勤労感謝状

2012年11月23日 | ショートショート



今日は勤労感謝の日。遊園地は家族連れで溢れている。
そんな中に、場違いなグラサンの不審な男の姿。
俺たちが追っている容疑者だ。
「先輩、薄皮白あんぱん、も一個食っていいっすか?」
新人の早見がパンをつまんだ。
「食ってもかまわんが、牛乳ビン片手にパンを頬張るのはやめろ。張り込みがバレバレだ」
「すんません」
早見が容疑者に背中を向けた直後、犯人がベンチに腰掛けた俺たちをチラリ。危ない、危ない。
今、刑事だと知れたら、これまでの地道な捜査が水の泡だ。
「振り向くんじゃないぞ。こっちを見てる」
「ンゴンガ」
早見がパンを喉に詰まらせてサザエさんみたいな声をあげる。そして牛乳をゴクリ。
その一部始終を容疑者が訝しげに見ている!
こんな時こそ、一般客っぽく楽しげな風を!
「早見くん、実は今朝、娘からプレゼント渡されちゃってね」
「娘さんって確か中2っすよね。あ、マフラーじゃ~ん」
お、早見、いいぞ。すっかりノッてきてる。
「ファンシーなお手紙つき~!読んでいっすか?」
早見が便箋を開いた。

『お父さんへ
こないだはゴメンナサイ。お父さんの仕事のことも考えずにヒドイこと言っちゃって。
お休みの日に父さんがいる友だちがうらやましくって、つい。
ずっと謝りたかったけど、言い出せなくって。ホントにゴメンナサイ。
お仕事をがんばっているお父さんがわたしの誇りです。お父さん、いつもありがとう。
心をこめてマフラーを編みました。気に入ってもらえたらウレシイです』

「ク~!先輩がうらやましいっす。してみてくださいよ、マフラー」
「ハハハ、中2だからなあ、派手すぎやしないかな」
マフラーを首に巻くと思わず立ち上がって、早見に見せてやった。
「なかなか似合いますよ~」
「お、そうかね?」
「白と黒のツートンカラー、やまぶき色の旭日章がワンポイント。センスいいなあ!」
「ハハハ、パトカーみたい・・・」
「アレ!?容疑者が逃げていく!待て~!」



(最後まで読んでいただいてありがとうございます。バナーをクリックしていただくと虎犇が喜びます)