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地獄でなぜ悪い


監督 園子温
出演 長谷川博己、國村隼、二階堂ふみ 友近、星野源、堤真一、原菜乃華

 いやあ、すごい映画であった。狂気と業と盲目の愛に満ちていた。映画への愛、一人娘への母と父の愛、対立する組の組長の娘への愛、このなかで、この映画の芯となっていたのは、自主映画創りに賭ける映画青年たちの、映画創りに対する情熱と愛だ。
 いきなり鳴る音楽は、あの「仁義なき戦い」のメインテーマ。そして映画が始まるとまず映るのが歯磨きのCM。ちょっとこまっしゃくれた少女が「全力歯ぎしりレッツゴー。ぎりぎり歯ぎしりレッツフライ。ぼくの気持ちは歯がゆい。全力歯ぎしりレッツゴー。歯並びガガガ。歯ぎしりギギギ。みんなで歯を磨こう。イエイ!」なるCM。このCMの少女が暴力団の組長の娘。
 その組長の組にカチコミ。家にいた組長の妻がカチコミした相手組員を返り討ち。包丁でギタギタに。傷害で服役。娘のCMはうちきり。娘を女優にする妻の夢は絶たれてしまう。
 それから10年。CMの少女は二十歳になっていた。妻もあと10日で出所。娘を映画女優にする夢を実現するために、妻は夫の組長に娘を主演女優にして映画創りを頼む。組長、撮影機材を集め、組員に映画創りを指示。ところがみんな映画創りは素人ばかり。で、監督にならされたのは家出してた娘が連れてきた若い男。この男も素人。殺すと脅された男は、映画マニア集団に接触する。「これ1本という映画ができれば死んでもいい」といいきる平田たち映画狂グループは渡りに船と、ヤクザどもをスタッフに使って映画創りを始める。題材は「抗争」敵対する組に実際にカチコミ、修羅場の中でカメラを回す。
 組と映画マニアグループが接触したとたん、酸化性物質と還元性物質を混ぜ合わせたごとく、一気に映画は爆発する。
 首が飛ぶ。腕がちぎれる。脚が切り落とされる。あたり一面は真っ赤か。白刃がきらめき、血の豪雨が降る中で、平田たちは喜々としてカメラを回す。途中で警察も出張ってくる。そうなると武器は刀ではなく銃となる。組長の娘ミツコは「俺たちに明日はない」のボニーのように全身に銃弾を受け蜂の巣に。組長の首も飛ぶ。血のりでベタベタの中を、平田は撮影済みのフィルムと録音テープを回収して回る。そして彼は、うれしそうにそれをだいて血みどろのまま街を行く。
 ブルース・リークエンティン・タランティーノ深作欣二を土鍋に入れて血でぐつぐつ煮つめたような映画であった。
 映画が好きになった者の「業」は痛いほどよく判る。この映画を別のモノに代入すれば誰にも思い当たるかも知れない。ある者にとっては演劇、また絵、落語、ロック、恐ろしいような愛おしいような。好きこそモノの上手なれともいうが、好きこそ狂気ともいえる。
 全力歯ぎしりレッツゴー。ギリギリ歯ぎしりレッツフライ。歯並びガガガ。歯ぎしりギギギ。みんなで歯を磨こう。イエイ。 
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