映画『裏切りのサーカス』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督: トーマス・アルフレッドソン
原作: ジョン・ル・カレ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』
脚本: ブリジット・オコナー、ピーター・ストローハン
撮影: ホイテ・ヴァン・ホイテマ
音楽: アルベルト・イグレシアス
ゲイリー・オールドマン ジョージ・スマイリー
コリン・ファース ビル・ヘイドン
トム・ハーディ リッキー・ター
トビー・ジョーンズ パーシー・アレリン
マーク・ストロング ジム・プリドー
ベネディクト・カンバーバッチ ピーター・ギラム
キアラン・ハインズ ロイ・ブランド
キャシー・バーク コニー・サックス
デヴィッド・デンシック トビー・エスタヘイス
スティーヴン・グレアム ジェリー・ウェスタービー
ジョン・ハート コントロール
サイモン・マクバーニー オリヴァー・レイコン
スヴェトラーナ・コドチェンコワ イリーナ
ジョン・ル・カレ

東西冷戦下の1980年代、英国諜報(ちょうほう)部「サーカス」を引退したスパイ、スマイリー(ゲイリー・オールドマン)に新たな指令が下る。それは20年にわたってサーカスの中枢に潜り込んでいる二重スパイを捜し出し、始末するというものだった。膨大な記録や関係者の証言を基に、容疑者を洗い出していくスマイリーがたどり着いた裏切者の正体とは……。

★★★★☆
久しぶりに同じ映画を立て続けに二回観てしまった。二時間あまりの映画の中にとにかく膨大な情報量が詰め込まれていて、しかもそのほとんどが映像に語らせていて、言葉は極力抑えられているからだ。もちろん登場人物も多いし、二重スパイ容疑の幹部たちだけでもティンカー、テイラー、ソルジャー、プアマン、そしてスマイリー本人&コントロール・・・それぞれに疑いを抱けるだけの場面があるし。しかも、ぶっちゃけ全員がロシアにカス情報を漏らしているわけで、ことは複雑。その中からアメリカの重要機密を漏らしている者を特定するのが本筋のお話。スパイ小説を熟読するように、このスパイ映画もまた熟観することを求めているようだ。
ただ、リアリティ溢れる諜報戦の現実を雰囲気として感じるだけでも、十分に価値がある映画だ。言わば、ジェームズ・ボンドとは対極にあるような娯楽性のないリアルなスパイの世界。諜報部の幹部たちが互いをまったく信頼しあうことができず、疑心暗鬼で疲弊している。さしあたり現場で活動する実働部隊員リッキー・ターがジェームズ・ボンド的だけれど、そのリッキー・ターが本部へ情報を伝えた途端、現地工作員のセシンジャーやKGBのボリスが惨殺されてしまうなんていう、ロシアに筒抜け状態の怖さ。互いが互いを疑い続けるピーンと張りつめた心理的な緊迫感だけでも、楽しめる映画である。
真犯人をつきとめてからの顛末なんて、ボクの大好きなシャンソンの名曲『ラ・メール』の歌にのせて、映像だけで最後まで描いて映画を閉じてしまう潔さ。プリドーの放つ銃弾は、愛だけなのか?ハンガリーの一件の責任をとらせたのか?それすら曖昧で、プリドーの涙で、思いを語らせるなんて演出の仕方・・・。
『世界一有名なスパイ、ジェームズ・ボンド!』なんて、秘密活動をするスパイとして根本的に失敗(笑)なわけで、対極にあるリアルなスパイをここまできっちり描いた映画は他にないだろう。地味で渋い映画ではあるが、確実にスパイ映画の歴史に名を残す一本であることは間違いない。
唯一、納得いかないのは、陳腐な邦題かな。原題のままのほうがもっと売れただろうに。


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映画『飯と乙女』

2012年11月26日 | 映画の感想




監督: 栗村実
佐久間麻由 和田砂織
田中里枝 田端美枝
岡村多加江 小中咲枝
上村聡 九条和成
岸建太朗 小日向武史
菊池透 小中久男
増本庄一郎 石田久志

これが長編デビューの俊英、栗村実監督が、“食”にまつわる悩みを抱えた3組の男女が織りなす人間模様を切なくも繊細かつユーモラスに描いた群像ドラマ。渋谷のダイニングバー“Coo”で働く砂織は人に料理を作るのが生き甲斐。ところが、常連客の九条はなぜか何も口にしない。彼は、人が作ったものがどうしても食べられなかったのだ。一方、常連客の一人、美枝はまともに働かない彼氏のせいでストレスをためて過食症に。ある日、妊娠を知った美枝は彼氏に選択を迫るが…。美枝が勤める会社の社長、小中は、大食漢の妻に頭を痛めていた。経営難に苦しむ小中は、次第に追い詰められてしまい…。

★★★★☆
食べ物が美味しそうな映画や料理をめぐる映画などはたくさんあるけれど、「食べる」という行為の意味について、これだけこだわりぬいた映画は初めて観た。
この映画、6人の男女とその周辺の人々の『食』が描かれている。6人とは言ってもそれぞれ夫婦だったり同棲していたり恋愛に発展したりするわけなので実質3ペアなのだが。この6人の『食』の偏りやこだわり、『食』の病が語られつつ、それぞれの相関関係が明かされていく前半部は、人物をつかむために思わず最初からもう一度見直してしまった。作り込みすぎて唐突な場面が現れて流れが把握しにくいとも言えるが、見直すと多くの断片的なカットの意味がよくわかって楽しめる。
人が手を加えた食べ物が口にできない青年。(いきなりの烏賊のワタ、丸呑みシーンから始まる!意外と美味いらしいが・・・)
同棲生活のストレスから食っては吐かずにいられないOL。
その同棲相手で、「食べるために生きる」のを拒み夢を追い続ける男。
OLの上司で、経営難と妻の過食から、食を拒むようになっていく男。
そして、狂言回し役の居酒屋の料理大好き娘。
彼らの『食』へのこだわりや病がほんの一歩変化したり克服できたりしたときに、彼らの生き方も一歩すすんでいく様子が小気味よく描かれている。いや、生き方なんておこがましい。日常生活がほんのちょっと変わるって感じか。そのへんの地に足ついた自然体のドラマを作ることに、『食』から描くことでみごとに成功している。
敢えてナンクセつけるなら、初めと終りのブッダ云々は要らないと思った。それ、ドラマでちゃんと描かれているから。
それと、料理大好き娘をもっと前面に出して狂言回し役、観察者役にしてしまえば、全体に自然な流れが生まれそうな気がした。
小品ながら大切に抱いておきたい一品。美味しゅうございました。


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映画『ももへの手紙』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督 沖浦啓之
美山加恋 宮浦もも
優香 宮浦いく子
西田敏行 イワ
坂口芳貞 大おじ
谷育子 大おば
山寺宏一 カワ
チョー マメ
小川剛生 幸市
藤井晧太 陽太
橋本佳月 海美
「人狼 JIN-ROH」の沖浦啓之監督、Production I.Gのアニメーション制作で贈るハートフル・ファンタジー・アニメ。父を亡くし、母とともに瀬戸内の小さな島に越してきた少女が、そこで出会った心優しい妖怪たちとの奇妙な交流を通して成長していく姿をハートウォーミングに綴る。声の出演は美山加恋、優香、西田敏行。
 小学6年生の内気な女の子ももは、母に連れられ、瀬戸内の島に移り住む。彼女は、仲直りしないまま亡くなってしまった父が遺した“ももへ”とだけ記された書きかけの手紙のことが頭から離れず、父が何を伝えたかったのかを考えてばかりの日々。一方しっかり者の母は、いつも明るく元気に忙しい毎日を送っていた。そんなある日、彼女は不思議な妖怪3人組イワ、カワ、マメと出会う。食いしん坊でわがままな彼らに振り回されながらも、次第に打ち解けていくももだったが…。

★★★★☆
いや~これはもう今の良質アニメの王道中の王道だなあ。舞台となる場所を瀬戸内海の小島として徹底的に取材してリアルな日本の一地方をとことん描いている。島暮らしでもないけれど、漁村の風景も町並みも、家の調度品も、なんとも郷愁を駆られる描き込みが嬉しい。それぞれの主要な登場人物の性格や生活ぶりなどもきちんと設定して作り込んでいる。人の身のこなしもすごくリアルにこだわっている。それでいて、基本コメディ映画であって、くすぐりどころがたくさんあって。特に、妖怪三人衆のイワ、カワ、マメなんて漫才トリオにありがちなボケっぷりやコミカルな動きっぷりを見せてくれるし。妖怪たちの絵、特に脇役の妖怪のシンプルで適当、雑な感じが対照的で面白い。ドラマを牽引する部分のリアルな描写はとことんこだわって、笑わせる部分はギャグ漫画のノリで、というコントラストがユニークだ。ここまで意図的に現実と空想の描写を絵づくりで差別化したアニメってなかったような気がする。しかも妖怪がキモ~イ!三人組も不気味だし、脇役も粘菌みたいだったりできそこないモナーみたいだったりと全部気持ち悪い。しかも、この三人組、盗みを平気でするし反省しないし嘘つくし辛辣だし。こういうジブリっぽくないところが小気味よかったりする。
そしてなんといっても、この映画がすごいところは、映画の半分まで観たら、クライマックスやラストで起きそうな出来事が全部予想がついてしまうところ!これってよく言えば伏線の回収がきっちりできてドラマとして出来がよいってことだ。悪く言えば超予定調和世界とも言えるけれど。大人から子どもまで気軽に楽しんで笑ってほろりとさせられる世界。
まあボクとしては、せめて欄干の上から身を躍らせて空中に舞った瞬間で映画を終わってもらえたら、いうことなしのエンディングだったんだけど。


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映画『ミッドナイト・イン・パリ』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督: ウディ・アレン
オーウェン・ウィルソン ギル
レイチェル・マクアダムス イネズ
マイケル・シーン ポール
マリオン・コティヤール アドリアナ
ニナ・アリアンダ キャロル
カート・フラー ジョン
トム・ヒドルストン F・スコット・フィッツジェラルド
アリソン・ピル ゼルダ・フィッツジェラルド
コリー・ストール アーネスト・ヘミングウェイ
キャシー・ベイツ ガートルード・スタイン
エイドリアン・ブロディ サルバドール・ダリ
カーラ・ブルーニ 美術館ガイド
ミミ・ケネディ ヘレン
レア・セドゥー ガブリエル

本国アメリカではウディ・アレン監督作としては最大ヒットとなったチャーミングなファンタジー・コメディ。作家志望のアメリカ人男性が、ひょんなことからヘミングウェイやフィッツジェラルド、ピカソといった伝説の作家や芸術家たちが集う憧れの1920年代パリに迷い込み、幻想的で魅惑的な時間を過ごすさまを、ノスタルジックかつロマンティックに綴る。主演は「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」のオーウェン・ウィルソン。共演にレイチェル・マクアダムス、マリオン・コティヤール、キャシー・ベイツ。また、フランス大統領夫人カーラ・ブルーニの出演も話題に。アカデミー賞では作品賞を含む4部門にノミネートされ、みごとオリジナル脚本賞を受賞。
 ハリウッドでの成功を手にした売れっ子脚本家のギル。しかし、脚本の仕事はお金にはなるが満足感は得られず、早く本格的な小説家に転身したいと処女小説の執筆に悪戦苦闘中。そんな彼は、婚約者イネズの父親の出張旅行に便乗して憧れの地パリを訪れ、胸躍らせる。ところが、スノッブで何かと鼻につくイネズの男友達ポールの出現に興をそがれ、ひとり真夜中のパリを彷徨うことに。するとそこに一台のクラシック・プジョーが現われ、誘われるままに乗り込むギル。そして辿り着いたのは、パーティで盛り上がる古めかしい社交クラブ。彼はそこでフィッツジェラルド夫妻やジャン・コクトー、ヘミングウェイといった今は亡き偉人たちを紹介され、自分が1920年代のパリに迷い込んでしまったことを知るのだった。やがてはピカソの愛人アドリアナと出逢い、惹かれ合っていくギルだが…。

★★★★☆
これは、『カイロの紫のバラ』を彷彿とさせるファンタジックなラブコメディー映画。どこからどう見てもウディ・アレンの映画。そして、小品ながら心の宝箱の中にそっと収めておきたい感じのステキな映画なのだ。
なんといっても、開巻から延々と映し出されるパリの街の風景のすばらしさ。敢えて合成着色っぽい、ひと昔前のカラー印刷みたいな風合いで統一した画面が実にみずみずしく潤っている。
まあお話はとりようによってはタイムトラベルものファンタジーなわけで、結婚直前の小説家志望の青年ギルがなぜか1920年代に迷い込んで、フィッツジェラルド、コール・ポーター、ジャン・コクトー、ヘミングウェイ、サルバドール・ダリ、ルイ・ブニュエル、TSエリオット・・・当時の文化の最先端の街パリに集った文化人たちの仲間に入ってしまう。またさらに1890年代に行って、ロートレック、ゴーギャンやドガらにも会ったりしてしまう。彼らの創作秘話なんかが飛び出したり、ギルが創作のヒントを与えてみたりってあたりが楽しい。この不思議な体験を通して、人生の黄金期を過去に求めても実際に過去に行ってしまえばその時代よりもさらに過去が黄金期に見えてしまう、結局、今この瞬間を生きるすばらしさに気がつかなければどこに逃避しても逃げるばかりになってしまうことを悟る。
とまあ、ストーリーは実に明解。しかし、この過去へのタイムトラベルを彼の現実からの逃避が生み出した空想だととらえるとまたさらに味わいが深まる。マリッジブルーの青年が自身の創り出した想像世界に身を浸し、やがて自分に正直な生き方に気づいて、ホントの幸せに一歩近づいていく過程が描かれた映画だと思うのだ。そう考えると映画のラストは実に的を射た終わり方だと思えてくる。
派手じゃないけど、小粋でわかりやすくて、ほっこりするステキな映画。おすすめ!
 

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映画『メン・イン・ブラック3(MIB3)』

2012年11月26日 | 映画の感想




監督 バリー・ソネンフェルド
脚本 デイヴィッド・コープ 、ジェフ・ネイサンソン、イータン・コーエン
製作総指揮 スティーヴン・スピルバーグ
音楽 ダニー・エルフマン
ウィル・スミス エージェント J
トミー・リー・ジョーンズ エージェント K
ジョシュ・ブローリン
エマ・トンプソン
ジェマイン・クレメント
マイケル・スタールバーグ
マイク・コルター
マイケル・チャーナス
アリス・イヴ
デヴィッド・ラッシュ
キーオニー・ヤング
ビル・ヘイダー

月面のルナマックス銀河系刑務所から、凶悪S犯のアニマル・ボリスが脱獄し、地球に逃亡した。超極秘機関“MIB”のエージェント“J”と“K”は、ボリスが関係する犯罪の捜査を始める。しかしある日、出勤した“J”は、相棒の“K”が40年前に死んでいると聞く。どうやら、ボリスは40年前に自分を逮捕した“K”を恨み、過去に遡って“K”を殺してしまったらしいのだ。“J”は40年前にタイムスリップし、若き日の“K”とボリスの阻止に乗り出す。

★★★☆☆
一作めはまあまあ面白かった。二作めは完全に柳の下のドジョウでつまんなかった。なんにしてもエイリアンいっぱい登場のコメディ・アクション映画で、少々子供っぽいなあというイメージしかなかったので、今回もDVDのレンタルまで観ずにいた。で、まあ今回観てみたわけだが、今回のこれはなかなかがんばっていたと思う。なにせトミー・リー・ジョーンズは60半ばのおじいちゃん。アクションは相当キツイものがある。そこを補うために、過去に戻る設定で、若いジョシュ・ブローリンがアクションをこなすというアイディアなのだが、ヘタするとその場しのぎになってしまうところ、ストーリーがうまく機能していい感じになった。エイリアンをとにかくいっぱい出しとけっみたいな感じだった前作に比べて、今回は冒頭部の中華料理屋の大乱闘で出しまくっておいて過去に戻ってからはストーリーのほうに集中させた展開もよかった。最後のオチもビックリ&ほろりとさせられるが、それまでもそれからもたくさんの仲間の生き死にを見てきただろうに、なんでその一件で無口になっちゃうのかは説得力不足だったなあ。
なんにしても、もうオリジナルメンバーで次回作を作るのはさらにキビシイだろう。次回はリブートして作るか?それだけの需要があるかどうか・・・?


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映画『僕達急行 A列車で行こう』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督 森田芳光
松山ケンイチ 小町圭
瑛太 小玉健太
貫地谷しほり 相馬あずさ
ピエール瀧 筑紫雅也
村川絵梨 日向みどり
星野知子 日向いなほ
伊東ゆかり 大空ふらの
菅原大吉 谷川信二
三上市朗 由布院文悟
松平千里 大空あやめ
副島ジュン アクティ
デイビット矢野 ユーカリ
笹野高史 小玉哲夫
伊武雅刀 早登野庄一
西岡徳馬 天城勇智
松坂慶子 北斗みのり

小町圭は大手企業のぞみ地所の営業マン。車窓から景色を眺めながら音楽を聴くのが至福の時。一方、小さな町工場コダマ鉄工所の跡取り・小玉健太も無類の鉄道好き。そんな二人が知り合って意気投合。引っ越し先を探していた小町はコダマ鉄工所の寮に転がり込む。ほどなく小町は九州支社に転勤になり、難攻不落の地元大手企業ソニックフーズや買収用地の地主との交渉を任される。そこへ東京から小玉が遊びに来る。

★★☆☆☆
のほほ~んと楽しい映画。なんか寅さんや釣りバカみたいな雰囲気で、世の中みんないい人だよなあってハートウォーミングな癒し系。
でも鉄っちゃんドラマを期待した人はガッカリしちゃったかも。少なくともボクは意外だったなあ。何せ、東京にしても福岡にしても、鉄道オタクが唸りそうな路線や車両がほとんど映像として出てこない。鉄道マニアの具体的なこだわりやカルト知識が、事態解決の手がかりになったりするような展開にもなっていないし。
まるでギャグ漫画みたいなありえない効果音をつけてみたりするセンスとか、登場人物みんな電車の名前っていうサザエさんっぽさとか、外国人労働者役のコミカルな演技とか、都合のよすぎるサラリーマン喜劇的展開とか、サッカーユニフォームの伊武雅刀のヘンテコな動きとか、伊東ゆかりが小指を噛んだりとか、唐突なスプーン曲げの小ネタとか、いろんな層の人からいろんな笑いを引き出そうとするサービス精神に溢れた姿勢は、この監督の映画愛ゆえかもしれない。つまり、この映画の鉄道マニアが鉄道を愛する姿勢は、そのまま監督が映画を愛する姿勢そのものなんじゃないかな。
そしてその姿勢こそがボクの違和感にもつながるのかなあ。サラリーマンの松山ケンイチが左遷されて喜ぶところは納得できるけど、早々に本社に戻るときの気持ちが描かれきれてないし。鉄道模型Nゲージ大好きなピエール瀧社長が、模型マニアでありながら自力で修理できないってのも変な話だし。第一、みんな女連れで電車に乗ったり乗ろうとしたりするけど、ホントのマニアは女の子の都合で振り回されずに自分の関心のある鉄道体験に没頭したいんじゃないかなあ。
ボクがこの映画を観て、違和感を感じる核心・・・それは、彼らの鉄道好きが、この映画の中では『目的』じゃなくて『手段』になってしまっているところ。ここんところはなんとも居心地悪く感じてしまった。
こんな小理屈こねずにのほほ~んと楽しみたい映画であるのだけは確かなのだけど・・・(笑)


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映画『幸せの行方・・・』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督: アンドリュー・ジャレッキー
ライアン・ゴズリング
キルステン・ダンスト
フランク・ランジェラ
フィリップ・ベイカー・ホール
クリステン・ウィグ

実在の未解決事件をモチーフに、「ブルーバレンタイン」のライアン・ゴズリングと「スパイダーマン」シリーズのキルステン・ダンストの共演で贈るラブ・サスペンス。監督は、デビュー作のドキュメンタリー作品でアカデミー賞候補となり、本作が劇映画デビューとなる期待の新鋭、アンドリュー・ジャレッキー。
 ニューヨークで不動産業を営む富豪一家の御曹司、デイビッドは、父の反対を押し切り、平凡な家庭の女性ケイティと恋に落ちる。2人は結婚し、ニューヨークを離れて自然食品の店を営み、つましくも幸せな日々を送っていた。ところが、父親はそんな息子を強引にニューヨークへと連れ戻してしまう。父の仕事を手伝うことになったデイビッドは、次第に奇妙な行動が目立ち始めていくのだが…。

★☆☆☆☆
GEOで10円ネットレンタルとかやってて鑑賞。その翌日近所の店に行ったらまだ準新作扱いだったのにビックリ。確かに役者は、今をときめくライアン・ゴズリングとキルステン・ダンストの二人なんだが、ちっとも新しい映画っぽくない。絵づくりが古めかしいというか安っぽいというか、画質自体もそんなによくないような。まったく予備知識なしに観はじめたので彼らがまだ無名の頃の隠れた作品だとばかり思って観ていた。お話自体が70年代から90年代の設定だから、その時代の雰囲気を出せているといえばいいのだけれど。
どうやら実際にあった殺人事件&行方不明事件を映画化したものらしい。つまりアメリカで有名なスキャンダル事件のひとつなんだろう。よくアンビリーバブルとかのテレビ番組でやっている事件の再現VTRものみたいな、そんな雰囲気なのだ。日本だと、三浦和義をモデルにして映画化ってのに近い感じか?
で、いかがわしい界隈などの上納金で成り立っている黒幕的な富豪の息子と、医学生を夢みる女性との出会いからお話は始まる。一家のしがらみから解き放たれて、田舎で慎ましく生活したいと願う男。一方、男の生き方に賛同しつつも、やはり一家の財力をあてにしてしまう女。ひとりごとをブツブツ言い続けるなど、男は奇怪しな行動が次第次第に増えていき・・・。という前半はまあまあ面白いが、後半の肝心の事件あたりで、どんどん退屈になってきた。事件の真相は薮の中・・・って描き方のほうが面白かったんじゃないだろうか?現実の事件では罪に問われていない容疑者を、完全に犯人であることを前提にしたストーリーってのに、なにか釈然としないものを感じる。こんなカタチで日本で映画化されたら訴訟問題になるんじゃないかなあ。
ドキュメンタリーチックに事件の渦中の二人を追い続ける展開なので、キルステン・ダンスト&ライアン・ゴズリングの出番は多く、なかなかの熱演である。観るべきところはそこかもしれない。
それにしても、映画のフィクションならば「おいおい、金のためにそこまでするなんてありえないし」などとツッコミを入れたくなってしまうばかりに打算的な行動が散見される映画である。だがこれはノンフィクションなわけで、現実の人間って打算的なんだなあ、なんて痛感させられた。
 

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映画『私が、生きる肌』

2012年11月26日 | 映画の感想

監督 ペドロ・アルモドバル
原作: ティエリ・ジョンケ 
アントニオ・バンデラス ロベル・レガル
エレナ・アナヤ ベラ・クルス
マリサ・パレデス マリリア
ジャン・コルネット ビセンテ
ロベルト・アラモ セカ
ブランカ・スアレス ノルマ
スシ・サンチェス ビセンテの母親

「トーク・トゥ・ハー」「ボルベール <帰郷>」の鬼才ペドロ・アルモドバル監督が、ティエリ・ジョンケの原作を大胆にアレンジして描く愛と狂気の官能ミステリー。人工皮膚研究の権威で亡き妻そっくりの美女を自宅に監禁する男を巡る衝撃の秘密を、予測不能のストーリー展開と斬新かつ色彩美溢れるヴィジュアルでミステリアスに描き出していく。主演は初期アルモドバル作品の常連で、「アタメ」以来久々の復帰となるアントニオ・バンデラス。共演は「この愛のために撃て」のエレナ・アナヤ、「オール・アバウト・マイ・マザー」のマリサ・パレデス。
 トレドの大邸宅に暮らすロベル・レガルは、最先端のバイオ・テクノロジーを駆使した人工皮膚開発の権威としても知られている世界的な形成外科医。そんな彼の屋敷の一室には、初老のメイド、マリリアの監視の下、特殊なボディ・ストッキングをまとった美女ベラが幽閉されていた。彼女はロベルの妻ガルに瓜二つだった。しかし、実際のガルは12年前に交通事故で全身に火傷を負い、非業の死を遂げていた。以来、失意のロベルは愛する妻を救えたであろう“完璧な肌”を創り出すことに執念を燃やしていく。そして6年前、ある忌まわしき事件が、ついにロベルを狂気の行動へと駆り立ててしまうのだった。

★☆☆☆☆
これは観る人によっては、刺激的でユニークな作品にちがいない。でも、ボクにはまったく理解できない内容だった。
たぶん描きたいテーマは、人間の獣性とか、どうしようもない肉欲という本能なんだろう。そして直接的には、倫理観を欠いた医学の暴走への警鐘。でも、それらのテーマがあまりにも露骨で、押しつけがましく感じるのだ。
たとえば、主人公の形成外科医学の天才的な医学者らしきアントニオ・バンデラスが、画期的な人工皮膚を開発しているという話なんだが、限りなく人間に近い皮膚を作り上げたっていう話じゃない。虫刺されや火傷に滅法強いというスーパー皮膚を開発したって話になっている。なんかもう人間を跳び越えて人間以上をめざしちゃってる。しかも人間の遺伝子に豚の遺伝子を組み込んで開発したなんてことになっている。この話からしてもう人間の機能を人工物で代替すること自体に対しての悪意を感じる。万事この調子で、お話自体、アントニオ・バンデラスの行為すべてがまるで現代医学版フランケンシュタイン博士として描かれるという一貫性があるのだ。観る者に考える余地を与えない一方的な主張を窮屈に感じたのはボクだけだろうか?
そして、何よりもボクにとって不可解なのは、実験対象を愛してしまう感性。対人不適応で治療中だった愛娘を強姦した相手を実験材料にしてしまう異常性は理解できる。結果的に娘の命を奪ったヤツを憎悪の対象にするわけだから。がしかし、どう転んだら、その呪ってやりたいほどの相手を性の対象にできてしまうのか?そこの感性がまったくもって理解不能なのだ。そこもまた、主人公の博士が異常者だからと解すればいいのかもしれないが、それでも妻の代役を求めるなら、もっと別に調達するあてを探すんじゃないかなあ。
いくら医学が進歩したとしても、顔の整形手術や皮膚移植やホルモン注射などで、骨格や筋肉系、声帯まで激変させることは無理。よほど華奢で素質のある男性を選ばなくては不自然であることは、日々テレビでお目にかかるニューハーフを見れば一目瞭然。ここまで激変することはありえないし。
問題作なんだろう。問題作なんだろうけど、ボクには納得のいかないところだらけの映画だった。まあ、感性の問題なんだから、そういう映画もあってもいいよネ。


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映画『ザ・マーダー』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督: リッチ・コーワン
レイ・リオッタ ジャック・ヴァードン
クリスチャン・スレイター ヴコヴィッチFBI捜査官
ヴィング・レイムス ラングレー部長
ジゼル・フラガ アナ・ヴァードン
サラ・アン・シュルツ ジェニー・テムズ
マイケル・ロドリック ジョン・リー
レイモンド・J・バリー
ミシェル・クルージ
シンディ・ドレンク
メローラ・ウォルターズ

女性の遺体が川に浮かんでいるのが発見され、現場に駆けつけた殺人課の刑事ジャック(レイ・リオッタ)は、被害者は彼のかつての恋人のひとりであり、彼女の遺体の陰部にはなぜか結婚指輪が埋め込まれていた。その後、同じような猟奇的殺人事件が相次いで起こるが、被害者たちは皆、かつてジャックと性的交渉のあった女性ばかり。かくして事件の最大の容疑者と目され、窮地に追い込まれたジャックは、自らの過去と直面せざるをえなくなる。

★★☆☆☆
「あなた、これまでの人生で何人の異性と性交渉をもちましたか?
「えっと百人くらいかなあ」
「その女たちが次々殺されているのです。被害を防ぐためです。全部思い出してこの紙に書きなさい」
「エ~!」
なんてことを尋問室で捜査官から強制されたら・・・。そんなトンデモナイ状況が我が身にふりかかった事態の恐ろしさを考えると、この映画のアイディアはなかなか秀逸だ。自分と相手しか知るはずのない性体験をなぜ犯人が知っているのか?なぜ体験した場所で相手の女性は殺されるのか?そのへんの興味で最後まで引っぱってくれる。実は、この映画、犯人の面を早々に晒してしまう。その異常な連続殺人を繰り返す動機こそが映画の牽引役なわけで、ラストに明かされる動機ってのも、狂っているけれど動機としてなるほど納得ができなくもない。
ただ、この映画、アイディアは秀逸だが、脚本演出、配役がちっとも面白くない。主役の追い詰めらつつ犯人を追う主役がレイ・リオッタなんだけど、面の皮がホントに厚そうで状況の緊迫感や苦悩をあんまり感じない。事件を追うFBI捜査官のクリスチャン・レイターはレイ・リオッタを苛めるだけで事件の解決に向けて最後まで絡んでこないし。まずもって犯人の動機からして考えるなら、ゆきずりの相手から順番に殺していく流れってのは現実的ではない。だって前の犯行が手がかりになって被害に遭いそうな女性が容易に特定されて犯行がどんどんやりにくくなるはずだから。まあそんな映画的盛り上げ演出のご都合主義はしばしば見られることかもしれないけれど。


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映画『ナチス・イン・センター・オブ・ジ・アース』

2012年11月26日 | 映画の感想



監督: ジョセフ・J・ローソン
ドミニク・スウェイン
ジョシュ・アレン
クリストファー・K・ジョンソン
ジェイク・ビューシイ

南極基地で観測作業を行っていたペイジたちは、氷の下からあのナチスの鉤十字のマークを発見! すると、どこからともなく現れたガスマスク姿の兵士たちに連れ去られてしまう。消えた彼女たちの行方を捜す隊員たちは巨大なクレパスを発見、降りていった先にあったのは巨大な地下空洞があり、そこでナチスの残党たちが生き延びていた!

☆☆☆☆☆
レンタル屋の隅っこにズラズラ並んでいる超B級映画、C級映画の類はゴミが多いのでできるだけご遠慮しているのだが、時に、『ビッグ・バグズ・パニック』みたいな面白映画に出会えることがある。なんか月の裏側からナチスが攻めてくる映画なんてのも作られてそれなりに話題になってるみたいだし、これも観てみたわけだが・・・。
いやはや、これはゴミだ。エロチック映画でアクション映画のパロディみたいなヤツがあるじゃないですか。芝居があざとくてつまんなくて。爆発シーンとか明らかに炎を合成で付け加えたようなチープな絵づくりで、まあ結局中途半端なエロしか見所がないヤツ。まさにああいう映画に近いチープな特撮映画なのだ。絵もチープならお話も超チープ。ツッコミどころは挙げたらキリがないというか、挙げる気にもならない。残虐な場面でせいぜいもたせようとしているのかもしれないけれど、体の表面に貼り付け塗たくってるのが見え見えだし、単に不快なだけだし。なんといっても、人の命の扱い方がナチス並みに無神経なのが気になった。昔々の特撮映画の無神経さや稚拙さにイヤ~な気持ちになることってあるじゃないですか。あれですよ、あれ。
バッドエンドじゃないのにこんなに後味の悪い映画ってのも珍しいほどのゴミです。いや~失敗、失敗。


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同時多発テロ

2012年11月26日 | ショートショート



地球時間0848。木星軌道ステーションからの緊急連絡。
「野々村君、落ち着いて聞いてくれたまえ。地球からの情報だ。君が搭乗しているペガサス号にはテロリストによって爆弾が仕掛けられている」
ミヤギ長官の話によると、同時多発テロ計画が実行直前に発覚、この宇宙船も標的のひとつだと判明したらしい。
「残り時間は?」
「地球時間0911」
もう20分ほどしか残されていない。
「その爆弾はどこに?」
「わからんのだ。直ちに発見し解除に全力を尽くしてくれ。幸運を祈る」
地球時間0856。残り15分。こんな搭乗員1名の宇宙船をテロリストはなぜいくつかの標的のひとつに選んだんだ?
待てよ。
発進前の整備記録にはいかなる物品の重量変更もなかったはず。とすれば変動したのは燃料とボクの体重だけ。いずれも時限爆弾にするのは無理だ。
残る可能性は・・・
自爆装置!緊急事態に備えて搭載されている自爆装置のプログラムを書き換えたにちがいない!
地球時間0901。あと10分。
動力室へ駆け込み、自爆装置ユニットを開く。間違いない。書き換えられたプログラムによってカウントダウンが始まっている。
鉛の封印をちぎってユニットごと壁から取り外す。アタッシュケースほどのこのユニットでペガサスは粉微塵に粉砕されるのだ。
地球時間0905。
ユニットを船外活動用の減圧室に放り込んで密閉する。レバーを下げるとハッチが開き、勢いよく自爆装置ユニットは船外に放出された。
あとはできる限り遠くへ。
残り時間3分・・・2分・・・地球時間0911。爆発。
ボクは遠い閃光を見つめ、安堵のため息をもらした。
「ペガサスより木星軌道ステーションへ。テロ攻撃を無事回避した。ミヤギ長官!」
「・・・」
応答がない。船窓から木星軌道に目を凝らした。
ない。ステーションがない。軌道上に無数の破片が浮いているだけ。そうか。木星ステーションもテロの標的に・・・。
ボクは無意識に反対側の窓に目をやった。
その場所にあるはずの青い惑星もまた影も形もなかった。
ボクにはもう帰るあてなどない。だとしたら、いっそ・・・。
腕の時計を見つめる。地球時間・・・・・・


 
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