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宇宙(そら)へ

「もうすぐ帰ってくるはずだが」
「遅れているな」
「あいつは大丈夫だ。必ず帰ってくる」
 数人の男が上空を見ながら心配そうな顔をしている。みんなフワフワと足元がおぼつかない。
 その時、上空にキラリと何かが光った。
「帰ってきた」
「迎えに行く」
 一人が上に駆け出した。上空から下りてくる者ははっきりと丸い輪郭が見えるまで下りてきた。ひどく疲れている様子だ。フラフラしている。そこに一人が駆け寄った。下りてきた者に寄り添い抱きかかえるようにして下に歩いてきた。
 二人がみんなの所に下りて来た。一人は立つのがやっと。浮遊寝台が用意されていた。そこに寝かされてやっと口がきける状態になった。
「どうだ」
「OKです」
「そうか。よくやった」
 各部族の代表が集められた。議長が立ってあいさつした。
「では宇宙探査委員会を開催します。まず重要な発表があります。その発表はわれらが英雄バルが行います」
 バルが壇上に出てきた。上空から下りて来た男だ。
「みなさん。私は今回の探査飛行で宇宙空間に達しました。そのレポートはお手元の書類に書いてあります。詳細はそれを読んでいただくとして簡単に説明します」
 バルの説明を聞いて一同ウォーと喜びの声を上げた。バルが大きな拍手を受けながら下がり、議長が再び立ち上がった。
「みなさん。お聞きのとおりバルが開発した飛行方法ですと、いつでもだれでも簡単に宇宙空間に達することができます。ただいまより宇宙探査委員会は解散し、新たに地球脱出計画本部を設置します」
 おおきな拍手。そこにいる全員が丸い身体をフワフワさせて喜んだ。
 数年前から下から妙な物が飛んで来るようになった。最初はフワリと浮かぶ丸いものだったが、最近は鳥によく似た固い巨大なものが飛んで来る。どうも地上の生き物が空へと侵出を試みているようだ。
 バルたちは戦うことを知らない。地上の民に見つかる前に宇宙に脱出することになった。そして少数の見張り役を残して空中生物の種族は宇宙へと去った。
 見張り役は時々、地上の様子を見に下りてくる。丸い彼らの身体を見た地上の民は彼らを未確認飛行物体UFOと呼んだ。
 地上の民が滅んだ後、地球の空には宇宙からバルたちの種族が戻ってくるはずだ。空中で生まれ空中で死ぬ空中生物が。本来、地球の空は鳥と昆虫と彼らの物なのだ。
 
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
おぉ (ちきん)
2008-08-27 22:36:59
はじめまして~。SF的な物語ですね。
ショートショートは読みやすくて好きです~。
今後に期待します。ぜひぜひ切れ味のある作品を!
 
 
 
ちきんさん (雫石鉄也)
2008-08-28 04:28:16
コメントありがとうございます。
ショートショートは書くのも読むのも好きです。
昔ほど量は書けなくなりましたが、がんばって書いていきたいですね。
 
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