劇場の観客の期待がステージの上まで熱気のように伝わってきた。
ショーはいよいよクライマックス。観客は知っているのだ。ショーのラストの大業、奇跡の瞬間移動がこれから始まることを。
天才マジシャン、モヘンジョ太郎が不敵に笑う。歓声と拍手がさらに高まる。
さあ、見せてくれ、本物のイリュージョンを!
「ご来場の皆様、皆様の中には、こうして舞台のラストに瞬間移動の芸をご覧になったことがあるでしょう」
タキシードで細身の体を包んだ太郎が、上手を示した。上手でアシスタントの美女が微笑む。
「大抵の場合、一瞬で消えるのは、舞台の床の扉が開き、床下の『奈落』へと落ちる仕掛けです」
美女の立っていた床が抜け、小さな悲鳴とともに、舞台の下に落ちた。観客が笑った。
太郎がキレのいい身のこなしで下手を示す。
「そして、一瞬のうちに別の場所から同一人物が現れる」
下手に作られた奈落から、迫り出しがゆっくり上昇、アシスタントの女性が上半身から見えてくる。観客がさらに笑う。
「これをすばやくおこなうのが瞬間移動芸なのです。ただし、消える役、現れる役の二人が必要ですが」
上手そでから消える役の美女が登場、下手の美女と、舞台中央で肩を並べて観客に微笑む。衣裳はもちろん、プロポーションも髪形も顔貌すべてそっくり。双子の美女だ。
「それでは、本物の瞬間移動をご覧にいれましょう!」
スタッフによって、幼児用のビニルプールほどの丸テーブルが上手下手に準備された。
上手のテーブルの上に、モヘンジョ太郎がアシスタントの双子の女性と手をつないで載った。
「さあ、彼女たちとともにこちらのテーブルから・・・」
三人が一瞬にして消える。
「こちらのテーブルへ」
下手の丸テーブルの上に、三人が出現したではないか。観客がどよめく。
「私は双子でしょうか?そしてお嬢さんたちは四つ子?さあ、お客さん・・・」
三人が再び消える。
「どっちなんでしょう?」
そう続けた太郎は、観客席二階に。二階席から太郎と二人のアシスタントが観客に手を振り、そして消える。
「皆さん、これが奇跡です」
舞台の上手下手のテーブルの上で、交互にライトが点滅するように三人が現れては消える。繰り返し、繰り返し。
観客が次々と立ち上がり、割れんばかりの歓声、拍手。奇跡だ。本物の奇跡だ。
太郎の目が潤む。
そう、この喝采のためだ。人を殺してでも手に入れたかったのは、これだ。
「博士、これがタイムマシン?この平べったいテーブルみたいなのが?」
「ウム。君のいかさまマジックとはちがうぞ。本物の科学だよ、これは」
「ってことは、過去や未来の好きな場所に旅行できるんですね、コレで」
「そのとおり。時間の座標と場所の座標を設定すれば、どこにでも行ける。画期的な装置じゃよ」
「スゴイじゃないですか」
「スゴイなんてもんじゃない。時間を支配することにどれだけの価値があるやら!」
「例えば、時間設定は変えずに、場所設定だけ変えたら、一瞬で別の場所に移動できますね」
「ま、そういう使い方もできんことはないが・・・な、なんだ、その銃は。や、やめろ!やめてくれ!!」
『ヒッグス粒子、重大発表!』なんてニュースが流れていました。
ヒッグスつぶこ?
新顔の、重量級のニューハーフタレントかよっ
・・・というわけで(?)、重量制限はありません。
ちなみに、ボクは以前、『蠅男の恐怖』のパロディで、物質転送機を使って、コーヒーと牛乳を転送し、コーヒー牛乳を作る話を書きました。
成長しませんなぁ(しみじみ)
テーブルがタイムマシンだなんて、驚きです。
面白かったです。