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原始力発電所(その1)

2011年04月23日 15時20分52秒 | 詩・文芸・作品
自慢したくても指折り数えて片手でさえ余るのだけれど、その中のひとつを紹介したい。友人に森哲弥という詩人がいる。彼は詩の方面の芥川賞と言われるH氏賞を『幻想思考理科室』という詩集で受賞した。その後の2008年10月に出版した詩集『ダーウィン十七世』に《原始力発電所》という作品がある。

原子力ではなく、原始力となっているところがキャッチコピー的で想像力をかき立てられる。情緒的直感から得た予言的着想を世に知らしめたいと願うのは、詩人の特性の一つなのだろう。彼に作品を紹介して欲しいと頼まれた。彼が自分自身のブログを作って載せたらいいのだが、今のところブログを作る閑がなく、実はブログ作りの手伝いを私が頼まれているのだが、雑事にかまけて出来ずにいる。とりあえずタイムリーな内に、このブログで紹介することにしたい。

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 原始力発電所
       森 哲弥
                     
 プロローグ           
サービススタンドのオーナーはアルバイトの青年にいった。「餌をやる時間だ。分量を間違えるなよ。ついでに鱗の艶と発電コンディションもチェックしておいてくれ」     
青年はスタンドの横の大きな建物のドアを開ける。一瞬プンと魚臭が鼻を突く。この臭気は若者に不評で求人難の原因になっている。世の中はしかしその対策に消極的だ。今のこの平穏な生活を続けるために魚臭くらいは我慢すべきだということになっている。一つの快適さ、一つの便利さが積もり積もって自然を食い尽くしてきたではないか。魚臭くらいは我慢しよう。これが今の世の分別だ。   
前の道路を緩やかに自動車が走っている。  
いまは研究生活を中断して市井の人として生きている元科学者の老オーナーは密かに思っている。「この臭いを消そうと世の中が動きだしたらもう人類に未来はない」                      
                     
 1・アマゾンの男          
生け簀(いけす)はアマゾンの支流の一つに作られていた。それは川の岸近くの流れを竹の簀で囲っただけの物であった。船外機つきの船がやってきて船上から川魚漁師がなにか叫んだ。生け簀の陰から白髪の男があらわれ応答した。川魚漁師は長くよく太った円筒形の魚体を手荒く生け簀の中へ投げ入れた。ひと時の波立ちはやがてしずまり、川魚漁師の船も夕日に染まった風景から消えた。         
IECE=インターナショナル・エマージェンシー・コミッティ・フォア・エナジー(国際エネルギー緊急委員会)主要メンバーの一人で電子物理学の権威、ジョージ儼哲(げんてつ)が急に委員会から消えて三年になる。世間が彼の存在を忘れかけた時アメリカの地方新聞社「南海プレス」がアマゾン紀行のためにチャーターした小型機から撮影した奥地の写真に人影が写っており、画像解析の結果ジョージ儼哲であることを突き止め、記事にして配信した。しかしIECEの機構の歯車の欠損は瞬く間に修復されていたので「南海プレス」の担当記者ロバート・ケナリーの期待したほどには注目されなかった。人々の関心はアマゾンのジョージ儼哲ではなく、いまどきアマゾン奥地にすんでいるめずらしい人なのであった  
                     (つづく)
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