最終回

2012年11月25日 | ショートショート



秘密の地下作戦室。ビリヤード台の周囲に、黒ずくめのマフィアの大物たちが集まる。
「おい、聞こうじゃないか。秘密プランとやらを」
ベビーフェイスの赤毛の巨漢がニヤリと笑い、台の下に仕込まれたスイッチを押す。壁が反転して巨大モニタが出現した。
「諸君、では説明しよう。今回、われわれが狙う獲物はコレだ」
キューを指示棒代わりに画面を指し示す。モニタに現れたのは・・・
「サ、サザエさんじゃないか」
丸い顔、ダンゴ鼻、チョコロール3個載せた奇抜なヘアスタイル。間違いない。サザエさんだ。
名だたるボスたちが度肝を抜かれてどよめく様子を、赤毛は満足げにながめた。
「そう。あの、サザエさんだ。あの番組を終了させるのが今回の作戦だ」
マフィアたちが口々に反論した。
「いくらなんでもそいつは無理だ。サザエさんといやあ昭和44年から続く国民的人気アニメだ。抗議が殺到するぜ」
「たとえテレビ局や制作会社を爆破しても、一年も経たないうちに復活するだろうよ。終わらせる方法なんてあるものか」
赤毛の男がニヤリと笑った。
「サザエさんを汚して、見たくないと思わせたら?」
サザエさんを汚すだって?そんなこと・・・
「できるもんか!サザエとマスオ、ドロドロの離婚劇?カツオやワカメが非行?波平と舟が要介護?そんなこと不可能だ!アニメだからな!」
「見たまえ、諸君!」
赤毛の男がキューでモニタを叩くと、夥しい数の巨大タンクを映し出された。
「このタンクには魚介類に蓄積する新開発の薬剤が入っている。魚には無害だが、薬剤入りの魚を人間が口にすると脳味噌がスポンジになってしまうのだ!」
「狂牛病みたいに?」
「そのとおり。やがて世界中の人々にとって魚は恐怖の対象となる。魚たちの名前を口走ることすら忌み嫌われるようにな!サザエもカツオもイクラもアナゴも!」
高らかに笑う赤毛の男をマフィアたちは呆然と見つめ続けた。
マフィアたちは思った。
・・・この男、狂ってる。以前にも金塊貯蔵庫を放射能汚染しちまうなんて計画を立てたっけ。それにしてもなぜサザエさんをそこまで憎む?
赤毛の男は思った。
・・・お前たちには理解できまい。愛する者は皆、サザエさんよりも先に逝ってしまった。俺が死んだあともサザエさんが続くのだけは絶対にゆるせない。



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映画『仇討』

2012年11月24日 | 映画の感想


(どうです?このアメリカ版ジャケットの迫力。チビッコならションベンちびりそうな怖さ。
鬼気迫るとはまさにこのジャケット。これだけでも買いでしょう?)

監督: 今井正
製作: 大川博
脚本: 橋本忍
撮影: 中尾駿一郎
美術: 鈴木孝俊
音楽: 黛敏郎
中村錦之助
田村高廣
丹波哲郎
三田佳子
佐々木愛
小沢昭一
進藤英太郎

「切腹」の橋本忍のオリジナル脚本を、「武士道残酷物語」の今井正が監督した時代劇。中村錦之助が悩み、もがき、苦しむ下級武士を熱演。クライマックスに登場するリアルかつ迫力満点の殺陣も見もの。
 江戸時代。脇坂藩の武器倉庫点検で、槍の穂先の曇りを見つけた奥野孫太夫が、手入れ担当の江崎新八を罵倒。口論の末、孫太夫は新八に果たし状を叩きつけるが、逆に新八に斬られてしまう。乱心による私闘として処分された新八は感応寺に預けられるが、兄の仇討ちに乗り込んできた孫太夫の弟・主馬を斬り殺してしまった。脇坂藩は奥野家の仇討ちを認め、奥野家の末弟の辰之助に新八を斬らせることにする。死ぬ覚悟を決めた新八に、光悦は「逃げて人間として生きろ」と言うのだった。

★★★★★
見たくてたまらない映画だったが、国内でDVD化されておらず、海外DVDを米国Amazonで購入した。ちなみに15ドル、送料込みでも20ドル足らず、劇場で映画鑑賞程度の金額で購入可能!で、実際に観終わって、これは買って損なし、大満足の傑作だった。
以前観た『武士道残酷物語』がオムニバス形式の中村錦之助金太郎飴映画、個人を抹殺する理不尽な権力を糾弾する思いはわかるし、斬新な構成だったが詰め込みすぎて今ひとつの印象だった。この映画、監督も同じ今井正なら主演も同じ中村錦之助。多少の不安はあったが、対照的にシンプルかつ重厚な傑作だった。ボクが黒澤明の時代劇映画以外で傑作時代劇だと思うのは、『切腹』1962年(『一命』としてリメイク)、『上意討ち 拝領妻始末』1967年、そしてこの『仇討』1964年だ。監督は違えど、これらすべて脚本は橋本忍!!まったくもってすごい脚本家だ。
こんな傑出した映画がなぜ日本でソフト化されず、衛星放送で細々放送される程度なのか?理由は簡単、『キ○チ○ガ○イ』という言葉が何十回と繰り返されるからだ。ピー音に差し替えたらピーピー鳴りっぱなしになっちゃうくらい。でも、言葉や文化は時代によって移ろうもの、今の基準で不適切として名作自体を陰に追いやるのはあまりにも懐が狭い気がするのはボクだけか?
さてこの映画、クライマックスの仇討の場が竹矢来を組んで準備している場面から始まる。この仇討がおこなわれるまでの些細なことのはじまりからのっぴきならない状況へと至る経緯が回想形式で語られていく。
いやもう発端なんて、奏者番奥野孫太夫(神山繁)が太平の世を嘆いて槍の穂先がくもっているとなじったのを、一本気な性格の江崎新八(中村錦之助)が聞きとがめた程度のこと。どちらかが冷静に退き下がれば即忘れられてしまうような些事である。ところがこのあとは、侍の見栄と上のことなかれ主義による負の連鎖が続いていく。城主やら家老やら皆が皆、我が身を心配するばかり、責任を下へ転嫁していくサマの醜いことといったら。ラストの仇討場面なんてもう公が主催した公開集団リンチ殺人ショーと化している。権力者や家来たちが竹矢来の組みかたやら仇討の作法やらばかりに気を取られ、ことの本質から目を背けようとしているのも無様だが、ショーに集まる民衆もまた醜い。見世物興行よろしく、出店で儲けようとする商売人あり、場所代を取ろうとするチンピラあり、果ては噂に尾鰭をつけて新八を極悪人に仕立てて罵り、礫を放つ。これはつまり従来の『仇討ちもの』へのアンチテーゼ、忠臣蔵をはじめとする美化された仇討ち話を歓迎してきた一般大衆への批判である。そしてこの映画を観る観客にもまた、斬って斬って斬りまくる勧善懲悪チャンバラ映画の不毛を突きつけてくる。
だからこそ、クライマックスの仇討ち場面はスタイリッシュなチャンバラシーンなどではない。兄のように慕う若武者(石立鉄男)に討たれる覚悟を決めていた江崎新八が、卑怯な助太刀つまり形骸化した仇討ちの理不尽に怒りを爆発させ、がむしゃらに人切り包丁を振り回す。その感情の爆発と狂気の迫力といったら!華麗なチャンバラとはまったく無縁の、真剣をムチャクチャに振り回すリアリズム!これぞボクが観たかった時代劇映画だ。本物の日本刀を抜く怖さをリアルに感じる時代劇は、昨今の時代劇、特に『たそがれ清兵衛』に引き継がれていると思う。主馬(丹波哲郎)との闘いのシーン・・・これって『たそがれ清兵衛』の殺陣のクライマックスにオマージュとして使われているんじゃないかな?
最近『十三人の刺客』など、時代劇の名作のリメイクが続いたが、この映画もぜひリメイクしてほしいものだ。
実はボク、子どもの頃から中村錦之助の鬼のような形相が怖すぎで苦手だった。しかし、この映画で初めて中村錦之助の圧倒的な迫力に酔い痴れた。無言で強張らせた表情の演技や淡い瞳の輝き、ちょっと本木雅弘に似ていないか?
そりゃそうと、どうでもいいようなことだけど、寺での最後の夜の風呂のあとシーン、住職役進藤英太郎の後ろ頭に腫れ物ができて痛々しいなあと思ったら次の部屋でのシーンでは時代劇らしからぬ丸い絆創膏が。まあDVDが高画質ってことで(笑)
ああ、新八の兄(田村高廣)の抑制の効いた演技もよかった、許嫁りつ(三田佳子)の楚々とした色気もよかった・・・とにかく時代劇の大傑作。たったの15ドル!←また言ってる。


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不倫発覚、そのとき妻は

2012年11月24日 | ショートショート



いつもは不倫相手を連れて行く鮨屋のカウンター席。無意識に妻の小皿に醤油を注してから、ギクリとした。
バ、バレたか?
ことさらに平静を装って、先ほどまで話していた庭の花壇の話題をつなぐ。
「気温の低い時期に耕しておくのがいいんだ。週末、耕してやる」
「お忙しくないんですの?」
「まあなんとかする。堆肥と一緒に石灰窒素も漉き込んでおこう。冷温と石灰窒素で雑草や虫を駆除してしまうんだ」
「お願いしますわ」
「で、何植えるね?」
花壇を彩る花々を挙げていく妻の顔が輝いている。よかった。バレていない。中トロをつまんで頬張る。
不倫を続けておいて都合がよすぎるが、別れる気などさらさらない。俺は妻を愛している。
俺が転職したときも、酒やギャンブルに溺れたときも、妻は小言ひとつ言わずに支えてくれた。
身内ながらホントにできたヤツだ。まさに観音様である。だが、男は観音様だけじゃ淋しい生きものなのだ。
詮索しないと知りつつも、発覚率の高い携帯には特に気をつかい、履歴はもちろん入力予測からも手がかりを消してきた。
それがこんな単純なミスをおかすとは。いやはや、危ない、危ない。安堵のせいか思わず酒量を過ごしてしまった。
店を出るとき、妻が大将に微笑んだ。
「美味しかったですわ。いつも主人と娘が御馳走になって」
大将が一瞬息を飲んでから破顔した。
「お嬢様でしたか。お綺麗な方で」
うちに娘などいない。血の気が引いていくのを感じた。妻のほうが一枚も二枚も上手だったのだ。
帰りのタクシー内。息苦しいまでの沈黙。
家に帰るなり、俺は土下座した。
「すまない。俺が本当に愛しているのは君だけだ。相手とは必ず別れる。ゆるしてくれ」
下手な悪あがきなど無意味だ。所詮、お釈迦様の掌の上の孫悟空みたいなもの。誠心誠意、あやまるしかない。
「ぶってくれ。それで気がすむなら、いくらでもぶってくれ」
雨降って地固まる。石灰窒素が毒素によって土を浄化し、やがて滋養豊かな土壌を作りあげるように。今は厳しく俺を咎めてくれ。
パン!
一瞬火花が散るほどの平手打ちを食らった。頬がジンジンする。痛くて当然だ。これでゆるしてもらえるなら・・・
パン!
痛~っ、エ~二発も?手のほうだって痛いだろ!
パン!
何発たたくつもりだよ、もう!
見上げたそこに立っていたのは千手観音。



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勤労感謝状

2012年11月23日 | ショートショート



今日は勤労感謝の日。遊園地は家族連れで溢れている。
そんな中に、場違いなグラサンの不審な男の姿。
俺たちが追っている容疑者だ。
「先輩、薄皮白あんぱん、も一個食っていいっすか?」
新人の早見がパンをつまんだ。
「食ってもかまわんが、牛乳ビン片手にパンを頬張るのはやめろ。張り込みがバレバレだ」
「すんません」
早見が容疑者に背中を向けた直後、犯人がベンチに腰掛けた俺たちをチラリ。危ない、危ない。
今、刑事だと知れたら、これまでの地道な捜査が水の泡だ。
「振り向くんじゃないぞ。こっちを見てる」
「ンゴンガ」
早見がパンを喉に詰まらせてサザエさんみたいな声をあげる。そして牛乳をゴクリ。
その一部始終を容疑者が訝しげに見ている!
こんな時こそ、一般客っぽく楽しげな風を!
「早見くん、実は今朝、娘からプレゼント渡されちゃってね」
「娘さんって確か中2っすよね。あ、マフラーじゃ~ん」
お、早見、いいぞ。すっかりノッてきてる。
「ファンシーなお手紙つき~!読んでいっすか?」
早見が便箋を開いた。

『お父さんへ
こないだはゴメンナサイ。お父さんの仕事のことも考えずにヒドイこと言っちゃって。
お休みの日に父さんがいる友だちがうらやましくって、つい。
ずっと謝りたかったけど、言い出せなくって。ホントにゴメンナサイ。
お仕事をがんばっているお父さんがわたしの誇りです。お父さん、いつもありがとう。
心をこめてマフラーを編みました。気に入ってもらえたらウレシイです』

「ク~!先輩がうらやましいっす。してみてくださいよ、マフラー」
「ハハハ、中2だからなあ、派手すぎやしないかな」
マフラーを首に巻くと思わず立ち上がって、早見に見せてやった。
「なかなか似合いますよ~」
「お、そうかね?」
「白と黒のツートンカラー、やまぶき色の旭日章がワンポイント。センスいいなあ!」
「ハハハ、パトカーみたい・・・」
「アレ!?容疑者が逃げていく!待て~!」



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ニューハーフ

2012年11月22日 | ショートショート



「ア、気がついたぞ!」
「大丈夫?タカシ君!」
目を開けると、大勢が心配そうに顔をのぞきこんでいた。
上体を起こそうとすると、医者らしき男が制する。
「急に起きちゃいかん。あれだけの事故に遭って大手術を終えたあとなんだから」
事故?大手術?いったいボクの身に何が起きたんだ?
あれ?・・・さっぱり思い出せない。第一、自分が誰なのかさえ記憶がない。
「どうしたんだよ、タカシ」
そう話しかけた若者は友だちなのか?
「タカシ君!憶えてる?あたしのこと」
この娘はガールフレンド?それとも恋人?
とにかく大手術の末一命はとりとめたものの、記憶喪失になっちまったらしい。
正直に言っといたほうがいいよな。
「ゴメン、みんな。事故のことも君たちのことも思い出せないんだ」
一同に失望の色が浮かぶ。だって仕方ないじゃないか。事実なんだから。
「先生、こいつホントにタカシなの?」
「あたしのことさえ忘れちゃうなんて、タカシ君じゃない!」
え?何を今さら。
ひとこと言ってやろうと上半身を起こすと身体の中からモーター音がした。
両腕をかざすとまたモーター音。その腕はまるで甲冑のソレような金属製。身体に触れると金属音がした。
ボクのボディもまた金属製・・・つまりボクはロボット?驚いているボクに医者が説明した。
「大変な事故でね。君の体で残ったのは脳だけなんだ」
「なんだって?今のボクは脳以外全部機械ってこと?」
医者がさらに顔色を曇らせた。
「だといいんだが、脳も半分は救えなかった。脳機能の半分は自律思考型の人工知能なんだよ」
脳も半分はロボット・・・。
「つまりボクは全身がほぼ機械になってしまった人間なんですね?」
医者が困り果てた。
「人間かなあ。ロボットかなあ。君に事故前の記憶があればタカシ本人であり人間だと言えるんだが・・・憶えていないとすると、もはやロボット・・・」
「記憶はあとで戻るかもしれない。人間だ。人間だってことにしてください!」
医者が肩をすくめた。
「ロボットとか人間とかこだわってないで、そこんとこ突き抜けちゃおうよ。新しい存在ってことで・・・ニューハーフってのはどう?」
イヤ~ン、やだソレ~!



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ゴルフバッグ

2012年11月21日 | ショートショート



死体を発見してしまった。
月曜日の朝の出勤中。川沿いの市道を運転していたら、河原に倒れている女性を見つけてしまったのだ。
道路脇に車を寄せると、小雨の落ちる車外へと出た。
自分ひとりでは不安なので、行き交う車を呼び止めようとしたが、忙しい時間帯、誰も止まってくれない。
とにかく確かめてみよう。
河原へと下る、草の濡れた小道を恐る恐る降りて行く。
緊張のあまり耳鳴りがする。
わたしと似た背格好の女。露出した腿全体が紫色に変色している。まちがいない。死体だ。
もう!まったく!
そうだ、これは昨日からの続きなんだ。
昨日の朝。いつもの日曜と変わりなく夫はゴルフに出掛けて行った。
会社の接待だの、つきあいのコンペだの、毎週のように出掛けていく。
勝手に目覚ましを鳴らして、自分で身支度をととのえて行き先も告げずに出ていく。
最も身近に存在するのに、最も遠い他人。
いつからこんなになっちゃったんだろう。
夫はいつものように夜遅く帰宅した。
遅い夕食。
オヤ?
夫はいつもよりビールをたくさん飲み、饒舌に今日の惨敗ぶりを語った。
こんな夫は久しぶりだ。
休みの日のコンペは少し控えよう。ゴルフを練習してみたら?なんてわたしを誘う。
そういえば、若いころ、夫はわたしにゴルフの手ほどきをしてくれた。
グリップはこう、フォームはこう。
結局ものにならず、数回の打ちっぱなしで夫は匙を投げたっけ。コースにも一度も出ないまま。
その晩、夫は私を抱いた。
まとわりつくような違和感に苛まれて目を覚ました。
そっとベッドを抜け出し、ガレージに降りる。
夫自慢のゴルフバッグが奥に立てかけてある。数セットを納められるタイプの大きなバッグだ。
バッグのジッパーをそっと開く。指先が震え、耳鳴りがした。
バッグには、夫の死体が入っていた。
じゃあ、帰ってきたのは誰?
死体の夫が本物だとしたら、バッグを抱えて戻った夫は一体・・・?
わたしはわたしを呪った。
ゴルフだって、夫だって、わたしは何も理解しようとしていなかった。わたし自身でさえ。
河原に横たわる死体の裏返し、表を向ける。
やっぱり。
砂に汚れた死に顔は、紛うことなくわたしの顔だった。
死体を元に戻すと、わたしは車に戻ってそのまま職場に向かう。
バックミラーに映るわたしの顔が微笑む。
今度こそ、ちゃんとゴルフを覚えよう。
今度こそ、わたしが本当になりたかったはずのわたしになろう。

 

 
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LOVE将棋

2012年11月20日 | ショートショート



「あの・・・ボク、好きな人がいるんです。職場で知り合ったいっコ先輩の女性。
なんかもう彼女しかいないって熱をあげてコクったら、あっけなくOK。
で、つきあいはじめたんだけど・・・
気のせいかもしれないけど、なんか別の男がいるみたいな気がするんです。
問いただしてフラれるのもコワイし、気にはなるし。
彼女から愛されるようになるにはどうすればいいんですか?」
「ウフフ。女性の攻略法はね、将棋みたいなものなの。将棋、知ってる?」
「あハイ、なんとなく」
「歩兵のように一歩一歩堅実に前進するのも手よ。でもその他大勢とみなされる傾向はあるわね。
香車みたいに出たとこ勝負一本槍も、男らしい反面、空気が読めない感があるし。
桂馬みたいなピョンピョ~ンの変速攻撃も時には吉。でも軽めのワンパターンじゃ嫌われるし。
銀将っぽく前に前にジワジワ攻めるのもいいけど、意外とワキが甘かったり。
金将っぽく守備固めが得意なタイプは相手の懐に入ってからの成長がないの。
角行みたいに意表を突いて駆け回るのもアピール度大だけど孤立しやすいし。
飛車みたいに縦横無尽に積極的なのも頼もしいけど、大切にし過ぎると命とりだわ。
王将みたいに全方位に堅実なのが王道だけど、詰められたら一巻の終わり」
「な、何が言いたいのか、さっぱり・・・」
「わからないかしら?つまり、将棋の駒にひとつひとつメリット・デメリットがあるように、恋愛の攻略法もひとつじゃないわ。手練手管を駆使して彼女の心に攻め込むの。いったん心に食い込んだら成り駒よ!」
う~ん、わかったような、わからないような。
とにかく、恋愛カウンセラーの言うとおり、実行してみました。
で、その結果・・・
「どう?うまくいった?」
「う~ん、どうなんだろう。いいところまで行ったんだけど、どうやら彼女に将棋戦法を使っているのがバレちゃったみたいで」
「バレた?もう!詰めが甘いわねぇ」
「そしたら彼女、『あたし、本将棋よりも挾み将棋が好きなの』っつうんですよ。これっていったいどういう意味なんでしょう?」
「いんじゃないの?彼氏と挟んであげれば」



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水槽の脳

2012年11月19日 | ショートショート



鍵をかけ忘れたドアを押すと、軋んだ音を立てて開いた。
暗い室内には化学薬品のすえたにおいが充満していて、思わず顔をしかめた。
恐る恐る研究室の中へ一歩、二歩。
博士は・・・博士はいったいここで何を研究しているんだろう?
そのとき、突然室内に照明が灯され目が眩んだ。
「ここで何をしている?」
背後から怒気を帯びた博士の声。
「この実験室には入らぬようにと、あれほど言ったのに」
次第になれてきたボクの目に映った室内の光景は異様そのものだった。
数台のコンピュータに囲まれた中央には解剖台。台には四角いトレイが置かれていた。
トレイの褐色の液体に浸されたそれは・・・サルの生首!その頭部には無数のコードがつながっている。
と、サルがボクに視線を合わせ目をパチクリした。
「い、生きてるんですか?頭だけで」
博士がため息をついた。
「ああ、生きている。培養液に浸しているからな」
ボクが説明を求めると、博士が応じた。
「君は、水槽の脳を知っているかね?人体から脳を取り出して、培養液に浸して生き続けられるようにする。その脳とコンピュータをつなぎ、あらゆる感覚を送ることができたとする。はたして脳は、現実世界で起きている出来事とコンピュータから送られてきた信号を区別できるだろうか?つまり、われわれが現実だと思っていることはすべて水槽の脳の幻覚かもしれないのだよ」
「映画のマトリックスですね」
「そうそう、あれだ。哲学分野の思考実験だが、考える主体がいくら考えても解決できない。例えば、君自身だって、本当は水槽の中の脳の幻覚かもしれんのだよ」
思わず笑ってしまった。
「アハハハ、それは100%ありえません。そんなの簡単じゃないですか。ボクのポンコツの脳みそなんてわざわざ培養したりコンピュータにつないだりするだけの値打ち、ないですもん」
それを聞いた博士が今度は笑った。
「そうとも言えるな。だが、そうとも限らん」
プス!
太股がチクリとして、見下ろすと小型注射器みたいなのが刺さってる。博士の手には麻酔銃が。
「君が人体実験第1号だ。おめでとう」
ボクの意識はたちまち薄れ・・・

別の階層。ひとりの研究者が水槽の中の脳とコンピュータのモニタを残念そうに見くらべている。
「あっちゃー、脳みそ取り出して、水槽の中に入れちまったぞ。そんな~、水槽の脳に水槽の脳の幻覚を見せてどうすんだよ~!」



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ショートショート

2012年11月18日 | ショートショート



広大な宇宙を航行することウン十年、未知の『星』に着陸した。
ロケットから降り立って、その極めてシンプルな景観を見渡す。
地平線とクレーターがペンで描かれているだけの単純化された白黒の景色。
まるで真鍋博か和田誠の挿絵みたいだ。
すると、目の前にいきなり宇宙人が現れた。宇宙人も単純化されていて全然怖くない。
「ようこそいらっしゃいました、エヌ氏!」
エヌ氏~?なんだそりゃ。
「確かに頭文字はNだが、俺にはちゃんと韮山葱太郎という名前があるんだ。四十三歳、三重県度会郡出身。血液型はO。好きなAKBは篠田麻里子お姉さまだ!」
宇宙人が明らかに不機嫌な顔になった。
「あのね、この『星』ではそういうディテールは排除してもらえませんか。この『星』はできるかぎり普遍的な要素で構成されているのです」
普遍的要素~?なんだそりゃ。
「野田首相、衆院解散&総選挙なんて話題は?」
「もってのほかです」
「おいおい、お話ってのは人間を描いてなんぼなんだよっ。時代や民族文化、風俗や世相抜きには語れないんだよっ」
宇宙人が不敵に笑った。
「それらを排除して浮かび上がる、根源的な人間性を扱うとしても?それを露わにする触媒として、宇宙人やロボット、悪魔などを登場させたとしても?」
ふと気がつくと、宇宙人の背後から悪魔が現れた。
「おのぞみをかなえてほしかったら、おまえのタマシイを・・・」
「俺は浄土真宗だ!往生しろ!」
悪魔が悲鳴をあげて消えていった。
と、次にロボットが登場、グラマーな女性型ロボットじゃないかあ。
「名前はなんだ?」
「ボッコちゃん」
「ボッコボコにしてやろうか?」
「ボッコボコにしてちょうだい」
「FUCKしようか?」
「FUCKしましょう」
宇宙人が慌ててロボットを消した。
「この『星』では暴力や性描写はタブーです。勘弁してくださいよ」
なんかもう宇宙人、涙目。
「あれはダメこれはダメ、どうすりゃいいんだあ?」
「この『星』で大切なのは終わり方です。気の利いた、意外性のある終わり方」
「アハハハ、それは絶対に無理だな。こんなパロディ、どうやって終わんだ?こっちが聞きたいよ」
と、そのとき突然、空から金ダライが落ちてきて俺の頭にガーン!と直撃。
「それじゃドリフだ!」
続いて、空の上から声が降ってきた。
「お~~い、出て行け~」



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映画『フライペーパー史上最低の銀行強盗』

2012年11月17日 | 映画の感想



監督 ロブ・ミンコフ
脚本 ジョン・ルーカス、スコット・ムーア
パトリック・デンプシー (Tripp Kennedy)
アシュレイ・ジャッド (Kaitlin)
ティム・ブレイク・ネルソン (Billy Ray 'Peanut Butter' McCloud)
プルット・テイラー・ヴィンス (Wyatt 'Jelly' Jenkins)
オクテイヴィア・スペンサー (Madge Wiggins)

慌ただしい閉店間際のとある銀行。窓口係のケイトリンは、大量の小銭を両替しに来た、ハンサムだけどちょっとおかしなトリップという男の応対をしていた。その時、一発の銃声が銀行内に響き渡る。現れたのは、完璧にハイテク武装した三人組の銀行強盗!だけかと思いきや、別方向から現れたのはTシャツ、短パン姿というコンビニ帰りのような出で立ちの銀行強盗コンビ!なんと全く別の二組の銀行強盗が、同時に襲撃してきたのだ!そしてすぐさま銀行のセキュリティシステムが作動し、人質となった職員や数人の客を含め全員が銀行内に閉じ込められてしまう。銀行強盗たちは、トリップの仲裁によってそれぞれ金庫とATMの金を盗み出すことになったが、トラブルの連続で思うように事が進まない。そして戸惑う人質たちの中にも、新たな犯罪者の影が……。互いを怪しみ疑心暗鬼になる中、ついに銃弾の犠牲者が出てしまう。

★★★★☆
同じ銀行、同じ時間に、ド素人みたいなクソ泥棒二人組とプロフェッショナルな強盗集団三人衆が鉢合わせというとんでもなく間抜けな犯罪コメディ映画。両グループは妥協し合って、ATMはクソ泥棒に金庫の中身は強盗集団にとシェアするし、人質をグループ分けするし、という展開だけで前半は楽しませてくれる。まあこんな斬新な設定のコメディなんて後半は面白くないのが常なんだけど、この映画はこのあとさらに仕掛けがあって後半も楽しませてくれる。実はこの設定のすべてがひとりの犯人によって仕組まれていたことが判明するのだ。しかも閉ざされた銀行の数名の中に紛れ込んでいるってんで最後までハラハラドキドキ。
そりゃもうツッコミどころ満載の展開。基本的に強盗犯たちや真犯人が計画どおりに行かなくなっている原因であるアヤツを始末しようとしないのがあまりにも不自然だ。少なくとも頭の足りないヤツをうまく使って殺させるように仕向けるはず・・・。まあ、そういうふうに状況をリアルに考えても仕方がない。基本、コメディなんだもの。
しかし、こんなにキレイに唸らせてくれる展開の犯罪コメディは久しぶり。脚本は、あの爆笑二日酔い映画『ハングオーバー』の連中らしい。さすがノッているなあ。
これは拾い物、面白かった!!
 

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映画『ブレイクアウト』

2012年11月17日 | 映画の感想



監督 ジョエル・シュマッカー
ニコラス・ケイジ (Kyle Miller)
ニコール・キッドマン (Sarah Miller)
ベン・メンデルソン (Elias)
キャム・ギガンデット (Jonah)
リアナ・リベラト (Avery Miller)
ジョルダーナ・スパイロ (Petal)
ダッシュ・ミホク (Ty)
エミリー・ミード (Kendra)
ニコ・トートレッラ (Jake)

ダイヤモンドディーラーのカイルは、郊外に建てた瀟洒な邸宅で、妻のサラ、娘エイヴリーと3人で何不自由ないリッチな生活を送っていた。ある日、カイルは帰宅した後、仕事の準備をしていると、突然覆面武装した4人組が家に押し入ってきた。彼らは「おまえの持っているものをすべていただく」と宣告、ダイヤモンドの入っている金庫を開けるように脅す。しかしカイルには、そのダイヤモンドをどうしても渡せない理由があった…。

★☆☆☆☆
ニコラス・ケイジとニコール・キッドマンを主役に据えてサスペンス映画を作って、こんだけ面白くないって・・・。ニコラス・ケイジはけっこう羽振りのいい父親役で登場、高級な車を颯爽と運転してご帰宅中。終始携帯電話をかけて口八丁のやり手ぶりが伝わってくるけれど、その会話の内容から決して思惑どおりに仕事が言っていないことは早々に説明済みだ。ニコール・キッドマンは奥さん役。遊びたい盛りのティーン娘は言うこと聞かないし、夫は仕事仕事で相手にしてくれないしで、なんか隠しごとありそう。黒い下着で性的な不満を表現していたけど、やっぱりせめて身につけてもらわないとなあ。
とにかくこのへんの人物描写あたりで、そのあと強盗が押し入ってからの展開がだいたい見えてしまう。予知能力がなくてもそのあとの展開が見えてしまう作りがあまりにも安っぽいのだ。犯人から逃げ出そうとする場面が何度もあって新たな展開を期待するたびに裏切られる展開はもどかしいばかり。これぞ退屈B級映画である。ニコラス・ケイジはこういうB級が最近やたら多いような。ニコール・キッドマンもB級路線へと突き進んでいくのだろうか?
美味そうなラーメン屋かな?と、ラーメン屋さんに入ってみて、出てきたラーメンを食ってみたら、ただのインスタントラーメンだったみたいな失望感・・・そういう映画。


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七五三

2012年11月17日 | ショートショート



♪通~りゃんせ、通りゃんせ♪こ~こはど~この細道じゃ♪
おや?
歌声に誘われて玄関ドアを開くと、真っ赤な振袖姿の女の子が立っています。
♪天神さまの細道じゃ♪ちょ~っと通してくだしゃんせ♪
女の子はボクの腕をするりと抜けて家の中へ。
「この子、だれ?」
♪御用のない者、通しゃせぬ♪
妻が玄関をのぞきました。
「何言ってるの、美沙希じゃないの」
♪この子の七つのお祝いに♪御札を納めにまいります♪
え?言われてみればいたような、七つの娘。美沙希は、妻とリビングへ。
♪行きはよいよい、帰りはこわい♪
そうだ。娘は確か七五三の帰りに交通事故で・・・。
♪こわいながらも、♪通~りゃんせ、通りゃんせ~♪
歌い終わると、ソファにちょこんと座りました。
妻が冷蔵庫から千歳飴を出して、美沙希に手渡します。
「冷た~い」
飴を握りしめて、美沙希は大喜び。どこからどう見ても生身の女の子です。
「もう、どこにも行っちゃダメよ。ママ、とっても淋しかったんだから」
なんて言いながら鼻を鳴らします。
そんな様子を見ていたら、ボクまで鼻の奥がツーン。ヤバイ・・・。
幽霊だってなんだってかまわない!また三人一緒に暮らそう。それがどんなに幸せなことか。
ボクも美沙希の隣に寄り添いました。
幼児らしい、汗っぽい髪のにおい。幽霊なんかじゃない。
無心に飴をしゃぶっている美沙希に妻が諭します。
「美沙希ちゃん、先にお着替えしましょう。飴がついたら汚れちゃう」
「やだもん!美沙希、着物がいい!」
急に立ちあがると逃げ出しました。
「あちこち触らないで!ベタベタになっちゃうじゃない!」
妻が追いかけます。ボクも慌てて追いました。
美沙希はキャッキャッと歓声をあげて逃げていきます。そして玄関ドアを開けて外へ。
玄関を出ると、もうそこには影も形もありません。
美沙希・・・美沙希・・・美沙希・・・

「ミサキって、だれ?」
妻の声に目が覚めました。え?夢?
ボクは慌てて今見た夢を話しました。
「もう。うちには子どもはいないじゃないの」
そうです。ボクたち夫婦に子どもはいません。子どもほしさのあまり、こんな夢を見たんでしょうか。
そして翌朝。
ボクが目を覚ましてリビングに行くと、おや?
早起きした妻がドアノブを濡らしたタオルで無心に拭いていました。
妻が洗面所に消えると、ボクもドアノブを触ってみずにはいられませんでした。



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映画『最強のふたり』

2012年11月16日 | 映画の感想



監督 エリック・トレダノ
フランソワ・クリュゼ (Philippe)
オマール・シー (Driss)
アンヌ・ル・ニ (Yvonne)
オドレイ・フルーロ (Magalie)
クロティルド・モレ (Marcelle)
グレゴア・オスターマン (Antoine)

パラグライダーの事故で首から下が麻痺し、車椅子生活を送る大富豪のフィリップ。その介護者募集の面接を受けにやってきたスラム出身の黒人青年ドリスだが働く気はなく、目的は“不採用”の証明書3枚で支給される失業手当。しかし、なぜかドリスは“採用”となり、周囲の反対をよそにフィリップの介護をする事になる。フィリップを障害者扱いせず、お気楽でマイペースなドリスに、次第にフィリップとその周囲の人々も心を開いていく。

★★★★☆
この映画、冒頭からふたりがスピード違反をしたうえ、逮捕しようとした警官たちを身体が不自由なことを使っておちょくって先導させたうえで逃げてしまう。不謹慎というより、これはやりすぎだろう。映画に一気に引き込む快調なすべりだしとはいえ、すっかり引いてしまった・・・
・・・のだけど!この場面、映画の終わり付近でもう一度出てきて、みごとに違った意味合いを帯びて観客を唸らせてくれる。この冒頭シーンが、ふたりにとって再会を喜び合い、既成の枠にこだわらない思いを確認し合う意味があったことや、ドリスにとってはフィリップを他人に託す最後の夜だったことなど・・・そういうところがわかってくると、やたら楽しいシーンこそが心に沁みてくるタイプの映画だ。ボクがこの映画でいいなあって思ったのは、ドリスが踊りまくってみんなが踊り始めるシーン、オペラ会場のシーン、髭を剃るシーン。みんな笑えるところなんだけど、互いをゆるしあい心を裸にしてこそ成り立つ笑いだから。オペラで木の葉をつけた歌手が歌い出したり、髭がどんどん剃られていったりしたときの、「来るぞ、来るぞ、ほら来た~!」という、くすぐりが絶妙。
障がい者を扱った軽口をはじめ、とにかくこの映画の不謹慎な数々のネタや言葉が満載で、きっと不愉快な気分になる人もいるはずだ。フランスという国を考えれば、ナチスネタはやっぱりタブーのはずだし。でも、そこを敢えて描くってところがこの映画のねらいだと思う。なにせこの映画の原題は、『アンタッチャブル』。オブラートに包んで見て見ぬふりをしてきた、触れずにきたことを白日のもとにさらしちゃえって映画なのだ。オペラとかクラシックとか詩とか気取ってないで、退屈だったら退屈って言おうぜ、気を遣っているつもりで距離をとっている硬直した関係なんかやめて、ナマの人間対人間、本音でつきあおうぜ、みたいな。もちろん障がいを抱えた人とのつきあいのテクストとして一般化して、この映画を見るべきではない。障がいのみならず、人種や民族、そういうレッテルなんか剥がした、個人と個人の関係こそが大切なのだ。障がいによる排便や褥瘡などのさまざまな日常生活の辛さを敢えて間接的にしか描かないところにも、かなり意図的な演出だ。観客にかわいそう!と同情を抱かせるような描き方はしたくないという意志を感じる。そういうところも含めて、ボクにとっては、なかなか爽やかな映画だった。
さて、この映画、実話に基づいているらしい。詳しくは知らないが、黒人のドリス役の人物は実はアルジェリア人でもっととんでもないワルだったらしい。
ちなみに、この映画、ハリウッドでリメイクする企画があるらしい。十中八九劣化するであろうというイヤ~な予感。


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映画『テルマエ・ロマエ』

2012年11月16日 | 映画の感想



監督 武内英樹
阿部寛 ルシウス
上戸彩 山越真実
北村一輝 ケイオニウス
竹内力 館野
宍戸開 アントニヌス
勝矢 マルクス
キムラ緑子 山越由美
笹野高史 山越修造
市村正親 ハドリアヌス
外波山文明
飯沼慧
岩手太郎
木下貴夫
神戸浩
内田春菊
松尾諭
森下能幸
蛭子能収

古代ローマの浴場設計技師ルシウスは、ローマ人の風呂好きに疑問を感じていた。絢爛豪華で巨大な浴場は、人で混み合い、のんびりと湯船に浸かる事も出来ない。あまりの騒々しさに湯に潜り、水中で考え事をしようと思ったルシウスは、突然、渦に巻かれ、気が付くと知らない浴場に出てしまった。そこにいたのは、見た事もない「平たい顔」の民族たち。おかしな浴場だったが、よく見るとそこは驚くような知恵と工夫に溢れていた…。

★★★☆☆
TVのバラエティ番組のように見流す映画、漫画読み放題の店で楽しむ漫画みたいな映画・・・そういう映画があってもよいと思う。これはまさにそういう軽~いノリを楽しむ映画。ここは本来、ローマの言葉?日本の言葉?そんなに簡単にローマ語会話ができるのかよ!みたいなことを気にしちゃいけない。ローマの危機を救うというか、歴史を元どおりにする、みたいなストーリーがあるのはあるが、それは映画一本を成立させて最後まで見てもらうためのストリームくらいに割り切ったほうがいい。映画の中にちりばめられたお遊びの数々を楽しんでいけば、それでいいエンタテイメント映画なんだから。
そんなわけでボクが面白かったところをいくつか。まず濃い顔をさんざん見せられたあと、現代日本のお風呂屋にタイムスリップして平たい顔族との遭遇シーン、いきなりのいか八朗ドアップ。いや~インパクトがあるなあ、いか八朗さんって。そういやヒロイン役の上戸綾もよく見ると仏像顔、いや観音顔をしている。敢えて和風に光を当てて撮っているとも見えたが。それから、タイムスリップするとき大渦に吸い込まれていくカットのチープさ。人形を流して撮影なんて。まるでボクの大好きな邦画コメディの一本、『ひみつの花園』じゃん。それから、竹内力。平たい顔族の爺さんたちになんで彼が混じっているのか、なぜ檻に入っているのか、なんで泳いでるのか、説明を欠いたシュールな存在のさせ方が笑えた。日本の風呂を真似たローマの風呂での小ネタの数々っていう笑いどころはもちろん楽しいのだけれど、ボクが吹き出したみたいな、ここもどうよ?みたいな笑いどころがたくさん詰まったギャグ映画なのだ。
こういう役を楽しんで演じている阿部寛っていいよなあ。虫酸の走るナルシスト魔術師役を嬉々として演じていた『SURVIVE STYLE5+』という映画もおススメだ。


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映画『バウンド』

2012年11月16日 | 映画の感想



監督 アンディ・ウォシャウスキー 、ラリー・ウォシャウスキー
ジェニファー・ティリー (Violet)
ジーナ・ガーション (Corky)
ジョー・パントリアーノ (Joe Pantliano)
ジョン・P・ライアン (Mickey Malnato)
クリストファー・メローニ (Johnnie Marzzone)
リチャード・C・サラフィアン (Gino Marzzone)
ピーター・スペロス (Lou)

マフィアの金を奪って逃走せんとする2人の女の姿を描いたクライム・サスペンス。「暗殺者」「アンフォゲタブル」の脚本を手掛けたラリー(65年生まれ)とアンディ(68年生まれ)のウォシャウスキー兄弟が初監督と脚本、製作総指揮を兼ねた第1回作品で、ひねりの効いた脚本とユニークな人物設定、斬新な映像・音響設計など才気あふれるところを見せる。製作はアンドリュー・ラザーとスチュアート・ボロス、撮影は「クルーレス」のビル・ポープ、音楽はドン・デイヴィス、プロダクション・デザインはイヴ・コーリー、美術監督はロバート・ゴールドスタインとアンドレア・ドパソ、編集はザック・スタンバーグ、黒を基調にした衣裳は「プリシラ」のリジー・ガーディナーが担当。主演は「ライアーライアー」のジェニファー・ティリー、「ショーガール」のジーナ・ガーション、「悪魔たち、天使たち」のジョー・パントリアーノ。共演は「ホワイト・サンズ」のジョン・P・ライアン、「12モンキーズ」のクリストファー・メローニ、「クロッシング・ガード」などで俳優としても活躍する映画監督のリチャード・C・サラフィアンほか。97年ポルト国際映画祭グランプリ、主演女優賞(ジェニファー・ティリー)受賞。

★★★☆☆
ウォシャウスキー兄弟が『マトリックス』を作る前に撮ったクライム・サスペンス映画。レズビアンの女泥棒コーキーが服役を終えて、改装修理のしがない仕事をやっているんだが、隣の部屋に暮らす、ヴァイオレットという女性と会ったことから、共謀してマフィアの金200万ドルを盗む計画を立てる、といった話。映画は、コーキーが暴行を受けて縛り上げられた絶体絶命の状況からここまでの顛末を回想する形で語られていく。つまりコーキー目線でことの次第が明らかになっていくわけで、相方のヴァイオレットが果たしてコーキーを本気で愛しているか?コーキーをはめて金をせしめようとしているんではないか?という興味が映画の核になる。さらに、マフィアの凶暴な男ども相手に、丁々発止の裏のかきあいを繰り広げるあたりがスリリング。腕力だけではとても勝ち目のない華奢な女性たちだけに、ハラハラドキドキ度は倍増する。しかし、エンドタイトルが流れ始めると、実はこの映画、コーキーじゃなくてヴァイオレット中心だったということがわかる。向こう気の強いコーキー以上に、か弱いイメージの彼女が窮地に陥った状況に感情移入してしまっていたことに気づくのだ。この目線は、まさにラナ・ウォシャウスキー目線なんじゃないだろうか?兄のラリー・ウォシャウスキーは2008年に性同一障害によりラナ・ウォシャウスキーとなったことを考えると、ヴァイオレットの女性目線はきわめてラナ・ウォシャウスキーに近いんじゃないか?なんて思えてくる。
コミック大好きなウォシャウスキー兄弟(姉弟?)らしく、スタイリッシュな絵づくりやキレのある展開は『マトリックス』を彷彿とさせる。独自の世界観にのめり込んで、スゴイけど退いちゃう曼陀羅図絵みたいなもんになってしまった『マトリックス』の続編よりも、こっちの映画のほうがエッジが効いてて好きだな。


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