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とつぜん対談 第47回 傘との対談

 お、もう5時か。帰るとするか。手早く着替えを済ませ、タイムカードを押して会社の門を出たところで雨が降ってきた。傘が要るな。ロッカーの中に置き傘がある。取ってこよう。だいぶん古い傘だが、まだ使えるはずだ。

傘 
 ちょっと待った。

雫石 
 え、なんで。雨が降ってるんだぞ。

傘 
 雨だからといって短絡的に俺を使ってもらっちゃ困る。

雫石 
 雨だからといって傘を使っちゃいかんのか。


 そうだ。俺を使うなら使わざるをえん理由が必要だ。

雫石 
 雨が降っている。傘を使うには充分な理由ではないか。


 だったら、なぜこの前の雨の日に俺を使わなかった。

雫石
 ああ、あの日は携帯用の傘を持ってきたからだ。


 俺というものが有りながら、なんでそんなもんを持ち歩く。

雫石
 ワシは朝出る時は必ず天気予報を見る。雨が降りそうだと判断したら、携帯用の傘をカバンに入れて出勤するんだ。


 だったら俺はいらんじゃないか。

雫石
 天気予報は大丈夫でも、急に雨が降り出す時もある。そんな時にお前が役に立つ。


 判断って、どうやってる。お前の勘か。

雫石
 降水確率30パーセント以上だと傘を持って行くんだ。


 そんなに携帯の傘がいいんなら、いつもそいつを持ち歩けばいいんだ。

雫石
 カバンが重くなるのはイヤなんだ。


 愛する携帯傘なんだろ、重さは感じないんじゃないだろ。

雫石
 おかしな焼き餅を焼いてないで、さっさとロッカーから出ろ。ワシは腹が減っているんだ。早く家に帰ってメシを食いたい。


 なにをえらそうに。もっと言葉使いに気をつけろ。お前は俺がいないと困るんだろ。

雫石
 ああ、困る困る。いいからさっさと出ろ。


 いてて。ちょっと待て骨がひっかかってるぞ。

雫石
 あ、ほんとだ。


 この前の台風の時、俺を無理やり使って骨を1本外したんじゃないか。

雫石
 ああ、あんな雨風だったら弱い携帯の傘じゃダメだ。


 そうら見ろ。結局、俺が一番頼りになるだろ。

雫石
 そうだな。ワシが持ってる傘でお前が一番丈夫だな。しかし、お前はカバンに入らない。電車に忘れる。お前で何代目かな。


 俺を忘れるなよ。それに、もう二度と俺をおちょこにしないと約束するなら、ここから出てもいいぞ。

雫石
 そんなこと約束できん。


 だったら出んぞ。

雫石
 もういい。雨はやんだ。
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