Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

ムラ境の厄神除け

2006-02-16 08:20:16 | 民俗学
 2月15日、下伊那郡松川町上片桐の諏訪形集落において、厄神除けの草履つくりが行なわれる。この日、ちょうど仕事の関係で飯田の事務所を訪れた。その帰り道、吊るされたばかりの草履を写真に納めた。朝10時から草履つくりが始まるということで、その現場を訪れることはできなかったがいつかは日程を合わせて調べにいきたいと思っている。この草履は、かつて青年会が年に2回、春は八十八夜、秋は二百十日に作って集落の入り口に吊るしたという。昭和20年に途絶えていたが、昭和54年から老人クラブの人たちによって復活し、毎年この日に作られるようになった。草履の大きさは長さ1.2メートル、幅0.8メートル程度ある。諏訪形の集落は、JR上片桐駅の南に位置し、東西に細長い集落である。集落の中を「なかみち」という道が東西に走り、集落南側の片桐松川の段丘崖上に「やまみち」という道が、やはり東西に走る。このやまみちの東のはずれと、西のはずれに草履が吊るされる。東のはずれには吊るすための棒が立てられ、西のはずれでは、木の枝に吊るされる。以前訪れたときは、道の両側に縄が張られて、そこに吊るされていたが、今年は木の枝に直接吊るされていた。
 
 同じような行事を拾ってみると、諏訪市豊田上野では、「二尺くらいの大わらじを作り、ムラの上と下につるした。魔よけや悪病除けのためといわれた。わらじ作りが下手で大きなわらじを作る人に「お前のわらじは魔除けになる」といって笑った」という。また、南信濃村十原では「神社へムラの衆が集まって百万遍の念仏を唱えたあと、ムラの入り口に注連縄を張って大きな草履を吊るした。これをミチキリといい、悪病の入り込むのを防ぐのだといった」という。このように草鞋を吊るす事例は多いが、天然痘や伝染病か流行ると、ムラのはずれに注連縄を張って草履を吊るすというところもけっこう多かった。

 こうしたミチキリの行事は全国的にも多い。巨大な草鞋を吊るすことで、このムラには恐ろしい巨人がいると思わせ、疫神を防ぐ。呪物で疫神をまどわすという意図もさまざまな形で見ることができる。「節分」でも触れたが、夕方小さい紙きれに「カニ・カヤ」と二行に書いて、戸間口、戸袋・蔵の中・便所・厩などに貼ることも、鬼が来たときにまどわせる意味があったようだ。さらに「芦の尻のドウソジン」もよそからやってくる疫神に立ちはだかる神を模している。芦の尻では、ドウソジンの横の道に、ミチキリの縄が張られていた。こうした行事の日取りはまちまちではあるが、2月8日、春彼岸、4月8日、田植えごろ、6月8日、盆前後、二百十日、9月節句、12月8日などで、疾病の流行りそうな時期が選ばれているようだ。
 長野県内でも「かつてやっていた」という話はよく聞くが、実際行事を続けているところは少ない。
コメント


**************************** お読みいただきありがとうございました。 *****