ウツギという言葉を聞くと、南駒ケ岳をはじめ中央アルプス南部の山々に親しみを持つものにとっては、空木岳をイメージする。この空木岳の山の名が、ウツギからきているということは、若いころは知らなかった。空木という山の名は、伊那谷でウツギの白い花が満開のころ、空木岳の頂上だけ雪が残っているのが見え、それがウツギの花のように見えることに由来する。
ウツギは卯の花といわれるもので、唱歌「夏は来ぬ」において「うの花のにおう垣根に、時鳥早もきなきて、忍音もらす 夏は来ぬ」と歌われることから意外に知られてはいるが、その卯の花がどんな花なのか、今や若い世代の多くの人が知らないかもしれない。初夏に小さな花をたくさんつけるということはよく言われることで、卯の花が咲けばもう初夏ということになる。まさにその卯の花が盛んに咲いていて、いよいよ衣替えの季節となるわけだ。北海道から九州まで、ごく普通にみられる落葉低木である。
ウツギの木は、畑の境界の目印として植えられることが多かった。すでに荒れ放題の山の畑で、境界を確認したりすると、意外にもウツギの木があったりして、境界木としてのウツギを実感することを何度か体験した。また、次のような目安ともされていた(『長野県史 民俗編』より)。
うつぎの花が咲いたら豆をまけ、という。(下伊那郡清内路)
うの花が咲くと田植えに(昭和25年ころまで言われた―下伊那郡阿智村大野)
うの花盛りが豆のまきどき、という。(下伊那郡泰阜村金野)
うの花が咲いたら田あぜの豆をまく。(木曽郡旧山口村峠)
[撮影 2007.5.26]