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トラキチ酒場せんべろ屋 5月11日

「ほれ、あるやん」
「なにが」
「ボクシングなんかで、セコンドがこらあかんと判断したらタオルを投げ入れて負けを認めるやつ」
「うん。あるな」
「野球もあれやったらええな」
「そやな」
「2回終わった時点で金本がタオルを投げ入れるべきやったな」
「そやな。あとは時間のムダやったな」
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ゴミ分別師

「いいですか。このびんは確かにプラスチック製ですが、ここを見てください。『PETマーク』がついているでしょう。ですからこれは『缶・びん・ペットボトル』に分類されるんです」
「あ、パソコンはだめです。市では回収しません」
「この扇風機は燃えないゴミではありません。大型ゴミです。45リットルのゴミ袋に入らないでしょう」
「その扇風機はOKです。袋に入ってますね」
「あのう、首を引っ込めただけなんですが」
「袋に入ればいいんです」
 日曜日の午前10時。月に一度のゴミ分別講習会である。マンションの集会所に住民が集められて、ゴミ分別師の講習を聞く。
 やく1時間の講習が終わった。
「並んでください。今月のページを開けておいてくださいね」
 このマンションの各家庭の代表者が手帳を持って並ぶ。
「はい全員おられますね。手帳にハンコがないお宅は来月までゴミを出せませんよ」
「2018年5月度。ゴミ分別講習受講」
 ここに講習を終えたゴミ分別師のハンコをもらう。この手帳をコンビニやスーパーなどに持って行って提示すればシールをくれる。そのシールを貼らないとゴミの回収はしてくれない。不法投棄すれば300万円以上の罰金もしくは懲役5年だ。

「あなた。困ったわ」
「どうした」
「私、勤務のシフトが変わったの。第一日曜が仕事になったわ」
「それがなんで困る」
「このマンションのゴミ分別講習会は毎月第一日曜なの」
「そんなもんに出なくちゃならんのか」
「あなたは出たことないから知らないでしょう。あれに出てハンコもらわないとゴミ出しができないのよ」
「ううむ。そりゃ困るな」
「あなた出てくださらない」
「だめだよ。オレの休みは水木なんだ」
「土日か日月に変えられないの」
「そんなことできん」
「困ったわね」
「ゴミ分別師のハンコが手帳にあればいいんだな」
「はい」
「だったらお前、ゴミ分別師の資格をとれよ」

「はい。確かに受講料半年分50万円受領しました。これが領収書です。では来週の木曜日から講座が始まります」
 市立文化会館第4会議室。講座が始った。第一日目は「都市廃棄物処理学概論」講師はこの市の外郭団体「ゴミ適正処理推進協議会」の理事長。
「ちょっと、あの人、アレじゃない」
 講座で仲良くなった、隣の席の高瀬さんが小声でいった。数ヶ月前、市の幹部職員であったが、女性職員にセクハラを働き、市民の糾弾を受けて辞職したF氏である。 
「そうね。こんなとこに天下りしてたんですね」
 あとで判ったことだが、ゴミの分別を厳格にして、ゴミ分別師なる資格をつくり「ゴミ適正処理推進協議会」なる団体でゴミ処理にまつわる利権を創出したのは、すべて市や県の環境関係の職員の天下りの受け皿とするためである。

 半年後。朝の8時30分から始まり、昼食休みを挟んで午後5時まで。長い1日が終わった。午前中は学科テスト。物理、化学、生物といった自然科学系から社会学、経済学、工学、法律などなど多岐にわたるジャンルの問題が出される。ゴミ問題に関する小論文まで書かされる。
 午後は実技。ゴミ収集車に実際に乗って、埋立地に散乱してあるゴミを収集して、的確に分類しなければならない。
 実技試験場の埋立地から文化会館に戻ってきたのが午後の5時。会館を出たところで高瀬さんに声をかけられた。
「お時間がありましたら、ちょっと夕食、ごいっしょしない」
 今夜は夫は出張で不在。コンビニで弁当でも買って夕食にしようと考えていた。つきあうことにした。
「乾杯」
 焼き鳥屋。会社の人とは来た事があるが、女同士でこんな店に来たのは初めて。軽くビールでもという高瀬さんに賛成した。テーブルの上には、焼き鳥の盛り合わせが塩とタレ二皿。冷奴、出し巻きが並んでいる。
「ねえ、高瀬さん自信ある?わたしはダメだわ」
「ここだけの話だけど、20万ほど3日以内に用意できる」
「は?」
「今日の試験の結果、1週間後でしょ」
「はい」
「明日から採点にはいるわけだけど。20万出せば合格よ」
「どういうことですか」
 高瀬さんはつくねの串をほうばりながらいった。
「あたしの主人は市の総務課なの。主人の元上司って人がゴミ協に天下ってるの。ゴミ分別師の資格、相場は30万だけど、あなたは特別、20万で話をつけてあげるわ」

 あの時の焼き鳥屋の支払いはワリカンであった。ゴミ分別講習会でいつもいっしょだった、隣の奥さんと駅前のスーパーであった。
「奥さん、講習会、出てます?」
「あら、わたし、ゴミ分別師の資格を取ったのよ」
「わたしも」
「あの試験をよく合格しましたね」
「ここだけの話だけど、友だちのご主人がね」
 高瀬さんが隣の奥さんにも賄賂をもちかけていたことが判った。話を聞いてみると15万だった。最初は20万だったが、すぐ出せないというと15万に負けてもったとのこと。
 
 今月はこれで4人目。1人5万。20万のへそくりができる。お、携帯の着信だ。高瀬さんだ。
「OKですね。ではいっておきます」
 隣の奥さんの妹さんがゴミ分別師の資格を取りたいそうだ。25万でゴミ協に話を通じてあげるといって了承をもらってある。高瀬さんには20万渡す。5万は私の収入だ。ゴミの分別はしっかりしようね。あ、私もゴミか。
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