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テイルズテイル

2010年03月30日 | ショートショート


恋をすると僕の周りを小犬が走り回っているみたいな気がする
アレをちぎれるくらい振りまくってさ、これは僕のそんな話

ミチコは陰気で垢染みていて、好きでもなんでもなかった
あの頃は彼女に母親がいないことなど思いも及ばなかった

僕が教室に入ると、黒板に大きなアイアイガサの落書き
大慌てで黒板消しつかんで僕とミチコの名を擦り消した
顔がカッと熱くなって思わず「大っ嫌いだからな!」
言葉を浴びせたとき、ミチコはとうに泣いていた
クラスの女子が興ざめした顔で周りから散ってく
苛められて無理矢理好きな男子を言わされたんだ
辛くてどうしようもなくてまた怒鳴ってしまった

別々の中学を卒業して、高校で偶然再会した
声かけられてもすぐに彼女とわからなかった
自販機前のベンチに並んで座って話をした
男子たちが羨望の眼差しを投げかけていく
僕のお尻のないはずのソレがムズムズした

僕が黙ってしまうとミチコが笑った
そして大声で「大っ嫌いだからね!」
僕が呆気にとられて固まっていると
「・・・って、好きってことかな?」
ミチコが思いっきり吹き出した

僕のお尻のないはずのソレと
ミチコのお尻のソレが
クルクルクルって
絡み合うのが
わかった
これって
きっと
アレ
だよ


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マグネシアの石

2010年03月29日 | ショートショート


いつからだろう?俺が同僚の山崎を憎むようになったのは。
月例定例会の時に、俺の出した企画案にケチをつけた時か?
社の歓迎会幹事を務めた俺の進行にダメ出しをした時か?
そのたびに俺のハラワタは煮えくり返り、憤怒の夜を過ごした。
奴の言うことが全部理不尽って訳じゃない。だが、皆の見ている前で、いかにも丁重なもの言いで、痛いところをチクチク責めることはないじゃないか!偽善者め。
一方、俺はといえば、できるだけ奴と関わりたくなかったが、小さな会社内でのこと、時に意見せざるを得なかった。言葉を選びながら理に適った意見をしたつもりだ。だが、その時の奴の顔といったら!身内から憎悪の炎が噴き出すのを必死で堪える形相だ。ざまあみろ。
その頃からか、奴は俺の見かけると蔑むように睨めつけた。すれ違いざまに舌打ちさえした。まったくムカつく野郎だ。
憎しみは憎しみを生み膨れ上がる。俺はこっそり小型のダガーナイフを入手して隠し持つようになった。
なぜ俺はこんなにも奴を憎むのか?それはきっと奴が俺と似ているからだ。俺自身の嫌な部分が奴にもあって、それで互いに反発しているのだ。
だとすれば、奴もまた俺と同じように考え、ナイフを隠しているに違いない・・・

その瞬間は唐突に訪れた。会社のトイレで奴とばったり出くわしたのだ。あわや衝突という瞬間、お互い後ろに飛び退いた。野獣のように睨み合い、ナイフを躊躇なく構え、互いに襲いかかった。
その瞬間、俺の体はクルリと後ろ向きになって、山崎とピタッと引っついた。山崎に後ろから抱きすくめられた格好で、動こうにもピクリとも動けない!
逞しい腕に抱かれ、奴の吐息を首筋に感じると、全身の力が抜けて、ぽとりとナイフが手から落ちた。山崎もまたナイフを捨てて、さらに力強く抱きしめる。
憎しみは消え、愛しさへと変わっていく・・・
その時、やっと俺たちは悟ったのだ。磁石って奴は、同じ極は反発しあうが、反対の極とは強烈に惹かれ合うってことを。


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テレパシンの効能

2010年03月28日 | ショートショート


「奢ってくれるって?すまんなぁニイさん。じゃ、マスター、ジン=ロック!
それじゃ、あんたに俺の話をしてやるよ。信じられんだろうがな。
相手の心の声が聞こえる『テレパシン』って薬、あれ作ったの、実はこの俺さ。
そんな男が、なんで場末の安酒場でクダ巻いてるかって?
そう、その話だよ」

「俺は大学ん時から脳機能について最先端の研究をやってたんだ。それを売り込んで大手の製薬会社に就職することもできた。
研究室の片隅で研究三昧。ある日、神経伝達物質に影響する薬品数種を投与したときに、透視能力が飛躍的に向上することを見つけたんだ。ESPカードを用いた単純な透視だったが、驚異的な的中率だった。
研究室主任がこの実験に注目した。上に掛け合い膨大な研究費を回してくれた上、主任ブースの隣に俺の研究ブースを特設してくれた。会社は研究を極秘に進め、絶対に口外しないことを求めた。同僚にも、主任さえにも。俺しか動かせない特殊なパソコンまで支給してくれた。
俺は寝る間も惜しんで黙々と研究を続け、テレパシンを完成させた。
心の中で言語化した思考を、声のように聞くことができる、夢の薬!
・・・だが、サンプル完成の数日前、研究は全部盗まれた。
みごとな裏切り。研究室主任が会社を辞めて、自分で製薬会社を起業してテレパシンの製造販売を始めたんだ。
秘密が漏れるようなドジは一切してないのに・・・
早く気がつくべきだった。
主任の奴、デモンストレーションの時使った薬をくすねては飲んでいたのさ。
俺が毎日研究について考えている内容が、隣のブースの彼の頭の中になんと饒舌に聞こえていたことか!
テレパシンは世界規模で売れて、主任は大富豪の仲間入り。
一方の俺は情報漏洩の嫌疑をかけられお払い箱。酒に溺れてこのザマさ」

「俺の話はこんだけ。信じようと信じまいとあんた次第。奢ってくれてありがとよ。
マスター、俺の飲み代、このニイさんな。じゃあな」

男が千鳥足で店を出て行くと、マスターは肩をすくめた。
-お客さん、飲んだくれの話、信じるかい?
-もちろん、信じるとも。テレパシンを使わず口で喋るヤツなんて久しぶりに見たよ。
マスターと客は無言で大笑いした。


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校長先生色辞

2010年03月27日 | ショートショート


「学舎の立つ飛雁ヶ丘の桜の蕾ほころぶ、この良き日、未来へと飛びたつ六十九名の飛雁ヶ丘高校卒業生諸君、ご卒業おめでとうございます。保護者の皆様、ご子息ご令嬢のご卒業を心よりお祝い申し上げます。
合唱部諸君のわが校校歌ハミングをバックに、本日の式辞を述べたいと思います。
なんと、この紙を御覧ください!
本校の校歌を作詩していただいた太田嘉男先生から皆さんへのメッセージをファックしていただきました!」
(え・・・教頭先生、何ですか?ファックス?複数形?一回だけなのに?ファックスが正しい?はい。)
「・・・あ、失礼。太田嘉男先生から皆さんへのメッセージをたくさんファックしていただきました。皆さんは太田嘉男先生の名前を漢字で書けますか?『太』は、大きい股にテェンテェンを挿入した『太』です。『嘉男』は、喜ぶの下の口をくわえる男と書きます。早速ファックを見てみましょう・・・
♪三尋の山脈仰ぎ見て♪青い空より朝見ゆ間♪鬼灯光る来し愛の♪ああ雁高いざ立たん♪
『AV女優並べて歌詞書きました。ゴメンナサイ』・・・あ、合唱部の皆さん、ハミンゲ・・・もとい、ハミング中止!」
(え・・・教頭先生、このまま式辞を続けるんですか?私、アガリ症なんでかなりヤバイこと言っちゃうかも・・・)
「・・・エエ・・・オホン、皆さん、AVのファックのことは忘れましょう。ああそうだ。皆さんの青春まっぱだかの三年間をふりかえってみましょう。全国大会に出場したシンクロの一糸まとわぬ演技!野球部の珍プレー好プレー略してチンコプレー!それぞれの部活動で、同じケツの穴を舐めあった仲間たち!二発三日の修学旅行!真剣に取り組んだ避妊訓練!そして、この学年女子の欠席の少なさといったら開校以来の記録です。実にヤスマンコでした!!」
(きょ、教頭先生、助けて!え?平常心?)
「そう、皆さん!何事も正常位、正常位。もろちん!・・・え?もっと腰を押し付けて踏ん張れ?」
(会場「ザワザワザワ・・・」)
「おい!そこの生徒たち!厳粛な式の最中にペチャペチャおしゃぶりするの、やめなさい!!なんだ、ニヤニヤして!フェラフェラするのをやめろと言っているんだ!まったくお前らを見ているとムラムラする!」
(教頭先生~!え?適当にまとめて終われ?そうします!)
「なんだかな~な式辞となりましたが、どうせ私も今年で退職、これからは家の畑でのんびり乳いじりでも・・・もとい!ちついじりでも・・・もとい!土いじりでもします。ああ穴があったら入れたい!最後に来賓の皆様に顔射して・・・イエ、すみません・・・まったく下の口の乾かぬうちに・・・今日は私、オチンコ右ですので・・・もとい、落ち込み気味ですのでこれで終わります。最後に、卒業生の皆さん、グッドファック!」


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巨船ローランド号の最期

2010年03月24日 | ショートショート


ローランド号船長「博士、この船が沈没するだと?・・・間違いない?」
博士「ええ、あと2時間ほどで」
船長「何を根拠に?」
博士「マヤ文明がどうたら、太陽黒点がこうたら・・・」
船長「さっぱりわからん!とにかく沈むんだな!」
副船長「知らせますか?乗客に」
船長「待て。パニックが起きたら元の子もない。救命艇への収容人数は限られているからな」
副船長「どうやって人選を?」
船長「建て前としては遺伝的に優れたエリートを選ぶ。実際には、我々特権階級と、高額チケットが買える金持ちだけ救う」
博士「そんな非道い!金儲けのためには手段を選ばんのか?」
船長「それがローランド号の掟なのだよ!ワハハハハ~!」

偶然、船長室前を通りかかって盗み聞きしてしまった僕はビックリ仰天です。あと2時間で船が沈む・・・!
別れた妻と子供たちを助け出そう!
決意した僕は客室にダッシュしました。部屋をノックすると、ドアから覗いた息子のジョンがにらみます。
「お前なんかパパじゃないやい!」
僕は妻とジョンの腕をつかんで、ムリヤリ部屋から連れ出しました。
「勝手なマネをするな!俺の家族だぞ!」
怒った新しい旦那が僕を追いかけてきました。
僕たちが部屋を出た途端、客室の床がド~ンと落下。間一髪でした。
「ありがとう、パパ~!」
ジョンが僕の首に抱きつきました。
船のあちこちで爆発が起きて、悲鳴が上がります。一刻の猶予もありません。
僕たちも客室通路をダッシュ!僕たち家族が走って逃げるはしから、後ろの通路が崩れてなくなります。
おっと、甲板に向かう通路にひしめく大群衆!これでは逃げられません。
「エキストラの皆さんの頭の上を走るんだ!」
助からない運命の脇役の皆さんの頭の上をピョン!ピョン!ピョン!
皆さんの上を渡りきった途端、絶妙のタイミングで通路の床が抜けて、皆さん船底に消えていきます。
ア・・・まだ渡り終えていなかった新しい旦那も一緒に落ちていくではありませんか!
しかたありません。パパは一人で十分です。

甲板に出ると、そこにいたのは金持ちだけでした。救命艇の定員オーバーで取り残された金持ちたち。
救命艇で博士が演説しています。
「みんなを救いましょう!それが人の道です!」
感動した一同、拍手喝采です。甲板の金持ちたちを乗せてあげました。僕たち家族もまんまと紛れ込みました。
救命艇が離脱すると間もなく、ローランド号は蟻んこのような脇役の皆さんもろとも海の底に消えました。

僕たち家族はひっしと抱き合って神に感謝しました。
ギギギ・・・そのとき、救命艇のきしむ音が。
博士「まもなくこの救命艇も沈みます」
船長「副船長、ゴムボート乗船用の倍額チケットを準備しろ」


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WhiteDayDream

2010年03月23日 | ショートショート


ビクッと全身を震わせて目を開けた。眩しい光が僕の目を射る。
各駅停車の古びた客車がガタゴトギシギシと僕の肩を揺らしている。
窓を背にロングシートに腰掛けて、僕はついつい微睡んでいたようだ。
眠っている間も両手でしっかりと握っていたクッキーの白い包みを見つめた。えっと、これは・・・?

明季の屈託のない笑い声。
「今年も来たんだね。一緒に行こうか?美鈴のお墓参り」
その言葉に僕の記憶がよみがえる。
三年前。バレンタインデーに僕は美鈴からチョコを贈られた。
実際には、美鈴からチョコをことづかった、美鈴の親友明季の手から。
高校入学以来、実は僕は、美人タイプの明季に憧れていたのだから皮肉なものだ。
明季は脈がないとあきらめた。僕は美鈴に電話して週末のデートを約束した。
美鈴は明季とは違うけれど華奢でかわいい子だった。電話口で笑う声もクスクスって鈴を転がすみたいで。
週末のデートは結局実現しなかった。美鈴が入院したのだ。
僕は、毎日のように学校の帰りに病院に見舞いに寄った。
美鈴の両親が僕の見舞いを心から喜んでいたことの意味をもっと早く知るべきだった。

病室で美鈴と二人きりになったとき、僕は言った。
「こんなこと言うのは絶対にいけないことだし、ひどいことだとわかってるつもりなんだ。でも、言っておかないといられない。もし、僕たちのどちらかが先に死んだら、幽霊でも何でもいい。戻ってきてほしい。ずっと一緒にいたいんだ。絶対に裏切らないから。約束して」
泣きながら美鈴を抱きしめた。そして初めてのキスをした。初めてで最後のキス。

その数日後、美鈴は逝ってしまった。僕の手元にホワイトデーのクッキーを残したまま。
それからというもの、明季とは会うことも話すこともなかった。できるものか。美鈴と約束したんだから。
ホワイトデーがやってくるたびに、僕はクッキーをもって、電車に揺られて、美鈴に会いに行った。

電車の震動に揺れる僕の膝に、明季がチョコレートの赤い包みを置いた。
「もう食べられないよね、コレ。三年前の手作りチョコだから」
三年前の手作りチョコ?・・・三年前の・・・
重篤な病に冒された親友と同じ相手に恋をしていたとしたら・・・?
美鈴からチョコを渡すように頼まれたとしたら明季は・・・?
明季の頬をとめどなく涙が伝うのを僕は見つめた。
そうだったのか・・・明季なら・・・明季なら、美鈴はきっと許してくれる・・・
「僕も、僕も本当は君のことを・・・」
明季が肩を震わせて泣いた。
その泣き声は次第に鈴を転がすようなクスクス笑いに変わった。
鈴を転がすような・・・クスクス笑い・・・
うつむいた明季の顔が髪の毛で覆われて見えない。いや違う!これは美鈴だ!
「あれほど約束したのに。ほら、裏切った」

ビクッと全身を震わせて目を開けた。眩しい光が僕の目を射る・・・


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チン助のおかげです。

2010年03月22日 | ショートショート


一人息子のサトルが「弟がほしい」としきりに言うもんですから、弟を作ることにしたんですよ。
今の時代、何でも作れちゃいますからね。
デデゴスティーニでしたっけ?アレ、申し込んじゃったんですよ。
毎週、部品付きのマガジンが送られてくる・・・創刊号だけ通常価格の半額でそそられちゃう、アレ。
タイタニック号の模型だの、ディズニーランドの模型だの、置き場所に困りますよね、実際。
でもロボットなら大丈夫だろうって頼むことにしたんです。
毎週毎週、地道に部品を組み立てていって・・・
2年後ついに完成したんですよ。弟ロボ。サトルも大喜びです。
「サトル、お前の弟だ。名前を考えなさい」
翌朝、サトルは名前を決めたようです。
「おい、チン助!公園に遊びに行くぞ!」
・・・チン助?2年間コツコツ作ったのにチン助?まあ、いいでしょう。所詮、ロボットです。
サトルが幼稚園に行っている間、チン助はママとお留守番です。
サトルがもっと幼かった頃を思い出すのでしょう、ママもすっかりチン助を気に入りました。
そんなある日。サトルが寝た後のお酒タイム。ママがそっとボクの膝に手を置きました。
「パパ、ホンモノの弟、作ろっか?」
潤んだ瞳で誘います。
サトルが難産だったので、二人めはいらないと言っていたのに。チン助のおかげです。
ママと愛し合いながら、ボクはついつい思っちゃいました・・・毎週毎週、地道に続けたら、2年後くらいに赤ちゃんが完成したりして・・・
でも実際はそうじゃなかった。間もなくママが懐妊したんです。
ホンモノの弟ができると聞いてサトルは大喜びです。
「もとはと言えばチン助のおかげだ。赤ちゃんが生まれてもチン助をうちで大切にしよう」
ボクの提案にママもニッコリです。
そうして生まれたのがこの子なんです。
それで、先生、医学的に理由を教えてください。
なんで、この赤ん坊、半分人間で半分ロボットなのか。


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ファイナルアンサー?

2010年03月21日 | ショートショート


「テ、テレフォンを・・・」
最終問題、挑戦者は最後のライフラインを使う。画面が電話先に切り替わる。
マンションの玄関に、黒ずくめのサングラスの男が一人。挑戦者が早口で問題を読みあげる。
男はニヤリと笑い、口を開きかけ・・・
ミモ「はい、時間切れ。友だちはお一人きり?お洒落なマンションだねぇ」
挑戦者「ええ、この近くです。モデルさんの部屋」
挑戦者の言葉に、ミモがモニタを見直す。
こ、これはマオミの部屋!間違いない。今朝、あの玄関を出てスタジオに向かったのだから。愛人のマンションになぜ男がいるんだ?男は革手袋をはめてリビングへ。そこでモニタが切れる。
マオミが危ない!

挑戦者「ミモさん?」
ミモが我に返る。
「あ、す、すみません。答えをどうぞ!」
もしも、挑戦者が答えを間違えたら、そのときマオミが殺される!
挑戦者「えっと、う~ん、Dにしよっかな?」
ミモ「・・・今、Bとおっしゃいました?」
挑戦者「そうかなぁ・・・」
ミモ「Bでファイナルアンサー?」
挑戦者「Bに聞こえました?」
ミモ「ええ・・・確か・・・」
挑戦者「ミモさんはBと聞こえたでファイナルアンサー?」
ミモが挑戦者を見つめる。挑戦者がミモを見つめる。
見つめる。見つめる。見つめる。見つめる・・・
コマーシャル!
CM中、ミモは挑戦者を睨めつけた。
ミモ「こんなことしてタダじゃすまんぞ」
挑戦者「目的は金じゃない。あんただ。ファイナルアンサーの、あんたの長い長いしたり顔が気に入らないんだ。いいのかな?マオミちゃんのこと、奥さんにバレても」
・・・
CM明け。睨み合う両者。
挑戦者「Bでファイナルアンサー?」
ミモ「それ聞くのボクでしょ!」
挑戦者「あ、そう。じゃDにしようかなぁ?」
こいつ、俺を弄んで楽しんでいるのだ。畜生!マオミがいっそ殺されてしまえば関係は永遠にバレない・・・
ミモ「Dでファイナルアンサー?」
挑戦者は、青ざめ困惑していたミモの表情が残酷な決意に変わったのを見てとった。
挑戦者「ファイナルアンサー」
そのとき、客席後方のテレビカメラ、そのカメラマンの背後から現れた人影に、ミモは目を奪われた。マオミ!
無表情のマオミはミモを一直線に指さした。いや、人差し指を銃身に見たてて狙った。
バーン!ミモの額の真ん中を撃ち抜く。
硝煙漂う指先をひと吹き、くるりと背中を向けると二度と振り返らずスタジオを後にした。


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恐怖のネズミーランド

2010年03月20日 | ショートショート


千年の後の世を霊力により旅してきたという女祈祷師を招き、話を聞きました。
私はまず本朝の行く末を尋ねました。
女、悲しげに首を振ります。
「未来に、貴人はおりませんでした。皆、貧民のごとき体格に落ちぶれ果てております。装束も安価で薄っぺらの湯煮黒と申す着物ばかり」
よかった、十二単を重ねて着飾れる、今の世に生まれて。
「男衆は髪を結うこともなく、女衆は髪を短く切られておりました。しかもひと目を憚らず手をつないでおります・・・中には口吸いなど」
なんと不埒な!
「私の訪れたその国は、天を突く白い塔がそびえておりました。夥しい男女やら家族が彷徨い歩いておりまして・・・」
女はブルブル震え、声を落としました。
「長蛇の列の最後尾に並ばせられ延々と待たされた挙句、地獄めぐりをさせられるのです」
地獄めぐり?
「そうです。次々と牛も屋根もないあやかしの車に乗せられ、逃げられぬよう首肩に枷をかまされて。水の中に突っ込んで水しぶきが上がっては絶叫、妖怪やら海賊に襲われては絶叫!皆が皆、泣き叫んでおりました」
なんと恐ろしい!
「夜はさらに恐ろしい。火玉が打ち上げられて次々と爆発、皆、驚きのあまりオウオウ叫びます。その、道沿いに集められた人々の中を百鬼夜行が練り歩くのです。バケモノやら目や口ばかりが肥大したケダモノやら」
そやつらが支配しておるのか?
「私が見ますところ、皆が皆こびへつらっておったのは、ネズミです。耳の丸いネズミの王と女王が白手袋を振り回すと、皆、作り笑いをしておりました」
未来の本朝はネズミがミカドに?
「そのようです。子供たちは皆、中には大人たちまで、ネズミの丸い耳を被せられております。あのような恥ずかしい格好は自ら望んではできぬかと」
胸ふさがれてこれ以上話を聞けず、女を帰しました。

自室で筆を手にしましたが、何から書き出していいやら・・・
いや、ネズミに支配された未来など書き記す訳にはいかぬ。人々は希望を失うでしょう。未来など語らず、わが国を、わが国の自然を愛し続けることを書き残しておこう。そうだ、日本の四季折々のすばらしさから。

春はあけぼの・・・


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ドウモVSコウモ

2010年03月18日 | ショートショート


みら~いみらい、あるところにお爺さんとお婆さんがおりました。
山に柴刈に出掛けたお爺さんは、柴刈機に巻き込まれてバラバラになっちゃいました。
川に洗濯に出掛けたお婆さんは、洗濯機に落っこちてグチャグチャになっちゃいました。
でも、大丈夫。お爺さんはメカ爺さん、お婆さんはメカ婆さんだったのです。未来だから。
お爺さんは、早速、修理用ロボットのドウモ君を呼びました。
ドウモ君は、お爺さんの部品を集めてあっという間に元どおり。
お婆さんは、修理用ロボットのコウモ君を呼んで、これまたすぐさま元どおり。
「やっぱドウモ君は腕がええのう!」
「なにゆうとるだ爺さん、コウモ君の方が上じゃて!」
両者一歩も譲りません。
「こうなったら腕くらべじゃ!」「望むところよ!」
「戦え!ドウモ君!」「倒せ!コウモ君!」
ガオ~!ギャオ~!二大ロボット大決戦のはじまり、はじまり。
ドウモ君の放った分解光線がコウモ君の右肩に炸裂!コウモ君の放った粉砕光線がドウモ君の左脚に炸裂!
地面に落ちた自分の部品をすぐさま接合!あっという間に元どおり!さすがは両者、修理のプロです。
「負けるな!」「やっちまいな!」
両者フルパワーで激突!昔のテレビ漫画みたいにモクモク煙に包まれてズッタンバッタン!
ネジがピョ~ン、バネがビョョ~ン、オイルまで撒き散らし、いやもう大激闘です。
・・・おや?急に静かになりました。煙が次第に消えて、ひとつの影が現れます。
「勝ったのか?ドウモ君?」「コウモ君?コウモ君よね!」
分解バラバラの部品を踏みつけて、立っていたのは誰あろう・・・いや、誰だ、これは?
戦っているうちに相手の腕をつけてしまっています。その腕で修理したということはその腕の勝ちなのか?
戦っているうちに相手の頭をつけてしまっています。しかも、その頭、目鼻口耳、両者の部品が混じって・・・
あんた一体誰なんだ??
ということでこの決戦、ドウモコウモないって話になっちゃいました。めでたし、めでたし。

「・・・どうでした?」カタリベ君が僕に聞いた。
「科学が進むのって怖そうだね」
「この話、日本の昔話『どうもこうも』が元になっているんですよ。お話ししましょうか?」
「お願い、カタリベ君!」

むか~しむかし、人類が滅亡するより前の話・・・


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タナカシゲルのハッピーエンド

2010年03月16日 | ショートショート


約束した時間に喫茶店に入ると、奥の席で斉木さんが手を挙げた。
席に着くと同時にウェートレスがブレンドコーヒーをテーブルに並べた。さすがは斉木さん。
「田中さん、見つかりましたよ、相手。野崎三郎さんって人です。お金持ちになれるって聞いて涙流して喜んでいましたよ。いいんですか、本当に?」
「もちろん。僕の決意は変わりません」
数ヶ月前突然、僕の口座に数億円が振り込まれた。顔も覚えていない伯父が他界、独り者の伯父の遺産全額が舞い込んだのだ。
倍くらいの年なら甘んじて受け入れただろう。だが僕は努力と才能で人生を切り開きたかった。宝くじで大当たりして幸せになれた人間なんて本当にいるんだろうか?
それで僕は、会社の同僚、斉木さんに相談した。斉木さんはコンピュータの達人でプログラミングやらハッキングやら何でもできるって話だったから。
話を聞くと、斉木さんは斬新な提案してくれた。僕の個人データの全て、名前から何からすべてを別人と入れ替えてしまうというアイディアを。ただし、入れ替える相手が見つかり次第・・・
そしてやっと見つかった、その相手が野崎三郎という訳だ。
「それじゃ、こちらの書類に目を通してください。契約するならココとココにサインを」
僕は躊躇なくサインした。
そして、田中茂と数億円におさらばした。

一年後、僕は同じ喫茶店に斉木さんを呼び出した。
時間どおりに席に着くと、斉木さんと熱いコーヒーが待っていた。一口啜ると、本題に入った。
「斉木さん、まことに恥ずかしいんだけど、僕を元に戻してほしいんです」
斉木さんは腕組みした。
「それはちょっと・・・相手が何て言うか・・・」
「一年間、寝る間を惜しんで働き、夢を追いかけて、やっとわかったんです。僕は自分に与えられた運命を・・・遺産を受け入れるべきだった」
「そいつはちょっと身勝手過ぎやしませんか、野崎さん」
「わかっています。そこを何とか。あ、僕は野崎じゃありません、田中です」
「そう言われても」
斉木さんの長い沈黙。僕は間が持てずにコーヒーを飲み干した。
「斉木さん、何とかしれくらはい・・・」
アレ?舌がもつれた・・・酒に酔った気分だ。斉木さんが笑顔になった。
「よかったぁ、やっと効いたな。もっとあっさりイッちゃうかと思いましたよ、この薬」
斉木さんが透明な小瓶をテーブルに置いた。
小瓶が二重に三重にブレて、焦点が合わない。
「教えてあげましょう。ノザキサブロウなんて存在しない。架空の人物データですよ」
なんだって?手足を動かそうとしたがピクリとも動かない。
「それに、サイキって人間も存在したことはないんだなぁ」
まさか!誰でもない人間だって?
こんな結末ってあるか?これは、『タナカシゲルのハッピーエンド』だぞ!
意識が遠のく僕の耳元で、サイキと名乗っていた男が囁いた。
「一年前から僕がタナカシゲルだよ」


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矛盾じゃよ。」

2010年03月14日 | ショートショート


オシエロ・オネダリ「博士、モロダ博士!」
モロダ博士「おお!オシエロ君にオネダリちゃんじゃないかね!久しぶりじゃのう。今日も今日とて自己解決を放棄して、他力本願の質問責めかね?」
オシエロ「アッハハハァ!博士は相変わらず辛辣だなぁ!」
オネダリ「博士、問題です。どんな盾でも突きとおす鋭い矛と、どんな矛でも突きとおせない頑丈な盾がありました。この矛でこの盾を突いたらどうなるでしょうか?」
博士「ふぅむ、故事成語の問題じゃな。それで君たちはどう思うんじゃ?」
オシエロ・オネダリ「う~ん・・・」
博士「そうイキまずに。無いアタマを駆使した珍解答を言いなさい。じゃ、オシエロ君」
オシエロ「う~ん、僕はやっぱり正しい方が勝つと思うな。最強同士が最終回に戦うじゃないですか。悪者がスッゲー強くても正義の味方が必ず勝っちゃう」
博士「それで正しいのは矛かね?盾かね?」
オシエロ「いやそれはまだ・・・」
博士「お馬鹿はほっといて、オネダリちゃん!」
オネダリ「このくらいハイレベルの戦いになると、その日の両者のコンディション次第・・・」
博士「聞いたわしが馬鹿じゃったわ。こういう問題は逆説的に考えれば簡単なのじゃよ」
オシエロ・オネダリ「逆説的?」
博士「そうじゃ。昔、中国の楚という国に奴隷商人がおったのじゃ。この商人が裸の美少年を台上に立たせて言った。『この少年のアソコのすごいことと言ったらどんな女もイチコロです』見物のご婦人方、大喜びじゃ。今度は裸の美少女を台上に立たせて言うには『この少女のアソコのすごいことと言ったらどんな男もイチコロです』見物の男衆、ピンコ立ちじゃ。見物客のひとりが商人に尋ねたのじゃ。『その少年と少女がエッチしたらどうなるの?』さあ、どうじゃ?」
オシエロ「どこが逆説的なのかわからないな・・・二人ともすっごく気持ちよくって、『矛盾』ではなく、『夢中』だ!」
博士「惜しい!」
オネダリ「少年と少女だから『矛盾』でなくて、『不純』だわ!」
博士「ピンポ~ン、正解じゃ!よかったな。じゃあ帰りなさい」
オシエロ「博士、答えになっていないじゃないか!」
オネダリ「故事成語って、故事から生まれた、ためになる言葉じゃないの?博士の話は、私たちチビッコ向きじゃないし、愚にもつかないお下劣話だわ!」
博士「そうそう、それが(題名に続く)


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シロアリ

2010年03月13日 | ショートショート


「ウッヘェ~!なんじゃこりゃぁ!!」「ヒィィィ!」
クリーニング店の店長さんも奥さんも床下をのぞいて恐怖の形相に変わりました。楳図かずおの漫画みたいな。無理もありません。目の前で無数のシロアリが蠢いていたのですから。
私はデジカメで記録しました。白い小虫たちがウジャウジャと逃げまどいます。
「ヒィィ、見とるだけで痒うなってくるなぁ」「店の床下、シロアリだらけやないの!」
数週間前に仕込んだ誘引材を、私は指先でいとも簡単にバラバラ崩してみせました。
「おっさん、それ、床下に入れたとき、普通の木ぃやったやないか」
「スカスカのポロポロ、紙みたいやないのぉ!」
シロアリは柔らかい木材から食害します。シロアリの発生状況を調べるために誘引材を仕込んでおいたのです。この様子なら100万匹規模のイエシロアリの巣でしょうか。
「おっさん、何とかしてぇな!」
私はカバンの中からベイト剤の包みを取り出します。店長さんは興味津々です。
「シロアリは木材よりもこの錠剤を好んで食べます。巣に持ち帰り群れ全体が食べる。この薬を食べたシロアリは脱皮できなくなって死にます。数週間で巣は壊滅しますよ」
私は床下に設置したステーションに次々とベイト剤を置きました。シロアリ駆除業35年、少し前までは薬剤散布が中心でしたが、便利な駆除法ができたものです。
「さあ、これで大丈夫。2週間後に定期検査に来ますんで」

♪ぼくから見れば小さなカメも♪アリから見ればきっと大きなカメかな♪
♪みんな同じ生きているから♪ひとりにひとつずつ大切ないのち♪

家に戻ると、孫のユイが歌っています。
「そりゃ何の歌だ?」
「おじいちゃん知らないの?イルカさんの歌だよ」
「イルカ?イルカは歌を歌わんだろう?」
ふと、イルカ漁のニュースが頭をよぎりました。
「イルカさんは歌手だよ。おじいちゃんは何にも知らないのね。今日、学校で歌ったの。生命を大切にする授業で」
「生命を大切にする授業?」
「うん。ニンゲンもカメもアリもみんな大切な生命なの。殺した生命の数だけ、地獄で針に刺されるのよ」
「そりゃ痛そうだな」
今日一日でも100万匹・・・35年間働いて・・・
私の殺した生命の数を記録した紙は、巻物のように長いことでしょう。
何回針に刺されればいいのでしょうか。
ヒィィィ!私は、楳図かずおの漫画みたいな形相になっちまいました。


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うさぎ

2010年03月12日 | ショートショート


ハンスはこめかみを押さえてもう一度溜め息をついた。
休日にまで自宅に仕事を持ち帰らなければならない多忙を嘆いて。そして、局内に来月支給予定だったブーツが発注した半分も揃わないことを呪って。もう一度、業者に掛け合ってみるか。

書斎のドアをノックする音にふり向くと、リタはすでに中だった。仕事に没頭していたハンスを気の毒そうに見つめていた。
「ああ、リタ、すまない。お昼までには片付けるよ」
「お忙しいのね。エマが泣いてるの。理由を聞いてもパパにしか話さないって」
やれやれ、兄弟ゲンカか。
いつもはリタに何でも話すのに。休日なのに仕事をしている父親に相手をしてほしいらしい。

エマは薔薇園の白椅子で泣いていた。
「薔薇のつぼみを見つけたんだって?父さんを案内してくれないか?」
睫毛に涙の雫をつけたまま、エマはニッコリしてハンスの手をとった。
薔薇のつぼみを二人で見つめていると、エマが言った。
「ルッツがミンカをいじめるの」
やはり兄弟ゲンカか。ミンカはエマの飼っているウサギだ。
「大声を上げてミンカを追いかけ回すの。ミンカはすっかり怯えて私を見ても逃げようとするの」
「ルッツにいけないことだと教えてあげたのかい?」
「言ったわ。でも、言い返すの。ウサギは食べ物だって」
ルッツの奴、帰って来たらお灸をすえてやらんと。
「お父さん、ウサギ、食べないよね?戦争がひどくなってもミンカは絶対食べないよね?」
「あたりまえだよ。父さんがエマもミンカも守ってみせる。いいかいエマ。人間も動物も生命に値段なんかつけられないんだ。一度失われた生命は二度と戻らない。父さんは君たちにかけがえのない生命を大切にする大人になってほしい。ルッツにはしっかり言って聞かせる。いいね?」
エマがハンスの首にしがみついた。
「お父さん、大好き!」
愛しいエマ、わが天使。父さんはお前たちを守ってみせる。そのためにも与えられた職務を完遂する。

昼食後、ルッツが帰宅するまでのひととき、ハンスは再び書斎で仕事を続けた。
次の書類も、発注品が期日までに届かない通知だった。チクロンBも遅れるだって?あれがなければうちの局、仕事にならんじゃないか。
明日の朝一番に所長に掛け合って、所長から直接、製薬会社に言って聞かせてもらおう。
わがトレブリンカ収容所でのガス処理が遅れることは第三帝国の一大事であることを。


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となりのテレビ

2010年03月11日 | ショートショート


まったく隣の住人、よくもあれだけテレビを見るものだ。

安普請の賃貸住宅は隣の生活音が筒抜けで、テレビの音が日がな一日聞こえてくる。
僕はデジタル、隣はアナログ、数秒の時間差でテレビが輪唱することも多い。
時おり、テレビを見て笑っている声も聞こえる。どうやら年配夫婦の二人暮らし。
ワッハッハッハッ、オッホッホッホッ・・・
隣の住人の姿を見たことは一度もない。僕は会社勤めの独身男、生活時間帯が違うのだ。

ある週末、午後十一時前。
テレビを消すと僕の部屋は静まり、となりのテレビと笑い声。
あれ?
おや?
いや、そんなありえない。

次の週末午後十一時前、僕は早々にテレビを消して壁に耳を寄せた。
まちがいない。
笑うタイミング、笑い方、何から何までまったく同じなのだ。毎週、毎週、録音を再生するように!
テレビを見ているふりをして笑い声の録音を流しているのか?
・・・何のために?

・・・となりの住人はいったい何者なのか??
知りたくて知りたくてたまらなくなった。
翌日、僕は回覧板を持って隣室の玄関前に立った。
いつもは新聞受けに回覧板を差しておくのだが、呼鈴を鳴らした。
反応なし。何度押してもダメだった。
「すいません」・・・ノブを回すとカチャリと開いた。

居間から声がする。
「回覧板ですよ~!いるんなら出てくださいよ~!」
僕はズカズカ上がり込んで、居間の戸を開いた。
居間の中央に卓袱台がポツンとひとつ。その両側にテレビが2台。
画面にはそれぞれ、父の顔のアップ、母の顔のアップ。二人とも数年前に死んでしまったのに。
「おお、タカシ、大きくなったなぁ!」
「さあ、御飯ですよ、お座りなさいな」
僕は卓袱台に座る。ふと気がつくと僕もテレビになっていた。テレビ3台、一家団欒水入らず。

思い出した。
僕がまだ小学生の時の記憶。
「タカシったら、晩御飯のときはテレビを消さなきゃダメじゃないの、ねぇパパ」
「タカシ、テレビばっかり見てたらテレビになっちゃうぞ」
「パパもママもテレビばっかり見てるくせに!僕、テレビ大好き!テレビになってもいいもん!」
「じゃみんなでテレビになっちゃうか?」
アッハッハッハッ、オッホッホッホッ、エッヘッヘッヘッ・・・


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