中島義道「哲学の教科書」読了
久しぶりに中島義道を引っぱり出して読んでみました。本書は講談社学術文庫より平成13年に発刊されたものです。何かの雑誌に書いた寄せ集めではなく、書き下ろしのようです。
今まで中島の著作を多数読んできましたが、全ては本書に要約されるように思いました。これは名著です。
哲学の最大のテーマ「自分がいつかは死ぬ。これは何を意味するのか」を中心に据え、何が哲学でないか、なぜ哲学書は難しいのか、はたまた哲学は何の役に立つのか、等々中島義道のかなりバイアスのかかった見地から次々と論理を繰り広げていきます。
特に自分が関心を持つのは「時間」という問題です。その中の「過去」というものに興味を惹かれます。過去はもう文字通り過ぎ去ってしまっているものなのに、我々は過去を想起することができます。何故か。これは不思議です。人間の体は脳も含めてすべて物質でできているのに、何故過去の出来事を思い起こすことができるのか。そのメカニズムとは何か。これは哲学というより科学、生理学の分野なのかも知れません。
解説の加藤尚武氏、これもまたいいですね。解説というのは、いかに著書をほめそやすかというものが多い中、決して媚びることなく解説の中で中島氏に反論を試みているところがいい。
著者は哲学は何の役にもたたないと言います。しかし、
<哲学は「死」を宇宙論的な背景において見つめることによって、この小さな地球上のそのまた小さな人間社会のみみっちい価値観の外に出る道を教えてくれます。そして、それは同時に本当の意味で私が自由になる道であり、不思議なことに自分自身に還る道なのです。>
と言います。なかなか含蓄のある言葉だと思います。仕事に明け暮れる毎日、ともすれば目の前のことに心が奪われがちなんですが、自分を自由な心に導くための努力を惜しまないようにと肝に銘じた次第です。
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