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不正は行われたのか? /振り分け採点の是非と弊害 Part 1 - ロマチェンコ VS T・ロペス ショートレビュー -

2020年10月24日 | Review

■10月17日/ザ・バブル(MGMグランド),ラスベガス/WBA・IBF・WBO世界ライト級王座統一12回戦
IBF王者 テオフィモ・ロペス(米) 判定12R(3-0) WBA・WBO王者 ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)


※135ポンドのNo.1となった若き統一王者テオフィモ


半ば無理やりにと言うか、ほとんど強引にテオフィモの勝利と予想はしてみたものの、まさか本当に勝ってしまうとは・・・。

そして中~大差を付けたオフィシャル・スコアが、またもや物議を醸している。とりわけ問題視されているのが、ニューヨークから馳せ参じた女性ジャッジ,ジュリー・レダーマン。

彼女が付けたスコアは、何と119-109の10ポイント差でテオフィモの勝利を支持しており、「試合内容を正当に反映しているとは到底言い難い」という次第なのだが、「ロマチェンコが1ラウンドしか取っていない?。そんなバカな・・・」と噛み付きたくなる気持ちも、まあわからなくはない。

のっけから恐縮だが、先に結論を書いてしまう。彼女のスコアにまったく問題が無いと言うつもりはないけれど、ことこの試合に関する限りロマチェンコの勝ちはない。いや、この際だから「有り得ない」と、敢えて強調を加えて言い換えることにする。


西岡利晃をゲストに招いたWOWOWエキサイトマッチの実況席は、想像を超えるロマチェンコ贔屓で正直なところびっくりしたけれど、「何ですかこれ」と吐き棄てるかのように言い放ち、10ポイント差のスコアに呆れ果てるジョーさんのコメントを聞いて、「解説者としての仕事はともかく、採点は止めるべきではないのか・・・」と素直にそう感じた。

空恐ろしいほど勉強不足の国内スポーツメディアと、元王者を含む一部のプロ選手と関係者は論外にしても、ロマチェンコの勝利を支持する日本のファンが存外に多く感じるのは気のせいだろうか。

もしも私の杞憂が事実だとすれば、非常に悪い意味で、ラスベガス・スタイルの振り分け採点に日本のファンが馴染み過ぎてしまった(毒された)のだと、そう嘆く他にないだろう。

10ポイント差を付けた女性ジャッジのスコアについて言えば、率直に言って有り得ると思った。何故なら私自身、確実にロマチェンコが取ったと言い切れるラウンドは、9,11の2ラウンズのみだと判断したから。

ジュリー・レダーマンの採点にも、少なからず同意できる点があると、個人的にはそう考えざるを得ない。

◎オフィシャル・スコアカード

ティム・チーザム(米/ネバダ州):116-112
ジュリー・レダーマン(米/ニューヨーク州):119-109
スティーブ・ウェイスフィールド(米/ニュージャージー州):117-111


◎オフィシャル・スコアカード(清書)




◎アンオフィシャル・スコアカード


<1>アンドレ・ウォード(ESPNのゲストとして採点):114-114
<2>ジョー小泉,西岡利晃(WOWOWエキサイトマッチ):117-111でロマチェンコ


※アンドレ・ウォードの採点



◎不肖管理人KEI:113-118でロペス
(完全振り分け:112-116)



詳しい理由は後述するが、まずは問題(?)の女性ジャッジ,ジュリー・レダーマンについて、アウトラインをざっくりと。

1996年10月以来、およそ四半世紀に渡ってニューヨーク州の公式審判を努め、担当した公式戦は690試合を超える。申し分のない経験を積んだベテランであり、過去に採点を巡るスキャンダラスかつ大きな騒ぎは起こしていない。

そして実父のハロルド・レダーマンは、ご存知HBOの名物アンオフィシャル・ジャッジ。国際的な認知を得ており、なおかつ同じニューヨーク州の公式審判を、22年(1967年11月~1999年8月/通算405試合)勤め上げた親子ジャッジとしても有名。


※ハロルド(左)とジュリー(右)のレダーマン親子


マイケル・バッファー,ラリー・マーチャント,ジム・ランプレイらとともに、HBOの看板番組「World Championship Boxing」の顔として、1986年から2018年12月8日の最後の中継まで、32年もの長きに渡り活躍した父ハロルドは、昨年5月に79歳で他界。死因は癌とだけ伝えられている。

同月25日にDAZN USAが中継した興行(メリーランド州オクソンヒル)のリング上で、盟友マイケル・バッファーによる簡潔ながらも真心のこもった弔辞に続き、哀悼の十点鐘が鳴らされた。

◎Michael Buffer Gives Tribute To Harold Lederman
DAZB USA 公式チャンネル



父のハロルドには、忘れられない思い出がある。1988年2月5日、アトランティックシティで行われたWBAウェルター級タイトルマッチで、エディ・ファッチの薫陶によって鍛えられ、フレディ・ローチも絶賛を惜しまなかったディフェンスの名手マーロン・スターリングをプレスし続け、奮闘及ばず0-3の判定で敗れた尾崎富士雄の名前を叫び、「真の勝者」としてプッシュしてくれたのだ。

※オフィシャル・スコア
イスマエル・フェルナンデス(プエルトリコ):110-118
ロドルフォ・マルドナド(パナマ):114-117
カルロス・スクレ(ベネズエラ/フロリダ在住):112-117

ハロルド・レダーマン:115-113(尾崎)
※第4R終了時点:39-37(尾崎)/第8R終了時点:76-79/第10R終了時点:95-95

不肖管理人KEI:114-117でスターリング
※フルラウンズ録画を見ながら、今現在のトレンドと感覚で採点をし直したら、もう少し差が開くかもしれない。

◎試合映像:スターリング VS 尾崎戦
映像のた胃取る:FUJIO OZAKI VS MARLON STARLING


なお、HBOが中継する試合にジュリーが起用される場合、余計な疑念を招かぬよう、ハロルドはその時だけ鋼板して、お隣ニュージャージーのスティーブ・ウェイスフィールドらがピンチヒッターに立った。

ロマチェンコ VS ロペス戦に何の関係もない、30年以上も前のウェルター級のタイトルマッチを何故しつこく?と思われるだろうが、最終的にはつながる筈(?)なので、もう少しだけご辛抱のほどを。


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■反骨の頑固親父はどう見たか?

不正の匂いに人一倍敏感で、相手と場所を構わず怒りを爆発させるESPNの名物解説者にして、カス・ダマト直系の数少ない生き残り(アマ時代の少年タイソンを支えた著名なトレーナー)でもあるテディ・アトラスは、自身のツィッターで次のように述べていた。

「ロペスの勝利自体に何1つ問題はないし、異存もない。彼は勝利に相応しい仕事をした。流石にあそこまで(119-109のスコア)、ロマは引き離されてはいないがね。("Again I have no problem with fight going to Lopez, he earned it, but Loma did not deserve to hear the scores that wide.")」

頑固一徹で安易な妥協を許さないオールド・テディも、テオフィモの勝利に間違いはないと発信している。

※Teddy Atlas on Twitter: Again I have no problem with fight going to Lopez
https://twitter.com/TeddyAtlasReal/status/1317693219388338177


2年前の暮れ、トニー・ハリソンがジャーメル・チャーロを僅少差の3-0判定で破り、1-8の賭け率をひっくり返す大番狂わせで154ポンドのWBC王座に就いた時、「優勢だったのはチャーロじゃないのか?」との声が上がり、ファン,選手,トレーナー,関係者たちの間で、オフィシャル・スコアを巡ってカンカンガクガクの議論が交わされた。

日本のファンの中にも、チャーロの勝利を支持する人たちが少なからずいたが、硬骨漢のテディは何ら臆することなく、「ハリソンは正当かつ明確な勝利を収めた。」と自説を述べている。

この試合はブルックリンのバークレイズ・センターで行われており、ジュリー・レダーマンも3名の副審の中にいて、唯一の男性ジャッジとなったロン・マクネアとともに、113-115の2ポイント差を付けた。残る1人ロビン・テーラーも黒人の女性審判で、112-116の4ポイント差でハリソン。


プロモーターや認定団体は勿論、中継を行う大手ケーブル局のみならず、自らが禄を食むESPNも含めて、相手が誰であろうと常に自説を曲げることなく、全方位に対して是々非々を貫こうとするテディ親父の箴言は、好むと好まざるとによらず傾聴に値する。

過激かつ容赦ない発言を一度ならず問題視されながらも、「Friday Night Fights(ESPNの看板でもあったボクシング中継)」の解説を任されて、1998年のスタートから2015年の終了まで勤め上げた。

実況を担当するジョー・テシトーレとの名コンビは、本場アメリカのボクシング中継に欠かすことのできない重要なピースであり、我が国に置き換えると、WOWOWエキサイトマッチにおける高柳アナとジョー小泉&浜田剛史のお三方以上の影響力を持つ。


※写真左:若き日のテディ・アトラス(ESPNの解説者として登場した1998年当時)
 写真右:アトラスとジョー・テシトーレ(2015年)


そして後を引き継いだアル・ヘイモンの「PBC(Premier Boxing Champions)」でも看板コメンテーターとして変わらず登板しているのみならず(ESPNとの契約は今年一杯)、2000年のシドニー五輪でボクシング中継の解説を依頼したNBCも、そのまま2016年のリオまで、5大会連続でテディ親父を起用し続けている。

米国ボクシング界切っての瞬間湯沸かし器として知られ、血の気の多さでは人後に落ちない直言居士を、本場のメディアとマニアたちはまだまだ必要としているようだ。


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■エキサイトマッチのミス・リードは如何にして起きたのか?

思い出しただけで吐き気をもよおす、バブリーな亀田ブームの勢いに任せて、悪乗りの極地を突き進んでいたTBSのような、聞くに耐えない馬鹿げた実況と解説であったとしても、テレビ観戦する時の私はけっしてミュートすることなく、我慢に我慢を重ねて視聴する。

しかし、流石に今回のエキサイトマッチは、後1歩のところで消音しそうになった。中継しているのがTBSなら何も言わない。いや、何を言う気にもなれない。だが、この番組はエキサイトマッチなのだ。

WOWOWの開局と同時にスタートして以来、我が国のボクシング中継の先頭をひた走り、ラスベガス・スタイルの振り分け採点が浸透していなかった日本国内に、その問題点も含めて啓蒙を続け、番組の顔でもあったジョーさんが、毎回口を酸っぱくして採点基準のデファクト・スタンダードについて語り続けた番組である。


オフィシャルのスコアが読み上げられると、WOWOWのスタジオが一瞬にして凍りつく。余りの結末に声を失い、充満する冷たい空気の中で、高柳アナが思わず発した言葉。

「私たちは、ミス・リードしていたのでしょうか・・・。」

そう。キツい表現で申し訳ないが、事の重大さに真っ先に気付いた高柳アナ、「ミス・リードしていたかもわかりませんね。」と続けたジョーさん、オフィシャル・スコアがおかしいとの立場を変えようとしない西岡のお三方は、間違いなく展開を見誤り、視聴者を大きくミス・リードした。


原因は単純明快。はっきりしている。お三方はロマチェンコのいいところばかりに着目し、それのみを殊更クローズアップし、フォーカスし続けていた。ロペスのアグレッシブネスとパワーショットを無視して、一切評価しようとしない。

西岡だけは比較的冷静で、効果的なロペスのボディショットに言及し、「今のは効きましたね。あれを貰ってから、ロマチェンコは手が出なくなった。」等と話していたが、ジョーさんと高柳アナはほとんど黙殺状態。

ロペスが再三狙っていた右のショートアッパーに唯一気付いたジョーさんは、「ロマチェンコもわかっています。だから当らない。」の一点張り。「オーソドックスの右アッパーを、こんな風にかわすサウスポーは見たことが無い。」と、ひたすらロマチェンコを誉めそやす。

お得意の英語から「パンチャーズ・チャンス(Puncher's Chance)」という用語を引き、「(圧倒的に不利な状況の中でも)ワン・チャンスを千載一遇の絶好機に変える力とポテンシャルが、ハードヒッターには存在する。」と、大番狂わせの可能性に一応触れはしたものの、始めから終わりまで、ずっと一貫してロマチェンコのタッチをクリーンヒットだと主張し続けた。


試合を中継するメディアによるミス・リードは、意図的か否かに関わらず常に起こり得る事態であり、何もエキサイトマッチに限ったことではない。

ハワード・コーセル全盛のABCに始まり、発祥国のBBC,HBO,Showtime,RTL等々、解説陣の見立てと異なる判定は、それこそ星の数ほど繰り返されてきた。枚挙に暇がない。それはおそらく、未来永劫無くならないだろう。

けれども、この試合の実況と解説陣は限度を超えて酷過ぎた。「(ロマチェンコ優位の)バイアスが掛かり過ぎていたかも」と自らの姿勢を振り返りつつ、なおもジョーさんはオフィシャルのスコアを否定する。

これだけ一方的にロマチェンコを持ち上げ続ければ、否が応でもミス・リードにならざるを得ない。エキサイトマッチの中継に対して、まさかこんな感想を書かなければならない日が来ようとは・・・。


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Part 2 へ続く

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