FPと文学・エッセイ 〜是れ日々なり〜

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ブリューゲルと暗い絵の中の野間宏 

2009-11-19 02:02:18 | 文学・絵画・芸術
『死の勝利』(ブリューゲル)

11月15日の日経新聞「美の美」欄、見開き2ページに「野間宏とブリューゲル」という記事が載っています。

ブリューゲルはともかく、野間宏の名を、どれだけの人が知っているでしょう。小説を志している(志していた)人にとっては、必読の作家だと思います。埴谷雄高、武田泰淳、などと同世代の戦後派作家です。ノーベル賞作家の大江健三郎や三島由紀夫より少し前の世代です。代表作『青年の環』(全5巻)でアジア・アフリカのノーベル賞と言われるロータス賞を受賞しています。

野間宏は、私が最も大きな影響を受けた作家です。それまで、ドストエフスキー、サルトルといった翻訳もの中心に読んでいた頃、サルトルの全体小説を引き継ぎ、その小説方法を乗り越えて完成したと言われる『青年の環』を読んで、非常に影響を受けたのです。野間氏の作品は、それこそ眼で1文字1文字舐めていくように、また舌の上で言葉のひとつひとつを転がしていくように読んでいきました。

冒頭の、ブリューゲルを題材とした『暗い絵』という作品も衝撃的でした。それまで日本の小説では太宰治とか芥川龍之介といった、近代文学の小説家くらいしか読んでいなかった私は、その文体に眼がくらんでしまいました。こんな文章があるのか、と・・・。

「草もなく木もなく実りもなく吹きすさぶ雪風が荒涼として吹き過ぎる。はるか高い丘の辺りは雲にかくれた黒い日に焦げ、暗く輝く地平線をつけた大地のところどころに黒い漏斗型の穴がぽつりぽつりと開いている。・・・・」(『暗い絵』)

こうした文章がずっと続いていきます。すごい、すごい文章だな、と思いながら、何度も読み返したものです。ここに描写されたブリューゲルの絵を見てみようと、書店で画集を見たりしました。あとで分かったことですが、『暗い絵』に描かれた絵そのものはなく、ブリューゲルのいくつかの代表作を連ねたイメージを元に小説は書かれたようです(日経新聞にはそれらの絵が大きくカラーで載っています)。

西洋小説に対して、日本の小説は比べ物にならない――。と思っていた私は、まったく発想を変えられました。その代表的な作品が、『青年の環』です。なにしろ、400字詰め原稿用紙8,000枚分ということですから、純文学では、プルーストの『失われた時を求めて』に次ぐ長さです(分厚い単行本5冊分)。

当時学生の身であった私は、この大作をまったく苦もなく読むことが出来ました。というより、毎日毎日、この作品を読むのが楽しみで楽しみで、一気に読んでしまってすぐ終わらせないよう、わざと1日50ページ以上は読まないようにしました。時間はたっぷりあったのに。『青年の環』を読むのが日課となり、至上の歓びの時間となったのです。

今の時代では、重厚長大、複雑輻輳した文章で書かれた小説は読まれなくなったようです。野間氏の作品、特に『青年の環』などは、大きな書店に行っても、棚に並んでいません。これも時代なのでしょうか。なんだか、さびしい思いです。

日経の記事がきっかけで、また、復興ブームが来るといいんですがね。




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1 コメント

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Unknown (野梵)
2012-09-26 20:16:30
安倍晋三の自民党総裁決定でブルーな気分になり
ここに辿りつきました。
暗い絵を見なくてもすむ事を願います。

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