守田です。(20110330 14:30)
みなさま。
今日も、ゆっくりとしたチェルノブイリ事故が進んでいます。
想像を絶する量の放射能が依然、漏れ続けています。しかし新聞を検索していても徐々に原発関連の記事量が減りだし、他の記事の割合が増えているように思えます。
記事自身は、一時期のような「安全だ」のオンパレードや、楽観論、好転の兆しばかりを並べるような論調は低くなりつつあります。相変わらず価値判断抜きのままですが、大変シリアスな事実も書かれています。しかし、全体として見た場合、原発災害の扱いそのものが小さくなりつつあります。
漏れ出した放射能の総量はますます増え、放射線被ばくの恐れがさらに深刻になっているのに、いや、現に今、被ばくが進んでいるのに、関心が薄らいでいく。やはり「何とも奇妙な数週間」が進行中です。
正常な危機意識を保つのが難しくなりつつありますが、しかし現状をきちんとウォッチして、危険性を指摘し続けている人々もいます。そうした人々の発信をより集め、解析し、みなさんにお届けするのが今の僕の役割だと思っています。
さて福島原発では、タービン建屋などに溜まった放射能汚染水をどうするかに、報道が集中しています。数千トンの汚染水が溜まっています。日本の新聞は、もっぱらどのように除去するのかについての報道に終始していますが、ロイターには、アメリカの「憂慮する科学者同盟(UCS)」による放射能汚染の深刻さの指摘の記事が載りました。
この団体(Union of Concerned Scientists)は、1969年、科学の悪用・乱用を防ぐことを目的に、マサチューセッツ工科大学の教授や、学生によって設立された非営利の科学者団体だそうです。ワシントンDCやバークレーにも事務所を置き、10万人以上の科学者や市民を会員にしています。
同団体が指摘するのは、周辺の地下水、貯水池、海水が発電所から漏れ出た高濃度の放射能による「著しい汚染」に直面していることです。これは現在溜まっている汚染水が、数千トンに及ぶことや、すでに相当量が、海に流れ込み、汚染度が上がっていることなどからの判断のようです。また「建屋内にたまった水が蒸発することで、放射性物質が拡散する可能性」も指摘しています。
しかしこれは考え見れば、至極当たり前の推論だとも言えないでしょか。むしろこう考えない方がおかしい。そもそも、これまで原発の安全性は、放射性物質が5重のシールドで封印されていることにあると強調されてきたのにそれが破られたのです。
5重とは、放射性物質が、セラミック状態に焼き固められた燃料ペレットの中にあること、その周りをジルコニウム合金で被覆してあること、厚さ15センチぐらいの鉄板から作られた原子炉圧力容器があること、さらに厚さ3センチぐらいの原子炉格納容器があること、その周りに原子炉建屋があることです。
ところがこの5重のシールドはすべて破られてしまったのです。すでに気化しにくいプルトニウムが検出されているように、ペレットの中身が、冷却のために後から後から注いでいる水によって、外に大量に漏れ出して来ているのです。つまり放射能を防御するシールドは穴だらけで、時間が経てば経つほど、よりたくさんの放射能が出てくる。だからこそ、速やかに距離をとらないと危険です。
しかも汚染水は数千トンです。どれほどの汚染になっているか、誰も分からない状態です。時によって水面から1000ミリシーベルトもの放射線が出ていることが確認されてる程度です。このようなものをモニタリングすることなど、誰も想定してきていない。だからその実態も含めてアンコントロールなのですが、これまでサンプリングされた数値からも、とにかく「膨大」な量であることだけは分かります。(もはや「高濃度」も、「膨大」も意味をなしません。こういうのを桁外れと言うのでしょうか)
それは当然、さまざまな形で周りの環境を汚染します。海に入れば、海洋汚染もさることながら、近辺の浜にもうちあげあげられるでしょう。またいろいろな形で地下水脈の汚染も進むでしょう。記事もあるように、蒸発した水から放射性物質が拡散する可能性も極めて高い。
そしてそれは風に乗って周辺に飛んでいきます。いや今まさに飛んでいっているはずです。なぜかそれはモニタリングされてはいない。しかしそう遅くないうちに急激に放射能汚染の拡大が表面化する可能性が高いと思われます。
だからこそ避難を急ぐべきです。とくに福島県の人々全体の救出が急がれねばならない。それと知りつつ、口にしない政府とマスコミは、許されることのない罪を犯しつつあるのではないでしょうか。
続いて同じ事態を扱っている朝日新聞の記事を紹介してあります。朝日の記事は、汚染水の除去や、原子炉建屋を覆う布の使用など、もっぱら対処の方にフォーカスして書かれています。
そこからもこの処置が並大抵ではないことがうかがえます。タンカーを使う案が書かれていますが、そのタンカーはそのあとどうするのだろうと、津波で陸に打ち上げられたたくさんの大型船を目の当たりにした誰もが
思うのではないでしょうか。
しかも良く読むと、「燃料取り出し・移送」班は、建屋が倒壊した場合、どうやって破損した燃料を取り出し、どこに運ぶかを検討している。」と書かれている。つまり建屋が倒壊の危機に立っていることがここから分かります。ここにも危機の実態が見え隠れしています。しかし価値判断は出てこない。ただ、対処を行っているという政府の発表を、広報しているだけです。
さらにもう1本の朝日新聞の記事では、「温度や圧力の上昇が懸念されている1号機の原子炉は、29日に一時
300度を超えるなど不安定な状態が続く。2、3号機と比べ6割の出力しかなく、原子炉が小さいことから、「わずかな水量の違いで、温度や圧力が大きく変わることがある」という。」
という重大な事実が記事の中にさらっと書かれています。しかしそれが意味するのは、1号炉が、不安定で非常に険な状態にあり、「わずかな水量の違いで、温度や圧力が大きく変わることがある」という事実です。ここから温度や圧力のせいで、原子炉が崩壊してしまう可能性があること、それが「わずかな水量の違いで」起こりうることを、読み取ることが可能です。
この点は、元原子炉設計者の後藤政志さんが、原子力資料情報室の会見で繰り返し指摘してきたことです。原子炉圧力容器も、格納容器も、圧力だけでなく温度によっても破たんすることがある。
しかも1号炉は、原子炉格納容器が、一たび設計基準の4.3気圧を倍する8気圧にもなったことがありました。また温度も設計基準の302度を超える400度超にもなった。繰り返しダメージを受けているのです。その炉が「わずかな水の量の違い」で一気に危険な状態に陥ってしまう状態下にあります。
すでにここで報じたように、3月26日の原子力資料情報室の、田中三彦さんの会見でも、そもそも1号炉は地震当日に、冷却材喪失事故を起こしていた可能性が高いことが明らかにされています。配管の破断などが起こったことが予想されそれは今なお、修復できていないはずです。だから水がたまらず、コントロールができない。必死になって抑え込んでいるけれど、非常に難しい状態にあるのです。
これほどの危機があるのに、しかも後から後から放射能が漏れているのに、この国では、危機に背を向けた「奇妙な数週間」が進行しています。
明日にむけて、私たちたちは危機から目をそらさず、私たちのできることを模索し続けましょう。放射線被ばくから、少しでも多くの人を守りましょう。そのために危機をきちんとつかんでおくことが大事です。危機感と倫理観のマヒに陥っている政府とマスコミの醸し出す雰囲気に飲み込まれず、放射能を「正しく怖がり」続けることが大事だと思います。
繰り返しますが、放射能汚染は確実に広がっています。一時期の数値に一喜一憂せず、原発からどんどん出続けている現実に着目しましょう。近いところから、被ばくから身を守る態勢をより固めていきましょう。
情報発信を続けます。
(追記:ここまで書いて発信しようとしたときに、一番下に貼り付けた産経新聞の記事が目に飛び込んできました。どうかお読みください)
福島原発事故、周辺の地下水や海水、「著しい汚染」の恐れ=科学者団体
[ワシントン 28日 ロイター] 科学者などで成る国際的な非営利団体「憂慮する科学者同盟」は28日、東京電力福島第1原子力発電所の事故の影響について、周辺の地下水、貯水池、海水が発電所から漏れ出た高濃度の放射能による「著しい汚染」に直面していると指摘した。
数日前は、放射能は広大な海に流れ出れば薄まり、人体に影響を及ぼすリスクはないとの見解を示していた。しかし、28日に2号機のタービン建屋から外部につながる坑道(トレンチ)で高濃度の放射性物質を含む水が
検出されたことから、より厳しい見解を示した。
地震で冷却機能を失った原発にはこれまで、海水を注入するなどの作業が行われてきた。専門家は、各種報道によれば、使用済み核燃料棒プールの水は満杯、あるいは放射能物質を含む水が流れ出ている可能性があると指摘。
原発の構造に詳しい物理学者である「憂慮する科学者同盟」のエドウィン・ライマン氏は28日の電話会見で「これによって海水が深刻な汚染に見舞われないとは考えづらい。希薄化される一方で、一部は再濃縮される
こともある」と述べた。
環境や人体への影響を正確に予測するには、日本側からのさらなる情報が必要としている。また、東京の水道水で低レベルの放射能物質が検出されたことと、最新の事実との関連性には言及していない。
ライマン氏は、原発を冷却するために使用された海水は放射能物質を含み、周辺の海、貯水池、地下水を汚染する可能性とともに、原子炉内外から漏れ出た水が危険と指摘した。
週末には2号機のタービン建屋地下にたまった水から原発通常運転時の10万倍という高濃度の放射性物質が検出されたと報道されたが、「憂慮する科学者同盟」の原子力の安全性プロジェクトの責任者で原発エンジニアのデビッド・ロックバウム氏は「(放射性)物質が漏れ出す経路はいくらでもある」と指摘。1号機、3号機、4号機は建屋が崩壊しているため、もはや汚染が防御されない状態で、建屋内にたまった水が蒸発することで、
放射性物質が拡散する可能性があると述べた。
(2011年 03月 29日 13:02 JST)
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPJAPAN-20310620110329
建屋、特殊布で覆う案 内閣、放射性物質の飛散防止に
放射性物質の飛散対策(イメージ)
東京電力福島第一原発で、建屋が吹き飛んだ1、3、4号機に、特殊な布をかぶせて放射性物質の飛散を防ぐ策を菅内閣が検討している。原子炉を安定して冷却するための電源復旧などに向けた作業環境を確保するためだ。タービン建屋地下に漏れ出した高濃度の放射能を含む汚染水の対策には、汚染水をタンカーで回収する案も出ている。東電の作業は難航しており、より大がかりな計画が必要との認識だ。
関係者が朝日新聞社の取材に明らかにした。二つの対策は、放射性物質が原子炉から出続けていることで、原子炉の冷却作業がうまく進まなくなったため、急きょ出てきた。自然環境に大量の放射性物質をまき散らせていることへのあせりもある。
大気への飛散対策では、まず1~4号機の建物内に付着している放射性物質に、特別な塗料を吹き付けて、閉じこめる。
次に、原子炉建屋の上部を失っている1、3、4号機の壊れた部分を、特殊な布製の仮設建屋で覆う。密閉すると再び水素爆発が起きる危険性が出てくるため、フィルター付きの換気設備を取り付けることも検討している。
タンカーで回収する方法は、強い放射性物質を含む汚染水の存在が、電線敷設やポンプなど各機器の復旧など、原子炉を冷やすために必要な作業の妨げになっていることや、水量が増え海にあふれ出る危険性が指摘され始めたため、首相官邸を中心に28日に浮上した。
具体的には、第一原発の港湾部に空のタンカーを横付けし、2号機などに大量にたまっている放射性物質で汚染された水をポンプなどを使って移す案が出された。
ただし、国土交通省などから、大型のタンカーをつけられる岸壁施設が整備されていない、など慎重な意見が出た。ポンプで水を移す際の作業員の安全が確保できない、といった反対意見も広がった。
菅内閣はこのほかにも、厳しい放射線環境下で人間が作業することには限界があるため、ロボットを使ったり、機材をリモコンで操作したりするなどの対応も、産業界や米国と連携して考えている。
第一原発の事故問題などを担当する首相補佐官に任命された馬淵澄夫・前国土交通相が、細野豪志・首相補佐官とともにチームをつくり、対策を練り始めた。
対策チームには関係省庁や原子力安全委員会などの関係機関、東京電力、原発設備に関係する電機メーカー、ゼネコンなどが入っている。米国からも原子力規制委員会が参加している。
チームは「遮蔽(しゃへい)」「リモートコントロール」「燃料取り出し・移送」の三つの班に分かれ、検討作業を進めている。
「燃料取り出し・移送」班は、建屋が倒壊した場合、どうやって破損した燃料を取り出し、どこに運ぶかを検討している。
(2011年3月30日3時3分 朝日新聞)
http://www.asahi.com/national/update/0329/TKY201103290495.html
汚染水、玉突き排水作戦 作業員419人苦闘
東京電力の福島第一原発1~3号機のタービン建屋地下にたまった汚染水の排水作業が本格化している。29日朝の時点で419人の作業員が参加している。
1号機では、6台の仮設ポンプを使って、毎時18トンの水を復水器に移している。仮設のポンプでは十分な能力が得られず、1台のポンプで水を地下から1階までくみ上げて、もう1台のポンプで復水タンクに入れるリレーを行っている。
2、3号機の復水器は満水状態なので、もともと復水器内にある汚染度が低い水を、建屋外の「復水貯蔵タンク」にすべて移し替えて復水器を空にする。復水貯蔵タンク内の水は別の「圧力抑制室用貯水タンク」に移し替えて、それぞれ空き容量を確保する作業を28日に始めた。
圧力抑制室用貯水タンクは各号機共用で、4号機の南にある2基は容量計6800トン、うち空き容量は約4千トンとみられる。2、3号機の貯蔵タンクを空にして、復水器に最大限の容量を確保する綱渡りの作業を続けている。
一方、原子炉や使用済み燃料プールを冷やす注水作業は続いている。
温度や圧力の上昇が懸念されている1号機の原子炉は、29日に一時300度を超えるなど不安定な状態が続く。2、3号機と比べ6割の出力しかなく、原子炉が小さいことから、「わずかな水量の違いで、温度や圧力が大きく変わることがある」という。
また、3号機建屋の外で残留熱除去海水系配管の部品を取り外した際に、協力企業の作業員3人が配管にたまった水をかぶったものの、水をふきとった結果、放射性物質の付着はなかった、と発表した。
4号機では、中央制御室が29日点灯。これで1~6号機すべての中央制御室が点灯した。
(2011年3月30日0時1分)
http://www.asahi.com/national/update/0329/TKY201103290497.html
福島原発、放水口付近の海水から3355倍のヨウ素検出
一度は減少も再上昇
東京電力福島第1原子力発電所の放射能漏れ事故で、東電は30日、福島第1原発の南放水口付近で、基準値の3355倍となる放射性ヨウ素131が検出されたと発表した。これまでに海水から検出された中では最も高い値。
東電によると、海水は29日午後1時55分に採取され、基準値の520.2倍のセシウム134なども検出された。
また、29日午前8時20分に同地点で採取した海水では、ヨウ素131は基準値の2572.5倍、セシウム134は同395.5倍だった。
同地点では、26日午後に基準値の1850.5倍のヨウ素131が検出されていたが、28日午後には同27.9倍まで低下していた。
(産経新聞 3月30日(水)12時50分配信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110330-00000543-san-soci
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