Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

稲のハザ掛け

2005-10-10 16:51:04 | 民俗学
 今日は、稲刈の予定であったが、雨のためできなかった。昨日半分できたので、今日やれば終わりになるというところだったのだが、残念。稲刈といってもいろいろである。昔なら稲刈といえば、田に育った稲を刈り取る作業で、ハザに干すまでが一連の作業だった。ところが、コンバインの普及、あるいは機械の大型化、協業化という流れで、ハザ干しという作業が省略されるようになった。ハザ干しがないということは、次に行なわれる脱穀という作業もないわけである。わたしの実家もほ場整備によって水田が大規模になり、また、協業化が進み、大型機械で刈り取るようになって、機械とオペレーターが来て刈ってしまう。農家から一人出て、オペレーターの手助けをする程度であり、一家総出で働くという環境はなくなった。コンバインで刈ってしまっても稲刈に変わりはないが、ハザに干すかつての稲刈と作業の内容は異なる。実家でも整備後数年間は自家で食べる分は、ハザに干していた。ところが、種モミを作るようになったころから、買っても同じだからといって、自家消費用の水田にも種モミを作るようになり、自家の米は人の米を食べるようになった。別家した当初は、わたしの家の米をもらって食べていたが、このように稲作にしてもほとんど手がかからないようになって、ただで米をもらうのも気が引けるようになってきたのと、人の米を食べるくらいなら、ということで、妻の家の米をもらうようになった。妻の家の稲作は、田んぼも小さく、大型の機械も入れないということで、人手がいる。したがって、一時農業を手伝うということがなくなっていたが、頻繁に田や畑に出るようになった。
 田んぼの枚数にして5枚、面積も小さくたくさんではないが、形が悪いのでけっこう大変であるし、効率は悪い。稲刈といえばハザ干しである。前にも述べたように実家ではハザに干さないので、わたしの手はいらなくなったが、まだハザ干ししていたころは、盛んにこの作業をした。稲刈というと、ノゲが背中に入ったりして、かゆくなるのが嫌なことである。子どものころ何が嫌だったかといえば、それが嫌であった。そんななかで、ノゲにあまり接しない作業はないかと思った中で、ハザ掛けがもっとも埃っぽくないと思ったものである。そんなこともあり、進んでハザ干しをした。そして何より早く終わらせたかったので、どうやれば早くでできるか、真剣に考えたものである。ハザ掛けにも右側からと左側から掛ける方法がある。もちろん利き腕が作業の大事な部分をまかなうほど、早いのである。そんなことで、稲の束を右手でつかみ、そのつかんだ時に、すでにハザに掛ける分量でつかむのがこつなのである。そして、右手でハザの近くまで運び左手に持ち替えたときは、すでにハザに掛かる状態にする。そして、左手で掛けた稲束を押すだけで、すで右手は次ぎの稲束をつかむ状態にはいるのである。ハザと稲を置いてある距離によって異なるが、ベストの位置にセットすれば、1秒間に1把掛けていくことも可能である。自らいうのもおかしいが、ハザ掛けの速さでは人には負けない。もちろん稲をとるサポートはいらない。たまにおばさんに採ってもらうと、早く採らないとわたしが待つ羽目になり、早すぎて嫌がられる。それでも歳をとったというか、昨日少し掛けただけだが、少し腰の上あたりの筋肉が痛い。頻繁に腰を曲げるのだから無理もないが、ハザ干しは楽しみの一つである。
 さて、ハザ掛けについて触れておく。わたしの実家ではハザは一段掛けであったが、掛けた上にワカサといって、横に稲の束を当分に分けて寝かせて載せていった。こうすることにより、上を向いている茎に雨が入らないようにしたわけである。家によっては一段掛けた上に、直接二段目を掛けてしまうこともあったが、この場合横棒一本に二段に掛けていたから一般的にいう一段掛けと同じだろう。妻の実家ではこのワカサの代わりにビニールシートを今は掛けているが、昔はそんなことをしなかっただろう。いつごろからシートを掛けるようになったのか、また、それ以前はどうやっていたのか聞いていない。比較的平坦地では一段掛けが一般的であったが、山間地に入ると横棒を何本か使う多段掛けが多くなる。木曾谷では頑丈なハザに何段も掛ける。下から稲を放り投げるわけで、とてもわたしの技は使えない。山間地でも特に傾斜地で土地が限られていると、家の庭まで運んで多段に掛けるということも行なわれた。その場合のハザは、通年設置しておくこともあった。また、ハザに掛けずに地面に逆さに立てかけたりする立て干しというものや、ただ寝かせて置くだけの地干しというのもあったというが、地干しというのはわたしも見たことはない。
 写真は木曽福島町黒川谷のものである。
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