昔、見た聖書のページを話すと、貴方が笑った。
小さな世界に、貴方と二人。
私はまだ幼くて、世界の事象を知らなくて、目の前にいる貴方しか知らなかった。
でも、どうしてだろう。貴方の名前でさえ、輪郭も朧げにしか思い出せないの。
いつだったか、貴方にこんな質問をした。
「ねぇ、どうして、食事の前にお祈りをするの?」
「人間の原罪を贖うために、だよ」
「アダムとイブのお話でしょ?でも、食べることは生きることだから」
動物はお祈りをしないのかしら、と私が呟くと貴方は笑った。
「動物と人間は違うよ」
そう貴方は言ったけれど、でもね、もしかしたら動物だってお祈りしてるかもしれない。
私は今までこの家から外へ出たことがないから、分からないけれど。
未だに、原罪とか贖うって言葉の意味は分からなくても。
あの星に向かって、明日の幸せを祈ってるかもしれないの。
貴方がいないから、もう確かめようもないけれど。
貴方のいない、小さな世界に一人。