振り回されたこうした人々が無駄なカネを使わなかったとはいわないが、こうした施設そのものに残された本質的な問題には触れられていない。
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