ハハハ、こいつね、亀子っていうんです。
縁日の出店で買ったんですよ。ちっちゃくてね。500円玉くらい。
なんか精巧なミニチュアのフィギュアがそのまんま動いてるみたいでさあ。
そうそう。彼女が買ってくれってせがんだんです。
まだ知りあったばかりだったなあ。
鼻緒がズレて歩けなくなった彼女をおぶって帰ったんです。
ボクの首に絡めた手に、亀のビニール袋と草履をしっかり握りしめてたっけ。
で、亀子をボクのアパートで飼うことになって。
彼女がつけんたんですよ、亀子って名前。
彼女が仕事帰りにボクのアパートに寄って亀子の世話をしてました。
ふたりで暮らし始めて可愛がったからかなあ、すくすく成長していって。
すぐにプラスチック容器じゃ狭くなっちゃって。
本格的な水槽に入れかえて、きっちり飼育用の餌とか買って。
食って、日光浴して、食って、日光浴して。ただ大きくなっていって。
なんかいつのまにかフツーの亀くらいになっちゃって。
なんかこれって違うよな・・・薄々そんな気がしてきて。
そしたら、彼女、突然もう出て行くって言い出したんですよ。
自分の着るもの、持ちもの、全部バッグにつめこんで。
でボクは、亀子はどうすんだよ?って聞いたんですよ。
だって最初に亀子を飼うって言い出したの、彼女のほうだったし。
そしたら、彼女、声を怒らせて言ったんです。
「あなたが飼えばいいでしょ?大きくなった亀なんて気持ち悪いだけじゃん」なんて。
でボクもつい、君にも半分責任があるじゃないかって言ったんです。
そしたら、彼女、
「じゃ半分っこする?包丁でまっぷたつに切っちゃう?」なんて言うんですよ。
冗談にもほどがありますよ、ね?
それで思わずカッとして。
それ以来ずっと、亀子とボクの二人だけ。彼女からは二度と連絡がありません。
ええ、それっきり。お役に立てなくてすみません。
最後にひとつ?ええ、いいですよ、何です?
亀子が巨大な理由?う~ん、餌がよかったんじゃないでしょうか。
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