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戦え!トラやん(大晦日危機一髮の巻・後編)

2009年12月31日 | ショートショート


来年につづかない!!
今年中にケリをつけてやる!!

そう叫んだトラやん、いそいそと全裸に!
「な、何をする気だ?まさか」
青ざめる鬼塚!
「ジョワッ」ブボボボボボボボ!!
全裸のトラやんは肛門よりガスを大噴射、ウルトラマンのごとく空間飛行、鬼塚へと一直線!
頭頂で黄金水の蒟蒻ゼリーを撃破、粉砕!黄金水は小さな球体と化して四散した。
さらにトラやんの禿げ頭に浮遊していたチャンポン麺が次々と付着、まるでレゲエ親爺だ。
両目にナルトがペタペタ貼り付いてグルグル目に!キクラゲが眉に!鼻の穴にはコーン!
ゲロバリアにまみれたトラやん、酸っぱい臭いにひるむことなく、鬼塚のムキムキの胸板を一撃!
鬼塚の体は後方にブッ飛んで、壁に打ちつけられ、はね帰って戻った。ワイヤーアクションみたい!
しかぁし、鬼塚は余裕のよっちゃん、
「フフフ、お前はまだ俺の本当の怖さを知らん!」
両目のナルトを剥がしたトラやんが目にしたのは、鬼塚が自らのバズーカ砲を握りしめる姿であった。
「くらええい!」
鬼塚が発砲する弾丸・・・白アメーバが次々とトラやんに襲来!
トラやんはマトリックスみたいに体を反らせてかわす。
果てることなく繰り出される白アメーバ!恐るべし絶倫鬼塚!
「トラやん、アディオス!」
鬼塚が発射ボタンをポチッ・・・108秒後にオカマ爆弾が地球に発射される!
呆然とミサイルを見つめるトラやんの顔面に白アメーバがベチョ!心なしか甘かった。
「もう誰にも止められないもんね~!キムタクもフクヤマもオグリシュンもみんなオカマだ~!ワハハハハ」
笑い続ける鬼塚。
南無三・・・
トラやんは壁にフックで掛けられた工具袋の中からハンマーを取り出し、ミサイルの弾頭へと向かった。
「な、何をする気だ?」
鬼塚の制止をふりきってトラやんは力まかせに弾頭を叩いた。
プシュ~
高濃度のオカマガスが宇宙船内を満たしていく。
・・・実は鬼塚に惹かれるものを感じていた。機会的同性愛に過ぎないと思っていたが。
鬼塚の酸いも甘いもすべてを知った今、心から言える、愛していると。
鬼塚が叫ぶ。
「や、やめろ!・・・やめてくれ!・・・やめて!・・・やめてったら~ん・・・アアン、やめないで~」

青い地球と漆黒の宇宙との境界がまばゆく輝き始める。地球の向こうから太陽が昇り始めたのだ。
トラやん、そして鬼塚、ご来光に二礼しパンパンと柏手を打った。
よいお年を!!

 
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戦え!トラやん(大晦日危機一髮の巻・前編)

2009年12月30日 | ショートショート


トラやんが目を覚ますと、居住棟にただひとり。
鬼塚は?
トラやんは眠る前の状況を思い出した。ここは地球から800キロ離れた宇宙空間。狭い円筒型の宇宙船内部。
もう一人の宇宙飛行士、鬼塚の姿がない。
鬼塚が作ってくれた年越しそばを食ったあと、急に眠くなって・・・
ア!見っけ!!
モニタに鬼塚の姿!実験棟で、見たことのない装置を組み立てている。
トラやん、思わずモニタ横のマイクをつかんだ。
「お、鬼塚・・・おまはんテロリストやな?」
「フフフ、お目覚めかな?だがもう遅い。準備満タンだ。これはテロではない。未来作りなのだよ。この宇宙船から特殊爆弾搭載ミサイルを地球へ発射する」
「特殊爆弾やて?」
「そう、オカマ爆弾。オゾン層で大爆発、男性全てが同性愛になるオカマガスが世界中に降りそそぐのだ」
「なんちゅう爆弾作んねん」
「どうだ、トラやん。オカマ効果が消えたあと、地球に帰還すれば全女性が我らのものに。トラやん、一緒に地球に帰ろう!」
「アホらし!もてへん男の考えることや!やめなはれ!」
トラやんは居住棟の壁面を蹴って、無重力空間をひとっ飛び!弾丸となって実験棟へ突入した。
「愚かなことを!これをくらえ!」
鬼塚、やおら自らの口に太い指をグイと突っ込んだ。
オオゲゲゲゲゲ~!
飛散する未消化物!麺、キャベツ、豚肉、ニンジン、モヤシ、キクラゲ、カマボコ、コーン。
「どうだぁ!ゲロバリア~!」
間一髪、トラやんは体をひねって、実験棟の壁にしがみついて難をのがれた。
こ、これはチャンポンだ!無重力にゲロバリアを張る行為も許せなかったが、大晦日に自分だけチャンポンを食う行為も許しがたかった。
「フフフ・・・ゲロバリアを通り抜けてこちらに来る勇気がお前にはあるまい。さあ、ミサイルの発射ボタンを押しちゃお~っと!ボタンを押したら108秒後にミサイル発射だ。大晦日だからな!」
鬼塚がボタンに手をかける。
トラやん、意を決してゲロバリアに向かう。
「畜生!エエイ、これならどうだ!!」
鬼塚はいきなり下半身を露わにすると、別のバリアを放出!
蒟蒻ゼリーのようにプルプルと無重力を漂う汚物群に、トラやんは固まった。
む、無理だ・・・これはさすがに・・・
「クッソ~、人類に来年はあらへんのかぁ?」
トラやんが来年のことを呟くと、鬼塚が不敵に笑った。

・・・トラやんは汚物バリアをクリアしてオカマ爆弾を阻止できるのか?
はたまた地球の男たちの運命は?

来年につづく!!

 
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ニュー〇〇〇パラダイス

2009年12月29日 | ショートショート


(子供の声は『プライバシー保護のため音声変えてあります』の高い声)
(お祖父ちゃんの声は『プライバシー保護のため音声変えてあります』の低い声)
(文中のPは、放送規制のP音)

子供「お祖父ちゃん、どうして昔の番組は口にモザイクなの?」
テレビでは、懐かしい『シャーロック・ホームズの冒険』が放送中です。ホームズの口元・・・あのサキソフォンのように曲がったパイ(P)にモザイクがかかっています。
お祖父ちゃん「ああ、あれかい。あれはパイ(P)じゃよ」
お祖父ちゃんがチャンネルを変えると、昔のニュース映像です。タラップを降りるマッカーサー元帥です。口元のコーンパイ(P)にもやはりモザイク処理が施されているじゃありませんか!
子供「なんで隠してあるの?ねぇ、なんで?」
お祖父ちゃん「ハハハ、昔の人はどこででも平気で吸っていたけどなぁ。今じゃとんとお目にかかれんのう」
子供「ねぇ、お祖父ちゃん教えてよう!」
お祖父ちゃん「ウム。誰にも内緒だぞ。パパにもママにも。約束は守れるの」
子供がうなずくと、お祖父ちゃんは話し始めました。
お祖父ちゃん「昔々・・・ずっと昔じゃ。政府のあとおしで、タバ(P)が体によくないことが研究されたのじゃ。肺ガンや心臓の病気になりやすいこと、お腹の中の赤ちゃんが死んでしまうこと、喫っている人の近くにいる人の健康にもよくないことがわかったのじゃ。政府は国民にタバ(P)の害を訴えたのじゃ」
子供「体に悪いんならしかたないね」
お祖父ちゃん「他にも体に悪いものはたくさんありそうじゃがの。ま、それはさておき、政府はポスターを貼ったり、コマーシャルを流したりして、タバ(P)が危険なことを訴えた。それに、病院や役所で吸うことを禁止した。そして、バスや電車などの公共の乗り物で吸うこともな」
子供「うまくいったの?」
お祖父ちゃん「ああ、タバ(P)の税金を一気に上げたことで、吸う人が激減した」
子供「体によくないタバ(P)がなくなってよかったね!」
お祖父ちゃん「よかった?・・・まあ百年も経てばわかるさ」
・・・
部屋のドアを蹴破って、私服警官たちが乱入!
たちまちお祖父ちゃんは警官に取り押さえられました。
警部「すべて盗聴したぞ。政府のやり方に不満があるようだな?」
お祖父ちゃん「いえ・・・今の話は、昔々の話・・・全部、ナチスドイツがしたことなんじゃ!」
警部「政府をナチ呼ばわりとはけしからん。署で話を聞こう。我々が一歩遅かったら、子供が受動的喫(P)になるところだった。危ない、危ない。さあ、連行しろ!」
・・・
お祖父ちゃんが連行されたあと、部屋に一人残された子供は、リモコンをテレビに向けました。
テレビ画面が録画映像に切り替わります。
それは昔の映画シーンを編集してつなげた映像、モザイクなしの映像です。
・・・
さらば友よ・・・ブロンソンの煙草に黙って火をつけるドロン・・・
第三の男・・・並木道を歩いてくる女、煙草を燻らすジョゼフ・コットン・・・
曲がった煙草を親指と人差し指で摘んで吸うハンフリー・ボガード・・・
太い指に安葉巻を挟んで頭を掻きながら振り返る刑事コロンボ・・・
シガーカッターを使わず噛み切ってペッと吐き捨てるイーストウッド・・・


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ママがサンタにキッスした

2009年12月25日 | ショートショート

つるさんのプログの X'mas 短編競作企画 の作品を読ませていただいて、とっても楽しそうだったので、初参加させていただきました。
ブラック・クリスマスですけど、能天気な曲とのコントラストってことで・・・。
過去クリスマスショート・ショートも引っ張りだしてアップしております。


「ワオ!プレゼントだ!ママ!サンタさんからプレゼントだよ!」
タケシはすぐに枕元のプレゼントを発見、大はしゃぎです。
「ねぇ、ママ!開けていい?」
隣で目を覚ましたママが微笑みます。
タケシは包装紙をバリバリバリ!
プレゼントの中身は・・・
なんと、「仮面ライダー変身ベルトコンプリートセレクション」ではありませんか!!
ミカン箱ほどのバカでかい黒化粧ケースに納まったそれを早速取り出します。
本革・・・ダイキャストパーツ・・・スイッチを入れると、
ヒュイ~~ン!!ガガガガガ!
風車が開いて回転!さすがはコンプリート!
「ほしかったんだよう!クリスマス最高!ありがとうサンタさん!」
タケシはもうウルウルです。
「お部屋で遊んでいらっしゃい」
「は~い!」
パジャマに羽織ったガウンの上に変身ベルトを巻いて、タケシは寝室を飛び出しました。

「ママ、いいのこれで?」
いつの間にかタケシの出て行ったドアにハヤトが立っています。
「いいんじゃないの、これで」
ママはため息をつきました。
「ママはパパと結婚するとき、パパのご両親から頼まれたの。パパは30年間ずっとサンタを信じてる。これからはご両親に代わってママがサンタをやってほしいって」

「嘘だ」
ハヤトの後ろからうめくような声。タケシの声。
「あ!パパ!」
「嘘だ。サンタはいるんだ。いないといけないんだよ、信じない人間がサンタを殺しちゃうんだよ、ママ・・・それにハヤト・・・」
「パパ!やめて!」
「な、何をするの!!キャ~!」

・・・

隊長は、あの忌まわしい記憶をふり払いました。
「隊長、大丈夫ですか?」
隊員たちが心配そうに覗き込んでいます。全員、迷彩戦闘服にライダーベルトを装着した兵士たち。
隊員の一人が小声で鋭く隊長に告げます。
「ターゲットがすでに歌い始めています!」
隊長が突撃銃の安全装置を外します。
「戦闘態勢!」

♪それは昨日の夜 サンタのおじさんが♪
♪重いフクロ肩にかついで そっとお部屋に入ってきたら♪
♪ママは寄り添いながら やさしくキッスして♪
♪とても嬉しそうにお話ししてる♪
♪でもそのサンタは

ズダダダダダダ!!鋭い突撃銃の銃声。

「危なかったですね、隊長」
骸となって重なった家族を沈鬱に見下ろす部隊。
サンタを守るためには手段を選べません。

Mama kissed Santa Claus - サンタがママにキッスした

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今年もサンタがやってくる

2009年12月25日 | ショートショート

(2008年11月27日初出。2009年12月24日再アップ)

朝食の食卓で、顔を紅潮させて息子が私に聞いた。
「ねえ、パパ、今年もサンタさん、来てくれるよね?」
息子の声さえキンキン頭に響く。
疲れているのだ。
「パパ、サンタさん、僕にもプレゼントもってきてくれるよね?」
うるさい・・・
私は、何もつけていないトーストを一口かじって首を振った。
「いいや。おまえが寝入ったときにパパがプレゼントを靴下の中に入れるんだ」
息子の笑顔が消える。
「嘘だよね、パパ。サンタさん、ホントはいるよね?」
私は、無視してトーストを咀嚼している。
あきれた妻が息子に言う。
「サンタさんはいるわ。今日のパパはどうかしているの。ママが約束する。サンタさんはあなたのところに、もちろん来てくれるわ。サンタさんが家に入ってきたとこをママは見たこともあるんだから」
妻が私を睨んでいる。
私も妻を睨み返す。
「本当のことを言って何が悪い?プレゼントをこっそり靴下に仕込むのは、いつだってこの俺だ。今までだってそうだ。去年も一昨年も。ずっとそうだったじゃないか」
妻が怒りの目から徐々に悲しい目に変わった。
「あなた、どうかしているわ。まだ5歳の子供に言うことじゃないわ。あなたらしくない。全然、あなたらしくないわ」

仕事に出る前に妻は私を後ろから抱きしめて言った。
「今朝のあなたは変だわ。いつものあなたじゃない。残業が続いて心底まいっているのよ。今日は仕事をお休みしたら?」
私は妻の言葉が理解できなかった。
「な、何を言ってるんだ?今日、休んだら俺はいったい今まで数ヶ月間、何のために仕事をしてきたかわからなくなってしまうじゃないか。バカなことを言うんじゃない」
妻がきっぱりと言った。
「我が子や妻を幸せにできない仕事なら、あなたの仕事なんて意味がないわ」
「・・・」
妻の言うとおりだ。
今月に入って特に仕事は多忙を極め、完全にオーバーフロー状態だ。すまない・・・この仕事が、愛する息子を傷つけ、愛する妻を傷つける仕事であっていいはずがない。
「ごめん。忙しすぎたんだ。許してくれ。必ず償うよ」
私は妻を抱きしめて、何度もあやまって仕事に向かった。

職場に着くと、昨日までに輪をかけて、てんてこ舞いの忙しさだった。
貨物配送担当のマイクは目を充血させていた。徹夜で配送物の仕分け作業を続けていたらしい。
運搬車両担当のピーターは、安全点検の最終チェック中。自慢の最新のグラスファイバー製の橇をピカピカに磨き上げている。
調教担当のビルは、ハーネスを装着した赤鼻のトナカイたちの身体を愛おしくブラッシングしている。
私たち、配達担当、所謂サンタクロースは、朝から、定番の赤いコスチュームの試着や、配送先の住所や侵入場所の確認などの最終チェックが夕方までかかった。
準備がととのった。
「さあ、マイケル、ショウタイムだ」
子供が休み始めた時間を見計らって、我々サンタは全世界の子供たちのもとへ出動した。

数千件に及ぶ、すべてのプレゼントの配達ノルマが終了すると、例年のごとく深夜だった。疲れ切った私は我が家に戻った。
私の手には最後のひとつのプレゼント、我が愛する息子へのプレゼントが載っていた。
ツリーの靴下にプレゼントを入れると、私の帰りを待っていた妻とともに息子のベッドを覗いた。
幸せな寝顔だ。
サンタが来てくれるのを信じているのだ。
「ごめん、朝のパパはとても意地悪だったね。こうやって今年もサンタがプレゼントを持ってきたよ。信じていい。おまえが信じているかぎり、来年も再来年もずっとずっとサンタは必ず来るよ。約束する」
私は妻と手をとりあい、我が子の頬にキスした。
「メリー・クリスマス」


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おばあちゃんのクリスマス

2009年12月25日 | ショートショート
(2008年12月7日初出。2009年12月24日再アップ)

ピロロロロ・・・ピロロロロ・・・カチャ
「ハイ、田中シヅですがの」
「あ、田中シヅさんですか?こちら水前寺町立病院外科医、野々村ですぅ。田中シヅさん、年齢77歳、ひとり住まい、携帯あり、自宅から数100メートルに農協のATMあり、性格はいたってお人好し・・・の、田中シヅさんでよろしかったでしょうか?」
「間違いないの。じゃが、よう調べなさったの」
「じゃ、おじいさんと替わります」
「爺さんは去年死んでしもうたが・・・」
「ホー、ホッホッホッ、メリー・クリスマース!!わしゃサンタクロースじゃ。痛っイタタタタタタ・・・昨夜、大変な怪我をしましての」
「どうなさったじゃ?」
「橇で夜間飛行中に、ボーイング747とニアミスしましての。トナカイどもがパニックを起こして散り散りに逃げようとして・・・そのまま真っ逆さまに墜落ですわ」
「そりゃあお気の毒に、お怪我は?」
「手足に骨折3カ所、肋骨にヒビ2カ所、顔中にトナカイの蹄鉄のあと・・・」
「痛いでしょうなぁ」
「そりゃあもう、アイタ!アイタタタタタ・・・野々村先生に替わります」
「あ、おばあちゃん、サンタさん、お金、フィンランド紙幣しか持ってないんですよ。さしあたりの治療費がなくて困っていらっしゃる。力になってあげてくれませんか?」
「いくら要るんですかの?」
「8万・・・いや、10万かな?出していただけますか?」
「ええとも、ええとも、さぞお困りじゃろうて」
「じゃ、今から指示しますんで・・・携帯持って、農協のATMへ着いたら、こちらに電話してください・・・090-333-33・・・」
「それで・・・その10万で帰れるんですかの?フィンランドへ?」
「え、いや、それは、おばあちゃんが心配しなくても・・・」
「怪我も治されて、遠いお国にも帰られんとならん。子供らに夢を与える仕事を無償でなさって、大怪我なさって。ほんに気の毒で悲しゅうなります・・・そうじゃ、爺さんの残した金が33万、通帳にあります。爺さんもきっと喜びます。全部、全部使うてくだされ」
「・・・」
「お金はええことに使わんと・・・ほんに・・・ほんに・・・大変な目に遭われて・・・」
「おばあちゃん、何も泣くことは・・・泣かないで・・・ちょっと待って・・・サンタさんと話を・・・」
「・・・あ、おばあちゃん、お待たせしました。やっぱ8万でいいわ」
「お願いします・・・33万、使ってくだされ」
「いや、8万で頼みますよ・・・でないと・・・俺たち、困るんです」
「そんなこと言わずに、人生最後にこんな善いおこないができるなんて、神様のおはからいじゃて・・・33万使わせてやってくださいませ」
「ちょっと、待って。またサンタさんと・・・」
「・・・何度もすみませんね・・・おばあちゃん、そっち雪が降り出したみたいです。外、出たら風邪ひくわ、今日は振り込みやめとこうよ。サンタのおじいさんに替わりますよ」
「あら不思議、怪我がぜんぶ治りました。いや、以前よりずっといい。ありがとう、おばあちゃん、メリー・クリスマス」
カチャ


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飛べなくなった男

2009年12月24日 | ショートショート


「ケント君、すごいやんか!なんでサイコロ、右手に入っとんの、わかるん?」
「え・・・ヒロ君、見えんのん?手の中のサイコロの、黒い四角の影、見えんのん?」
最初に僕のチカラに気づいたのは、僕じゃなくて、うちに遊びに来てたヒロ君だった。
僕にとって透けて見えるのはあたりまえ、ヒロ君に言われるまで気がつかんかった。
ヒロ君は夢中だったボードゲームそっちのけ、僕に『サイコロ当て』させた。
両手を後ろに回して、右か左にサイコロ隠して、僕の前にコブシを突き出した。
「どっち?」
僕は、透けて見える黒い四角を指さす。ヒロ君が驚きの声を上げ、また繰り返す。
何度やっても当たる。だって見えるんだもん。

翌日の小学校、朝から早速ヒロ君、僕に『サイコロ当て』やらせた。
最初は男子三人に囲まれてた。
「すげぇ~!ケント君、エスパーじゃん!ユリゲラーじゃん!」
他の男子もクラスの女子も集まってきた。
話したこともなかった女子もサイコロを握って、僕が当てた瞬間、大喜びした。
なんだ、女子と仲良くなるの、簡単じゃないか。

その日の午前中には僕、クラスのスターになってた。
その日の午後、隣のクラスにも行って拍手喝采もらった。

ホームルームのあと、担任の先生に呼ばれた。職員室の隣の放送室に連れて行かれた。
ヒロ君が僕のポケットにサイコロ突っ込んで、ピースして見送ってくれた。

担任の先生は若くて独身、やさしくてしっかり者。
クラスのみんな、ヒロ君も僕も大好きだった。
放送スタジオの中、先生と二人きりになった。

先生はやさしく笑って、『サイコロ当て』してほしいと言った。
もちろん!先生に見せてあげる!
五回繰り返し五回を正解したとき、先生はすっかり興奮して、僕の頭をクシャクシャにした。
「ホント、すごいのね、ケント君!」
先生が僕をムギュって胸に抱いた。フルーツみたいな匂い!そして気を失いそうな、この弾力!
アア・・・耳たぶにふんわりしたクチビルがふれた。そして耳元でささやいた。
「ケント君、先生にだけ教えて、タネあかし。どうやってだましているの?」

それ以降のことは覚えてない。きっと泣き出して、先生に家まで送ってもらったんだろう。
そして、親からも問い詰められたかもしれない。
全然覚えてない。
それ以降、僕はチカラを失ってしまった。
あれから僕は何も見えなくなった。手の中も、心の中も。
僕はもう二度と飛べなくなった。


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ワンランク上の旅

2009年12月23日 | ショートショート


「じゃ、ボックスのランクを決めましょうか」
「ランクがあるんですか?夢にも?」
店員は笑顔でうなずくとフロアの展示コーナーに僕を案内した。
ステージには三つのボックスが並んでいた。大人が横になって納まりそうな長方形の箱。
ファーストクラス・・・
自然木、それも桧の一枚板に全面手彫りの最高級ボックス。367万5000円也。
エグゼクティブクラス・・・
人気の白布張りボックス。花柄有り。側面把手がアクセント。52万5000円也。
エコノミークラス・・・
一部桐材使用。ご負担の少ないリーズナブルボックス。5万2500円也。

紹介されたボックスを見渡して、僕は肩をすくめた。
「何だか縁起でもない感じのラインアップだなぁ。僕は僕自身にとってワンランク上の夢を見たいだけなんだからエコノミーで十分。ボックスの豪華さなんて気にしない」
「お客様、ボックスなんて見栄に過ぎないとお思いでしょう。ですが、これは『夢への旅立ちボックス』だということをお忘れなく。お客様はこのボックスに乗り込んで、数時間心地よく眠り、これまでの人生の夢を見ます。装置の制御によって実際よりワンランク上に脚色された人生の夢を!」
「それは店に来る前にパンフレットで読んだ。それで?実際、夢にもファーストとエコノミーで差があるのか?」
「お客様ご自身が最高の人生を歩んでおられたとしたら?絶世の男前だったり!年商10億を稼ぐ起業家だったり!それよりさらにワンランク上の夢のためにはそれなりのボックスが必要でしょう?人生の晴れ舞台にはそれに相応しいお棺を、もとい、ボックスを!」
「そんなものかな・・・まあ、僕はエコノミーで十分。エコノミーで頼む」
「わかりました。お客様の履歴を見る限り・・・ま、エコノミーで十分でしょう。では、お客様のワンランク上の夢の旅を!グッドラック!」
・・・
数時間後、僕は目覚めた。
揉み手をしながら店員が僕の顔を覗き込んだ。
「いかがでしたか?ワンランク上の夢は?」
「うん、まあまあだな。確かにワンランク上の夢だった」
店員が僕をボックスから抱き起こしてくれた。
エコノミークラスよりひとつ下のボックスから。
ボール厚紙再生紙使用、外国製、『低所得者様クラス』、2万1000円也。


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旋回舞踊~降りそそげ神の恵み~

2009年12月19日 | ショートショート


舞台上で位置についた8人の男たちが一斉に黒マントを脱いだ。
真っ白なロングスカート姿となった男たちは自らの肩を抱くように両腕をクロスする。
そしてネイの旋律に合わせて体を回転させ始めた。
次第に白いスカートが波打ち、ゆっくりと広がり、そして円を描き出す。
クロスしていた腕は解き放たれ、右掌は天に左掌は地へ。
何か大きな存在に身を委ねきっているような、その姿勢で、ひたすら回る。
セマーゼンたちによる「セマーの儀式」に私は心を打たれた。
私は世界中を旅して求め続けていたものをついに見つけた。

「セマーをやりたいんです。セマーゼンになりたいんです。何でもします。お願いします」
「日本人のあなたが?イスラム教スーフィー派に改宗してでも?」
「かまいません!」

こうして私はメヴレヴィー教団への入信を許された。一年間の修行で奥義を究め、日本へ戻った。

アナ「さあ、フィギュアスケートグランプリも大詰め!アチャダマヨとキムチョナ、二人の演技を残すのみとなりました。どうでしょう?アチャダ選手に勝算は?」
解説「マヨちゃんならやってくれる、そう信じています」
アナ「アチャダマヨ、リンクに登場です。やややっ!白のロングスカートです!何をおっぱじめようというのでしょうか?」
解説「この衣装は男性ファン、がっかりですね」
アナ「民族楽器の調べにのせて回り始めました!回る、回る。氷の上でひたすら回るその姿は、まさに氷上わかさぎ釣りのアイスドリルであります!」
解説「見逃してはいけませんよ!マヨちゃん、リンクを大きく円を描いて一周しています。まさに、自転しながら公転をする惑星!回転は宇宙を表している!」
アナ「ここで演技時間4分間終了・・・アチャダ選手、回転をやめません!規定を一切無視した演技に審査員は失格の判定です。それでもアチャダ選手、 回り続けます!」
解説「これは演技なんかじゃない!祈りの儀式です!旋回によって神の恵みがわれわれに降りそそいでいます!」
アナ「ああ!観客全員がスタンディングオベーション!審査員も立ち上がった!競技を超越した素晴らしい旋回舞踊に会場は涙と感動に包まれています!」
解説「神よ!神だわ!」
アナ「おっと!マヨ選手、吐いた!実は目が回っていたぁ!!高速回転噴射によってリンクも観客席もマヨゲロの雨あられであります!!オオップ!観客次々とモライゲロだ!会場はゲロの修羅場だぁ!では私も失礼してオゲゲゲゲ~!」
解説「神の恵みに包まれていく~!オオゲゲゲゲ~!」



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バベルタワー構築と解体

2009年12月17日 | ショートショート


世界に散らばっていた人類が一人また一人と集った。
彼らはまず、広大な平野に基礎を建造した。
そして持ち寄った建築資材を並べた。
基礎の上に柱を立てて巨大な塔の建設を始めたのだ。
彼らは楽しく歌をうたい、心ひとつにして塔を築いていった。
柱に柱をつなぎ、高く、高く。
聳え立つ塔は、やがて天を突くばかりになった。
仕上げに荘厳に装飾がほどこされ塔は完成した。
その日の夜、塔に一斉に照明が灯された。
なんという美しさだ!

光り輝く塔を、僕たちは飽きることなく見上げた。

十日くらい経った頃、完成を祝うためであろう、祝祭が催された。
神聖な音楽が地を満たし、人類は祝杯を傾けた。
祭りは深夜まで続いた。

僕たちは気がついた。塔は人類の奢りだということを。
それを象徴するように、塔の先端は星を貫いていた。

26日の朝、歌もなく黙々と塔は解体された。
基礎が取り除かれると平野が再び出現した。
人類は世界に散らばっていった。

母さんが僕たちに教えてくれた。

おまえたちは塔を初めて見たでしょう?
でもね、人類は毎年12月になったら塔を築くのですよ。
天井に届きそうな塔をね。
築いてはお祝いをして崩すのです。
そしてまた日常の自分の持ち場に帰っていきます。
毎年それを繰り返すのですよ。
わたしたちネズミには理解しがたいけれどね。
理解にとっても苦しみます。

僕たちは叫んだ。
ベリー・クルシミマウス!


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ストレンジャー・ザン・パラノイア

2009年12月16日 | ショートショート

クライアントは約束の時間どおりにやってきました。
30代半ばの男性会社員。これまでに5回カウンセリングをおこなっています。
仮にSさんとしておきましょう。
Sさんは無言でカウンセリングルームのソファに腰を下ろしました。
「どいつもこいつも・・・油断できない・・・」
Sさんが唸るように言いました。
「辛いことがあったんですか?」と、私が尋ねるとSさんはうなずきました。
「電車の中でもずっと悪口を言われる。乗客全員からだ。僕に聞かれないように、携帯メールで僕の悪口を交換しあってるんだ。僕を見ていないふりをしていても、僕の後ろで携帯のカメラで撮って笑っているのがわかるんだ」
そうです。Sさんは被害妄想型パラノイアです。まずはリラックスしてもらいましょう。
「Sさん、ここは1対1でお話しできる部屋です。サングラスもマスクもとって。深呼吸しましょう」
Sさんは小刻みに震えていました。しかしやがて、私がSさんを受容する態度でずっと待っているので安心したのでしょう、ゆっくりと息を吐いてサングラスをとりました。
カウンセラーはまず、クライアントが自分自身を知る手伝いをします。そして、くよくよと考え続けることによって特定の感情についての脳内配線を強化してしまっていることに気づかせます。問題を明らかにして本来の自分の再構築を図るのです。
Sさんはいつものようにいったん話し始めると饒舌でした。
会社でも上司や同僚、OLたちがSさんの悪口をヒソヒソしていること。
自宅を一歩出ると、近所の人がSさんを好奇の目で見ること。
隣の主人がSさんの留守中、妻と浮気をしているようにさえ感じること。
Sさんは、次第に涙声になって頭を抱えました。
「それに最近、僕、人の顔がまったく別人に見えるんです」
・・・パラノイア(偏執病)は特定の強い妄想を抱くものですが、どうやらSさん、人格障害を来しているようです。統合失調レベルなら専門のドクターにリファーしなくては。
「別人に見える?誰の顔がそう見えるのかな?」
「隣の主人が、あなたに・・・カウンセラーの先生に・・・」
「気の毒に・・・」
・・・私は30分のカウンセリングの時間いっぱい、Sさんの話を親身に聞きました。もう少し様子を見ることにしましょう。次回のカウンセリングの日時を調整するとSさんは退室しました。
でも、Sさん、すぐにドアを開けて部屋に戻ってきました。
「先生・・・スミマセン!忘れてました!隣の奥さんも別人に見えるんです。僕の妻に・・・それで、僕・・・思わずやっちゃいました」


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世界の中心で愛を叫んだけど

2009年12月13日 | ショートショート


チャペル前の噴水広場で、ウェディングドレスのマユミがブーケトス。
ブーケが青空にスローモーションで舞う。参列の独身女性の歓声が上がる。
参列者が再び、花嫁に視線を戻したとき、花嫁はその場に崩れるように倒れた。
フロックコート姿の新郎の僕は、マユミを抱きかかえる。
「マユミ!しっかりするんだ!」
「カイト、ありがとう。あたし、とっても幸せだった・・・このまま眠らせて・・・」
「お願いだ!目を開けて!」
「あたし、カイトとずっと一緒だよ。いつもそばで見守っているから・・・」
参列者がマユミと僕の周りに集まる。そして、誰からとなくハミング。
人気シンガー拾井犬のヒット曲のハミングが二人を包んだ。
「マユミ!愛しているよ!ずっと!」
「あたし・・・も・・・」
純白のロンググローブに肘まで包まれたマユミのほっそりした腕から力が抜けて、僕の肩から落ちた。
チャペルの鐘が響く。
白い鳩が一斉に青空に飛びたつ。
ハミングはやがて拾井犬のボーカルに変わる。

・・・エンドロール・・・

映画が終わって映写室が明るくなっても、会場にいた8名全員、グズグズになってすすり泣いていた。
最前列の恰幅のいいご年配が立ち上がる。ハンカチで涙をゴシゴシ、鼻水チンしてから一同に言う。
「映画をご覧になった皆さん・・・恥ずかしながらこんなに泣いたのは久しぶりです」
残りの7名全員がうなずいた。
「しかも、この話、実は実話なんです。原作者のカイトさんは難病のマユミさんを挙式当日に失いました。2年後にカイトさんの書き綴った小説が大ベストセラー!その1年後にナガサワマチャミ、モグリシュン主演で完全映画化!」
一同がどよめく。
「どうでしょう?我々の力でカイトさんを悲劇から救ってあげては?賛成の方、挙手!」
一同が一斉に手を挙げた。複眼を駆使して素早く数える。
「ええと・・・反対ゼロ、賛成64・・・救助決定!」
64本の腕が下りる。8名のそれぞれに8本ずつの腕。
「それでは、マユミさんの病気が発病する前に時間を戻します。さらにマユミさんが難病にかからないように予防治療しま~す」
64本の手が割れんばかりの拍手、拍手!

3年前に戻って・・・
ごく平凡な男性カイトは、これまたごく平凡な女性マユミとしばらくつきあったが、ささいなことで喧嘩してそれっきり、ベストセラーも映画も何にもなし。


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金の斧

2009年12月11日 | ショートショート

(2008年11月25日初出)
(2009年12月11日「ばか言わシアター」で朗読していただきました)


父「おい、タカシ、座りなさい」
タカシ「なんだい、父さん」
父「いいから、座りなさい。タカシ、また、母さんに嘘をついたそうじゃないか」
タカシ「嘘なんかついてないよ」
父「それが嘘だというのだ。嘘つきが嘘をついてないといっても、言っている言葉が嘘だから嘘をついていることになるのだ」
タカシ「でも、『はい、嘘をつきました』と言ったら、そのまま嘘をついたことになってしまったはずじゃないか。これだから大人は信用できないな」
父「理屈はよい。今日は父さんが良い話をしてあげよう」
タカシ「じゃ、良い話を聞いてあげよう」
父「うむ・・・昔、それはそれは正直な林業従事者がおりました。あ、タカシ、今では○○○は林業従事者という方がいいみたいだぞ。その林業従事者が斧で森林伐採作業中、不慮の事故によって、斧を泉に落としてしまいました。すると、泉の精が現れて、『お前の落としたのはこの金の斧ですか?』と尋ねます。林業従事者は『いいえ、違います』と答えました。泉の精が、銀の斧を見せました。林業従事者は『いいえ、違います』と答えました。最後に泉の精は、林業従事者の鉄の斧を見せました。『それです。私の斧です』林業従事者が言います。泉の精は林業従事者に斧を3本全部くれました。それを聞きつけた悪い林業従事者、急いで森の泉に行くと、わざと斧を泉に投げ込んで、金の斧を手に入れようとしました。泉の精は怒って、悪い林業従事者の斧も返してくれずに泉の中へと消えてしまいましたとさ。めでたし、めでたし・・・どうじゃ、この話から得られる教訓があるじゃろう?」
タカシ「う~ん」
父「よく考えるのじゃ。お前にとって大切な教訓があるだろう?」
タカシ「金メダルしかいらない、とか豪語していて失敗すると、WBCの監督までのがしてしまうとか・・・」
父「それは考えすぎじゃ」
タカシ「いやあ・・・どう考えても納得できないな。父さんは悪い林業従事者の事情を知っていますか?」
父「林業従事者にどんな事情があったというのだ?」
タカシ「悪い林業従事者の父さんの会社は不況のあおりで膨大な借金を残して潰れてしまい、母さんは10年前から難病を患い、寝たきりの生活。明日の薬代も払えない状況でした。悪い林業従事者の家に毎日、借金の取り立て屋が来て、家の戸を蹴るわ、ガラスを割るわ、『母さんを外国に売り飛ばすぞ』『内臓を売れ』などと大声でどなるわ・・・」
父「そ、それは、ひどいな」
タカシ「どうしてもお金が必要な悪い林業従事者は泣く泣く金の斧を手に入れようとしてしまいました。にもかかわらず森の泉の精は全部取り立ててしまったのです」
父「何てひどい・・・」
タカシ「人の事情も考えず一律の裁きを与える傲慢さが見えてきましたか。そもそも金の斧や銀の斧など実用性のある道具ではない。とすると、人の心を試すためだけに作られた、踏み絵のようなものなのです。三つの斧を使って、人の心の弱さを試し、翻弄したのです、森の泉の精が!」
父「な、何て傲慢なのだ、森泉!」
タカシ「傲慢さは百歩譲って、父さん、こう考えてみましょう。父さんがコンビニエンスストアに買い物に行きます。おでん950円分を買って、1000円札を出します。キレイなコンビニのお姉さんが笑顔でカウンタに500円玉、100円玉、50円玉を並べます。そして、尋ねます。お客様、あなたのお釣りはどのお釣りですか?」
父「50円だ。50円と答えるに決まっとる。あたりまえだ」
タカシ「カウンタに並べたりせずに、お姉さんが普通に間違えて500円玉を渡した場合にも、そう言ってお金を返すことが、あなたにできますか?」
父「あ、あたりまえだ。ぜ、絶対に戻すとも・・・50円だ。50円を選ぶ」
タカシ「では正しく、50円を選んだとしましょう。正直なあなたに、コンビニのお姉さんは650円くれますか?」
父「それは・・・ない」
タカシ「でしょう?現実社会では正直者はバカを見る」
父「いや・・・そんな元も子もないことは言わずに・・・」
タカシ「では、こう考えましょう。あなたは頑丈な地下室に閉じ込められた。部屋の真ん中では時限爆弾が動いている。時限爆弾には、3本のコードが繋がっている。その中の一本だけが爆弾を止めることができる。あとの2本を切ってしまえば大爆発だ。あなたの汗ばんだ手にはニッパーが握られている。さあ、どのコードを切りますか?金のコードですか?銀のコードですか?それともただの紐?カチカチカチカチ・・・」
父「そんな・・・そんな状況では話は別だ。どれを選べばいいんだ?」
タカシ「時間がありませんよ。カチカチカチカチ・・・」
父「ええっどれだ?」
タカシ「ドッカーン、はい残念。答えは、ただの紐でよかったのですよ。金や銀は電気伝導だからコードを切ると電気の流れが変わるが、紐はそうじゃないからこれが一番無難なわけです。父さん、よかったですね。本当に閉じ込められて時限爆弾をセットされた時に役に立ちますよ。そうなると僕は父さんの命の恩人だ」
父「話がどんどん脱線しているじゃないか。戻すぞ。とにかく、わしは、タカシにただの斧を選べるような正直な人になってほしいのだ」
タカシ「では最後に、父さんにひとつだけ質問です。いつも怒ってばかりの母さんにホトホト愛想が尽きた父さんは泉に突き落としました。すると、泉の精が現れて、尋ねました。あなたの心に正直に答えてください。私が差し上げるのは、女優の綾瀬はるかちゃんですか?AV女優の綾瀬はるなちゃんですか?それともご年配の方ですか?」
父「ええっ・・・そ、その中から選んでいいのか?毎日はるかちゃんに笑顔で癒してほしいし・・・はるなちゃんに月1回お相手してほしいし・・・もしかすると、敢えて母さんを選んだ場合、はるかちゃん、はるなちゃん両方まとめてゲットもありなのか?ま、待て。待ってちょうだい、タカシ君、今、考え中だ・・・」
タカシ「あ、母さん」
父「タカシ君、あれほど言っているじゃないか、嘘を言ってはいけないよ・・・ア」


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無食の人

2009年12月10日 | ショートショート


「びっくりチャレンジTV、さぁ続いてのチャレンジャー、カムイン!」
「東京都杉並区から来ました。若穂珠九郎、五十六歳、無食です」
「ニャホ・タマクロウさんですね?タマクロウさんのびっくりチャレンジは?」
「無食」
「・・・皆さ~ん、タマクロウさんのムショクって、実は食べないムショクなんですよ~!ずっと食べていないのですか?」
「ええ、ずっと」
「またまた~!『昨日から!』なんて言ったらズッコケちゃいますよ~」
「五年前から」
「エエッ!タマクロウさん、五年前から何にも食べてないんですか?エエッ!何にも飲んでもいない?いや信じられないなぁ・・・だってタマクロウさん、顔の色艶もいいし、健康そのものだ。嘘でしょう?」
「本当です」
「こりゃびっくりだ!それじゃあ、VTR行ってみましょう!」

(矢島正明ナレーション)
人は何も食べずに果たして生きて行けるのか?実は、世界中に数万人の無食の人間が存在するのである。
彼らはブレサリアンと呼ばれる。
彼らはまず、通常の食事から肉のみを食べない生活をする。続いて野菜のみの生活を。そして、水やジュースのみで生活する段階を経て、何も食べない生活を確立するのだ。
食べない生活によって、体は浄化され病気知らず、脳は活性化される。大便、尿の排出もなくなり、消化器、血管、そして全身が浄化されていく。
では、彼らは本当に何も食べないのか?実は光を食べているのである。太陽のエネルギーを直接、体のエネルギーに変換しているのだ。彼らにとっての食事は太陽を見るという行為なのである。
何も食べない生活を想像してみよう。朝ごはんを食べずに学校に行っても文句は言われない。お昼ごはんを食べる店をさがす必要もなければ、お弁当を買う必要もない。晩ごはんで一家団欒の必要もないのだ。彼女を誘うときもディナーは省略、直接ことに及べばよい。
無食の生活・・・食費ゼロ!エンゲル係数ゼロ!究極のエコロジーである!

「タマクロウさんは、それを実践しているんですかぁ?大変でしょう、食べないって」
「いや~、慣れるっていうか」
「そうですか。こいつはびっくりしました。それでは、審査員の皆さん、びっくりボタンをどうぞ!」
びっくり!びっくり!びっくり!びっくり!びっくり!
「おめでとうございます!タマクロウさん、5びっくり獲得ですよ!タマクロウさんには、スポンサーのパナソニーより、電子レンジオーブン『何でもクックさん』、日珍製粉よりカップヌーズル一年分が送られます。おや、タマクロウさん、なぜ泣いているのですか?」
「やっと・・・食べられる」


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原子力潜水艦浮上せず

2009年12月09日 | ショートショート


「水深200・・・400・・・500・・・」
コーン・・・コーン・・・
規則正しいソナー音に混じって、潜水艦の外殻が水圧に軋む不吉な音が艦内を満たした。
司令塔直下、作戦司令区画にいる全員が蒼白となってガバチョフ艦長を見つめた。
艦長は機関室長をマイクで呼び出す。
「推進装置回復の見込みは?」
「反応ありません・・・」
艦長がマイクを握り潰してしまいそうだ。
何ということだ・・・
世界最先端の原子力潜水艦の筈が・・・定置網に引っ掛かって沈没するなんて・・・

海底に到達。乗組員たちは狭い艦内の壁や天井にゴムボールのように叩きつけられた。

一時間後・・・
バラストタンクより排水、浮上を試みるも、海底の岩礁に艦尾を挟まれ、艦は微動だにしなかった。
ガバチョフ艦長は選択を迫られていた。
極秘潜行任務遂行中の救助要請は禁じられている。乗員の生命を守るために救難信号を発するか否か・・・

「あれ?何か外から音がしましたよ!」
オペレーターが方耳をヘッドフォンに押し当てて艦長に叫ぶ。
全員が耳をすまし、そして待った。
規則的なソナー音・・・
カン、カン
え?今のは?
カン、カン
聞こえた!確かに艦外からノックの音だ!
・・・だが、ありえない。ここは水深850メートルの深海だ。

オペレーターによって、艦外へのモニタが映し出されると同時に艦外との交信が可能になる。
「こちら原子力潜水艦ポーレシュカポーレ。艦長のドミトリー・ガバチョフだ。戦略上の理由で国籍は名乗れない。そちらは?」
「わたし・・・JJ。船から落ちてしまって・・・主人が心配しているわ、帰らないと・・・アメリカはどちらかしら?」
微笑む全裸の美女、たゆたう金髪がモニタに映し出される。夢でも見ているのだろうか?

「JJ、君をアメリカまで連れて行くことができるぞ。艦尾を覆っている岩を取り除くことができるか?」
「ええ・・・ジルコニア電池、積んでる?」
「ああ、予備発電のために搭載している。それで助かるのか?」
ガン、ガン、ガン・・・
艦内をJJが岩を取り除く音が響いた。
「ええ、助かるわ」
艦内の全員が安堵の表情に変わる。
バリバリバリ・・・
「助かるわ・・・わたし」
JJは爪を立てて、潜水艦の外殻を引き裂き、剥き始めた。


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