不思議な恋の始まりに
愛を手繰(たぐ)り寄せ
肌寒い夜に
万世の星たちに愛でられ
いく杯の時代を重ねる
今(時代)を抱きしめて
コンチェルト
早春①
東京平和学院大学、キリスト教リコウ派系の私立大学、首都圏6大学に名を連ねる文武両道の名門大学である。
首都圏に12の学部と6つのキャンパスがあり本キャンパスである神奈川キャンパスは経済学群の学生と1回生の生徒が履修する教養学部が開設されている。
東急・東横線の東白楽駅からすぐに正門があり、過ぎて六角形の建物を左に見ながら進むと10階建てのビルが正面にあり右側に学生会館と学部事務局がある3階建ての建物がある。
六角形の外観の礼拝堂(神奈川キャンパス・チャプレン)を重々しい木製のドアを押し開けると300人が座れる礼拝室右側に小会議室がある。
青年牧師が礼拝室の十字架に手を合わせて心の中で祈っている。
「今日5人の若者と逢います、彼らの人生にあなたが寄り添ってくださいますように。」
15分ぐらい祈って。会議室に戻っていくと婦人部の川辺さんが聖書と讃美歌の本やお茶とお菓子を準備してくださっていた。
「川辺さんありがとうございます。」と声をかける。川辺さんがニコリとしながら一礼して帰っていった。
青年牧師が奥の椅子に座ったころ、2人の青年が入ってきた。
立ち上がり握手をしながら青年が「川名です。」
すぐ側の青年と握手をする。「田中です。」
さーどうぞ、お菓子とお茶があります。と言いながら座ることを促す。
それから間もなく3人の青年が会議室に入ってきた。
3人と握手する。
5人の青年たちが揃ってあいさつと自己紹介などで青年たちと青年牧師との交話会が始まった。
聖書を読み一通り話しの区切りがつき、青年牧師が「何か質問がありますか」と言う。
美菜が「神様のみ心はどうすれば知ることができますか?」
「それはとても良い質問ですね、他の皆さんはどうですか?」
拓哉が「聖書を良く読み祈ることです」
雅也「神は自分自身のもう1つの存在です。影です」
「利幸さんはどうですか?」
「あえて否定もしないし存在を確認するものでもなく自分という存在を通して絶えず発見し続けるものではないでしょうか?」
「私も牧師になってまだ5年、洗礼を受けて15年です。まだ確かな答えが出ません。
皆さんがこの学舎から出て行く時までにそれぞれが答えを与えられることを祈っています。今日はここまでにしておきましょうか。また来週お待ちしています。」
青年たちがチャプレンを出て行く。
拓哉が「これからカラオケに行くか?」
他の4人が頷く。
東白楽の駅近くのカラオケ屋で3時間楽しんだ5人が駅に向かって行く。
拓哉が「山手町のBJ(ブラックジャック)に飲みに行くけどお前らどうする?」
利幸と美菜が頷いた。
駅で2人は菊名方面の階段を昇っていった。
3人がホームに着くと同時に電車がすべり込んできた。
石川町駅からタクシーで山手町のBJに着く。
木製のドアを引くと、ギラリと鋭い眼光がこちらを見る。
「拓哉来たか?としも一緒か」
3人がカウンターに座ると同時に、ビールとハイボールとウーロン茶がスーと出される。
太郎が利幸に「明日理子と逢うんだってなあ、あいつはお嬢様だからほどほどにつきあっておけ」
利幸は眉間にしわを寄せ右手を上げるしぐさをする。
拓哉とおやじさんが話し込んでいる。
何時の間にか時間が経っていく。
太郎と美菜の間で会話が弾んでいるのを見ながら、としは強い風で鳴るもがり笛を聞きながらグラスを傾けている。
利幸は2杯目のビールを飲みつまみのおからとひじきを食べる。
おやじさんがレコードを替えると、レフタアローンが流れ出した。
利幸の目は美菜をどことなく見つめて思いの中に居た。
美菜と拓哉とおやじさんは楽しく時間を進めていた。
利幸がおやじさんにつぶやくように言う。
「なぜ外科医を辞めたのですか?」
おやじさんは遠くを見ながらつぶやくように言う。
「家族の幸せに気づいてしまったんだろうなぁ」
遠くで船の汽笛が聞こえる。
まだ肌寒い春の始まり。
(今作は前作、せつなくての10年前の大学生時代が舞台です。)