明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1258)書評『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(小倉志郎著)上

2016年05月05日 22時00分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160505 22:00)

14日に熊本で震度7の地震が起こってから今日5日で3週間が経ちました。4日も5日も震度4の揺れがそれぞれ3日づつ起きたそうです。
5日午後8時現在までの震度1以上の地震回数は1254回。昨年1年間の日本全体の同様の揺れ、1842回の68%、約7割の地震がわずか3週間に熊本・九州を襲ったことになります。
にもかかわらず川内原発は稼働し続けており、伊方原発の再稼働も以前、ゴーサインが出たままです。

こんな時にできること、しなければならないことの一つは、原発の危険性をきちんとつかむこと、あらゆる角度から掘り下げて、「安全神話」に二度と騙されない民衆的力を培い、アップしていくことです。
そのことで可能な限り早く川内原発の運転停止を実現するとともに、原発災害から身を守る力をアップしていくことが必要です。
こうした観点から、今日は一冊の書物をみなさんにご紹介することにしました。

今日の表題にも掲げた『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(彩流社)です。書かれたのは元東芝の原発技術者、小倉志郎さんです。
小倉さんは福島第一原発の4号機をのぞくすべての号機の建設に関わられた方で、とくに1,2,6号機の原子炉系の各種ポンプの購入技術を担当されました。
「明日に向けて」でたびたび登場していただいている後藤政志さんの先輩にもあたり、後藤さんが主宰するAPASTにも参加されていますが、後藤さん曰く「原発プラントの全体像を見通せる世界で一人か二人の技術者」だろうといいます。

その小倉さんは「はじめに-原発という怪物を造って」という書き出しのところで、なんともセンセーショナルに、次のように語られています。
「原発のほんとうの怖さとは、原発の建設に携わった私自身にとっても複雑で全貌がわからないこと、および、生命の証である遺伝子を眼に見えない放射線で破壊する放射性物質、いわゆる「死のゴミ」をあらたに作りだすことにある。」(本書p7)
「新しい原発には古い原発よりも危険性が高くなる側面がある。なぜなら、新しい原発ほど、計算技術の発達によって発見された余裕がどんどん削られていく傾向があるからだ。」(本書p5)

本書は小倉さんの主張がぐっとつまったPart1「元原発技術者が言える原発の危険性」と、オムニバスで綴られているPart2「事故のあとだからこそ言えること」のふたつに分かれています。
どちらも読みごたえがあるのですが、今回は原発の「ほんとうの怖さ」をいわば圧縮して伝えているPart1の内容をご紹介することとします。
その冒頭は「3・11事故発生時、なにを思ったか?」で始まります。小倉さんにとっての3月11日の述懐です。

 「東電福島第一原発が電源を失い、原子炉の冷却ができなくなっているというニュースが流れた。
  そんなはずはない――。
  非常用ディーゼル発電機(D/G)があるではないか――。
  しかし冷却系が動かないということは非常用ディーゼル発電機も地震か津波でやられたのだろうと思った瞬間、頭の中が真っ白になった。
  というのは私が就職して最初に担当したのが、まさに福島第一原発の1号機の非常用炉心冷却系のポンプのエンジニアリング(技術とりまとめ)だったからだ。」(本書p17)

小倉さんが就職されたのは1967年。後年に東芝に統合吸収される「日本原子力事業株式会社」でした。そこで小倉さんは1980年までの13年間、原子炉まわりの機器類、とくにポンプと熱交換器のエンジニアリングに携われました。
エンジニアリング(技術とりまとめ)とは、以下から成り立っていました。1、ポンプや熱交換器の発注から完成までの一連の流れの技術的なことに関わる。2、官庁の許認可を受けるための仕事、設計のスケジュール管理。
3、ポンプと配管の接合をはじめ、多種多様な部品の「取り合い」の調整。これは「原発ジグソーパズル」とも言えるような三次元どころかもっと多い次元のパズルを合わせるような仕事だそうです。

これらを基本的には本社の技術部門でのデスクワークとして担った後に、1980年から柏崎刈羽原発1号機の建設現場に駐在し、実際に現場で「ジグソーパズル」のような部品の取り合いに奔走したそうです。
この困難な仕事を振り返って小倉さんは「とにかく、原発は複雑なのである」と語られています。
そんな小倉さんが原発の技術体系に「将来性はない」と確信するにいたったのは、この仕事を3年続けたのちに福島第二原発における保守点検作業を担当されるようになったときのこと。

なぜかと言えば、被曝対策があまりにやっかいであることを実地に知ったからでした。例えば放射能に汚染されたポンプを点検のために分解すると、膨大な放射性のチリが室内に舞い、内部被曝の危険性が生じます。
このため「想像を絶するような厳重な防護」をするのだそうです。例えば最も放射能に触れる可能性の一番高い手になんと4重の手袋をするのだそうです。顔も全面マスクで多い、メガネなどをしている場合はものすごい力でゴムで締め付けるそうです。
さらに大変なのは、放射線管理区内にはトイレ、水飲み場、喫煙所などが一切なく、それらが必要になったら、入り口のチェックポイントを通って外に出なければならないことだったそうです。

本書の違う部分で小倉さんは、福島原発事故の収束のために「高齢者が決死隊になって作業を担おう」という声に対し、「高齢者は前立腺肥大のものが多く、トイレが近いのでとても無理」と語られています。
現場のリアリティを知っている人の含蓄ある言葉ですが、とくに小倉さんは保守点検作業を担うことになり、作業のない時期に原発の中をパトロールするようになって、そのあまりの巨大さを実感したと言います。
そこで生じた認識の変化をもとに小倉さんはこう語ります。

 「作業員一人ひとりの日々の被ばく線量の細かい管理、内部被ばく防止のための厳重な装備、汚染管理区域からの放射能の拡散防止など、想像を絶する面倒な業務が必要なことも知らず、現場に入ったことがなく、大学や研究所で仕事をしている「御用学者」には、その危険性の実情が分からないだろう。」(本書p33)

しかし小倉さんはこの時に感じた危険性の認識はまだ序の口だったと言います。
もっと根本的な認識の変化に到達したのは定年退職から6年経た2008年暮れから2009年正月のこと。友人から渡された二つの書を読んで「ボクシングのアッパーカットを食らったほどのショックを受けた」のが契機だったそうです。次の2冊です。
ジェイ・M・グールド、ベンジャミン・A・ゴールドマン著、肥田舜太郎・斉藤紀訳『死にいたる虚構―国家による低線量放射線の隠蔽』、ドネル・W・ボードマン著、肥田舜太郎訳『放射線の衝撃―低線量放射線の人間への影響』。

この二冊に、1、米国で原発から半径160キロ以内とその外でいろいろな病気の発生に有意な差が見られたこと、2、放射線被ばくによる影響の生理学的メカニズムが書かれていたことを知って、小倉さんはこう思われました。
「低レベル放射能の環境汚染にこのような危険性があるとなれば、原発が通常運転中に低レベルの放射能を大気に、あるいは、海に放出していることを知っている私は、すべての原発の運転はただちに止めるべきだと悟った。」(本書p35)

鳥肌が立つような興奮を覚えました!
僕も福島原発事故後、待てど暮らせど「放射線の専門家」が被曝の危険性の説明に出てきてくれない中で、霧の中を手探りで歩くように放射線被曝の実相に迫る旅を始めたのですが、その時に最初にしがみついたのがこれらの本だったからです。
とくに幸運にも岩波書店から肥田舜太郎さんのインタビューを依頼される中で、『死にいたる虚構』を大急ぎで手に入れて熟読し、「これを伝えねば!」と身体が震えました。以下にこの書に取材して書いた記事をご紹介しておきます。

 明日に向けて(189)『死にいたる虚構』ノート(1)
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/fcb0a1d9694918e29c50cfa128a585c3

 明日に向けて(203)沈黙の夏・・・(『死にいたる虚構』ノート(2))
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/50b74c77c69c502bc395add1444accc8

続く

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守田敏也 MORITA Toshiya
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[著書]『原発からの命の守り方』(海象社)
http://www.kaizosha.co.jp/HTML/DEKaizo58.html
[共著]『内部被曝』(岩波ブックレット)
https://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-270832-4

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明日に向けて(1257)危険性に満ちた川内原発!・・・再稼働を認めた新規制基準の誤りを解き明かす!

2016年05月04日 14時00分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160504 14:00)

このところの熊本・九州地震の想定を大きく超えた連続の中で、川内原発の危険性を訴え続けてきましたが、もともと「明日に向けて」では再稼働強行の前から繰り返し川内原発の危険性を説いてきました。
いま川内原発への関心が以前よりも高まっていることを踏まえて再度、これらを論じておきたいと思いますが、最も重要なのは川内原発再稼働にゴーサインを与えた「新規制基準」のあやまりです。
このため「明日に向けて」(1060)~(1065)と(972)で連載した内容(2015年3月24日~4月6日と2014年11月15日)のダイジェストを再度ここに示しておこうと思います。

まずそれぞれの記事のエッセンスを小見出しとして提示し、続けて当該記事のアドレスを明らかにした上で、要約を書いていきたいと思います。
なお2015年3月~4月の連載は、福島原発事故以降、事故の進展や規制庁による新規制基準の提出などに即して、純技術的側面からもっとも適格な解説を行ってきてくださった元格納容器設計者・後藤政志さんの発言に学んで行ったもの。
同年1月に薩摩川内市で行われた講演会の文字起こしをベースとしています。記事の中で該当箇所が話されている時間帯も提示してありますが、お時間のある方はぜひこの講演録画全体をご覧下さい。

危険性に満ちた川内原発

1、あまりに杜撰だった川内原発再稼働対策に向けた許認可申請

 明日に向けて(1060)あまりに杜撰な川内原発工事認可申請(後藤政志さん談)
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/0870cd08844d3d12e17ae6345ae8b79b

第一に指摘すべきは、そもそもの九州電力が行った再稼働対策に向けた許認可申請があまりに杜撰に行われたことです。
後藤さんはこう語られています。「プラントの配置関係を全部伏せて白抜きになっている。どこに何があるか分からない状態になっている。耐震強度を計算する時に耐震の解析モデルがあるが、それの高さ方向の値がすべて白抜きになっている」。
このように川内原発再稼働に向けた許認可申請は、主要部分を公開せずに行われたのでした。あまりに杜撰で、安全性の担保がなんら社会に向けて開示されていません。

2、新規制基準は重大事故=過酷事故を前提としている

 明日に向けて(1062)原発再稼働に向けた新規制基準は大事故を前提にしている!
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/3d3e4b0cb07ae7a68734a3b52c9c693f 

第二も問題は再稼働の是非を審査する規制庁の新規制基準に重大な欠陥があるということです。端的に新しい規制基準では「重大事故」を防げないことがあることを前提にしているということです。
福島第一原発の教訓を踏まえて「重大事故」を絶対に起こさないようにする・・・とは言っておらず、起こさないように努力するが、それでも「重大事故」は発生しうる前提に転換したのです。
チェルノブイリ原発事故の時に、「あのような事故は日本では絶対に起こらない」と公言したことを捨て去り、「重大事故」が起こることを前提に再稼働を認めると開き直っているのです。

3、福島原発事故はまだ途上で教訓を生かすことなどできない

 明日に向けて(1063)福島の教訓に基づく重大事故対策などまだできるわけがない!
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/8718f402298f072498d32eb7f59478f8

第三に規制委は「福島第一原発事故の教訓」を参考に新基準を作ったと言っているのですが、そもそも福島原発事故はその全容がまだ解明されていません。
それどころか1号機から3号機は放射線値が高すぎて内部がほとんどみれず、溶け落ちた核燃料の状態やありかさえつかみ切れていないのです。
事故は継続中で、汚染水の発生から明らかなように格納容器のどこかが壊れているのは確実ですが、どこかが分かってすらいないのです。もちろん事故がどのように進展してどこが壊れたのかも分からないのであり、対策がとれる段階ではありません。
なお本年3月9日になされた大津地裁による高浜原発の稼働を禁止する仮処分決定は、この点を大きなポイントとしており、当然にも川内原発にも該当するものです。

4、現代科学では地震動の大きさを正しく予測できない

 明日に向けて(1064)原子力規制庁・新規制基準の断層と地震動想定のあやまり(後藤政志さん談)
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/a3f0e8c33a857d8a36a56280845eedc1 

第四に、現在の熊本・九州地震につながることですが、規制委が新基準に盛り込んだ地震対策があやまっていることです。ここにはそもそも地震の揺れの大きさが現代科学で十分に解析できないという問題が横たわっています。
例えば柏崎・刈羽原発を襲った2007年中越沖地震の地震動ははるかに設計上の想定を上回っていました。この原発の設計基準地震動は450ガルでしたが、実際には1699ガルの地震動がここを襲ったからです。なんと4倍もの揺れでした。
この時すでに現代科学ではまだ地震動の揺れを正確に捉えることなどできていないことが明らかになったのです。にもかかわらずこの重大問題に目を伏せたまま規制委は認可を与えています。

5、新規制基準の「重大事故」対策はかえって危険。事故を拡大しかねない 

 明日に向けて(1065)新規制基準の「重大事故」対策はあまりに非現実的でむしろ危険だ!
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/d4c8272d4c01e698efd2e68600b4b4af

 明日に向けて(1075)川内原発再稼働も禁止すべきだ!~加圧水型原発過酷事故対策の誤りを後藤政志さんに学ぶ~
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/9605e1dc395c1d33815861dad65ac36a

第五に、新規制基準における「重大事故」対策の内容が、事故を収めるどころかむしろ拡大しかねないより危険な内容をも含んでいることです。
とくに重要なのは、川内原発や高浜原発で採用されている加圧型原子炉の格納容器には、東電の持つ沸騰水型原発と違って窒素が充填されていないため、水素爆発が起きやすいのですが、これへの対処があまりに危険なことです。
どうしているのかというと、イグナイタ―(着火装置)をつけて水素が溜まる前に燃やしてしまおうとしているのですが、重大事故時に非常用の装置が期待通りに動くとは限りません。水素が一定たまってから着火がされれば自爆になってしまいます。

6、火山の噴火も予測できず事前に察知して核燃料を降ろすことなどできない

 明日に向けて(972)原子力規制委の噴火評価はデタラメ!火山学会の誠実な提言を受け入れるべきだ!
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/9f924552b380fc1efc744322658a6fad 

第六に、火山に関する噴火評価が火山学会の誠実な提言を踏みにじって行われたことです。川内原発は日本の中で破局的な噴火を起こしうる10の火山のうちの5つが集中する地帯にあり、どの火山の大噴火でも深刻な被害を受ける可能性があります。
これに対して九電は大噴火の兆候は数年前に分かるので、核燃料を炉心から降ろして安全な場に移すと述べており、原子力規制もこれを承認しています。運転中の核燃料を降ろすには5年近くかかりますが、その5年前に分かると言うのです。
しかし火山学会は繰り返し現代の技術では数日から数時間の範囲でしか噴火が予測ができないと語っています。いわんや数年の規模での予想などまったく不可能というのが学会の常識です。再稼働は火山学会の提言を踏みにじってなされました。

以上、新規制基準はなんら原発の稼働の安全性を保障していません。
1、申請が杜撰、2、「重大事故」に開き直り、3、福島原発の教訓にはまだ学べない、4、地震の揺れは正しく予想できない、5、「重大事故」対策がかえって危険、6、火山噴火は数年前からの予知など絶対にできない
こんな矛盾だらけです。

ぜひこれらのことを学習し広めてください。反知性主義にも抗い、正しい認識を広めていきましょう!

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守田敏也 MORITA Toshiya
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明日に向けて(1256)「原発が停められない!」などの不確かな情報に接した時にどうすると良いか?

2016年05月03日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160503 23:30)

熊本・九州地震が以前、継続しています。4月14日から本日5月3日午後6時までに観測された震度1以上の地震は1176回。
昨年1年間の日本全体の同様の揺れが1842回ですから、なんとその64%の回数が20日間で起こったことになります。
1日平均約5.0回だったものが約58.8回ですから、熊本・九州地震がいかにこれまでの地震のあり方とかけ離れたものなのかがよく分かると思います。

九州におられる方や断層の近くにお住いの方をはじめ、多くのみなさんに警戒の継続を訴えます。
またこのまったくの想定外の事態の繰り返しの中で、川内原発の稼働を続けるのは自殺行為そのもの。安全確保のために川内原発を停めよ!という声を繰り返しあげていきましょう。


さて昨日も触れたことですが、こうした事態が続く中で、ネット上にいろいろな情報が飛び交っています。中には明らかに間違っていながら、人々を惑わせているものもあります。
そのうちの一つが「川内原発は制御棒が入らなくなった。停めないのではなく停められないのだ」というものでした。
これに対して僕は、原発には仮に制御棒が入らなくなっても原子炉を停める他の仕組みがあることを明らかにし、この情報が正しくないことを示しました。詳しくは前号をご覧下さい。

 明日に向けて(1255)「川内原発に制御棒が入らず停められない」は誤情報!惑わされないために構造を学ぼう!
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/2ede8e214c819d8af7f15857fefd7050

今回はこのような情報に接した時にどうしたら良いのかを考察していきましょう。

前提としておさえるべきことは、こうした不確定な情報に人々が惑わされやすい最大の要因は、福島原発事故の時に、政府と東京電力がちっとも真実を明らかにしようとせず、人々を根本的な不信の中に突き落としたことにあるということです。
とくに東京電力は少なくとも2011年3月14日には、メルトダウンが進行していることを把握していました。東電は今年になってこのことを認めましたが、これは本当にひどい裏切りです。
しかも多くの方が証言しているようにこの時、東京電力は社員の家族は逃がしました。もしあのとき東電がメルトダウンの事実を明らかにし、社員の家族を逃がしていることを明らかにしたら、たくさんの人が避難し被曝を免れることができたでしょう。

当時の民主党政権も、人々に進行している事態の深刻さを告げませんでした。いざとなったら福島原発から半径170キロは強制移住になるはずでしたが、そのことをまったく明らかにせず、安全論ばかりを振りまいていました。
重大事実が隠されていたことは他にも幾らでもあげられますが、肝心なことはこうした隠蔽がまったく裁かれていないことです。
このため多くの人々が政府や電力会社に対し「何か重大な危機を隠しているのではないか」と何かにつけて思うことはまったく自然です。いやむしろ、ぜひとも疑ってかかって欲しいと言いたいです。それでなければ私たちの命が守れないからです。

しかしだからこそ私たちは、情報の伝搬や拡散をするにあたって、冷静で慎重になる必要があります。
ぜひともしっかりと把握しておきたいのは、インターネット時代の私たちは、誰もが情報の受信者であると同時に発信者でもあるということです。私たち自身が情報を作りもするのです。
このとき大事なのは、情報の受け取り手のことを考えること、可能な限り思いを馳せて言葉を発することです。これは僕自身、常に自分の指針としていることです。

今は未曽有の地震が続いている時です。想定外のことが続いています。にもかかわらず政府が川内原発を停めようとせず、首相をはじめとする閣僚が外遊に旅立ってしまっています。
このあり方自身が多くの人々の不安を強めています。「何か起こっても助けてくれないどころか知らせてもくれない」・・・。多くの人々がそんな懸念と苛立ちを持っています。
だからこそ僕は、いざとなったら自力で「とっとと逃げる」こと、逃げられない場合は家に立て籠もって、耐え忍ぶことをこれまで訴え続けてきました。

しかしこの地震です。立て籠もれるはずの家の多くが瓦解しています。またやっと復旧しだしましたが、多くの道路が寸断されてしまい、大動脈の九州自動車道や新幹線も停まっていました。
「いざというときに逃げろと言われても、とても逃げられない!」そんな状態に置かれている方がたくさんいる状態が続いています。
また僕の知人の女性でも、かつてから原発事故があってもお連れ合いを介護していて逃げられないので家で凌ぐことを考えると語っている方がいます。しかし大地震の被害と重なったら極めて厳しい。現に九州には今まさにそうした状態にある方もおられるはずです。

今回発せられた「川内原発は制御棒が入らず停めたくても停められない状況だ」という情報は、こうした方たちにとって極めて打撃的なのです。恐ろしさばかりがかきたてられる以外にない。
また同時に「停めないのではなく停められない状況」ということは「川内原発を停めろ!」と叫ぶのは意味がないということになってしまいます。それを信じた方から、危険な原発を停めようとするパワーを削ぐことにもなってしまいます。
僕はあまり裏での操作に頭を回さない方ですが(根拠の確認という枠を取っ払ってしまえば何でも言えてしまうからですが)、しかしあえて言えば「原発を停めろ」という声の鎮静化を狙った誰かのリークだとすれば思う壺にもなってしまいます。

この点で情報を受け取って、誰かに流そうとするときに、まずはこうして、受け取り手の様々な状況を考えて欲しいのです。そうすれば情報を拡散することに今よりも重みを感じるようになると思います。
そしてその上でして欲しいのは「本当なのだろうか」と考えて、情報の確からしさを調べてみること、「裏を取る」ことです。
お勧めの方法は、インターネットに求めたい情報に近いキーワードを入力して検索を繰り返すことです。これでだんだんと確からしいことに近づくことができますし、情報を精査する能力そのものがついていきます。。

もう一つ、可能ならばで良いですが、情報の発信元に問いを投げ返す作業をしていただきたいです。情報の根拠を問うのです。
とくに今回の情報には「知人の九州電力の社員から聞いた」との一言が枕に書かれているのですが、何より、ではなぜその当人がこれほど大事な情報を根拠をもって世にだそうとしないのかを問い返していただきたいです。
先に述べたように、原発が停められなくなっているというのは誤まった情報ですが、百歩譲ってそれが真実だとするなら、すぐにも周りの人々が避難しなければならないわけで、それを電力会社内部にいて知っているならば、外に出さないことは大罪です。

それやこれやで、不確かだけれどもインパクトの大きい情報に接した時は、けしてそのまま情報を拡散してしまわずに、自ら調べた上で、問いを発信源へ押し返していただきたい。それ自身が情報の確からしさを知ることにもつながります。
誰もがこのような冷静な作業を行うようにすると、誤まった情報が拡散する可能性をその分だけ小さくすることができます。
こうして私たちの手で、情報交換の場であるネット空間をよりよいものに変えていくことが可能です。

また必ずアフターフォローもすることを心がけて下さい。やりとりした情報は結局、どこにどう落ち着いたのか、最後まできちんとフォローし、より確からしくなったことをきちんと発信してこの件への関わりを終えるのです。
いたちごっごになる面もあるかもしれませんが、こうした粘り強い関わりで、私たちの立っている場をよりよいものに変えていきましょう。

最後に大事なのは、そうはいっても間違ったことを発信してしまったり、誤まった情報を拡散してしまうこともありうるわけでそのときにどうするかです。
答えはシンプルで、誤まった情報を出してしまったことに気付いたらただちに真摯に訂正を行って発信することです。誤まったものを拡散してしまった場合も同じです。
これも僕自身が指針としていることですが、人間、素直に過ちを認めることはなかなか辛いもので、いつも訂正を出すときには恥ずかしい気持ちにまとわりつかれます。だからできるだけ早く発信してしまうことを強くお勧めします!

ネット社会で情報の受け取りと発信を行う多くの人がこうした態度を貫くようにすれば、それだけ人々が誤まった情報に振り回される可能性を低めることができます。
同時にこの点を踏まえて発信元をウォッチしていると、信頼に足るかどうかの判断もわりと容易にできるようになっていきます。間違ったことが明らかになったときに訂正を出さない情報元の発信は信頼性が低いからです。
また自らもそのように見られるのだと考えると、辛い訂正もきちんと行えるようになります。そのことで情報分析・発信能力は必ず上がります。

以上、まだまだ留意すべき点もあるかもしれませんが、政府と電力会社があまりに嘘つきだからこそ、私たちはより誠実になっていきましょう。
それが真実に近づく道であり、世の中を真っ当なものへ変えていく道だと思います。
すべての人の命を守るために、世の中を今よりもずっと良くするために、一生懸命に、情報分析と発信を行っていきましょう!

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守田敏也 MORITA Toshiya
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明日に向けて(1255)「川内原発に制御棒が入らず停められない」は誤情報!惑わされないために構造を学ぼう!

2016年05月02日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160502 23:30)

熊本・九州地震、いぜん活発に続いています。4月14日以降、本日2日午後3時まに起こった震度1以上の地震は1152回。しかも今日も午後3時過ぎに熊本地方で震度3が観測されています。
このような中でさまざまな憶測も飛び交っています。その中で何回も「真実だろうか?」と尋ねられたものに「川内原発の制御棒が入らなくなっている。停めないのではなく停められないのでは?」というものがありました。
もちろんこれは誤まった情報です。仮に制御棒が入らなくなっても、原発を停止させる手段は他にもあります。このため本当に停めようとして制御棒が入らなかったのなら、他の方法で今頃川内原発は停められているはずです。

またそもそもこれまでのところ川内原発はそれほど深刻な揺れに見舞われていません。震度4が最大の揺れで、原子炉停止の目安となる強度の揺れ(震度5相当)に見舞われたと言うデータはありません。
多くの人々が懸念しているのは、だからといって今後も同じだとは言えないこと。何せ観測史上初めてのこと、想定外のことがたくさん起こっているのですから、川内原発が破局的な地震にさらされる可能性も考えられることです。
だから一刻も早く停める必要があるのですが、だからといって、すでに深刻な揺れに見舞われたという根拠となるデータなどないことをしっかりと冷静に観ておく必要があります。

「川内原発の制御棒が入らずに停められない」というのが誤情報であることはこれだけでも十分に指摘できるのですが、今後、このような誤情報に振り回されないために、ここで加圧水型原発(PWR)の制御の仕方、停め方を学んでおきましょう。
ここでは「一般財団法人 高度情報科学技術研究機構(RIST)」が運営している「原子力百科事典ATOMICA」を使いたいと思います。
この中の<大項目> 原子力発電<中項目> 軽水炉(PWR型)原子力発電所<小項目> 計測制御設備<タイトル>PWRの動特性 (02-04-06-02)から少し引用します。

 「PWR(加圧水型原子力発電所)における原子炉の反応度制御は、(1)制御棒操作、(2)ケミカルシム制御(ホウ素濃度調整)、および(3)原子炉固有の特性である自己制御性(負のドップラー効果、負の減速材温度効果など)の働きで行なわれる。」
 http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=02-04-06-02

引用はここまで。(興味のある方は全文をお読み下さい)

前提として稼動中の原子炉を停めるには核分裂反応をおさえることが必要なわけですが、そのために核分裂連鎖反応を起こす中性子の動きを阻害することが必要になります。
核分裂連鎖反応とは、原子が核分裂するとエネルギーと死の灰とともに中性子が発生し、その中性子が次のウラン原子に当たることによって起きるものです。この連鎖が連続して起こり続ける状態が「臨界」です。
制御棒とは核燃料体の間に差し込んで中性子を吸収してしまうものです。使われているのは、銀・インジウム・カドミウムの合金、あるいは炭化ホウ素で、これらが中性子を吸収するので核分裂反応が停まるというわけです。

他の方法として「ケミカルシム制御」があります。ホウ素濃度の調整です。ホウ素もまた中性子を吸収する物質ですが、もともと加圧水型原発の一次冷却水の中にあらかじめ一定の量が入っており、この濃度を調整することで出力調整ができるのです。
穏やかな出力調整の時に使われて、普段は制御棒よりもこちらの方が多用されていますが、万が一、制御棒が入らなくなったときにも濃度を高めて原子炉を停止させることもできます。
ただし沸騰水型原発の場合は、一時冷却水が沸騰して蒸気化してしまうため、そこにホウ素を溶かしておくと不都合があるので、加圧水型のように通常時には使われていません。

さらにもう一つ、加圧水型には出力が上がりすぎると自動で制御される仕組みがあるとされています。
もともと核燃料には中性子があたると核分裂するウラン235が3%ぐらい、核分裂しないけれども中性子を吸収し、プルトニウム239に変化するウラン238が97%ぐらい含まれています。
今、出力が上がりすぎて、核燃料の熱量が上がると、核燃料に含まれているウラン238が中性子を吸収しやすくなる「負のドップラー効果」というものが働き、反応が自動で収まっていくのです。

他方で原子炉には冷却水がまわっているわけですが、この水は熱を媒介するだけでなく、中性子の速度を下げる「減速材」という効果もはたしています。
核分裂のときに原子から飛び出してきた中性子は非常に速度が速いので、なかなか次のウラン235に当たらないのですが、水の分子と衝突すると速度が落ちて、当たりやすくなります。
この減速剤としての役割が、核分裂連鎖反応に不可欠なのですが、出力が上がりすぎて一次冷却水の温度が上がると、密度もその分、希薄になるため、中性子と水が衝突する割合が減り、十分に減速されず、連鎖反応が弱まっていくのです。

制御棒やホウ素濃度よる原子炉の操作が人為的になされるのに対し、後者の二つでは、運転室からの操作がなくても上がりすぎた出力が戻っていく効果をもたらすとされています。このように核分裂反応の制御には3つのあり方があるのです。
この3つ目の自己制御性に着目し、一次冷却水と二次系との接点にある「蒸気発生器」の配管を閉じて二次系統から切り離してしまい、人為的に炉内の温度をあげて、この二つの効果を引き出して運転を停めることもできるとされています。
これらから見ても、制御棒が入らなくなったら、それでただちに原子炉が停められなくなってしまうというのは間違った認識であることが分かります。

さてここまでは原発推進サイドの運営するホームページに依拠してきましたが、ではどのような時でも原子炉は安全に停まるのかというともちろん否です。
まず確認しておきたいのは、これまで説明してきたホウ素濃度の調整や、自己制御性は、あくまでも平常時に働く機構だということです。
緊急時への対応では何といっても制御棒を早急に入れなくてはなりません。これをスクラムといいます。しかも2.2秒以内に差し込まないといけないとされています。この平時と緊急時の違いは、ATOMICAでも以下のように整理されています。

 加圧水型炉(PWR)原子力発電所の制御棒制御とホウ素濃度制御の役割分担
 http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/02/02040102/02.gif

最も懸念される問題は、地震に遭遇して緊急に原子炉を停めなければならなくなったときに、揺れが強すぎて、制御棒が入らなくなる可能性があることです。
ここで問題になるのが「基準地震動」です。原発がどれぐらいの地震に見舞われると想定しているかの数値です。
揺れが激しければ制御棒が入らなくなることがありうるということ自身は、誰もが合意している常識です。ではどこまでの揺れなら大丈夫かを見積もって設計がなされているわけで、それを超えたら設計上、制御棒が入る保証はなくなるのです。

この間の大飯原発や高浜原発をめぐる裁判でもこの「基準地震動」が大きく問題視されてきました。制御棒挿入だけの問題ではありませんが、例えば柏崎刈羽原発を襲った中越沖地震ではこの基準地震動を何倍も上回る揺れが起こったからです。
この時は奇跡的に制御棒が入り、原子炉停止ができたのですが、しかしそれは設計上はもはや偶然の産物でしかありませんでした。
その後にも各地で基準地震動を超える地震が繰り返し起こっています。

このため新規制基準ではこれまでの基準地震動を引き上げることを求めました。この引き揚げ方自身にもさまざまな問題が指摘できるのですが、それはおくとしても、その新規制基準でも現に起きている地震に十分対応できていないのです。
というのは川内原発の基準地震動は620ガルですが、今回の熊本・九州地震では14日の益城市の地震で1580ガルが計測されました。ただしこの時の揺れではデータが正しくとれておらず、もっと大きな数値だった可能性もあります。
基準地震動を超える地震に襲われることは「想定外」で、設計思想の崩壊を意味し、そこからはもうどうなるか分からないのですが、現に今の連続地震がこれまでの想定を超えているのですから、「想定外」の揺れに襲われる可能性は十分にあります。

川内原発の危険性は制御棒スクラムが失敗する可能性だけにあるのではありません。そもそもたくさんある配管が、揺れに耐えられるのかという問題もあります。
とくに蒸気発生器という加圧水型原発のアキレス腱とも言うべき箇所で配管破断が起こって、一気にメルトダウンに進んでしまう可能性が懸念されています。これとスクラムの失敗が同時に起これば、破局までの時間は沸騰水型よりも圧倒的に短くなる。
あっという間に原子炉が破綻してしまう可能性があります。だからこそ川内原発は、即刻停める必要があるのです。たかだか湯沸かし器に命などかけていてはいけないのです!

続く

次回はこういう誤情報に接したときに、どのようにして信ぴょう性を確認するのか、またいかに対処するのかを考察する予定です。

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守田敏也 MORITA Toshiya
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[著書]『原発からの命の守り方』(海象社)
http://www.kaizosha.co.jp/HTML/DEKaizo58.html
[共著]『内部被曝』(岩波ブックレット)
https://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-270832-4

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明日に向けて(1254)熊本・九州地震は記録を更新中。何度でも「ただちに川内原発を停めよ」と声をあげよう!

2016年05月01日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1201~1300)

守田です。(20160501 23:30)

熊本・九州地震はいまだに収まる気配をみせずに活動を続けています。
しかしマスコミの報道などを観ていると、ゴールデンウイークに突入したことなどで緊張感がどんどん低下しているように思えます。
いや政府自身がそれを促進しています。すでに安倍首相が欧州五か国訪問の旅に発ってしまいました。続けてたくさんの官僚も外遊に向かおうとしています。
あたかも危機はもう過ぎ去ったかのような振る舞いです。

事実はそうではない!観測史上、初めてのこと、大地の激震が続いているのです。
みなさん。僕は今こそ「正常性バイアス」を打ち破るべき時だと呼びかけたいです!
危機に直面しているのに「事態は正常に戻っていく」と己を騙してしまうのが正常性バイアスです。
今、それがこの国を再び強く覆ってしまっている。とくに政府を完全に覆い尽くしています。このあり方そのものが大変危険です。

客観的な事実を見すえましょう。
まず震度1以上の地震は、4月14日の震度7の地震の発生以降、1日午後9時までになんと1125回を数えています。
これがどんなに凄いことなのかというと、昨年1年間の震度1以上の地震が1842回だったのに対し、わずか半月余りの間に、なんと前年総数の10分の6が起こっているのです。もの凄い頻発です。

このため気象庁青木元地震津波監視課長は、28日の会見で、率直にこう述べています。
「今回のような地震活動があるということは、初めて認識した」
「14日の発生当初は地震は、本震余震型で推移するだろうと考えて1週間程度震度6弱程度の地震への注意を呼びかけていた。その後16日に大きな地震が発生して、それ以降は本震余震型に当てはまらないと、余震発生確率も発表していない。
期間は明示できないということで、本日はお知らせした」。
要するに今起こっている事態が予想もしてなかったことであり、とてもではなけれども今後の予測も立たないと表明しているのです。

その後、気象庁は「熊本県や大分県では今後も当分の間は最大で震度6弱程度の激しい揺れを伴う地震に警戒するとともに、地盤が緩んでいるため、土砂災害にも十分注意するように」と発表しています。
しかしどう考えたって「最大で震度6弱程度の激しい揺れ」ということに確実な根拠があるとは言えません。もっと大きな地震がどこかで発生する可能性を否定できないのです。

ここで一度、川内原発のことを横において考えましょう。

九州のみなさん。また連休を通じてボランティアに入られているみなさん。今なお、九州の多くの地域が危険地帯であることを見すえて下さい。
とくにこれまで繰り返し地震にさらされた地域では、土砂災害の危険性がかつてなく高まっています。激しい山崩れなどが起こる可能性がありますし、それがさらなる地震によって起こる可能性もあります。
今はとてもではないですが首相をはじめとする主要官僚が外遊するようなのんびりした状態ではありません。ぜひとも政府に惑わされて緊張感を解いてしまわないようにしてください。

同じく中央構造線上に住まわれているみなさん、いやその他の地域のみなさんも、いつ何時今回の地震に連動した災害に見舞われるかもしれません。
そう考えて、あらためて地震対策を点検・強化して下さい。
繰り返しますが、昨年1年間に起こった地震の6割がすでに熊本・九州で起こっているのです。観測史上にないことです。だからこそ緊張感を解いてしまうと危険です。

とくに私たちが見ておくべきことは活断層にはまだ「割れ残り」と呼ばれる事態がありうることです。
4月29日付の西日本新聞は、断層帯の南西部、熊本県の八代市から水俣市にかけての断層帯では余震が比較的少ないことに対して、九州大地震火山観測研究センターの清水洋センター長(地震火山学)が次のように語っていることを紹介しています。
「エネルギーがたまっている可能性がある。本震以上の地震が起きるとは考えにくいが、M7級の地震もありえる」。

 連なる断層帯「異常」誘発 阿蘇、大分まで影響 熊本地震1000回超
 西日本新聞 2016年04月29日 02時02分
 http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/242139

NHKからは次のようなことも伝えられています。今回の地震では49人の方が亡くなっていますが、そのうち12人が14日の地震の後に自宅に戻った後に、16日の地震で亡くなったというのです。
「亡くなった人の中には「もう大きな地震は起きないだろう」とか「車での避難生活に疲れた」などと話して、自宅に戻った人もいた」のだそうです。
そのためNHKは余震がおさまるまで自宅に戻らない方がいいとも伝えています。

 死者の4分の1 いったん避難も自宅に戻り死亡
 NHK NEWSWEB 5月1日 19時09分

しかしそれ自身がとても苦しい状態です。一方で、自宅に戻ることをためらって、車の中で寝泊まりしている方たちの中から多数のエコノミー症候群による死亡も生まれているからです。
このような状態にいるからこそ、災害はもう終わったと考えたいのも無理からぬことです。しかしそれが危険を呼んでしまいます。だから僕も、人々の心が休まることのないこうした危険情報を発せざるを得ないのです。

本来、これは政府がなすべきことです。避難所にいて、いやその周りの駐車場などにいて、右往左往せざるを得ない人々に、政治が寄り添うべきなのです。断じて主要官僚が外遊などしていて良い次期ではありません。
しかし先にも述べたように安倍首相はもう日本を離れてしまいました。ならばこのことをしっかりと見据えましょう!この国の政府は住民を真剣に守ろうとなどまったくしてないことをきちんと把握しましょう。
私たち自身が自らの力で自分たちを守らなければならない。そのことにこそ覚醒しましょう!

さてここで川内原発のことに思いを馳せたいと思います。もはや言うべきことはわずかだです。
こんな状態にあるのに、つまり原発のことを除外しても、未曽有の地震に人々が襲われて、苦しみ抜いているのに、この国の政府は民衆の危機と苦しみに向かいあおうとしていません。だとしたら私たち民衆の下からの力で安全を獲得しなければなりません。
その第一は川内原発を停めることです。原発がなくてもこれほど大変で、何が起こるが分からない事態なのですから、原発が動いていてよいわけがないのです。

正常性バイアスに囚われて、目の前の危機を見過ごしてしまうことを拒否し、この未曽有の事態にみんなで向かい合い続けましょう。
そのための最も合理的な対策の一つとして「川内原発の稼働を停めよ

ましょう!!

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