(4) ヴィオロン・テノール

2012-10-13 | Essay
Violão Tenor (ヴィオロン・テノール)、英語ではTenor Guitar (テナーギター)

4弦の小型ギター。バンドリン奏者の持ち替え楽器として紹介される事が多いですが、こちらは単弦。
調弦は低い方からCGDAで、バンドリンの5度下です。バイオリンとヴィオラの関係と同じ、と言うと分かりやすいでしょうか。
相対的に同じ調弦であるとはいえ、弦長が長いので左手の運指はバンドリンとは異なります。


アメリカでは1920年代にGibsonやMartinがテナーギターの製作を始めていましたが、ブラジル音楽にこの楽器を持ち込んだのは1930年代のガロート(Anibal Augusto Sardinha, 1915-55)が最初だと思われます。当初ガロートはアメリカのNational社製の金属ボディーの楽器を弾いていましたが、程なくしてブラジルDel Vecchio社製のDinâmicoというモデルに持ち替え、後にこれが彼のメイン楽器の一つになります。

カルメン・ミランダのバックで聴かれる演奏はそれは素晴らしいもので、マルチ弦楽器奏者のガロートではありますが、個人的にはその真骨頂はテナーギターにあると思います。

ジャコー・ド・バンドリンもいくつかテナーギターの名曲を残しています。
(A Ginga do Mane, Migalhas de Amor, Cristal, Nostalgia, Cariciaなど)
曲によっては5度上のキーでバンドリンで演奏される事もある名曲揃いです。

珍しいテナーギター専門の奏者としては、アルヴァロ・ド・ヴィオロン・テノール(Álvaro Brochado Hilsdorf, 1923-1997) オリジナル曲を含む全編テナーギターリードのショーロアルバムを数枚残しています。

同じく全編テナーギターの録音としては、ペドロ・アモリン(Pedro Amorim 1958-)が全曲オリジナルによる、その名も“Violão Tenor”という素晴らしいアルバムを発表しています。

忘れてならないのが、ガロートの流れを汲む現代の巨匠ゼ・メネゼス(Zé Menezes 1921-)です。
ガロート同様マルチ弦楽器奏者であり、90歳を超えてなお現役で活躍を続けるその姿はすべてのショーロ演奏家にとっての指針となる事でしょう。

バンドリンに比べて派手さはなく小回りの利きにくい楽器ではありますが、その素朴で優雅な音色はショーロ史に小さくも確かな光を放ち続けています。

追記:Zé Menezesは2014年に亡くなりました。

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