「私のおじいさんは、戦死しているの。1度、靖国神社に行ってみたい。どこにあるの?」
「近くにあるよ」
「それなら、行ってみたい」
昼休みに靖国神社へ行く。
右翼の街宣車が3台停車していた。
「あの人たちは何なの」由紀は立ちどまる。
迷彩服の若者が日の丸の鉢巻きをしている。
「戦前の亡霊のようなもの」と徹は皮肉を込める。
「亡霊?」由紀は怪訝な顔をした。
「大きいわね」大きな鳥居(第一鳥居)を見上げる。
ついで、大村益次郎の銅像を見上げる。
「誰なの」
徹は詳しくないので、「明治維新の人だね」と曖昧に答えた。
神門の金の菊の紋を見て「おごそかね」と由紀は目を留めた。
軍服姿の老人たちの姿に由紀が注目した。
「写真で見た。私のおじいさんみたいね」
「あれも、亡霊かもね」と徹は笑う。
紋付の和服姿の高齢の女性も居た。
「人が多いのね」とキョロキョロする。
右手方向の能楽堂に興味を示した。
拝殿で由紀は手を合わせた。
それから朱印所でお守りを買う。
徹には無縁のものだ。
神池庭園へ行く。
「この雰囲気、いいわね」由紀は笑顔を見せる。
帰り道は南門を出て靖国通りを九段下へ向かう。
「明日、ドライブで熱海に行くの」と由紀が言う。
徹には関係ないことだと思っていた。
「徹さんは、車持っているの」
「持っていない」
「そうなの。私は姉の車に時々乗っている。明日誰とドライブ行くと思う?」由紀がニヤリとした。
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