ネット小説 十津川 健也

某国のイージ○や、戦国自衛○をめざしたいものですね・・・
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いわき独立戦争(4)7-8

2005-05-30 18:28:49 | いわき独立戦争 4章
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7.茨城県小川町・航空自衛隊百里基地(AB)
  7月11日 2228時

暗闇の中、基地内では、第401基地防空隊が警戒態勢に入り、隊員たちは、配置に就いていた。
対空機関砲VADSも漆黒の空の闇に睨みを利かせていた。陸自第1空挺団の普通科群が基地のフェンスの周囲を警戒している。



百里基地には第204飛行隊と第305飛行隊の要撃戦闘機部隊が所在している。
使用機は、どちらの部隊もF-15Jである。
その他に、RF-4E/RF-4EJ偵察機を装備する偵察航空隊第501飛行隊、UH-60Jヘリ、U-125A救難捜索機を装備する百里救難隊、基地を防衛する第401基地防空隊、第12移動警戒隊が所在している。

いわき人民軍による百里基地の占領が予想される為、第401基地防空隊の他に、陸自第1空挺団普通科群、対戦車隊が基地の防備に当っていた。

基地内に配備してある航空機はいわき人民軍による破壊を避ける為、他の基地に退避させてある。要撃戦闘機のF-15J、偵察航空隊のRF-4E偵察機は、入間、在日米軍横田基地へ、救難ヘリは海自下総基地、陸自木更津駐屯地などに分散させてある。

いわき人民軍によるECM(電子妨害)の為、水戸以北の無線通信は麻痺状態で、状況が把握できない有様であった。
北部警戒管制団のレーダーサイトは完全に機能を失い、各警戒群(ACW)からの連絡が途絶えた。加茂の33ACW、山田の37ACWなどの防空監視所(SS)からの回線も切れている。



また、中部警戒管制団の大滝根にある27ACWからも連絡が途絶えている。27ACWはいわき人民共和国の眼と鼻の先にあるレーダーサイトなので、いわき人民軍に占拠された可能性もある。
峯岡山の44ACW、輪島の23ACWなど、水戸以南のレーダーサイトは正常に活動している。

第401基地防空隊の橘二等空佐は、隊舎の中にある本部でコーヒーを飲みながら、基地全体の配置図を睨んでいた。
警戒体制に入ってから家には一度も帰っていない。いわき人民軍は、何時、基地を攻めて来るのか、苛立ちが募っていた。

いわき軍の攻撃によって、戦闘に巻き込まれない様、既に基地周辺の住民たちは警察によって避難させてある。

「隊長、少しはお休みになったほうがいいですよ」
本部要員の山内二等空曹が、気を利かせて言った。

「ありがとう。でも、いわ軍が何時、狙って来るかもわからん。それを思うと寝られんのだよ」
橘は、答えた。

「そんなに心配しないでください。仮に、いわ軍が攻めて来ても、わが基地防空隊の他に、陸自最強の第1空挺団が一緒に守ってくれてますから。基地の防備は完璧です」

「しかし、北は、いわ軍のECM(電子妨害)により、航空機はおろかACW(レーダーサイト)も活動出来ないんだ。敵に制空権を握られているから、どうやって、この基地を攻めて来るのか敵の動きが読めない」
橘は困惑し、腕を組んだ。

「敵は、恐らく航空攻撃を最初にかけてくるでしょう。それから、空挺又はヘリボーン攻撃をかけ、基地を占拠しに来るでしょう」

「空挺、ヘリボーンか?そうなると、勝算は我々にあるな。空挺部隊は軽装備だからな」
橘は、楽観的に言った。

空挺部隊、ヘリボーン部隊は、航空機によって空中を機動し、敵が直接支配しているか、またはその脅威を受けている地域に、落下傘で降下、あるいは、ヘリで降着し、以後の本格的地上作戦の前哨戦を行う。
だが、航空機で移動する為、装備は小銃、機関銃などの軽装備で、対戦車火器に乏しいといった弱点を持つ。その為、敵の機甲化部隊に遭遇するケースでは瞬く間に制圧されてしまう場合もある。

第二次大戦のヨーロッパ戦線における「マーケット・ガーデン作戦」では、イギリス軍第1空挺師団がアルンヘム橋の攻防で、ドイツSS第9機甲師団に包囲され、作戦は失敗している。
また、旧日本軍のフィリピン戦線でのレイテの戦いでも、高千穂空挺隊がブラウエン飛行場に降下したが、結局は米第96師団の反撃にあって敗走している。
この様に過去の戦史を見てみると、空挺作戦が成功した例は数少ない。

「ですが、敵の規模が不明です。空挺、ヘリボーンを支援する部隊も来るでしょうから・・・」
と、山内が言った。

「いわきのECM(電子妨害)さえなければな・・・」
橘は、苦虫を噛んだような表情をした。

その時、電話が鳴り響き、橘は受話器を取った。

「401基地防空隊本部、橘二佐です」



『中部航空方面隊SOCです。栃木県奈良部山の第2移動警戒隊、茨城県つくば山の第12移動警戒隊のレーダーが国籍不明機を捕捉しました。日本海側から百里ABに向かっています。機影多数』

電話は、入間の中部航空方面隊指揮所からだった。

「なんだって!!機種は?」

橘の表情がこわばり、体に緊張感が走った。

『戦闘爆撃機、それに輸送機も含まれてます。百里ABは防空迎撃体制に入って下さい』
SOCの隊員も緊張している様だった。

「橘二佐、今の電話は?」
山内が、電話を終えた橘に訊いた。

「敵が来るぞ!戦闘配置に着くんだ!警報ーッ!!」

橘は椅子から立ち上がって、叫んだ。

その時、深谷二等空曹と坂内三等空曹が部屋に入って来た。二人とも血相を変えている。

「隊長、大変です!管制塔のレーダーが国籍不明機が基地に接近して来るのを捉えました。第3高射隊のペトリオットも迎撃体制に入りました」

深谷二曹が報告した。
第3高射隊は、霞ヶ浦分屯地にあるペトリオット部隊である。

「ようし、武器庫を開けろ!」
橘は、怒鳴った。

外で爆発音が響き、建物が小さく揺れた。歩哨犬が夜の闇に吠えた。
サイレンが鳴り響いた。

橘が電話に飛び付き、警備隊を呼び出した。

「基地防空隊長だ、一体、何が起きた!」
橘は、受話器を握りしめながら怒鳴った。

その間に、今度は銃声が聞こえた。

『03滑走路付近から、敵が侵入した模様です。現在、陸自と警備隊が応戦中です』

「なんだって!」
橘は、強張った顔で電話を切ると、

「VADS、短SAMは迎撃体制に入れ!」
と、深谷や山内に怒鳴った。

武器庫から、64式小銃やスティンガーを取り出して来た深谷たちは頷き、外へ向かった。
外では、まだサイレンが鳴り響き、侵入した敵に対処する為、警備隊や基地業務群の隊員たちがランクルやニッサン・パトロールなどの車輌に乗って、現場である03滑走路に向かって行った。



 * * * * *

8.同時刻 航空自衛隊 霞ヶ浦分屯地

霞ヶ浦分屯地の地対空誘導弾ペトリオットは、箱型コンテナの発射台の角度を漆黒の空に上げて、いつでも発射出来る態勢に入っていた。

霞ヶ浦分屯地に配備されているペトリオットは、湾岸戦争でも有名になった実戦配備最新型の「PAC-2」で、強力な電波妨害下で同時に複数目標に対処出来る中距離対空迎撃システムの最高峰である。
だが、弾道ミサイル迎撃には不充分で、自衛隊ではあくまで対航空機用としている。
ペトリオットは、ナイキJの後継として1988年より導入され、本年で更新が完了する予定になっている。
ペトリオットは、レーダー装置1基、迎撃管制ステーション1基、アンテナマストセット1基、発射台1基をワンセットで運用し、すべてトレーラーやトラックで移動可能となっている。



亡命軍が、百里基地に向かっているとの情報があり、霞ヶ浦に展開している第3高射隊は迎撃態勢に入っていた。更に、その前にある習志野の第1高射隊、武山の第2高射隊は、いわき人民軍のスカッドミサイルに対処する為、24時間迎撃態勢に入っている。
よって、対航空機用に対処可能なのは、ここ第3高射隊だけである。



「発射スタンバイ!目標、敵航空機」
管制員が叫ぶ。

「一機たりとも、百里には近づけるな!」
佐伯二等空尉は、緊張した表情で怒鳴った。

「発射準備よしッ!」
発射管制空曹が報告する。

「発射ッ!!」

発射台の箱型コンテナからペトリオットミサイルが、炎を吹き上げて次々と飛び出して行った。

ペトリオットから、航空機は逃れられない。佐伯二尉は、そう思いながら夜空を睨んだ。

 * * * * *

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いわき独立戦争(4)9-10

2005-05-30 16:44:45 | いわき独立戦争 4章
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9.同時刻 百里基地 03滑走路付近

銃声が響き、空には照明弾がマグネシウム特有の青白い光を発散させて、基地を明るく照らした。サイレンは鳴り響いている。

「急げッ!03滑走路の方角だ!」

第1空挺団普通科群の松田一等陸尉は高機動車の助手席から、ドライバーの香取三等陸曹に叫んだ。
03滑走路は、基地構内の南側の端である。

「了解!」
香取は、ギアをDの位置に入れると、アクセルを吹かし、高機動車を急発進させた。

高機動車は、中型トラック・クラスの4輪駆動車で、前席に2名、後部荷台両側に8名が乗車出来る。被弾に強いランフラット・タイヤや空気圧調整装置、4輪転舵が採用され、路外走行性能に優れている。

普通科中隊の小銃班の輸送の他、120ミリ重迫撃砲の牽引車として使用されている。従量は2.44トン。積載量1.5トン。最大速度は時速105キロである。
外形がアメリカ軍の汎用車ハンヴィーにそっくりなので、口の悪い人は、「ジャパニーズ・ハンヴィー」と呼び、またそれを略して「ジャンビー」などと呼ぶ人もいる。

松田一尉たちの高機動車は滑走路を横切り、南側の03滑走路へと急いだ。
車輌は幌を外し、5.56ミリ機関銃MINIMIが搭載されている。

03滑走路の近くまで来ると、空自の隊員や他の空挺隊員が、侵入した敵に向かって応戦しているのが見えた。周囲は、照明弾に照らされ明るくなっている。
フェンスの手前で小銃を撃っている敵兵の姿も見える。

香取三曹が、車輌を停車させた。

「下車ッ!戦闘配置に着けッ!!」

松田一尉が怒鳴った。

隊員たちは、89式小銃を手に高機動車から素早く降りた。
松田はMINIMI機関銃に飛び付き、銃口を敵兵のいる方向へ向けた。

手前で、続け様に爆発音が響き、煙が上がる。敵兵が手榴弾を投げたのだ。

空自の隊員たちは64式小銃で敵を撃退している。2名の敵兵が倒れた。

「一歩も入れるな!撃退しろ!」
松田は大声を張り上げ、命令した。

隊員たちは草叢に身を伏せ、89式小銃を撃ちまくった。

89式小銃は、64式小銃の後継として開発された国産の自動小銃で、1989年に制式化された。
口径は5.56ミリに小口径化され、強化プラスチック製の銃床の採用により重量も1キログラム近く軽量化されている。

松田もMINIMI機関銃の引き金を引いた。銃口から弾が吐き出され、唸りを上げる。
敵兵たちの体が跳ね飛ぶ。



「こいつらは、ゲリラか?それとも磐軍の特殊部隊か?」

松田が、倒れた敵兵たちを見て呟いた。
敵兵たちは、迷彩服を身に纏い、黒いマスクで顔を覆っていた。

「特殊部隊の様ですが、ゲリラも混じっている様な気がします」
香取が答えた。

「敵兵を全員、撃ち殺してやる。車を回すんだ!次の敵兵を叩く」
松田が命令した。

香取は車を発進させ、次の敵を追い求めた。
滑走路や草叢で爆発音が轟き、地面を揺るがした。敵味方双方の銃撃音も止む事無く、夜の百里基地に銃声と手榴弾の爆発音、照明弾の発射音による交響曲が響き渡った。
既に滑走路まで侵入した敵が何名かいる様である。

煙の陰から重低音が聞こえてきた。その煙の中から73式装甲車が姿を現し、敵兵を銃撃しながら前進して来た。

73式装甲車は、第1空挺団の装備ではなく、百里基地の先にある土浦の武器学校で、整備教育の教材として使われているものを、第1空挺団の支援の為に急遽、百里に配備したものである。
73式装甲車は車内から隊員たちが銃撃をして、滑走路に前進して来る敵兵を薙ぎ倒した。
それでも、敵兵たちは次々と滑走路に突撃して来る。空挺隊員や空自の隊員たちも盛んに、小銃を撃ちまくる。

香取も高機動車を停車させ、脇に置いてある89式小銃を構えた。
空挺部隊に配備されている89式小銃は、折り曲げ銃床型で、空挺部隊や戦車隊員用として用いられている。全長も670ミリと、通常型より更に短く、携帯し易くなっている。

敵兵たちが、松田の高機動車にも突撃して来た。敵兵たちがAK-47小銃を構えているのが見える。

「ふざけるな!」
松田が、MINIMIを乱射した。
香取も、高機動車の運転席に身を隠して、89式小銃を敵兵たちに向けて一連射した。
敵兵たちが、七、八人倒れる。それでも、その背後からは新たな敵兵が銃を乱射しながら突撃をして来る。

松田と香取は、その度に身を伏せ、敵弾を避けた。銃弾が車体を叩く。
敵兵の一人が、手榴弾の安全ピンを抜き、こちらへ投げようとしているのが見えた。その直後、背後で機銃音が響き、手榴弾を持った敵兵が倒れ、爆発した。

松田が後を振り向くと、見方の高機動車がMINIMIを連射しながら近付いて来た。
桜井二等陸曹と生田陸士長であった。

「中隊長、大丈夫ですか?」
桜井二曹が訊いた。

「ああ、大丈夫だ。一体、やつらは何人いるんだ?」
松田が、うんざりした表情で言った。

「わかりませんが、7、80名の敵兵がいる様です」
桜井二曹が答えた。

「奴らは磐軍の特殊部隊だろう?どうやって国内に侵入したんだ!」

「どうも民間人に化けて侵入した様です。フェンスの外にワゴン車が、20台近く停まっていました」

「くそっ、ふざけやがって!」
松田は拳を握り締め、敵兵を睨んだ。

その時、暗い空から爆音が聞こえてきた。松田は空を見上げた。

「敵機か?」
松田は、香取に訊いた。

「恐らく、そうだと思います」
香取が狼狽して、答えた。

「敵機は、空自のペトリオットが全機、撃墜したんじゃなかったのか!」
生田士長が、空に向かって叫んだ。

爆音は、徐々に近付くと見え、だんだんと大きくなってきた。
空自の隊員たちが、慌しく動き回る。

「敵機、接近!」
「対空戦闘用意!」



空自の隊員が、スティンガーを構えた。
対空機関砲VADSも、敵機の方向へ仰角を上げた。

敵兵も小銃を撃ちながら、突っ込んで来る。香取や生田が撃ち返す。
銃弾が飛び交う中、敵兵の一人が滑走路に駆け込んで行った。

「何をする気だ?」
松田は眉を寄せて、敵兵を見つめた。

その敵兵は、滑走路の真中で立ち止まり、拳銃のような物を持って、手を真上に挙げた。
発射音が響き、上空にスルスルと光が上がった。

「くそっ、亡命軍機を誘導しているんですよ」
桜井が小銃を構えながら言った。

「ふざけてんじゃねぇ、このっ!」
松田は、MINIMIの銃口を滑走路の敵兵に向けた。

引き金を引く指に力を加えた時、他の隊員が撃った銃弾が、その敵兵に命中して滑走路に倒れた。

金属音をたてて、亡命軍機が近付いて来る。
上空からジェットエンジンの炎を引きながら黒い影が接近して来るのが見える。

「退避ーッ!」

松田は、隊員たちに向かって叫んだ。
隊員たちは、分散して逃げ惑う。平坦な飛行場の為、退避する様な地形がほとんど無い。
めいめい高機動車の下に潜り込んだり、わずかな起伏のある堆土の陰に身を伏せたりしている。

空自の対空機関砲VADSが唸りを上げて、火を吹いた。空自隊員のスティンガーからも、白煙をたてた赤い炎の矢が飛び出した。



VADSは、低空で侵入する敵機を捕捉、追撃する軽易な半自動独立火器で、基地防空の最後の砦である。
操作員2名。有効射程は1,200メートル。発射速度は高速で3,000発/毎分、低速で1,000発/毎分。重量は1,429kg。
20ミリバルカン砲を搭載して、リードコンピューティングサイトと測距システムを組み合わせて、航空機の将来位置を予測する事で命中率を向上させている。
VADSは、空自の基地防空隊以外に、海自でも基地防空の装備として採用している。

VADSの機関砲弾と誘導弾が亡命軍機に命中し、火の塊となって地上に落下した。

また爆音が轟き、巨大な黒い影が滑走路に強行着陸しようとしていた。この巨大な影から旧ソ連製のアントノフ輸送機とわかった。

VADSがアントノフに向かって咆えた。
操縦席を直撃したらしく、アントノフはバランスを失って滑走路側の草叢に不時着して大爆発を起こした。

今度は、ヘリのローター音が近付いて来た。水戸方面から近付いて来る。
松田は、ローター音の聞こえる方向に眼を凝らした。

いきなり林の稜線の陰から、ヘリの編隊が現れた。いわき人民軍のMi-24ハインドであった。その数、4機。

「いわ軍のヘリ部隊だッ、対空戦闘用意!」
松田が怒鳴った。

桜井二曹がMINIMIの銃口をハインドに向ける。他の隊員たちも、ジープ車載の12.7ミリ重機関銃やスティンガーを構えた。

ハインドの機銃が火を吹き、隊員たちの体が跳ね飛んだ。

「この野郎ッ!」
桜井が、MINIMIをハインドに向け撃ちまくった。

スティンガーも誘導弾を発射し、ハインドに吸い込まれて行った。ハインドの側面に命中し、機体が大きく揺れた。

だが、ハインドは機体を立て直し、再び飛行を始めた。



今度は、VADSがハインドに向かって咆えたが、それでもハインドは落ちない。

「おっ、落ちない」
松田の表情が強張った。

「地対空誘導弾や対空機関砲の射撃を受けても平気で飛んでるヘリなんて、あるものか」
松田は、ハインドを睨んだ。

ハインドの機首にある機関砲が火を噴いた。
次々に隊員たちが薙ぎ倒され、VADSが二基粉砕された。その間にも、二機目のアントノフ輸送機が滑走路に強行着陸した。

後部の扉が開いて、BMD-1型装甲戦闘車が2両出てきた。それを側の草叢に伏せていた隊員がカールグスタフで撃つ。
BMD-1の側面に命中し、爆発を起こし煙を上げた。

ハインドは機銃掃射を繰り返している。
ロケットを発射している機もある。

「一体、どうしたら撃ち落す事が出来るんだ!」
松田は叫んだ。

三機目のアントノフが滑走路に着陸した。
そして、出て来た敵兵たちが次々と発煙筒の様なものを投げつけた。
周囲に白煙が立ち昇る。

空自の隊員が2名、倒れ込んだ。

「いかん、毒ガスだ!」
桜井二曹が叫んだ。

「なんだって。化学防護車なんて持って来てないぞ!状況ガス、状況ガス、防護マスク装着!」
松田はがなり、防護マスクを取り出して頭から装着した。桜井二曹たちも急いで防護マスクを装着する。
防護マスクは7秒以内に装着しないと危ない。

「新たなヘリ部隊が接近して来ます」
香取が防護マスク越しに報告して来た。

「何!」
松田は空を見上げた。

今度は、北浦の方向から飛来した。

Mi-24の他にMi-28ヘボック攻撃ヘリも混じっている。滑走路周辺は毒ガスにより白煙で覆われている。
73式装甲車や高機動車が次々と後退して行く。

新たなハインドの編隊は、次々と基地内の草叢に降着し、防護マスクを装着した磐軍の兵たちが降りて来た。

「一時、後退だ!」
松田は部下たちに命じた。

「後退するんですか?」
香取が納得の行かない表情で訊いた。

「そうだ。毒ガスまで使われては、勝ち目がない。次の機会を待つんだ」
松田は部下にそう言い聞かせてから、

「急いで後退するんだ。乗車ーッ!」
と、がなった。

桜井や香取たちは、急いで高機動車に飛び乗った。その間にも、ハインドの編隊は空挺隊員や空自隊員を圧迫している。

松田も急いで高機動車の助手席に飛び乗った。

香取が高機動車を発進させる。

 * * * * *


10.東京永田町・首相官邸
   7月12日 0830時



『我が人民政府は、日本国の無礼極まりない我が国への侵略行為に対し、断固として徹底抗戦する事を宣言する。尚、我が国の日滝市解放は、自進党政権の悪政に苦しんでいる人民や職を失い喘いでいる労働者たちを助ける為に行った行為であり、日滝市民から大いに歓迎されている。又、昨夜の百里基地占領は我が国の自衛の為の戦いである』

和田首相、小沢官房長官、大久保防衛庁長官、竹井内閣調査室長、池田統幕議長がキッとした顔で、いわき人民共和国大老渡辺忠兵衛のテレビ演説を観ていた。

『我が人民政府は、日本自衛隊のいわきからの即時撤退を勧告する。もし、拒否すれば自衛隊に多大な犠牲者が出る事になる。我が国は北日本一帯の制空権を握っている。尚、日本国政府もご承知の通り、我が国の強力な電波妨害により自衛隊の活動は、我が国の領空内では出来ない。戦闘機、偵察機、汎用ヘリ、観測ヘリ、攻撃ヘリ、ありとあらゆる航空機は活動できない。但し、JAL、ANAなどの民間の旅客機の我が国領空通過だけは、これを認める。日本国は、武力で我が国を制圧する事は出来ないのである』

小沢はムッとした表情で、テレビの電源を切ってから、

「自衛隊は制空権を奪還する事は出来ないのか?その上、百里基地まで奪われて・・・」
と、池田に顔を向けた。

「はい。現在、いわき人民共和国に情報官を潜り込ませ、敵ECMの秘密基地の在処などを探る為、情報収集を行っています」
池田は答えた。

「それで、その結果は?」

「まだ何の連絡も入って来ていませんが、いわき自由解放戦線と接触したのは間違いありません」

「統幕議長、何故、いとも簡単に百里基地を占領されてしまったのかね?」
和田が、池田に訊いた。

「はっ、敵は毒ガスを使用しました。それに磐軍のヘリ部隊と亡命軍の航空攻撃を受けました」

「毒ガスを使用したのか?」
小沢は唸った。

「そうです」

「ジュネーブ協定違反ではないか!」
大久保が憮然とした口調で言った。

「それよりもペトリオットという優秀な地対空ミサイルがありながら、何故、亡命軍の航空部隊を撃滅出来なかったのかね?」
小沢は、池田に眼を向けた。

「霞ヶ浦に展開している第3高射隊のペトリオットは、亡命軍の第一波を渡良瀬渓谷付近の山中で捕捉・撃墜する事に成功しました。しかし、第2移動警戒隊のレーダーが第二波を捉えた時には、太田、桐生の市街地上空に既に到達しておりました。民間への被害を避ける為、第二波を撃墜する事は出来ませんでした」

池田は、申し訳なさそうに詫びた。

第3高射隊が渡良瀬渓谷付近の山中で撃墜したのは、ロシアからの亡命軍の艦載機で、スホーイ24攻撃機13機、スホーイ27、10機の計23機。全機撃墜している。
しかし、第二波のスホーイ24、アントノフAh-70輸送機の編隊は、榛名山付近より、突如、太田、桐生市上空に飛来・出現してきた。民家への被害を避ける為、誘導弾を発射する訳にはいかなかった。

「何を言うんだね、統幕議長。民間への被害を考慮して、ペトリオットの発射を躊躇った。君たちの判断は正しいよ。民家の上空で敵機を撃墜する訳にもいかないからね」

大久保が慰める様に言った。

「それにしても、毒ガスなんて、なんて卑怯な手を使うんだ。いわき人民共和国に抗議する」
和田は、渋面をつくった。

「ところで、内閣調査室長。近野直人とは、どういう人物なのかね?」
小沢は、内閣調査室長の竹井に眼を向けた。

「はい。近野直人いわき人民共和国国家主席は、群馬県渋川市生まれ。45歳。60年安保闘争を発端に共産主義者同盟連合に加盟、左翼活動をしていました。全共闘運動敗北を機に、左翼パルチザンとして、松井田の妙義山で軍事訓練をする傍ら、トラック運転手として勤務していました。一連の交番爆破事案、金融機関襲撃事案など、過激な実力行為を繰り返していました。また、妙義山での軍事訓練の際は、仲間をリンチで殺害しています」
と、竹井が説明した。

「あいつらの仲間だったのか・・・」
和田が、思い出した様に言った。

「そうです。当時、警察は信越線の松井田駅で列車に乗っていた近野とその仲間を発見、逮捕しようとしましたが、後一歩のところで近野だけを取り逃がしてしまいました。その後の近野の消息は掴めていませんでした」
竹井は、説明を終えた。

「何たる恐ろしい人物だ。過激派のメンバーが国家主席になるなんて」
大久保が憮然として、言った。

「それにしても近野直人は頭が可笑しいんじゃないのか?」
小沢もあきれ返っていた。

「大老の渡辺忠兵衛は、どんな人物なんだね?」
和田は、竹井に訊いた。

「はい。いわき人民共和国のナンバー2と言われている大老渡辺忠兵衛は、地元いわき市生まれ。磐東交通と言うバス会社に勤務し、その会社の労働組合のリーダーをしていました。会社でストを実施する時は、彼が仕切っていました。1987年のいわき市長選に労働党の代表として出馬しましたが、あっけなく落選。2年前の92年、バブル崩壊と共に磐東交通を退社しました。その後、いわき独立と同時に大老に就任。現在43歳です」

「狂っている。頭のイカれた連中が国家の指導者になるとは。誠に恐ろしい」
和田が、憮然として言った。

「あんな左翼パルチザン上がりの男がつくった国家など認める訳には行かない。自衛隊でいわき人民共和国を制圧する以外に無い」
小沢も不快感を顕にした。

「自衛隊の総力を持って、いわき人民共和国を制圧させます。統幕議長、部隊の状況はどうなっているのかね?」
大久保が、池田に眼を向けた。

「はい。現在、いわき人民共和国常磐南道に第1師団の二個普通科連隊、小川道に第6師団の一個普通科連隊が展開しています。それぞれ特科、戦車部隊等で増強した連隊戦闘団を編成していますが、第6師団の一個普通科連隊が亡命軍の空爆でかなりの損害を受けましたので、秋田の普通科連隊を増援に回す事にしました。また、西部方面隊第8師団、中部方面隊第10師団、北部方面隊第11師団一個普通科連隊、第1特科団一個特科大隊、第7師団の一個戦車連隊をいわきへ向かわせる様にしています」

池田が続ける、
「海自は、第3、第4護衛隊が日本海で亡命艦隊の監視活動を行っていますが、亡命艦隊は秋田沖に停滞したままで、何の動きもありません。第1護衛隊、第61護衛隊、横須賀地方隊第21護衛隊が、太平洋側でいわきに出入りする船舶の監視を行っており、大湊地方隊第25、27護衛隊が津軽海峡、三陸沖で警戒監視行動を行っています。空自は電波妨害の為、いわきでは活動出来ないので、空自の各基地で待機しています」

「こんな状況で、いわき人民共和国を制圧出来るのかね?制空権はいわきが握っているんだろう?」
小沢が眉をひそめた。

「それでも制圧しなければならなんだよ。いわきが今後、どの様な動きをするかわからんのを指を銜えて見てる訳には行かないんだよ。現に、いわきは日滝を武力で占領しているんだ。とにかく前に進むしかないんだよ」
和田が間に入って、厳しい表情で言った。

「統幕議長、自衛隊の総力を持って、狂った独裁者からいわきを解放するんだ。いいね」

「わかりました。総理。自衛隊の総力を持って、いわき解放に全力を尽くします」
池田は姿勢を正して、答えた。

 * * * * *

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いわき独立戦争(4)11-13

2005-05-30 14:18:13 | いわき独立戦争 4章
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11.常磐南道・鮫川付近第32連隊宿営地
6月15日 0900時

川原には宿営用の天幕が張られ、その上は偽装網で覆われている。高機動車や73式装甲車などの各車輌も草や木の枝で偽装されている。

新妻二等陸尉は鮫川の河口を凝視していた。河口から太平洋の青い水平線も見える。海を見ると嫌でも恵美の事が浮かんで来る。

恵美と知り合ったのは、新妻が福島の44普通科連隊に勤務していた時だった。休日を利用して、いわき湯本温泉に一泊した時にコンパニオンを呼んだ。その時のコンパニオンが恵美だった。
タレントのTに似て、可愛い女性であった。性格も積極的で、ホテルで酌をした後に湯本の温泉街を案内してくれて、一緒にラーメンを食べたりもした。最後に別れる時、彼女は自分の住んでいるアパートの電話番号を教えてくれた。

それから休日の時は、いわきまで行って恵美とデートしていた。一緒に新舞子の海岸を歩いたり、三崎公園のマリンタワーに行った事もあった。
新妻は次第に恵美に惹かれ、三度目のデートの時、初めてキスをした。暗い海岸で、自分の愛車の中で恵美にキスした。
二人で愛を確かめ合ったにも拘らず、恵美は新妻から離れ、他の男と一緒になってしまった。

二年前の夏の終わりの頃の事であった。
(あんな女なんか・・・)
そう思って、川に小石を投げた時、

「何を考えてらっしゃるんですか?」
と、女性の声がした。

後を振り向くと、本部要員のWAC(女性自衛官)幸田由加里三等陸曹であった。

「何も考えてないよ」
新妻は苦笑して答えた。

「そんな筈ないわよ。新妻二尉がしゃがんで川や海を黙って見つめている時は、何か考えている時だもの。演習の時もそうだった。状況が終了した後、みんなで打ち上げした時、新妻二尉だけが、地面にしゃがんで夕陽を眺めていたもの。その時、みんなが言っていたの。小隊長が一人でしゃがんで何かを眺めている時は、考え込んでいる時なんだって・・・。何か人に言えない悩みがあるんじゃないかって・・」

「そうかな。それはみんなの考え過ぎだよ。俺は、何かを見ていると気持ちが落ち着くんだよ。海や夕陽を見ているとね」
新妻が、そう答えると、由加里は思わず苦笑してしまった。

「そんなの新妻二尉に似合わない。だって、新妻二尉は、そんなナイーブな人じゃないし・・」

「俺の事、勝手に決め付けるなよぉ」
新妻は微笑した。

由加里は明るいWACだ、それなりにお喋りが多いが、彼女のチャーミングな所でもあった。

「ここの海は綺麗よねぇ~」
由加里は海に眼を向けて、大きく背伸びをした。

「私、実家が市川だから灰色で汚れた海ばかり見て育ったの。ここの海は青くて綺麗」

「全然、綺麗じゃないよ。汚れているよ」

「あらっ、どうして?」

「悪魔ばかり住んでる国の海だからだよ。いくら海が綺麗でも、この国に住んでる悪魔たちが海を利用すれば、海だって汚れるよ」
新妻が言うと、由加里がクスッと笑って、

「どうしちゃったんですか?新妻二尉はいわき出身なのに、どうしていわきの事を悪く言うんですか?」
由加里は不思議がって訊いた。

「このいわきの人間が、俺たちの同胞を何人殺していると思ってるんだ」
新妻は、拳を握り締めた。

由加里は、川原に腰を降ろした。
そして、しばらくしてから、

「私たち、大宮に移ってしまうんですね」
と、話題を変えた。

「ああ、防衛庁が市ヶ谷に移転してくるからな。1号館の取り壊しが始まっていたな。それに伴って、東部方面総監部も11月には朝霞に移転するからな」
と、新妻は言った。

1号館は、旧軍以来、使用してきた隊舎で、以前、大本営本部のあった所でもあった。
防衛庁の市ヶ谷移転に伴い、新妻たちが所属する第32普通科連隊も大宮に移転する事になっている。

「あ~あ、イヤだなぁ。だって、渋谷や原宿が遠くなってしまうし・・・」
と、由加里は言う。

「あんな、ごみごみした街の何処がいいのかなぁ?」

「渋谷は若者の街だもの。マルキューにも行ってみたいし、パルコにも行ってみたいなぁ」

「オレはなじめないな。ヤンキーとアーパーギャルだらけで・・」

「渋谷以外にも南青山や原宿にも行って、色々買物してみたいな~。それなのに、大宮に移転してしまうなんて・・・」
由加里は、空に眼を向けて言った。

新妻は笑って、
「それは大分先の事だよ。それよりも、この戦争が終わるまで無事でいられればの話だけどな」
と、言った。

その時、新妻の小隊に属する渡部一等陸士が近寄ってきた。

「小隊長、中隊長がお呼びです。至急、中隊本部に来るようにとの事です」
渡部一士は、新妻に伝えた。

「わかった。すぐに行く」
と、新妻は答えて、渡部一士と一緒に中隊長のいる中隊本部へと向かった。

800メートル先にある中隊本部の業務用天幕に着くと、中隊本部の要員が64式小銃に着剣して天幕の前で立哨していた。
また、偵察隊の87式偵察警戒車が偽装して周囲を警戒している。

中隊本部の天幕に入ると、飯島一等陸尉を始め、同じ小銃小隊の河野三尉、目黒二尉、秋山二尉、迫撃砲小隊長の宇喜多二尉、それに防衛大学では新妻と同期で、対戦車小隊長の木幡二尉が集まっていた。
普通科中隊の編成は中隊本部、4個の普通科小隊、1個の迫撃砲小隊、1個の対戦車小隊から成り立っている。
更に小銃小隊は3個の小銃班で編成されている。

「新妻二尉、呼ばれてまいりました」
新妻は、飯島一尉に向かって挙手の敬礼をした。

「ご苦労。まあ、椅子に掛けてくれ」
飯島は勧めた。

新妻は、アウトドアで使う様な折畳み式の小さな将棋椅子に腰掛けた。
第2中隊の幹部たちに囲まれる様な形で、戦況を示すいわきの地図が置かれてある。

「君たちもご存知の通り、日滝市がいわき人民軍に占領され、首都圏との補給路が絶たれている」
飯島は、幹部たちを見回して説明した。

「よって、我々の補給路は国道4号線、東北自動車道から国道289号線を迂回してのルートのみである。しかし、途中の南大平地区から川平地区にかけて、ゲリラが多数出没して補給部隊を襲撃している。昨日は、霞ヶ浦の補給部隊が川平大橋付近でゲリラの襲撃を受けている」
飯島は、地図上の川平大橋付近を指した。

橋の先は、長いトンネルになっている。ゲリラが襲撃するには、条件の良い地形だ。

第1師団第31、第32戦闘団への補給は、霞ヶ浦、古河、吉井、松戸の各補給処と師団後方支援連隊の補給隊が行っている。
一方、第6師団の補給は、仙台、反町、船岡の各補給処と師団後方支援連隊の補給隊が行っている。

第1師団は、国道4号線、東北自動車道から国道289号線を迂回してのルートが唯一の補給路としているが、最近になって、たびたびゲリラの襲撃を受ける様になった。
補給隊には護衛のAPCが同行しているが、ゲリラがRPG-7対戦車ロケットを保有しているので、焼け石に水であった。

「そこで、2個普通科小隊を以って、南大平から川平に展開しているゲリラの掃討を実施する。これを河野三尉と秋山二尉の小隊で掃討してもらいたい。ゲリラは国道289号線、四時トンネルの前で我が補給部隊を待ち伏せしている。いいな、何としてもゲリラを殲滅するんだ」
飯島一尉は、河野と秋山の顔を見つめて言った。

「第1小隊、河野三尉、了解しました」

「第4小隊、秋山二尉、了解しました」

河野と秋山は姿勢を正して答えた。

飯島一尉は、残る新妻たちに眼を向けた。
「残った小隊は、早稲田、黒須野地区のゲリラの掃討、及び小浜軍港の占領を行う。既に第1中隊が黒須野、早稲田地区を占領、泉市の手前まで前進、第3、第4中隊も金山、東田、後田地区を占領しているが、ゲリラの襲撃に悩まされている。新妻二尉」

「はい。新妻二尉」

「君の小隊で、黒須野、早稲田地区のゲリラの殲滅」

「はい。黒須野、早稲田地区のゲリラの殲滅」
新妻は、復唱した。

「宇喜多二尉、君の迫撃砲小隊は、新妻二尉の第2小隊の支援」

「はい。第2小隊の支援」
宇喜多も復唱した。

「目黒二尉の第3小隊と木幡二尉の対戦車小隊で小浜軍港の制圧。小浜軍港は、ここから2キロ北東にある。情報小隊からの報告ではミサイル艇と漁船が共用する小さな軍港であるとの事である。一個小隊と対戦車小隊で充分に制圧できる」
飯島は、言った。

「はい。小浜軍港の制圧」
目黒と木幡は復唱した。

「いいな。増援部隊がいないので我々だけで敵を制圧するしかない。そして、何としても新舞子海岸まで進むんだ。これ以上の遅滞は許されない。これが連隊本部からの命令である。行動開始時刻、1330時。以上!」

飯島は、全小隊長に言い聞かせた。

* * * * * * * * * *


12.北海道上富良野町・上富良野駐屯地
7月13日 1430時

駐屯地内では隊員たちが慌しい動きをしている。どうろには、74式自走105mm榴弾砲が駐車して、乗員たちが点検している。

第4特科群第117特科大隊の滝口二尉は乗員たちを見て回っている。

74式自走105ミリ榴弾砲は、1974年に仮制式した国産の自走榴弾砲で、イギリスの自走砲アボットをモデルにしている。
全長5.9メートル、全高2.9メートル、全備重量16.5tで回転砲座や水上浮航能力などがある。

だが、自走砲を155ミリクラスに統一する事になり、生産は20両で終了してしまい、74式自走105ミリ榴弾砲が配備されているのは、全国で、ここ117特科大隊だけである。

第4特科群第117特科大隊に出動命令が発令され、いわきに向かうべく最後の点検を行っていた。

滝口二尉も緊張した面持ちで隊員たちを見ていた。

「滝口二尉、間もなく大隊長の訓示があります。中隊長が営庭に集合せよとの事です」
中隊付准尉の大澤曹長が、傍らに来て報告した。

「わかった。全員を集合させよう」と、滝口は答えてから

「小隊、集合ッ!」
と、乗員たちに向かって叫んだ。

乗員たちは、急いで自走砲から降りて、集合した。
それから、滝口二尉たちは営庭へと向かった。

「何故、我々の部隊だけがいわきへ派遣されるんでしょうね?旭川の2特(第2特科連隊の略)や104大隊には威力の大きな15HSP(155ミリ自走榴弾砲)や20HSP(203ミリ自走榴弾砲)があるのに・・」
大澤曹長が営庭に集合完了してから、不思議がって訊いた。

「105HSP(105ミリ自走榴弾砲)は中途半端な存在だから真っ先に、国の為に散ってくれという事なんだよ。105HSPが配備されているのは、全国でウチの大隊だけだからな」
滝口二尉が皮肉まじりで言った。

北海道の特科部隊で、117特科大隊以外の部隊は、もっと威力の大きい75式155ミリ自走榴弾砲や203ミリ自走榴弾砲M110A2、または広い地域を制圧出来る75式130ミリ自走多連装ロケット弾発射機(MSSR)を装備している。

二、三分して、がっちりとした体格の大隊長大山二佐が姿を現した。隊員たちが敬礼した後、大山二佐の訓示が始まった。

「いよいよ本日、我が117特科大隊は、いわき人民共和国に向けて移動する事になった。諸君たちは初めての実戦で不安と緊張があるかもしれないが、国土を守るという自覚を持って、危険を顧みず、任務を全うして欲しい。尚、我が117特科大隊の105HSPはイギリスのアボットをモデルにしている。だが、世界のHSPは155ミリが主流となり、74式105HSPもアボット同様、時代遅れとなってしまった。世間からは、105HSPは、射程が短いだの威力が無いだの陰口を叩かれてきたが、今回初の実戦参加で155ミリHSPにも劣らない事を証明してみせる。その為にも、今までの演習の成果を充分に発揮してもらいたい。以上である」
大山二佐の訓示が終了すると、各中隊ごと移動した。

隊内の道路には、方面輸送隊の74式特大型セミトレーラーが待機している。これから74式105ミリ自走榴弾砲は、方面輸送隊のトレーラーに載せられて苫小牧港まで移動する。
苫小牧港からは海自のLST(揚陸艦)に載せられる。

「いよいよですね」
大澤曹長が、横から言った。

「ああ、腕が鳴るな」
滝口は、自信のある表情を見せた。

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13.常磐南道・川部町
7月13日 1130時

高機動車は、鮫川沿いの道路を走っていた。
後部席に座っていた内田と助手の金子は、窓越しに、川沿いの草叢に展開しているAPCや自走無反動砲に眼を向けた。73式装甲車、60式自走無反動砲などが草で偽装している。南台にある、いわき人民軍の陣地を攻撃する為、待機している第31普通科連隊の部隊である。
普通科部隊の後方には、74式戦車と87式偵察警戒車が待機している。更に、そこから2キロ後方の平原には、81ミリ迫撃砲、120ミリ迫撃砲が布陣していた。

「内田さん、あれが120ミリ迫撃砲です」
双眼鏡で、迫撃砲陣地を覗いていた金子が言った。

「どれどれ?」
内田も首にぶら下げていた双眼鏡を眼に当てた。

「偽装網を展張しているな」
内田の言う様に、120ミリ迫撃砲は偽装網で覆われていた。

高機動車が停車すると、助手席に乗っていた三尉の幹部が、内田たちに顔を向けた。

「間もなく前方の磐軍の陣地に攻撃を掛けます。敵の反撃も当然予想されますので、堤防の陰で身を潜めて取材して下さい。それから勝手な行動はとらないで下さい。命の保障はしませんよ」
三尉の幹部は、釘を刺した。

「わかりました」
内田は答えて、金子と一緒に高機動車から降りた。

内田と金子は、言われた通り、堤防の陰に身を潜めた。

「なんだか、ワクワクしてきますね」
金子は、額の汗をハンカチで拭いながら言った。

「そんなに戦争が好きなのか?」
内田は訊いた。

「一度、本物の戦闘場面というのを見てみたいんですよ」
金子の眼は輝いていた。

「磐軍が反撃してきたら、こっちの身も危ないよ」
と、内田が言った時、後方の迫撃砲陣地から発射音が響いた。

南台の磐軍陣地に対して攻撃が開始され81ミリ迫撃砲L16と120ミリ迫撃砲RTが火を噴いた。南台の磐軍陣地に迫撃砲弾が炸裂して、黒煙に覆われた。

81ミリ迫撃砲L16はイギリスのロイヤル・オーディナンス社製の迫撃砲で、陸自では64式迫撃砲の後継として、1992年から採用している。射程も約5600メートルと、64式迫撃砲より2倍の長さとなった。
一方、120ミリ迫撃砲RTは、フランスのMO社製で、107ミリ重迫撃砲M2の後継として採用し、これも1992年から導入された。射程は約8100メートルで、RAP弾を使用すれば13000メートルまで伸びる。また、高機動車に牽引され移動出来るので、分解して人力で移動する事もない。

迫撃砲の射撃が止むと、87式偵察警戒車を先頭に戦車や装甲車化普通科部隊が突撃を開始した。74式戦車の重低音が響く。

南台の磐軍も反撃を開始して来た。陣地から銃撃音が響き、対戦車ロケット弾が発射された。87式偵察警戒車の25ミリ機関砲が唸り、ジープ車載の60式無反動砲、60式106ミリ自走無反動砲も火を噴いた。

「うわあぁッ、駐屯地の模擬戦より迫力がある!」
金子が、興奮した口調で叫ぶ。

「カメラで写真を撮っておけよ」
内田が言った。

「わかっていますよ」
金子が答えて、カメラを構えた。

87式偵察警戒車、73式装甲車が射撃する中、74式戦車が土埃を立てながら、南台に突撃して行く。(写真参照)



磐軍の陣地からの反撃も凄まじかった。89式装甲戦闘車や73式装甲車の傍で砲弾が炸裂した。それでも装甲車化普通科部隊は前進して行く。一発の対戦車ロケット弾が73式装甲車に命中し、大破した。

再び、迫撃砲陣地から発射音が響いた。迫撃砲の支援射撃が再び開始された。砲弾が容赦なく磐軍の陣地に炸裂し、煙に包まれた。

内田が堤防の陰で眺めていると、ローター音が聞こえた。

内田と金子は空を見上げた。
二機のヘリが向かって来た。

「あれは、ハインドDですよ」
金子が、ヘリを見ながら言った。

「ハインド?」

「旧ソ連製の攻撃ヘリです」

「ま、マジかよ?」
内田は狼狽した。

ハインドDの両翼から、対戦車誘導弾が発射され、二両の73式装甲車が粉砕された。

「ああ、73式装甲車が撃破された」
金子が叫ぶと、二機のハインドDは、内田たちのいる堤防へ向かって来た。

「こっちへ向かって来ます」

「急いで逃げるんだ!」
内田は叫ぶと、金子と一緒に堤防の土手を駆け降り、草叢に身を隠した。

その直後、二人の真上をハインドの、ずんぐり、むっくりした機体が過ぎて行った。
内田は、草を掻き分け、顔を覗かせて、ハインドの方向に眼を向けた。

ハインドはロケット弾を発射して、迫撃砲陣地を攻撃している。迫撃砲陣地が土煙に覆われた。

「ああ、迫撃砲陣地が・・・」
「これでは全滅だよ」
金子が、そう嘆いていたら、頭上をジェット特有の金属音が飛び抜けた。次の瞬間、堤防の陰で閃光が輝き、爆発音が響いた。

内田と金子は、直ぐ様、両手で耳を塞いだ。
小石や土砂が頭上から降り掛かる。

「一体、何が起きたんだ!」
内田は叫んだ。

「いわ軍が空爆したみたいです」
金子が答えた。

「待てよ。いわき市には、航空機を運用出来る飛行場はない筈だ」

「と、言う事は、占領した百里基地から飛来した亡命軍機?」
金子が言った。

「恐らく、そうだろう」
内田は上空を見上げて、答えた。

二人は、ハインドや攻撃機が去るのを見計らってから、堤防を上がって行った。

堤防の上から、南台の手前の平原を覗くと、二人は驚愕した。

「内田さん、これは・・・・・」

「これは、惨い」

内田と金子が眼にしたのは、空爆を受けた陸上部隊の凄惨な光景であった。装甲車や戦車がいたる所で黒煙を上げている。粉々に粉砕され、原型を留めていない装甲車もある。

隊員たちの呻き声や叫ぶ声が聞こえる。内田が初めて見る光景である。

そして、彼は、これが戦争だという事を改めて思い知らされた。



いわき独立戦争 第1部

いわき、自衛隊衝突す (終)


* * * * * * * * * * *

第1部終了にあたり 御礼

どうでしたか、私の初めての架空戦記「いわき独立戦争」は?
多くの読者の皆様からもコメントを頂いて、この場をもちまして、御礼申し上げます。

第2部 「亡命軍上陸す」 は、最近執筆を開始したばかりですので、もうしばらくお待ち下さいませ。

長期の連載にお付き合い頂きまして、本当に、ありがとうございました。

90年代の自衛隊装備 第1部編A

2005-05-15 20:36:33 | 90年代の自衛隊装備 第1部編
1990年代は装備改編の時期である。80年代までは1960年代に制式化された装備が主力だったが、1990年代に入ると、70年代後半から80年代に制式化された装備が主力となって来た。その間、国産初の自走高射機関砲や装甲戦闘車が制式化されたが、冷戦構造の崩壊とソ連の消滅により、これらの装備は浮いた状態となって来ている。また、装備の高価格と予算削減によって、配備も遅延している。いわき独立戦争で活躍する90年代の自衛隊装備を紹介しよう。


89式小銃

64式小銃の後継として、89年に制式化された。豊和工業製。
口径5.56ミリ、全長92cm、重量3.5kg、装弾数20/30発。単発、連射、3点射の切り替えも可能となった。64式同様、二脚が標準装備されているのは、陣地に立てこもっての防御戦を前提としている為である。
空挺、機甲科隊員用の折畳み式銃床と一般隊員用の固定式銃床の2つのタイプがある。作品の中では、百里基地を守備する空挺隊員が折畳み式銃床の89式小銃で、いわ軍のゲリラとロシアからの亡命軍空挺部隊に応戦している。
銃一丁の価格が約34万円と高価で、配備もなかなか進まなかった。一般の普通科に89式小銃が配備されるようになったのは、90年代後半からで、第9師団の普通科では未だに64式小銃を使っている。ちなみに筆者は、最近発売されたマルイ社の89式小銃の電動エアーガンを9月24日に購入した。


9ミリ拳銃

11.4ミリ拳銃M1917の後継として1982年から部隊配備が始まった。スイスのSIG社製P220をライセンス生産。
口径9ミリ、全長206mm、重量830g、シングル/ダブルアクション機構をもっている。弾薬はパラベラム弾を使用する。装弾数9発。
主に、佐官以上の幹部、戦車乗員や無反動砲手が使う。


5.56ミリ機関銃MINIMI

小銃班を支援する機関銃で、ベルギーのFN社製M249MINIMIをライセンス生産。
口径は89式小銃と同様5.56ミリ、全長1040mm、重量7.01kg。作動方式はガス圧利用式で、発射速度は最大約750発/分~1000発/分。配備は1993年から始まった。地上、車載での射撃など多様に使用可能で遠距離でも高い貫通力を持っている。

90年代の自衛隊装備 第1部編B

2005-05-15 12:58:49 | 90年代の自衛隊装備 第1部編
高機動車

中型トラック・クラスの4輪駆動車で、普通科、空挺部隊の隊員輸送、重迫撃砲の牽引車として使用している。
被弾に強いランフラットタイヤや空気圧調整装置、4輪操舵が採用されている。車輌重量2,550kg、全長4,910mm、全幅2,150mm、全高2,150mm、最高速度105km/h。
前席に2名、後席両側に8名が乗車できる。民間バージョンでは「メガクルーザー」の名前で市販されている。(現在は生産中止)また、近距離地対空誘導弾や多目的誘導弾のプラットホームとしても使用されている。


73式小型トラック

作中で、ジープという名で登場して来るのが、この73式小型トラック。1973年に制式化され、J24・J23系がある。
車輌重量1,450kg、全長3,750mm、全幅1,650mm、全高1,950mm、最高速度110km/h。乗員は6名と以前の1/4tトラックJ4より2名多くなっている。また、無反動砲や対戦車誘導弾などを搭載したバリエーションも多い。1996年からは、パジェロをベースとした新型73式小型トラックに更新されて行く。


「はつゆき」型護衛艦

DDK及びDDAの後継艦として建造された汎用護衛艦。
対潜ヘリ1機を搭載して、DDH(ヘリ搭載護衛艦)、DDG(ミサイル搭載護衛艦)とともに八八艦隊の中心的役割を担って来た。主要兵装は、62口径76ミリ速射砲×1、アスロック装置×1、SSM装置×1、短SAM装置×1、3連装短魚雷×2、高性能20ミリ機関砲×2、哨戒ヘリコプター×1。
海自護衛艦として初めてのCOGOG方式を採用、巡航用・高速用ガスタービン各2基を搭載している。「むらさめ」型、「たかなみ」型の配備で、現在、、「はつゆき」型も地方隊配属となり、最終艦「しまゆき」は平成10年度に練習艦に種別変更された。「はつゆき」型は、初期の艦が竣工してから23年以上経過している為、今後、除籍する艦も出て来るだろう。


「ちくご」型護衛艦

船団護衛、対潜哨戒、掃討を主任務とする3次防計画の1,500t級のDE護衛艦。
ディーゼルエンジン4基2軸搭載、速力25ノット。主兵装は50口径3インチ連装速射砲×1、40ミリ連装機関砲×1、アスロック×1、3連装短魚雷×2。VDSやバウ・ソナーの採用で対潜兵装は強化されている。
作中の中川二曹の会話にある様に、「ちくご」型は、80年代から90年代にかけて、小名浜港で開催される船の博覧会にしばしば入港していたが、平成15年までに全て除籍したので、現在は「はつゆき」型が入港している。


RF-4E/EJ偵察機

RF-86Fの後継機として、航空自衛隊が導入したF4-ファントムⅡの偵察型。
1974、75年に14機導入。低空作戦用に地形回避機能を持つレーダーを装備し、通常の光学カメラに加えて赤外線センサー、SLAR(低視レーダー)を搭載。非武装なので、バルカン砲や誘導弾は装備していないが、ECMポッドの導入やRWR(レーダー警戒受信機)の更新で自己防衛力が強化されている。本来の敵情偵察などの戦術ミッション以外に、災害派遣にも出動して、写真偵察、調査を行う。
全長18.6m。全幅11.7m。全高5.0m。最大速度マッハ2.2。文中でも、いわき人民共和国を偵察したが1機が威嚇射撃を受け、1機が撃墜されている。また、余剰となったF4-EJ、15機を偵察型に改造したRF-4EJがあり、こちらは、バルカン砲、ミサイル搭載能力を残している。

戦域地図

2005-05-12 06:32:37 | いわき人民共和国地図
いわき広域図
いわき 地図
日立 地図
(マピオン) ※パソコンのみ

急行!

2005-05-11 23:23:16 | 陸自画像
いわきとの国境付近の動向を探るべく、急行する偵察隊

74式 前進!

2005-05-10 23:50:28 | 陸自画像
敵を求め前進する74式戦車

74式戦車

2005-05-10 22:33:59 | 陸自画像
74式戦車

74式戦車 待機

2005-05-10 21:40:11 | 陸自画像
窪地で準備する74式戦車

44普連

2005-05-10 18:38:30 | 陸自画像
突撃態勢をとる44普連73式小型トラック

60式装甲兵員輸送車

2005-05-09 22:45:22 | 陸自画像
60式装甲兵員輸送車(APC)

106ミリ無反動砲

2005-05-08 22:58:02 | 陸自画像
ジープ搭載106ミリ無反動砲

3トン半大型トラック

2005-05-08 19:25:55 | 陸自画像
駐屯地を出る輸送大型トラック(後期型)

高機動車搭載 近SAM

2005-05-07 19:00:22 | 陸自画像
高機動車搭載の近SAM(近距離地対空ミサイル)