「アンクル・トムの小屋」という、ストウ夫人の名作があります。この小説の主
人公は、黒人奴隷、トムです。あるとき、トムは、綿摘みの過酷なノルマが果たせ
ず、疲れきった女を助けて、代わって綿を摘むのです。しかし、そのことで主人レ
グリーの怒りを買って、冷血漢の主人は、トムに激しい拷問を加えます。レグリー
はトムを鞭で打ちながら、こう言うのです。「俺はお前を買った。お前の体も魂も
俺のものだ」。すると、即座にトムが返した言葉は、こうでした。「違います。私
の魂は旦那のものではありません。旦那は体は買っても、魂は買うことができない。
私の魂は、守ってくださることができるただ一人の方にすでに買われて、支払も済
んでいます」。
こうして、レグリーは鞭でトムの体を傷つけても、魂までも屈服させることはで
きなかったのです。ここがキリスト教信仰の要、大事なところなのです。トムの中
には「自分はもうイエス・キリストに買われている。自分はその方のものだ」とい
う強い思いがあって、これが現実の拷問、苦しみに打ち勝つ力となり、トムの人間
としての尊厳性を守り抜いた、ということになったのです。キリストに買われてい
るというのは、言い替えると、キリストはこの自分のために十字架に死んでくださ
った。十字架という値を支払って、私を罪の支配から解放してくださった、という
ことなのです。
人生の荒野・荒波の中で、何が私たちの盾となり、砦となり、私たちを投げやり
の人生とならせず、私たちに人格の尊厳性を守らせるかと言うと、私たちはキリス
トに買われていることだと、あの小説は語っていたのです。私たちはキリストのも
のだから何者も私の魂を奪うことはできないのです。言い方を変えると、キリスト
に無条件に愛されている、ということ。私たちは一人も洩れなく、キリストの代価
によって買い取られ、罪の支配から解放され、今や、神の宝とされているというこ
とです。これが人生の荒野・荒波の中で、私たち人間の尊厳を守るのです。
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