矢菱さんの今昔話

2012年11月29日 | ショートショート



山から帰ると、おまえの母さんが桃を食っとったんじゃ。
薄皮を剥いた果実から滴る蜜が手から肘からポタポタポタ。
唇から滴る蜜を上目づかいに手の甲で拭い、白い喉をゴクリ。
エ、エロい!
わしはン十年ぶりに劣情をもよおしてのう、食っちまったのよ。
こうして生まれたのが太郎、おまえじゃ。

 

席を外した彼女の携帯がテーブルの上に。
待ち受け画面すら「見ちゃダメ!」だもんなあ。
ちょっとくらいなら・・・。
携帯を覗いてびっくり、以前助けた動物の写真。
と、背後から彼女の冷たい声。
「あれほど見てはいけないと言ったのに」
バサバサバサバサ!彼女が飛んでいってしまった。

 

特別養護老人施設のホール。
テレビの前でひとりの老人がリモコンを手に苦戦中。
「おじいちゃん、これ、汎用リモコンなのよ。最初にテレビのボタン押して・・・」
職員の説明どおりに操作して無事解決。
「なるほどのう。実はわし、浦島太郎なんじゃ」
「ええ、皆さんそうおっしゃいます」



(最後まで読んでいただいてありがとうございます。バナーをクリックしていただくと虎犇が喜びます)