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モリのいる場所


監督 沖田修一
出演 山崎努、樹木希林、加瀬亮、光石研、池谷のぶえ 

 主人公は画家である。でも、この映画に絵筆を持つシーンはない。毛筆で書をしたためるシーンはあるが。
 オープニングが秀逸である。昭和天皇がある絵を見て「この絵を描いたのは..何歳の子ですか」とご下問。その絵を描いたのは、この映画の主人公熊谷守一94歳である。このオープニングで熊谷守一画伯がどんな絵を描いた絵描きか良く判る設定だ。とはいいつつも、映画の画面に熊谷画伯の絵は映らない。
 熊谷守一=モリの晩年の絵のモデルは自宅の庭にいくらでもいる。アリ、猫、魚、蝶、なんでもない石ころまで。モリはそれを飽きもせず仔細に観察。アリが歩いているところをじっと見る。見る。ただただ見る。アリは歩き出すときは左足から歩き出す。なんてことを発見したり。また、庭に落ちていた石を手にとってじっと見る。
 この庭にいるモリ。家族は妻の秀子。それにお手伝いおばさん。家にいるのはこの3人だが、来客は多数おしかける。モリを撮るカメラマンとそのアシスタント。旅館の看板を書いて欲しい旅館の主人。近所のマンション建設現場の関係者。大勢やって来て大さわぎ。でもモリはそんなこと気にしない。ひたすら庭を観察するだけ。さしたる出来事は起こらない。
 電話が鳴る。妻が取る。「国が文化勲章をやるといってますけど」「そんなもんはいらん」「いらないそうです」ガチャ。
 と、こういう映画である。人によっては退屈するかも知れない。でも、小生はとても面白く観た。ほんとの豊かとは何かがよく判る映画である。モリの庭。さして広くない、手も加えられてない。ただの草ぼうぼうの場所であるが、この庭はものすごく豊かな宝の山だ。ただしその宝はモリのような人にしか見えない。山崎努と樹木希林が実にいい。この二人の演技を観るだけでも満足する。
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