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西宮八園虎日記 5月25日

「はい。こんばんのアテはこれです」
「おお。天ぷらか」
「お。おいしい。スナックえんどうの天ぷらですな。女将」
「はい。知り合いからスナックえんどうをたくさんいただきました」
「お酒をいただきます」
「はい。こんやは道潅です」
「それにしても甚兵衛さん。おもしろい試合でしたな」
「そうですな。玄白さん」
「岩貞VS菅野。投手戦の醍醐味をたっぷりと味わいましたな」
「きょうなんか岩貞に完投せさせてもよかったんでは」
「鳥谷の記録がワザしましたな」
「鳥谷の連続試合出場もそろそろ考えなあきませんな」
「そうですな。鳥谷は代打じゃなくスタメンで試合に出るべき選手ですな。それがダメなら記録はあきらめるべきですな」
「あ、女将。こないだいってた熱帯魚さんな。近々きます」
「はい。楽しみです」
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釣られた

「それでは二週間後に納品させていただきます」
 基盤用ディップスイッチ三百個の注文である。このK電子工業は、私が電子部品の営業を始めた当初からのお得意だ。そんなに大きな会社ではないが、確実に月に八十万以上の売り上げを私にもたらしてくれる。
 この会社から車で十分も走ればT電機。配電盤を造っている会社だ。ここには主にリレー、端子盤、コネクタを納品している。世界的なコネクタメーカーのH電機のコネクタを最も多く購入してくれるのがT電機である。
 このT電機の道の向かい側がI精機。計測機器のメーカーでダイオードやトランジスタ、ICなど半導体を買ってもらっている。
 JRの快速停車駅の駅前商店街を北の方に抜ける。そこは、ところどころに畑があり、いくつかの工場が点在している。大きな工場はない。いわゆる工業団地といっていい。行政が主導して、この地域に工場を集めたわけではない。自然発生的にできた工業団地である。
 電子部品専門商社に途中入社して五年。それ以前はデパートの外商にいた。紳士服を三年間売っていた。デパートの前は食品会社の営業。とろろ昆布、塩昆布など昆布食品を関西いちえんのスーパーへ納品していた。
 私は営業職以外は知らない。モノを売る仕事をずっとやってきた。その経験で得た営業の極意がある。
「お得意は近くでまとめろ」
 移動時間ほどムダな時間はない。一軒で営業して、移動に一時間。また一軒。この移動の時間は何も生み出さない。もっと効率の良い営業活動ができないか。常に考えていた。
 今の会社に入って、この工業団地を見つけた。最初は飛び込みでK電子工業に売り込みをかけ小口の注文を取った。その後だんだんとK電子工業の売り上げを育てて、この工業団地の会社を順々に開拓していった。
ここでの売り上げが、私の取扱いの九五パーセントを占める。
 ディップスイッチ三〇〇個。基盤用の小型スイッチである。一〇〇個入りの箱が三つ。両手でかかえて持てる。それを持ってK電子工業の事務所に入る。
「まいど。関西電商です」
「はい」
 事務所で入り口に一番近いところの女子社員が返事をしてくれた。
「川添さん、お願いします」
 購買担当者を呼ぶ。
「少しお待ちください」
 女子社員が席を立って奥へ行った。川添がいる資材部は、この建屋の奥、倉庫に隣接するところにある。外部の者は資材部には入れない。資材部の持つ数字は企業秘密だ。部品部材の仕入れ単価は外部に漏れてはいけない。
 おかしい。いつもは、すぐ応接室に呼ばれるのだが。なかなか呼ばれない。
 女子社員が戻ってきた。
「川添は来客中です。お待ちください」
 しばらく待つ。奥から知らない男が出てきた。この会社の社員ではない。初めて見る顔だ。そのすぐ後ろから川添が来た。
「それじゃ。川添さん、よろしくお願いします」
 知らない男が川添に手を振った。
「失礼」私の横を通って出て行った。
「お待たせしました」
 川添が応接室に招き入れてくれた。ディップスイッチを納品書といっしょに渡す。受領書にサインをもらう。
「こないだ見積もり出してもらったICソケットですが、今回はちょっと単価があいませんでした」
「え、すると、あれより安い見積もりを出した所があるんですね。信じられません」
「まあ、そうです。また今度なんかで埋め合わせしますから」 
 そういうと川添はそそくさと自分のデスクに戻っていった。次に行ったT電機でも同じようなことがあった。また、あの男とすれ違い、注文をよそに取られている。あいつだ、あいつが私のお得意を侵食している。
あいつとI精機の駐車場でばたったりハチ会わせした。こっちから先に仁義をきってやろう。
「すこしお話しませんか」

「まいど。近畿電子です。川添さんお願いします」
 釣られてしまった。「あいつ」今の私の上司。近畿電子商会の購買課長だ。この工業団地に目をつけていた近畿電子商会に私は、お得意ごと釣られたというわけだ。

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