トシの読書日記

読書備忘録

所詮俗物

2015-09-15 17:10:32 | か行の作家
車谷長吉「阿呆者」読了



2009年に新書館(初めて聞きました)から発刊されたものです。平成17~20年くらいの間に様々な文芸誌、雑誌に掲載されたものをまとめたエッセイ集です。今年5月、69才で亡くなった本作家の弔意を表す意味で、書棚にずっと前からあったものを手に取ったのでした。


車谷長吉の作品は、今まで10冊くらいは読んでいるんですが、小説がほとんどで、これだけの量(単行本で221項)のエッセイを読むのは初めてでした。


いろいろな雑誌に載ったものの寄せ集めなので、同じ話が何度も出てくるのには少々うんざりしますが、本書を読んでまず思ったのは、車谷もやはり人間であると。これは以前読んだ「世界一周恐怖航海記」のときも同じことを思いました。


自分は世捨て人だとか、作家は常に死を意識していなければならない。とかいろいろ言うてますが、車谷も所詮は俗物だということです。

死者に鞭打つようなことは言いたくないのですが、読めば読むほどその思いが強くなってしまうのをとどめることができません。


しかし、そこで「それが何か?」的な開き直りの姿勢も見られることにかえってほっとしたりします。こんな人が「赤目四十八滝心中未遂」なんて傑作を書くんですからわからないもんです。


車谷は、高橋順子という詩人と48才のとき、結婚(相手は49才)したんですが、本書の後半はその奥さんの話ばかりで、これもやっぱり人間なんだなという感じで、ほほえましくすらありました。



食事中に誤嚥による窒息のため死去とのこと、ご冥福をお祈りします。