叔父の万年筆

2011年09月20日 | ショートショート



先日、突然、叔父が亡くなった。
叔父宅に焼香を上げにうかがうと、ひとり残された叔母が喜んでくれた。
「どうしても急ぎの用で帰ることができなくて。大変でしたね、叔父さん」
叔父夫婦は五十代半ば、盆に会ったときはあんなに元気だったのに。正直、彼らみたいな夫婦なら結婚もと憧れるほどのオシドリ夫婦だった。
「ホント、急でねぇ。ふだんどおり朝御飯を食べて、歩いて碁会所に行って。急に倒れたそうよ」
「心臓がお悪かったんですか?」
「それが病気ひとつしたことないの。結局、死因は特定不能の突然死ってことになったの」
実家で概略様子は聞いていたものの、叔母の心中を思うと胸が痛んだ。
帰り際、叔母が叔父の書斎から万年筆を持ってきた。
叔父愛用のアンティークな万年筆だ。子供の頃、叔父の書斎で見たことがある。
何度も辞退したが、ぜひにと言うのでありがたく頂戴した。
実家に戻ると、仕事先に明日戻る旨、連絡を入れた。
相手が一方的に取引先からの受注変更を話し始めたので、慌てて内ポケットから叔父の万年筆を取り出した。
そしてメモ紙に走り書きしようとした。
だが、万年筆は勝手に文字を書き綴ったのだ。
『八木栗昌平』
清々しいブルーブラックのインキで綴られた文字は、ボクの筆跡とは全然違う達筆だった。
これは叔父からのメッセージだ!突然の不審死というのは実は・・・
メモをポケットに収め、ボクは急いで叔母に会いに戻った。
居間で本を読んでいた叔母にメモを手渡す。
名前を見つめているうちに、叔母の指が震え始め、涙をポタポタとこぼした。
叔母の口から絞り出すように声が漏れた。
「こいつが犯人なのね」
やはり、やはりそうだったのか。
叔母はひとしきり泣いて落ち着くと笑顔を見せ、読みかけの文庫本をボクに手渡した。
「主人はああ見えてけっこうイタズラ好きでね。主人が先に読んだ推理小説を私が読んでいると、いよいよってところで犯人を教えるのよ。まったくあの人ったら」



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14 コメント

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クレイジー (haru)
2011-09-20 11:50:50
「なんでそ~なるの」ってギャグがありましたよね。
クレイージーキャッツだったっけかな??
まさに、それですね。(^^; (ズコッ!)
お願いします (haru)
2011-09-20 13:46:51
朗読のお願いです。
2010年9月20日の「マツおばあちゃんのあの頃」を朗読させて頂いてもよろしいでしょうか?
Unknown (海野久実)
2011-09-20 13:59:08
あの世から万年筆を通じてリモートコントロール?
おじさんに主人公が乗っ取られる恐怖話にも発展できそうですが、落とし所が軽くて意外性が有って洒落ていますね。
haruさんへ (矢菱虎犇)
2011-09-20 17:48:42
なんでそーなるのっ
は、コント55号では?
あの番組の特に最初の頃、演芸場の芸をそのまんま演っているコント55号って最高でした。腹の皮がよじれるほど笑える芸って最近見ないなぁ。
おっと、ボクが年をとったせいか?
haruさんへ (矢菱虎犇)
2011-09-20 17:58:29
よろしくお願いしまっす。
BGM、なにがいいっかなぁ~
ラフマニノフのパガニーニのラプソディーとかぁ、
ショパンの別れの曲とかぁ、
ううっ
ベタかぁ~(笑)
こんな書き方して困らせてスミマセ~ン。
朗読はharuさんの作品です。お好きな曲を添えて、ご自由に料理してやってくださいませませ。
海野久実さんへ (矢菱虎犇)
2011-09-20 18:02:54
シャープペンシルと万年筆って何となく何十年も使ってしまいません?
自分の引き出しの中、とんでもなく昔のがそのまんま残ってたりするんだよなぁ
なんか物の怪になってそうな。
そうでした(汗) (haru)
2011-09-20 19:35:19
そうでした。コント55号でした。(汗)
ありがとうございました。ショパンの別れの曲いいですね。
とりあえず、著作権侵害になるべくならないような曲選びます。
haruさんへ (矢菱虎犇)
2011-09-20 20:10:27
ハイハ~イ!
よろしくお願いしま~す。
音楽つけるのってホント大変だったなぁ
(回想かよっ)
haruさんの場合、朗読もやっちゃうだからもっと大変ですよね
(朗読がメインだよっ)
なんとまあ (ヴァッキーノ)
2011-09-20 21:10:03
最初、エッセイなのかなあと思って読んでたんです。
だって、なんだかマジメテイストな感じですもん。
で、中盤あたりから、れれれ?
ミステリーなの?
って。
そしたら、ホラー?
いったい着地点はなんだ?

おお!
今回は、ボクの中では、
屈指の矢菱作品だと思います。
やられましたね、完全に。
ヴァッキーノさんへ (矢菱虎犇)
2011-09-20 21:43:40
ロマンチックなお話かなぁと見せかけて最後にズテ~ッてのは、まあ秘宝館お得意の路線ですよねぇ。
問題はその逆が恥ずかしくてできないってところで~す。

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