ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

「科学立国の危機」のその後

2019年05月02日 | 科学
 本年の2月1日に拙著「科学立国の危機」を世に出させていただき約3か月が経ちました。今まで専門書や教科書を書いたことはありますが、このような一般の人の触れる本を書いたことは初めてなので、どのような反応が起こるのか心配でした。この間に、何人かの皆さんから書評をお書きいただき、あるいはアマゾンのコメント欄に感想等をお書きいただきましたが、今までのところ、大方の皆さんからは良い評価をいただいているようで、ほっとしています。書評、そしてコメントをお書きいただきました読者の皆さんに、心から感謝いたします。

 中でも、思いがけずも総合研究大学院大学の学長をお務めになっている長谷川真理子さんに書評(朝日新聞)を書いていただいたことについては、とてもうれしく思っています。その書評は「好書好日」のウェブサイトからも見ることができるので、下に引用させていただきます。

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「科学立国の危機」 選択と集中、行き過ぎは間違い



科学立国の危機 失速する日本の研究力著者:豊田 長康
出版社:東洋経済新報社
ジャンル:自然科学・科学史
価格:2808円
ISBN: 9784492223895
発売⽇: 2019/02/01
サイズ: 19cm/536p
失速する日本の研究力。論文数(人口あたり)や研究者数(FTE)など、いずれも先進国で最低のレベル。そんな日本の競争力低下の実態を、徹底したデータ分析により解明し、科学技術…

評者:長谷川眞理子 / 朝⽇新聞掲載:2019年03月30日

科学立国の危機 失速する日本の研究力 [著]豊田長康

 我が国は資源に恵まれず、島国で山も多い。しかし、古来より刻苦勉励をよしとし、近代国家として経済発展を成し遂げてきた。明治以降は、科学が果たした役割が大きい。
 しかし、今はどうか? 経済は伸び悩み、少子高齢化が進む。国立大学法人の運営費交付金は徐々に減り、研究者の数は増えない。研究者をめざす若者は減っている。論文の生産数も減り、大学ランキングも下がり気味。日本の科学技術力は明らかに落ちている。このことは、誰もが持っている共通認識だろう。それではどうしよう? ここで起死回生をはかるには、どんな政策をとるべきか。それを考えるには、実情のリサーチをしなければならない。
 本書は大変な労作だ。多くの国際的なデータと統計を駆使して、どんな要因が科学の研究力を上げることにつながるのかを詳細に分析している。200枚以上の図表がぎっしりつまった分析は圧巻。まずは、そこに敬意を表したい。一国の科学技術の状況を正確に把握するには、これだけの細かな分析が必要なのだ。自分の言説に都合の良い1、2枚の図を持ってくればすむ話ではない。
 分析の果てに見えてくるのは、過度の「選択と集中」は間違いだということだ。人を育てるのが本当に大事だということ。研究業績をあげてGDPの成長に結びつけていくためには、研究者の数を増やし、さまざまな所に活躍の場を増やしていくことが重要なのだ。
 日本は人件費削減で、研究者の数を増やしてこなかった。そして、大企業や一部の国立大学に資金が集中し、広がりがなさ過ぎる。
 最後の第6章では、大量の分析を総合し、何をすればよいか、してはいけないかが提言される。最近流行の数値目標も、どんな意味と根拠があるのか、説明がていねい。政策を決めるには、せめてこれくらいの分析をもとにして論じあって欲しいと思わせる一冊だ。
    ◇
 とよだ・ながやす 1950年生まれ。三重大教授(産科婦人科学)を経て2013年から鈴鹿医療科学大学長。

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 実は、長谷川真理子さんの書評が朝日新聞に掲載された直後、アマゾンの「科学読み物」のランキングで4位に跳ね上がりました。ただし、現在は低下して、本日の時点では24位になっています。

 僕の周りにも、読もうとしていただいた方々が何人かいらっしゃるのですが、相関分析のデータがたくさん出てきて、しかも、500ページを超える分厚さになってしまったので、データを見慣れていない一般の皆さんには、また、このようなテーマに強い関心をもっておられない皆さんには、読みづらい本になってしまったのだろうと思います。科学関係のマスコミの皆さんにも、ちょっと難しい本になっているかもしれません。2週間ほど前に文科省へお伺いする所用があったので、その時に以前から存じ申し上げていた官僚の方に、本を書いたことをお話ししたら、ご存知ありませんでした。この本を、ほんとうに読んでいただきたいのは、政策決定にかかわる皆さんなんですけどね。一部の官僚の皆さんには、読んでいただける可能性があるのかなと思っているのですが、お忙しい政治家の皆さんには、このような大部な本は、まず、読んでいただけないでしょうね。

 これから、もう少し一般の皆さんにわかりやすい形で、また、政治家の皆さんにも伝わる形で「科学立国の危機」を粘り強く発信していく必要があると感じました。


 ところで、本日(令和元年5月2日)の朝日新聞の科学欄に、

『財務省、「論文費用はドイツの1.8倍」生産性やり玉』『国立大側「極端な差を強調」独自に推計して反論』『大学への交付金、膨らむ傾斜配分』

という見出しの記事が掲載されていました。財務省の言っていることが正しいのか、国立大側が言っていることが正しいのか、拙著をお読みになればわかるはずですが、そもそも、このような政策を決定づける基本的なことがらについて、そのデータの解釈に大きな食い違いがあること自体が、深刻な問題です。

 データの信頼性の検討や解釈は慎重にする必要があります。拙著において、僕自身のデータも、そのすべてが正しいとは限らない旨を書かせていただき、各関係者がデータを持ち寄って、フランクに吟味をする場が必要であることを書きました。

 実は、拙著に掲載したたくさんのデータの中に、出版後に見直してみると、不適切なデータも含まれていることに気が付きました。学術論文ですと「査読(レビュー)」と呼ばれているのですが、そのテーマに関係する複数の専門の研究者によるチェックのプロセスがあり(ピア・レビューと呼ばれます)、著者の間違いや不十分な点が指摘され、論文の信頼性が向上します。査読というプロセスを受けないと、やはり、間違いの確率が高くなりますね。もっとも、査読を受けていても間違いを発見できず、取り消される論文もけっこうあり、また、追試ができない論文も多々あります。時には査読をくぐりぬけてくる「ねつ造」もありますね。

 幸い、拙著で僕自身が気が付いた不適切なデータは、今のところ本書の主張に影響するものではありませんが、今後のブログ等で、説明をしていきたいと思います。ミスプリントもいくつかありますしね。

 この4月27に「日本医学会総会」という大きな学会が名古屋であり、その中で「日本の臨床研究はなぜ遅れたのか」というセッションで発表をさせていただきました。拙著でお示しした臨床医学分野の分析に加えて、新しいデータをお示ししました。発表後、名古屋大学の医学研究科の先生から、研究現場がもうどうしようもないところまで来ているので、データを共有化させてほしい、とのお声をかけていただき、今回のデータをお渡ししました。

 このような研究現場の状況をお聞きすると、僕自身が今までやってきた日本の研究競争力の現状分析と、それを国民の皆さんに知っていただく活動を、今回の拙著で終わらせるのではなく、もう少し粘り強く続けなければいけない、あるいは、どなたか若い研究者に引き継いでやっていただきたい、と強く感じたところです。
 




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