さむらい小平次のしっくりこない話

世の中いつも、頭のいい人たちが正反対の事を言い合っている。
どっちが正しいか。自らの感性で感じてみよう!

インド放浪 本能の空腹⑳ コナーラクへ小旅行

2020-07-29 | インド放浪 本能の空腹



こんにちは

小野派一刀流免許皆伝小平次です

30年近く前の、私のインド放浪、当時つけていた日記をもとにお送りしております。

本日はインド放浪 本能の空腹⑳ コナーラクへ小旅行 をお送りいたします。

前回、キ〇タマの大合唱となった宴の翌日、朝からウ〇コの山を乗り越え散歩、ホテルへ戻るとバブーとロメオが私を待っていた、そして世界遺産の太陽神神殿 スーリヤ寺院へ行こうということになり、ベスパもどきのスクーターに3人乗りをして出発をした、というところまででした。

では、続きをどうぞ

***************************************

 軽快とは言えない加速で走り出したスクーターであったが、徐々にスピードに乗るとなかなかに快適に風を切り始めた。

 スクーターは街の東側の集落を抜け、荒涼とした赤茶けた土の広がる場所へ出た。そこから旋回するように海と並行する一本道へと出た。

 その一本道へ入る手前に、山羊だか羊だかの大きな動物の死骸が半分腐りかけて転がっていた。やはりインドである。

 見事なまでの真っ直ぐと続く一本道、快適だ。

 右手には海があるが、道からは見えない、丈の低い草、高い草、が生い茂り、時折湿地などが顔を覗かせる。

 左手には開けた土地が広がってみたり、森、というよりは密林、といった方がよさそうな森林が並んでいたりする。
 一本道の両側には、時折土産屋、茶屋のようなものが建っていたりもする。
 信号などは一つもないのでノンストップで進んでいく。

 快適だ、快適…、のはずだった…。

 男3人、体を密着させ、かなり窮屈な姿勢で乗っていた、真ん中のおれは特に窮屈な姿勢を強いられて、やがで座っていること自体がキツくなり、徐々にケツが痛くなり始めた。そしてその痛みは耐えられないほどになり、思わず声をあげた。

『ロメオ、ケツが… ケツが痛い…。』
What?

『ケツがいてーーーーー! 頼む! 止めてくれ!』
 


 おれの悲痛な叫びを聞いて、ロメオは一件の茶屋の前でスクーターを停めた。

『どうした、コヘイジ』

 この時おれは『I have a pain … My hip』というようなことを言ったと思うがどうも通じない… ジェスチャーでケツが痛い、ということをどうにか伝えた。

『OK、少し休憩しよう』

 ようやくスクーターを降りることができた。バブーが店の奥で何かを買っている。何かを厚みのある葉で包んだよくわからないものだった。
 バブーはその葉を口に入れてみろ、と一つをおれに渡し、一つを自分の口に入れた。

『コヘイジ、これをゆっくりと噛むんだ』

 周りを見ると数人の男が同じように葉っぱを口に入れ、餌を口に入れたリスのように頬を膨らませている。

イメージ
 

 
これは…、きっと…、 噛みタバコ! と言うやつだ! よくプロ野球の助っ人外人が口にこれを入れて打席に立ち、凡退するとベンチの前で、ペッ! と吐き出しているあれだ!

 おれは俄かに興味が湧き、バブーに言われた通りそれを口に入れ、軽く噛んでみる…、何か液状のものが口の中に広がる…。

… … … … … …


『オウゥゥゥゥエエエエエエエェェーーーーーー!!!』


 たまらずおれは口の中のモノを吐き出した。

『なんだこれは!』

 朝食ったボール状の揚げ物同様、おれの身体の全ての部位がこの『噛みタバコ』の液の香りの侵入を拒否した。

『オウゥゥゥゥエエエエエエエェェーーーーーー!!!』

 口の中の残り香に、もう一度おれは嘔吐しそうになった。
 その様子を見て、バブーもロメオも、周囲の男たちまでもが笑っている。

『バブー、これはボクには無理だ…。』

 ちょっと興味があった噛みタバコであったが、散々なモノとしておれの記憶に刻まれた。
 
 しばし休憩の後、再びコナーラクへ向けて出発、と、そのとき、ロメオから思わぬ提案があった。

『コヘイジ、この先はキミが運転してみないか?』

 えっ! えっ、えっ!? いいの!?

 おれの胸は高鳴った。

『インドで運転するためのライセンスは持っていないけど…』
『そんなことは気にすることはない』

 そう、ここはインド、気にすることはない、おれははやる気持ちを押さえながらスクーターに跨った。大きさは、そう、125CCくらいだろう、日本でも車以外は原付の免許しか持っていなかったが、まあ大丈夫だろう。

『コヘイジ、やり方はわかるか?』
『ロメオ、大丈夫だよ、じゃあ、行くぜ!』

 アクセルを軽く回す、ぼぼ、ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ、運転はおれ、その後ろにぴったりと体を密着させバブー、一番後ろにロメオ、その重さから、やはり加速は悪いが、やがてスピードに乗る、快適にどこまでも続くかに見える一本道を走る。

 ああ、いい! これはいい! インドでこんな経験ができるとは思っていなかった! これはいいぞ!

 道の右側の茂みから不意に何かが飛び出してきた。

 猿だ! 金色の猿が二頭、おれたちの目の前を横切り、左手の森へ走り抜けた。

Monkey!!!

 おれたちは同時に叫んだ。 楽しい! 楽しいぞ!

 ほどなくして、おれたちはスーリヤ寺院に着いた。立派な寺院だ。立派な寺院だが、若いおれたちにはさして感動はない。実はおれたちは同い歳であった。



 おれたちは世界遺産をじっくりと鑑賞する、なんてこともなく、外壁をよじ登り、飛び回り、おれがロメオの親父にやったカメラで写真を撮ったりして遊んだ。

 すぐに飽きて、寺院の向かい側にあったレストランへ入り、昼食。3人ともチキンカレーを頼んだ。スプーンも使わず、手でがっつくように食った。美味かった。

 食事が終わると、ロメオがまたしても当然のようにおれに伝票を渡した。
 
 おれは心に決めていた。このインドへやって来たおれの目的は、どこか海に近い街で腰を落ち着けて、そこの住人のように過ごしたい、そういう意味でこのプリーの街は申し分ない、漠然と思い描いていたのは南の大都市、マドラス近郊の街、であったが、特にこだわりがあったわけでもない。このプリーの街でその目的を果たす、そうなればこのロメオともしばらく友人として過ごしたい、友人である以上いつもおれが奢る、そんな関係ではいけない。

『ロメオ…、』

 おれがその意思を伝えようとした瞬間…、バブーが険しい顔をして立ち上がった。

『ロメオ! どうして3人で食事をしたのに、その代金をコヘイジが出さなくてはいけないんだ! コヘイジは友人だ! 自分で食べた分は自分で出すべきだ!』

 割と強いバブーの口調にロメオが怯んだ。そしてバツが悪そうに言った。

『OK、OK、バブー、わかったよ、そうだね、自分の分は自分で出すよ』
『一人12ルピーだ』 

 バブーはそう言ってロメオから12ルピーを徴収した。おれもバブーに12ルピーを渡した。バブーはニッコリと笑ってそれを受け取り支払いを済ませた。

 インドではタクシーに正規料金で乗れたら奇跡だという、カルカッタの凄まじいほどのポン引き、物乞い、インド人の多くは日本人のおれの金を狙っている、そんな風にさえ思い始めていた中でのこのバブーの行動は、おれをいたく感動させた。おれは清々しい気持ちになって店を出た。

 帰路は再びおれの運転から始まった。頬を撫でる風が心地よい。

 この街で、住人のようになって過ごしてみよう、いつまでかはわからない、視界の前方、どこまでも続く一本道を走りながら、おれはそう心に決めた。


***********************  つづく

この時のバブーの行動が、6年後、再会するまでの間柄、親友となった決定的な事だったように思います。こののちも度々バブーは男気を見せてくれます。

※引用元を示し載せている画像は、撮影された方の了承を頂いた上で掲載しております。それ以外の「イメージ」としている画像はフリー画像で、あくまでも自分の記憶に近いイメージであり、場所も撮影時期も無関係です




コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 初めての世論調査 | トップ | 増え続ける『感染者』?? ... »

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
続きが待ち遠しいです♪ (夢母)
2020-07-29 15:22:52
バブーさんの男気
次の展開、どうなるのでしょうか
コメントありがとうございます! (小平次)
2020-07-29 16:08:42
夢母さま

コメントありがとうございます!

待ち遠しいなどと言って頂きとても光栄です。

私もいつも楽しく拝読させて頂いております。

バブーの人柄の良さは、特に6年後の再開時にまたよりよく感じる出来事がありました。

そのあたりのことは、番外編でいずれ書きたいな、と思っております。

でも本編がまだまだ続きますのでいつになることやら…

ありがとうございました
Unknown (カワムラ)
2020-07-29 22:50:29
小平次さま バブーは小平次様を友と認めたのですな
異国の人間ではなく 同郷の仲間として・・・

それにしても あれです 食い物っちゅうのは
余程の信頼がないと 少しでも未経験の味ならば
拒否して当たり前なのでありますな。
人間の体っちゅうのは正直にできとるもんです。

ps 日本って バイク一つとってもそうですが
ルールだらけで 腹が立ちます。世の中を不自由に
しとるのが 頭が固い人間達と 事故を起こす
下手くそドライバー達なのでありますから・・・
おはようございます! (小平次)
2020-07-30 09:49:39
カワムラさん、おはようございます!

コメントありがとうございます

二度目にこの地を訪れた時、バブーと再会したのですが、そのときの再会の仕方も日本ではあまり考えられないような形での再会となり、いずれ番外編で書けたらな、と思っております。

何でもそうなんですが、国民自身がコロナ一つとってもそうですが、踊らされて騒いで、差別のないところに差別を生む手法に乗せられて、結果国民を縛る法律を次々に作らせてしまっているように思います

我々が賢く、冷静にならねば本当に思うつぼです

ありがとうございました。
こんばんは (猫の誠)
2020-08-05 19:35:38
インドあたりでの運転は大変と聞きました。交差点で目が合うと、お互いに相手が見ているから向こうが止まるだろろうと、どっちも止まらないそうです。それで、どっかーんだそうです。
Unknown (小平次)
2020-08-08 10:24:07
猫の誠さん、コメントありがとうございます。返信遅くなり申し訳ありません。

そうなんですよね〜
カルカッタのような大都会でもほとんど信号は見かけませんでしたからね

よくこんなんで車に乗れるな、とは思っていました。

ですが今回の小旅行はほとんどまっすぐな1本道、交通量も少なくとても快適なものでしたよ〜

ありがとうございました。

コメントを投稿

インド放浪 本能の空腹」カテゴリの最新記事