幸福の手紙

2012年11月14日 | ショートショート



孤島に漂着、一ヶ月。
食料どころか水さえも底をついた。乾ききった舌が異物のようだ。
虚ろな目で海を眺めていると、なにやら波間に光る物が・・・。幻覚か?・・・いや!
壜だ。壜が流されてくる!
近づいてきた壜を手繰り寄せる。透明な壜の中には手紙が入っている。
コルク栓を抜くのももどかしく、手紙を開く。えっと、なになに?・・・・・・

これは『幸福の手紙』です。
偶然この壜を見つけた漂流者のあなた、ラッキー!!
え?『不幸の手紙』みたいに、同じ内容の手紙を送らないと幸福になれない手紙とか思ってる?
ブッブー!モノホンの『幸福の手紙』なんですよ、コレ。なんでも願いごとかなえちゃいますってゆう、アレ。
この手紙を手にして願いごとを唱えると、ア~ラ不思議、お望みのままなんですよ~。

う~む。信じられない。信じられないと思うが、状況が状況だ。試してみない手はない。早速、願いごとを唱えてみた。
「パイナップルを出してくれ!」
ボム。
目の前に白い煙。煙が晴れると、そこにはパイナップルが!
すごいぞ。本物だ!
しかし、一回きりなんてこと、ないよね?ボクは確かめるために、手紙の続きを読んだ。

ハイ、一回きりなんてことありませんよ。大丈夫、チャンスはあと2回。どんなお願いでもOK。有効に活用してくださいね。

そっか、あと2回ね。スゴイじゃないか、『幸福の手紙』!
よ~し、有効に使わないとなあ。まず、とにかくこの島から脱出しないと。それからやっぱ、金だよな。ここはやっぱりドドーンと百万円くらい・・・。

そんな百万とか、みみっちいことを言っちゃいけませんよ。億単位、いや兆単位にしません?夢はでっかくなきゃ!

う~む、それもそうだな。じゃあ二兆くらいもらっとこうかなあ・・・二兆円かあ、どうやって使おう?うっひゃあ、幸せだなあ!
・・・て、なんでボクは手紙と話してるんだ?
ア・・・もしかして、これって夢?飢えと渇きが限界に達して幻覚を見てんじゃねえの?
こんなときの定番どおり、思いきり頬をつねって・・・
「痛っ」
痛さのあまり閉じた目を開くと、パイナップルはもちろん壜も手紙もなくなって砂浜にポツンとひとりきり。
ああ、やっぱり。畜生、夢オチかよ。チャンチャン!
by 矢菱虎犇 

・・・・・・「ああ、やっぱり。畜生、夢オチかよ。チャンチャン!by 矢菱虎犇」
ボクは『幸福の手紙』を読み終えた。なんだ、コレ?
単なるイヤガラセじゃないかよ。まあ、読んでる間だけ、しばし幸福っちゃあ幸福だったけど。
ため息をひとつ。
手紙を折りたたむと壜に詰め、再び海に流した。



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