野菜か?果物か?

2012年11月05日 | ショートショート


「で?まだ口を割らないのか?」
「はい。どうあっても自分は野菜側だと言い張っております」
ゴーヤー秘密警察長官は、忌ま忌ましげにハバネロ書記長に報告した。
二人は、マジックミラー越しに尋問を受けている美女を見つめた。
いい女だ。隠し部屋にまで香ってくる、このみずみずしい香り。野菜なんてありえない。
女が果物側が野菜側へ送り込んだスパイであるのはまちがいない。
尋問室の中では、セロリによる執拗な尋問が続いていた。
「もう一度聞く。名前は?」
「イチゴ・ストロベリー。あなたたち野菜の仲間」
「嘘こけ!おまえは果物側のスパイだ!」
「何度同じことを言わせるの?樹木から収穫するのが果物、草から収穫するのが野菜。だからわたしは野菜。スイカと同じにね!」
セロリが不敵に笑った。
「スイカが野菜なのは認めてやる。毎年、苗を植えないと育たないからな。だが、おまえはバラ科の多年草だろう?毎年植える必要がない。ということは果物だ」
「桃栗三年、柿八年!果物は植えて一年めに収穫できないわ。でもわたしは植えて一年で収穫できる。それが野菜である、なによりの証拠」
セロリが怒る。
「うるせぇ!甘いのが果物、苦いのが野菜なんだよ畜生!不味いのが野菜!」
イチゴも負けない。
「~畑で作るのが野菜!~園で作るのが果物だわ!」
セロリも負けない。
「食事中に食べるおかずが野菜!食後に食べるデザートが果物だ!」
「ハウス栽培できるのが野菜、できないのが果物だわ!」
「マヨネーズかけたくなるのが野菜!ヨーグルトかけたくなるのが果物だ!」
「地面のそばにできるのが野菜!地面から遠くにできるのが果物よ!」
「子どもの味方が果物!子どもの敵が野菜だあ!」
「皮をむいて食べるのが果物!そのまま食べるのが野菜よ!」
「~味ハイチュウを販売したらクレームが来るのが野菜なんだよっ!」
いやもう、埒があかない。
ついにハバネロ書記長も我慢の限界。
「自白剤を使え!正体を暴いてやるのだ!」
イチゴに自白剤が注射され、十数分後。
ついにイチゴは抵抗をやめ、意識朦朧としている。
不敵な笑みを浮かべてセロリが問うた。
「で?おまえの正体は?果物の送り込んだ女スパイだな?」
「うう・・・わたしは・・・あまズッパイ・・・」 



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