雫石鉄也の
とつぜんブログ
あん
監督 河瀬直美
出演 樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅、市原悦子、浅田美代子、水野真紀
長い芸歴の樹木希林。私もいろんな映画で彼女を見てきたが、この「あん」の徳江役は、間違いなく樹木希林の代表作となるだろう。
仕事で人を感動させる。プロ野球選手のホームラン、画家の絵、落語家の高座、料理人の料理などなど。俳優は演技で人を感動させることができるわけだが、この映画がもたらす感動は、樹木の演技に負うところが大きい。
ワケ有りの過去を持つどら焼屋千太郎の店に老婆がアルバイトに雇ってくれと来る。千太郎は最初は断るが、次に来た時、老婆徳江が自分でつくったといって、あんを置いてった。一口たべてびっくり。ものすごくおいしい。そのあんでどら焼きを作って食う。ドラ焼き屋のくせに甘いものが苦手の千太郎がどら焼き1個初めて完食。千太郎は徳江を雇う。うまいどら焼きだということで店は繁昌。それまで中学生の女の子ぐらいしか客はいなかったのが店の前には行列ができる。
常連客にカナリアだけが友だちの女子中学生ワカナがいる。ワカナは千太郎とも徳江とも仲良し。この店にとって徳江はなくてはならない存在になるが、あるウワサで徳江は店を辞める。千太郎とワカナは徳江に会いに行く。徳江のいたところというのは・・・。
徳江はなぜ店を辞めざるを得なかったのか。その理由に静かな怒りを覚える。なにはともあれ、樹木希林の演技力である。それまで業務用のあんを使っていた千太郎に手作りのあんの作り方を伝授するシーンは、ていねいに、詳細にあんづくりを描写していくのだが、徳江はあんの原料小豆をいつくしむがごとく、小豆に語りかけながら、あんを炊いていく。この場面はまるで、樹木希林自身があん作りの名人のようだ。
カメラは接写ぎみ、音声もマイクを近づけて録音したような、河瀬監督の演出はリアルで、説得力のある画面となっている。感動的な秀作である。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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その雫石さんが腹に怒りを湛えるのならば、
それが何なのか見届けたい。
ま、観てみます。雫石さんのお薦めで損した事は一度もないから。
あの飄々とした生き方そのもののようで
どんな役でも融通無碍ですね。
河瀨直美監督は決して社会派ではありませんが
あの美しい桜の映像に
静かな怒りが込められていて感心しました。
おっしゃるとおり、桜の美しさがいろんなことを表現してました。
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