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悪の教典 

  
  貴志祐介   文藝春秋

 面白かった。抜群に面白かった。読んでいる間は。読み終わってから実に嫌なあと味が残った。なにせ教師が教え子たちを皆殺しにする話だから、愉快な話ではない。
 蓮実聖司。私立高校の英語教師。生活指導担当。若く(32歳)イケメン。授業は面白く、アメリカの大企業に勤務経験があり英語は堪能。頭脳明晰にして教育熱心。生徒、PTA、上司、同僚に信頼され人望も抜群。この高校のエースともいうべき理想的な教師。ところがこいつがとんでもない化け物だった。
 ようは人を意のままに操ることに快楽を見いだす、極限のわがまま男が、その正体を見抜かれそうになり、二人の生徒を殺す。木の葉を隠すには森の中。死体を隠すには死体の山。というわけで、文化祭の準備のため学校に泊り込んでいるひとクラス全員40人を殺害する。
 下巻の中ほどからショットガンをぶっ放して、血みどろの大惨劇が繰り広げられるわけだが、悲惨で悲惨で。人によっては貯めに貯まったモノが一気に大爆発するカタルシスを感じるという人もいるが、小生はカタルシスは感じなかった。担任教師がいたいけな高校生たちを惨殺する話である。
 ギリギリと弓を絞るがごとくタメをためて、ラストに一気に大爆発させてスカッとする話もある。小生もそういう話も好きだ。
 高倉健の昭和残侠伝シリーズは、良い親分の一家に一宿一飯に預かっている、健さん扮する花田秀次郎が、悪い親分の嫌がらせに、良い親分の子分がいきりたつのを、なだめ、自分自身も我慢して、耐えに耐える。そしてとうとう、良い親分が殺される。ここに至ってついに健さんも堪忍袋の緒が切れる。
 唐獅子牡丹の音楽に乗って、白鞘の長ドスを抱いて歩を進める。「お供します」池部良扮する風間重吉が寄り添う。男と男の道行き。悪い親分の一家に着く。後は、二人で斬って斬って斬りまくる。スカッとする。溜飲が下がる。
 これは健さんが悪い親分の一家を惨殺するから溜飲が下がるのであって、担任教師が受け持ちのクラスの生徒を惨殺しても溜飲は下がらない。 
 とはいいつつも本書はよくできた小説ではある。小生は冒険小説好きであるからして、活劇小説として本書を読んでしまった。活劇小説としては確かに上記のごとくカタルシスはないが、サイコホラーとして読めば傑作である。蓮実を人間として読めば不愉快だが、モンスターとして読めば傑作だ。
 そうだ蓮実は主人公ではなくモンスターなのだ。主人公でヒーローは生徒たちだ。本書は蓮実というモンスターと戦う、40人の高校生たちの群集劇なのだ。

 


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