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死ぬほど美味い

2010年10月28日 | ショートショート


金曜日が待ち遠しい。
金曜だけ、自転車通勤の帰りにコンビニに寄って、サントリープレミアム350ミリリットル缶を飲んでもいいというきまりを作っている。
一週間お疲れさまと自分をねぎらい、ビールとつまみをコンビニの駐車場で飲み食いする、ささやかな幸せ。
先週、『紀文の明太子マヨネーズinしたらば』105円をつまみに買ってみた。
カニカマの中心に明太子マヨネーズを入れるなんて、なかなかのアイディアじゃないか。にしても、『したらば』って何だ?
空いている車止めブロックに腰掛け早速ビールを流し込む。汗を流して乾ききった体に、ビールがそのまま染み込む。ああ、最高だ。
さあ、つまみの番だ。包装を破いてスティックをのぞかせてガブリ。
え?
なんなんだ、これは。美味い。美味すぎる。
ああ、死ぬほど美味い!
たかが105円のカニカマにこんなに感激するなんて情けない話だが、値段なりから予想した美味さをはるかに超えていたのだ。
その瞬間、僕に記憶がよみがえる。

死ぬほど美味い!
老人は黄ばんだ目で僕を見てニヤリと笑った。そのおぞましさと言ったら。
小学生の頃、僕は両親に連れられて海辺の療養所に行った。そこに先月から祖父が入院していたのだ。
その設備は緩和ケア。末期のがん患者の痛みや苦痛を和らげる施設だ。
両親がドクターと話している間、僕は療養所の外で遊んでおくように言われた。広い丘が広がり、その向こうには海が広がっていた。
こんな辺鄙な場所なのも施設の前身が結核療養所であったためだ。
外に出てすぐ、老人と目が合って僕は思わず「アッ」と声を上げてしまった。
療養所の裏口をでた通路のすぐそばに地下倉庫があって、そこから僕を見上げていたのだ。階下の鉄扉に『危険』と白ペンキで書いてあったから、きっと油庫かなにかだろう。
扉に降りていくコンクリ階段の途中に老人は腰掛けていた。今思えば老人というほど高齢ではなかったかもしれない。染めた髪と伸びた白髪が同じくらいの長さになった頭髪、よれよれのパジャマ、疲れきった表情。それが小学生の僕の目には老人と映った。
止まった手にはタバコの箱とライターが握られていた。相手が子供だとわかるとタバコを口にくわえ火をつけた。
煙を長々と吹き出して僕を見つめてニヤリと笑った。
「ああ、死ぬほど美味い!」
どろんと生気のない目。そしてその目を剥き顔を歪めて、激しく咳き込んだ。内臓でも吐き出すくらいに激しく。
そのあとはわからない。僕は怖くなって建物の中に駆け込んだのだ。
両親に走り寄ると、両親も泣いていたので一緒に泣いた。

ウッ
そのとき、僕は背中を丸めて苦痛に顔を歪めた。したらばとビールと熱い胃液が混じって「不快」が喉をかけのぼってきた。
ふとした拍子に胃液がこみあげて食道を焼く、逆流性食道炎という病気なのだ。胃の入口が開いた状態なので一生治らない。
あの老人とおんなじ。
今度の僕には逃げるところがないだけ。



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今日のクスリ

2010年10月26日 | ショートショート

(2010年9月15日初出)
2010年10月24日「さとる文庫」で朗読していただきました



頭が重い・・・
体がだるい・・・
クスリだ。クスリが効いてないんだ。
こんなじゃ仕事にもならない。

上司に外出を申し出て、行きつけの薬局へ行った。。
「おや、いかがです?昨日のクスリは」
薬局のオヤジが愛想よく尋ねた。
「全然ダメ」
「おかしいなぁ、効くはずなんですがねぇ」
「確かに昨日は効いた気がした。だが今日は全っ然ダメ。別のを頼む」
「わっかりましたあ、じゃ、今日のクスリ、コレ出しときましょう」
俺は昨日とは別のクスリを購入し、その場で飲み干した。
「効くといいですね、今日のクスリ。お大事に」

薬局を出て職場に向かっていると、耳元で声がした。
「おい、俺の番だぞ」
え?思わずふりかえった。が、誰もいない。
「いるわけないじゃん。俺は今日のクスリだよ。カ・ラ・ダの中!さっき飲んだじゃん」
確かに頭の中で声がする。今日のクスリ?
「そうそう。だからぁ、元気な俺が今からお前に取って代わるんだよ。さあ、どいたどいた」
何を言ってる、俺は俺、クスリに乗っ取られてたまるか。
「お前のほうこそ何言ってんだ、お前は昨日のクスリじゃないか。ハイ、交替!」
ドンと押された気がした途端、頭はスッキリ、疲れが吹き飛んだ。
よく効くなぁ、今日のクスリ。


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父さんは僕にすぐ手伝わせようとする

2010年10月25日 | ショートショート

からイヤだ。
車をガレージに入れると、エンジンをかけたまま僕の部屋にやってきた。
「おい、ちょっと手伝ってくれないか?」
何だよ、父さん、いきなり。入るときにはノックくらいしろよ。あわててパソコンの画面を閉じる。
「もう遅いから明日にしてよ」
見上げて僕はギョッとした。髪の毛は額にベッタリ張りついて、服はよれよれ、疲れきった顔だ。
父さんの趣味は週末のハンティング。州はずれのの森林公園まで四駆で出掛けて、鳥だの鹿だの一日中追い回す。
先週も泥だらけの車の洗車を手伝わされた。先々週は血まみれの七面鳥を地下室に運ばされた。
「おい、手伝ってくれよ」
ハンティングなんて残酷なこと、よくできるもんだ。自分が好きでやるんなら自分で最後までやれってんだよ。
「明日じゃなきゃやらない。おやすみ」
父さんはため息をついて肩をすくめると、階下に降りていった。
まったく勝手なんだから。
父さんが母屋を出てガレージに向かう音がした。自分でやるつもりだ。
しめしめ、明日の手伝いはなしだな、僕は安堵してパソコンの画面を開けた。
そしてしばしネットを楽しんだ。
ふとニュース画面に目がとまる。
『州はずれの森林公園内に住む老女と、その幼い孫娘が行方不明。何らかのトラブルに巻き込まれたもよう』
父さんが出掛けた森林公園じゃないか!
あわてて窓からガレージを見下ろす。シャッターから明かりが漏れている。
じっと見ていると、車庫の中から父さんが出てきた
芝生に立って夜風にあたりながら、汗まみれの顔をタオルで拭き始める。
両手は血だらけ。そして右手には血糊のついたナイフが!
森林公園の車道で交通事故、始末に困って死体をトランクへ、そしてその死体をバラバラに・・・
何てことをしたんだよ、父さん!しかもその始末を僕にまで手伝わせようだなんて!
飛ぶように階下におりてガレージに駆け込むと、僕は父さんを睨みつけた。
「父さん!」
父さんはガレージのコンクリの床に膝をついていた。そしてオオカミの裂けたお腹の中に石ころを詰めていた。
その樣子を隅で見守っている、寝巻き姿のおばあさんと赤いフードを被った女の子。
父さんが僕を見上げる。
「おい、すまんが縫い合わせる間、オオカミの腹の皮をひっぱっててくれんか」
もう!まったく、


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川棚温泉異聞

2010年10月24日 | ショートショート

 昭和七年五月、下関の奥座敷川棚温泉に鉄鉢を手にした乞食坊主が現れた。滞在二日にして湯と景観に惚れ込んだ僧は、此の地を終の住処と決めた。
 当時の川棚温泉は、湯治客が宿で自炊、下駄を鳴らして大衆浴場へと通う昔ながらの湯治場であった。しかし大正三年に山陰本線が開通して以来、観光客が湯治客を上回っていく。週末に訪れる観光客は宿泊所に内湯を望んだ。此の為、僧の木下旅館逗留中にも町に響く内湯掘削の騒音に悩まされたそうである。
 僧は、妙青禅寺の寺領地を借入れ庵を結びたいと地元に掛合ったが、交渉は遅々として進まない。地元住民は、素性の知れぬ独身男が居つくことを警戒した。乞食行の浄財で酒を買う生臭坊主を拒絶した。百日の交渉の末、身許保証人を得ることならず、同年八月、僧は追放同然、此の地を去った。
 乞行放浪の自由律俳人、種田山頭火五十一歳の事である。同年十二月、温泉は住民による管理から資本家の手に移り、湯治場から観光温泉への転換を加速していく。川棚に山頭火の庵が結ばれていたとしたら、彼の終焉の地として、聖地として、この鄙びた温泉町はまた違った姿を見せていたであろう。


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Choose me!

2010年10月23日 | ショートショート


「失礼します」
社長室に入ると、社長は窓際に立って都内ビル群を眺めていた。
「ああ、高杉君。急に呼びだてしてすまん。座りたまえ」
革張りの応接チェアに促されて座る。何だろう、急に。
「君はあっちのほうはどうかね?つまり結婚のことだが。いい人はおらんのかね?」
「いやぁ、僕は仕事一筋、そっちのほうは疎くて」
「じゃあ話が早い。君、私の娘をもらってくれんか」
は?
「君は実に優秀な人材だ。ゆくゆくは我が社をまかせたいと思って目をつけていたんだよ。わが小野一族の一員に、私の息子となってほしい」
「社長、そんな唐突な」
「人生、いつチャンスが舞い込むのかわからぬものだよ。要は、君に受け入れる度量があるか否かだ。それでは早速、娘たちを紹介しよう」
「娘・・・たち?」
「ああ、私には三人の娘がおる。娘たちには君のことは話してある。気に入った娘を選びなさい。エントリーナンバー1番、長女金乃、入場!」
社長室奥のドアが開いて、女性が現れた。
金色のドレスに身を包んだ、しなやかな足でモデルウォーク、すごい美女だ。匂い立つばかりの気品が漂っている。
こんなモデル級の美女と結婚できるなんて!しかも会社は僕のものに!
「エントリーナンバー2番、次女銀乃!」
清楚な娘が現れる。どこにでもいそうな感じの可愛い娘だ。金乃さんを紙粘土で作ったみたいな素朴さと言おうか。優しさが滲み出してくる感じ。
「エントリーナンバー3番、三女只乃!」
三女入場。いろんな意味で残念な感じ。銀乃さんを油粘土で作って壁に10回ぶっつけた残念さと言おうか。いろんなものが滲み出てくる感じ。
「さあ、高杉君、この三人の中から君の好みの娘を選びなさい。シンキングタ~イム!」
え?
考えるって?そりゃもう金乃さんでキマリじゃないのか?こんな美女と結婚できるなんて男冥利に尽きるじゃないか。
金乃さんに決定!・・・
いや、でもそれじゃあまりにも簡単すぎる。そんな答えはヒッカケに違いない。ここは銀乃さんを選ぶべきでは。
銀乃さんなら上出来じゃないか。金乃さんじゃ美人過ぎてずっと一緒にいたら肩凝っちゃうかもよ。高望みは禁物。
銀乃さんに決定!・・・
いやいや、なんで只乃さんがいるんだろう。只乃さんの役割とは?
そうか!これは「金の斧・銀の斧」だ!危ない、危ない。社長、わっかりました!金や銀を選んじゃダメなんだ。ただのを選ばなくちゃ!
只乃さんに決定!・・・
・・・してもいいのか?ほんっとにただの只乃さんに?金乃さん銀乃さんをあきらめて?
モデル美女がいいんだろ?自分!正直になれよ。いやぁでも金乃さんみたいな美女、もっと相応しい男がいそうだし。
本当は銀乃さんがいいんじゃないの?いやいや銀乃さんを選んだら、選択が無難すぎる。会社経営は無難なだけではできんぞってんで、不正解なのでは。
やっぱり只乃さんが正解?ほら、シェークスピアのリア王だって末娘がええもんだし。
「高杉君、まだ決められないのかね?意外に優柔不断な男だな」
「社長!決めました!只乃さんでお願いします!」
「よし、只乃をよろしく頼むぞ!只乃、よかったな」
只乃さんが恥ずかしそうに赤どす黒くなった。
ほっとした僕は社長に尋ねた。
「社長、それで正解は?」
社長、金乃さん、銀乃さん、只乃さん、一斉に「え!?」


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【twitterショート140字×5】奇跡の救出劇がここにも!

2010年10月22日 | ショートショート


チリ落盤事故、救出が難航しているニュースを見ていた息子が私にせがむ。「ママ、国際救助隊に電話してよう。サンダーバードのジェットモグラじゃなきゃ助けられないよう」終に真実を話さなくてはならない時が来た。「タカシ、よく聞くのよ。サンダーバードはね、紐のついた人形しか助けられないのよ」



地下避難所に大統領からメッセージが届いた。「33匹のヘビを箱に詰めて地中に埋めておいて、一年後に掘り出してみると、まるまると肥ったヘビが1匹だけ寝そべっているそうです。救出は半年後になるか、一年後になるかさっぱりわかりませんが、皆さん、私の言葉を信じて希望を持ち続けてください」



地下700メートルまでついにトンネルが到達、救出カプセルが届けられた。さあ、誰から地上に戻るか?地下に取り残された33人が相談した結果、くじ引きで選ぶことになった。「あ、俺が一番。それじゃお先に!」全員が却下した。「なぜだ?俺が一番じゃ不服か?」だってお前の名前、カンダタじゃん。



33人全員が救出される映像を世界が見守っていた。その一人に愛人の存在が発覚、それも一人や二人じゃない。ほとんどゴルフの虎森さん状態。助けだされたばかりの亭主、怒り心頭の妻から詰め寄られ、「穴があったら入りたい」と一言。亭主を乗せたカプセルは地下避難所へスルスルと逆戻りしていった。



杜撰な鉱山経営の結果、不幸な事故が再び発生、またしても地下避難所に33人が取り残された。地下に閉じ込められた作業員たちが嘆息したとき、オホホホホホの笑い声。「皆さん、こんなこともあろうかと会社に雇われておりました、プリンセス天功です。全員、鎖を体に巻いて。3、2、1、ドカ~ン!」


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鍋の中

2010年10月21日 | ショートショート

「土曜の晩、私の家で鍋パーティーをしましょう。先生、こう見えて料理、得意なんだから」
森岡先生が産休の間、僕たちの担任をしてくださったリンサイの先生はお別れ式のあとで僕たちに言った。
急な話だったので、先生の家に集まったのはクラスの十人ほどだった。
「たくさん作ったから、しっかり食べてね」
先生がリビングのテーブル中央に大きな土鍋を置いてフタを開けた。ワッと白い湯気が飛び出して、スパイシーな香りが広がった。
「わぁ、美味しそう」
「先生のオリジナル鍋よ。お味噌、コチュジャン、納豆が味のベースになってるの」
先生がみんなに取り分けてくれた。
「いっただきま~す!」
僕たちは一斉に頬張った。美味い!こんな鍋、初めてだ。
「これ、何のお肉?」
「牛肉よ。ホルモンも入ってるわ」
「え~!牛じゃないみたい!」
それからみんなで鍋をつつきながらワイワイおしゃべりした。
リーダー格の女子が先生に謝った。
「先生、ごめんなさい。わたしたち、先生をいっぱい困らせて。先生が若いからってついふざけちゃって。でも悪気はなかったんです。ケンジ君だって」
ケンジは本当に手を焼かせた。わざと先生が困ることばっかりして関心を引こうとしていた。授業中に机の上でストリップしたり、猫を放したり。あんまり騒がしいから教頭先生まで様子を見に来たっけ。
「ありがとう。正直悩んだこともあったけど、今はとっても晴れやかな気分よ」
場がしんみりした時、塾に行ってて遅れた子がやってきた。
「あれ?ケンジ君は?塾に行く途中で会った時、今から先生の家に行くって言っていたのに」
「何時ごろ?」
「えっと四時ごろ」
三時間も前じゃないか。おかしいなぁ。
「あ、髪の毛」
男子のひとりが取り皿から髪の毛一本を摘み上げた。
「ごめんなさい。料理するときに私の髪の毛が入ったのね。そそっかしいなぁ」
慌てて先生が謝っても、みんな髪の毛から目が離せなかった。
この鍋は牛の肉じゃないんじゃないか?
考えられるのはただひとつ。
そう言えば先生、話ばかりして、自分は鍋に手をつけていない。
僕らは真っ青になって顔を見合わせた。
先生が咳払いをしてからみんなに言った。
「実はケンジ君、みんなが来る前に来たの。あんまりお腹が空いたって言うから先に食べてもらったら満腹になるほど食べて。隣の部屋で寝ているのよ」
耳をすますと、確かに隣室からクゥクゥと寝息が聞こえてきた。
なぁんだ、そうだったのか。僕らは胸を撫で下ろした。全員に笑顔が戻る。
僕はふすまをガラガラと開けた。確かに隣の部屋の真ん中で寝ていたが、それはケンジ君じゃなかった。
「先生、ケンジ君じゃない。寝ているの、牛じゃないかぁ」
「あらあら、ケンジ君ったら。食べてすぐ横になるから牛になっちゃった」



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オーシャンブルー

2010年10月20日 | ショートショート


近所のホームセンターで外来アサガオの苗を見つけた。オーシャンブルー?
添えられた写真の、その名に相応しい、紺碧の海のような青が僕を魅了した。ひと株だけ購入し、早速プランタへ。
大切に育てて一週間、大切にしなくてもぐんぐん育つことがわかった。
とにかく成長が早い。毎朝目に見えるほどの伸びに驚かされた。さらにランナーと呼ばれる地を這う茎まで伸ばして広がりはじめた。
二ヶ月で花のつぼみが膨らんだ。こうもり傘のように巻いたつぼみがほぐれて、翌朝開花した。写真どおりの清冽な青が僕の心を満たした。
真っ青な花は紫になり、夕方にはピンクへと変色し、日が暮れると萎んでスポイトのような形でポロリと地面に落ちた。
普通のアサガオと違って、つぼみは放射状の房を形成し、次から次から開花してスポイトになって落ちていく。
10個、20個花が咲くうちは数えていたが、そのうちうんざりして数えるのもやめてしまった。
ツルは冷房の室外機にさえ絡みつき、車庫に置いた自転車の車輪にまで絡みついた。
「外来アサガオを育ててるんだ。すごい丈夫でビックリだよ」
職場の同僚にそんな話をした。同僚が笑った。
「え!君も?ランナーを切り刻んで挿し芽をすると増えるんだぜ。今50株くらい育ててるかな」
簡単に増やせると聞いて早速やってみると、確かに簡単。これでもう来年は買う必要がない。知人にも分けてあげた。
そのうち近所でも見かけるようになった。
翌年には、オーシャンブルーの濃緑色の葉がウロコ状に重なって覆い尽くした道路脇のフェンスを見かけた。
その翌年には、二階建ての民家を、山の斜面を覆っているのを見かけ、この惑星はオーシャンブルーに侵略されちゃうんじゃないか?なんて危惧した。
予想どおりだった。

十年後、この惑星に惑星探査艇が着陸した。調査隊の面々が窓外を眺め渡す。
「なんて美しい星だろう。青い海、そして大地。その大地を青い花の植物が覆い尽くしている。動物はおろか他の種の植物すら見当たらないな」
「そうだ、ひと株だけサンプルとして、我々の星、地球に持ち帰りましょう」



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危ないからやめなさい

2010年10月18日 | ショートショート


「危ないからやめなさい」
母さんが目を吊り上げて言う。
「スキージャンプなんてお願いだからやめてちょうだいよね。母さん、絶対にイヤよ」
矛先が父さんに向かった。
「あなたがジャンプ台なんか連れて行くから」
父さんが新聞に頭を隠した。
夏休み、大倉山ジャンプ競技場を父さんと見に行った。
ジャンプ台を見下ろす眺めに足がすくんだ。
怖かった。でも、これを滑り降りて、空に飛びたったらどんなに気持ちがいいだろう!
父さんが頭を上げた。
「ヒロシの人生だ。ヒロシに決めさせてやろう。やめたくなったらやめるさ」
僕はスキージャンプを習い始めた。
40度近い急傾斜は断崖を駆け降りるようだ。助走路を加速し、時速100キロ近いスピードで空中へ。
助走路の端で踏み切るタイミングが飛行距離を大きく左右する。100分の1秒ともいわれるタイミングで決まるのだ。
そして、猛烈な風圧と闘いながら、滞空時間を僅かでも伸ばすために体勢をぎりぎりまで維持して飛び続ける。
実際の滞空時間は僅か5秒程度。生きていることを実感できる、研ぎ澄まされた5秒。
僕はスキージャンプの魅力にのめりこみ、学生選手として知られるようになった。
それがあんなことになるなんて。

あの日、大倉山スキージャンプ学生大会団体戦の決勝に僕は出場していた。
最後に飛ぶ僕の記録次第で優勝が決まるという場面。客席では父さんと母さんが応援してくれている。
絶対いける!僕はそう自分に言い聞かせ、助走路へ。クラウチング姿勢でどんどん加速して、一気にテイクオフ!
絶妙のタイミングだ!
間違いない!最高のフライト、僕は鳥だ!
その瞬間、雪の斜面が歪んだ。何だこれ?
石狩活断層を震源とする、巨大地震が発生、一瞬にして札幌市街は壊滅した。
そして激震は僅か5秒で嘘のようにおさまった。
K点を軽々越えてバッケンレコードで着地した僕は茫然と周囲を見渡す。
客席は崩れ、あんなに僕を心配してくれた母さんの姿も見えない。


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天の神様に聞いてみればすぐわかります

2010年10月17日 | ショートショート


やっと捕まえたぞ、賽銭泥棒。いやぁまさか女とはねぇ。
ここ数年、毎年のように賽銭泥棒にやられてた。前回の被害額なんて10万越えだ。あんたの仕業か?違う?
ま、嘘つきはナントヤラ、信じる気などないな。
参拝者の皆様が祈願成就を祈念して奉ったお賽銭をくすねようなんて、まさに神をも畏れぬ不届き者だな。
昔は賽銭箱に鍵も付けちゃいなかったが、すさんだ世の中になっちまったもんだ。
皆様の浄財を盗人に掠め盗られちゃ申し訳ないって思ってね、それで先月、人感センサーで監視カメラが作動し警備会社に通報するシステムを付けたんだ。
正解だったなぁ。こうやって速やかに犯人を現行犯で逮捕できたんだから。ちゃんと証拠の映像があるんだ、言いのがれはできんよ。
賽銭ってのはね、法律上は、宗教法人『なんじゃもんじゃ神社』代表の所有、つまり私のもんだよ。
といっても、神社の維持管理していく経費として大切に使わせていただく。つまり神様のために使うわけだ。
何か言いたいことがあるかね?

ええ、確かに賽銭をいただこうとしておりました。でも盗む気じゃあありません。必ずお返ししようと。
賽銭泥棒はみんなそう言う?でも本当なんです。
ギャンブル好きの亭主はさんざん借金を作った挙げ句、若いホステスと逃げてしまいました。
毎晩、借金取りが家の外で怒鳴るんです。金を返せ!腎臓売れ!娘を海外に売りとばせ!
耐え切れずに家を出ましたがあてもなく、僅かな金もすぐに尽きてしまいました。
腹を空かせて泣く幼い娘を連れさまよううち、気がついたときには、なんじゃもんじゃ神社の枝ぶりのよい松のたもとに立っていました。
娘の首に手をかけましたが、泣きじゃくる顔を見るとどうしても手に力が入りません。
御社の前で泣き崩れたとき、突然、御社の内から燦々と光が漏れ出したのです。
『賽銭をもっていくがよい』
厳かな声が響きました。
『救いを求める者のために神はある。死んではならん。金をすべてもっておゆき』
神様に感謝し賽銭箱を開けてお金をいただいていると、警備会社の人たちが駆けつけ取り押さえられてしまったのです。
お賽銭は宗教法人代表のものとおっしゃいましたが、参拝者がお賽銭を渡しているのは、宗教法人でしょうか?神様でしょうか?
私の話が全部嘘?
宮司様、あなたは神様を信じていないのですか?


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死ぬまでにしておきたいいくつかのこと

2010年10月16日 | ショートショート

いかん、いかん。
つい『NHKおはよう日本』の鈴木菜穂子アナに見とれて出勤時間が遅れてしまった。
慌てて自転車にまたがり市道に出た途端、ドッカ~ン!
乗用車が真横から突っ込んできた。僕は、漫画のようにピュ~と空を飛んだ。アスファルトを見下ろしながら落ちたら痛いよなぁと他人事のように思った。
案の定、地面に激しく叩きつけられ意識が消えた。
「大丈夫ですか?」
運転手だろう、真っ青な顔で僕を見下ろす。
「すぐ病院へ」
僕は血まみれ、あちこち骨も折れているらしい。このまま死ぬな、こりゃ。
さよなら、父さん、母さん。さよなら、つきあい始めたばかりの陽子ちゃん。
「いかん、いかんぞ!」
思わず叫んだ。今、死ぬわけにはいかないのだ、僕は!
骨折した左腕をグニャリと振って、運転者を振り払って立ち上がった。
そしてちぎれた服をぶらさげてゾンビのようにユラリユラリと歩き出した。運転手がヒィと悲鳴を上げて腰を抜かした。
血の足跡を点々と残して僕は一人暮らしのアパートに戻った。
さきほどまで寝ていたままのフトンの枕元には、蛭子さんプロデュースのABS48の水着写真集。そして栗の花の香りのティッシュ。
この現場を残して死ぬわけにはいかない!
市指定ゴミ袋にティッシュはもちろん写真集も惜しげもなく投げ込む。死ぬとなれば潔いものだ。
最後のソレがソレでよかったのか?もっとハードなアレもあったのに。
「いかん、いかんぞ!」
僕は押し入れ奥からエロ本&ネット購入のイケナイDVDをごっそり取り出してゴミ袋に投げ込んだ。ネット?あ~、ネット!
危ない、危ない。急いでパソコンを起動した。ハードディスクに山のように画像があったじゃないか。はい、削除!
「お気に入り」も消して、「履歴」も消して。
これで陽子ちゃんに見られても平気・・・
「いかん、いかんぞ」
僕は机の引き出しの中、他の女性の写真と手紙を取り出した。あっぶねぇ~!
ゴミ袋を抱えて地域のゴミ集配所に捨てに行った。
血まみれの僕を見て、ゴミ当番のおばちゃんが気を失って倒れた。
コンテナにゴミ袋を投げ入れる。これでよし。市道に戻って僕が落ちた場所に元どおりに横たわった。
そして、安らかに目を閉じた。


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1000円札あげます

2010年10月15日 | ショートショート

いつもより1時間遅いだけで、駅はずいぶん空いていた。
今日は約束の10時、得意先に直接うかがうため、いつもは慌ただしい朝の時間をゆっくりできた。
得意先は勤務している会社よりもさらに数駅先にあるので定期は使えない。僕は切符売り場に急いだ。料金表を見上げて確認する。380円。
財布を開いて青くなった。小銭が380円もない。お札は1万円札だけ。田舎駅に万札の両替機なんていう気の利いたものはなし。
どうしよう?
遮断機の音が聞こえ、見透かすと電車のライトが近づいてくる。やばい。
僕はとりあえず改札で定期を示してホームに出た。車内で車掌を見つけて事情を話そう。
通勤時間帯を過ぎていたので車内は空いており、すぐに座れた。
車掌の来る気配はないまま、会社最寄りの駅を通り過ぎた。
不安が募ってくる。
ああ、昨日、缶コーヒー買わなきゃよかった。
いや、この一万円札が千円札だったらよかった。
「お客さん、切符を拝見」
腰が浮いてしまうくらいビクッとした。車掌だ。
僕は定期を見せ、必死に事情を説明した。車掌がウワベだけの愛想笑いで見つめる。畜生!
財布からお札を引き抜き、車掌の目の前にピンと広げてやった。
「ほら、これだけ」
札は千円札だった。
「そ、そんなはずは」
車掌が僕の肩に手を乗せた。
「すみません、ちょっとこちらへ」
ただならぬ様子に乗客の注目が集まる。ひとりが僕を見つめてウィンクした。
ターバン野口!
今、テレビで活躍中のマジシャン、ターバン野口、まちがいない。
おとぼけキャラでウケている、あやしい印度人。手品は毎度、お札を折り畳んで額面の違うお札にするマジックばかり。
まさか、あんたが?
確かに『一万円札が千円札だったらよかった』と思ったが、そういう意味じゃない!
車掌と一緒に席を立つ僕に、ターバン野口は満面の笑みで、両手でシャカサインを作りシャカシャカ振った。
みごとなオトボケっぷりだな、ターバン野口。すぐに9000円返せ。


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コスモス

2010年10月14日 | ショートショート


小春日和の日溜まりで、薄紅のコスモスの花が自ら光を放ち風に揺れている。
縁側には私の幼い日々のアルバムが広げたまま置かれている。先程まで母がながめていたのだ。
母が庭先でひとつ咳をした。
明日嫁いでいく私は、母親への感謝の手紙を書く筆を止めた。

「母さん、大丈夫?」
「ああ。ミチコ、今、話をしてもいいかい?」
「ええ」
母があらたまって話があるだなんて。しかも結婚式前日に。私は便箋を閉じ、縁側の母の隣に座った。
「とうとう今日まで言えなかった。でも今日言わない訳にはいかないから」
何の話?
どんなに苦労をしても時が笑い話に変えてくれる・・・そんな人生教訓だろうか。
「あなたの父さんはね、あなたの貯金を使い込んでいたの。あなたの預金通帳は残高ゼロ」
え?
「チリの落盤事故があったでしょう?生存者のために、あなたの貯金を全部使ってプチプチを寄贈したのよ」
なぜ私の預金で?父は全員救出のニュースに感動のあまり心臓発作を起こして帰らぬ人となった。あの事故の唯一の犠牲者は父だ。
有り金はたいてプチプチを買うなんて父らしいじゃないか。でもなんで私の預金?
「ミチコ、ごめんなさい。父さんは実はあなたの本当の父さんじゃないの」
え?
「そして、母さんもあなたの本当の母さんじゃないの」
は?
「しかも、あなたはフィアンセのシンイチさんと血を分けた兄妹なのよ」
え~!シンイチ兄さんですって?
「かててくわえて、シンイチさん、実は女なの。結婚まで純潔を守ったあなたには気の毒だけど。あなたたちは姉妹なのよ」
そんな。
「あなたたちは結婚できないのよ、ミチコ」
「かまわない。わたし、シンイチさんと結婚します」
母が溜息をついた。
「黙っていようと思ったけれど無理なようね。ミチコ、シンイチさんとあなたは地球人ではないの。ヤチマタラッカ星から来たのよ」
ヤチマタラッカ星人?
「違います。あなたの母さんはヤチマタラッカ星人の家畜、コスモ牛なの」
え?じゃあわたしとシンイチさんはコスモ牛?
「違います。あなたの本当の父さんは宇宙蛾怪獣コスモスラなの。あなたたちは牛と蛾の道ならぬ恋で生まれたのよ」
牛にも蛾にも似ていないのに?
「なにがどうしたのか、地球人そっくりの赤ちゃんが生まれたの。それであなたの両親は、二人を別々の地球人夫婦に託したの」
それが父さんと母さんだったわけ?
「ええ。そして、なんという運命のいたずらでしょう、あなたはシンイチさんと出会ってしまった」
シンイチさんが姉でも宇宙生物でもかまわない。結婚します。
「家畜と怪獣から生まれた未知の新種が繁殖するのを宇宙環境保護団体は許さないの。あなたたちの結婚を阻止するために宇宙の彼方から地球に艦隊が向かっています」
逃げるわ、わたしたち。地の果てまで。
「残念。宇宙艦隊は太陽系ごと爆撃、消滅させる計画です。あなたの結婚には地球の命運が、いえ太陽系の命運がかかっているのよ!」
そんな。嘘でしょう?母さん、嘘だと言って!
「ウッッッソピョ~ン」
はい?
母がケタケタ笑った。
「嘘に決まってるじゃないのぉ、ミチコ」
もう母さんったら!こんな嘘八百並べて。
でも、これって明るくてサバサバしている母らしい。娘を嫁に出す前日、湿っぽくなるのが嫌で笑い話にしようなんて。
冗談にしないときっと泣いちゃうもんね。そう思ったら泣けてきた。
母に子どものときみたいに抱きついた。母も子どものときみたいにそっとわたしの頭を抱いた。
「母さん、今までありがとう」
わたしは泣きじゃくった。
母さんが耳元で優しく言った。
「それで?ミチコ、さっきの話、どこからが嘘だかわかった?」
全部じゃねぇのかよ!!



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The Lady Vanishes(バリカン超特急)

2010年10月13日 | ショートショート


女を殺した。
女の名前は板東里香、理髪店のバイト娘、二年前から関係している。
「バリカンでクルーカットにしてくれ。超特急で頼む」
「バリカン超特急、かしこまりました」
鏡越しに見つめ合って笑った。ほんとに超特急で散髪は終わり、会計の際、釣り銭と一緒にメアドを渡された。
その日以来、父娘ほど年の差のある彼女との不倫が始まった。
そして今、私は関係を清算したかったが、彼女はそれを望まなかった。それで殺すことにした。

ある平日、海に面した温泉宿に彼女と一泊旅行に出掛けた。
ボートを借りて沖に出た。
「気をつけてね。あたし、泳げないから」
知っている。わざとボートを揺らして女を海へ落とした。
水面を叩いてもがき、必死で私に手を伸ばしてきた。
「助けて」
私は無視した。驚きに目を見開き女は沈んでいった。
沈んだ先を船縁から覗き見ようとしたとき、
ニュッと海から腕が伸びて首をつかまれ、海中に引き込まれた。畜生、泳げないなんて大嘘だ!
里香と私は互いに首を締めようと上になり下になりして格闘した。
数分後、ボートの上で、ずぶぬれで喘いでいたのは私ひとり。今度こそ女は海の底に沈んだ。

町に戻る電車はがらんと空いていた。腰掛けると間もなく発進した。
彼女と私をつなぐ証拠など何もない。すべて終わったのだ。
穏やかな海が眩しくて私は目を細めた。
目の前にするりと女が座った。
里香!
思わず声を上げて驚くと、彼女もまた顔を上げ驚きの声を上げた。
「あなた、死んだはずじゃないの!」
「お前こそ、死んだはずじゃないか!」
そして睨み合った。
こいつは不死身なのか?不死身の不気味女。なるほどしつこいはずだ。
「どうでもいいわ、あなたなんか。死んじゃえばよかったのに」
「そうかな。お互い殺人犯にならずに済んだんだ。そしてお互いのことが十分にわかった」
「そうね。これでもう赤の他人だわ。席を移ってよ。いやなら私が移る」

そのとき、電車がトンネルに入った。窓外は暗くなり車内に明かりが灯る。車窓に車内の様子が映し出される。
映っていたのは、腰掛けた彼女だけ。私の席は空っぽ、私は影も形もなかった。
じゃあ、私は一体・・・。あの時、海の底に沈んだのは私のほうだったのでは。
なんてこった。自分が霊だったなんて。
いや待て。
車窓を見つめる彼女の顔もまた驚愕におののいている。私とまったく同じように。
つまり彼女もまた、私の影は見えるのに自分自身の影が見えないことに戦慄しているのではないか。
じゃあ、私と彼女は一体・・・。


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改造人間の憂鬱

2010年10月11日 | ショートショート
(2010年10月5日初出)
2010年10月8日「ばか言わシアター」で朗読していただきました
5日にアップして8日に朗読って・・・信じられない速さにおったまげちゃいましたぁ!できたてホヤホヤで湯気が出てる文章の朗読なんてホント予想だにしませんでした。素敵なサプライズ、ありがとうございました。
トッシーさん&ほったまさんの温度差かけあいが絶妙です。

ブォン!
サイクロン号を吹かしたその時、警察官2名が目の前に現れて、道路脇の空き地に誘導した。
「あ、ご苦労さまです。お忙しいところすみません。こちらご覧ください」
ヘッドフォンをつけた警察官がスピード測定器から打ち出されたレシートみたいな紙を見せる。
「かなり急いでおられたようですねぇ。このスピードで走っていたの、あなただと認めますか?」
「ええ。怪人を追跡中です。先を急ぎますので、これで」
「急いじゃダメですって。バイクを降りて。免許証を見せてください」
「君たち、僕はジョッカーの怪人ホッケ男を追いかけていたのだよ。奴だって僕以上にスピードを出していたはずだ」
「ホッケ男?あの魚の開きみたいなの?あれは人間じゃないから。人間じゃないと検挙できないから」
僕は渋々バイクを降りた。ライダースーツのジッパーを開けて、免許証を取り出す。
「本郷さんね、こんなフルフェイスじゃ危ないよ。目なんか複眼になってるじゃないの。また事故して複雑骨折しちゃうって」
「気をつけます。気をつけますから早く処理してください。ホッケ男の『人類ヒラキ計画』を阻止しなくては」
「それテロかなんかなの?一般人がそういう情報を得たら、通報してもらわないと。ハイ、印鑑の代わりにここに指を押して」
僕は言われるままに、ライダーグローブを外して指紋を押した。
スピード違反で捕まったことは残念だ。しかし、怪人ではなく人間として扱われたことが誇らしかった。人間バンザイ。
「これ、赤切符ね」
「赤切符?」
「一般道で40キロオーバーはね、重度の交通違反なのよ。罰金6万円、一発免停。免許証は預からせてもらうから」
「6万円?免停?」
「とりあえずこの赤切符が免許の代わりで法定速度内なら運転できることになるんだけど。でも、その改造バイクじゃまずいなぁ。本郷さん、歩いて帰って」
僕の頭の中でプチッと何かが切れた。
「俺は人間じゃねぇ!怪人バッタ男だぁ!」


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