トシの読書日記

読書備忘録

本はほんとに素晴らしい!

2009-04-03 11:27:47 | あ行の作家
岡崎武志「読書の腕前」読了


先日のブックマーク名古屋の「一箱古本市」で岡崎さんに会い、ちょっと興味がわいたので買ってみました。この方は、古本に関する本が4冊ほど出てるんですが、まずは「本を読む」ことをどんなふうに考えているのか知りたくて、この本を選んでみました。

まぁすごいです。本に対する愛情があふれんばかりに満ち満ちた本です。やっぱり本好きはおんなじなんだなぁとしみじみ思いました。

ブックオフ攻略法とか、本編より解説をメインにした本の選び方とか、教科書に載っている小説は伊達じゃないとか、目からウロコの内容が盛りだくさんです。


岡崎さんの「読書の水準器」は庄野潤三なんだそうです。岡崎さんは16歳で父親を亡くし、そのとき読んだ「夕べの雲」という小説を読んで泣いたそうです。その箇所を引用します。


大浦が薬缶に水を入れた。二人が飲むだけだから、少しでいい。薬缶の中を大浦は覗いた。
「このくらいでいいか」
「うん。そのくらいでいいよ」
 次にガスの上にかける。大浦が火をつけた。いきなり、ぼん、という音がする。ガス・ライターの先をいい加減に持って行くと、その間にガスがたまってこんな音がする。
 二人は薬缶を見つめていた。
「英語の諺に」
 と大浦がいった。
「こういうのがある。ア・ウオッチド・ポット・ネバー・ボイルズ。見ている鍋の湯は沸かない、というんだ」
「なに?ウオッチノ・ポッチ?」
「そうじゃない、ア・ウオッチド・ポッチ。いや、違った。お前が変なこというから、こっちまでこんぐらがった」
 安雄が笑い出した。
「つまり、こんな風にもう沸くか、もう沸くかと思って、見ていると、お湯は決して沸かないものだ。そのように、まだかまだかと待っている人に取っては、時間が長く感じられる、ということで、焦っては駄目、気を長く持て、という意味にもなる」
「じゃ、ぼくたちも見ないようにしよう。向こうで弁当、食べてることにしよう」
「そうするか」
二人が机へ戻って、自分の弁当の前に坐ったかと思うと、薬缶が鳴り出した。
「本当だ」
と安雄はいった。


主人と子供にお昼の弁当を作って 奥さんが髪をセットするため、出かける。その父と子のお昼のシーンです。なんてことない場面なんですが、岡崎さんがそこで涙をぽろぽろこぼしたという訳は、僕もわかります。このなんでもない、淡々としたシーンにじんわりくるんですねぇ。

庄野潤三の「夕べの雲」、捜して読んでみます。また、岡崎さんのほかの本も読んでみたいです。

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