366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

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ボタン

2012年11月22日 | 366日ショートショート

11月22日『ボタンの日』



自作予定のPC電源を80plusスタンダードにするかブロンズにするか悩みながら町を歩いていると、
『ボタンを押して、世界を救おう!』
こんな看板が目に入った。なんの露店だコレ。
パイプ椅子に座った、クールビズ姿の中年男が、扇子でパタパタあおいでいる。長机の上には小型の金属ケース。ケースの上には大きな赤いボタンがひとつ。
「なんの露店だコレ、なんて疑り深いなぁ。書いてあるとおりですよ。このボタンで世界を救うんです。あなたが」
ボクが?世界を?そんな夢みたいな話ってあるか?
「夢みたいじゃないですよ。そう思うのはあなたが今まで何かを変えようなんてしてこなかったからです。変わんなくちゃ、今」
ボクが何かを変える?
「そう、地域社会を、日本を、そして世界を。あなたの手でよりよく変えるんです」
そんなことできるのか?このボクに。
「できますとも。政治とか社会問題とか見て見ぬふりをして生きてきたあなたが一歩踏み出すチャンスですよ、これは」
扇ぐ手を止めて、金属ケースをボクの前にスッと押し出した。
「このボタンを押すと、世界のどこかで世界をよりよくする何かが必ず起きるようになっています。さあ、どうぞ」
大きな赤いボタンをじっと見つめた。
世界のどこかで、泣いている子どもが笑顔になったり、苦しんでいる老人が安らかになったりするんならいいじゃないか。ボタンを押すくらい、簡単なことだし。クリックで救える生命がある、みたいな。
ズボンのポケットから手を出した。
待てよ。世界をよりよくするってどんなことをするつもりなんだろう?
もし、悪いことをした人を殺すボタンだったら?死刑執行室の電気椅子のスイッチにつながっていたら?
もし、無線爆撃機につながっていて、テロリストが潜む村に爆弾を投下するボタンだったら?
いやもし、一国を滅ぼす核弾道ミサイルの発射スイッチだったら?
いいことずくめのボタンならわざわざ街頭で押させようなんてしないんじゃないか?
男が肩をすくめた。
「ためらってますねぇ。ボタンを押すだけですよ。どこで何が起きるかなんて確認のしようもない。責任を感じることもないし、手を血に染めることもない」
ほら、やっぱり。そんな危険なボタン、押せるものか。
「押せるものか?あんたみたいなのばっかりだから世界はいくらたってもよくならないんだ。わかったふうな口ばっかり、ボタンひとつ押せない」
だんだん腹が立ってきた。そうとも。ボクはこれまでもボタンを押さなかったし、これからも押すもんか。それがボクの生き方だ。お気の毒さま。
「開き直ったねぇ、あなた。あなたみたいな無関心な人間こそ、悪なんですよ。よりよい世界に必要じゃないのはあなただ。ハイ、さよなら」
男はボクを見つめ、赤いボタンをグッと押し込んだ。
何が起こる?
ボクの喉がゴクリと鳴った。 


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