明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1044) チェルノブイリから学ぶこと(馬場朝子さん講演会より)上

2015年02月24日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1001~1100)

守田です。(20150224 23:30)

京都府向日市で行われた馬場朝子さんの講演会「チェルノブイリから学ぶこと」に参加してきました。ミンナソラノシタ主催で「まこと幼稚園」で開かれました。
馬場さんは元NHKのディレクターとして2012年にベラルーシとウクライナを取材し、素晴らしいドキュメントと著書を紡ぎ出してくださいました。
その後にも取材を重ね、2014年にも新たなドキュメントを配信されています。

馬場さんたちの取材の大きなポイントは2011年に打ち出された「ウクライナ政府報告書」におけるチェルノブイリ原発事故による深刻な健康被害のレポートに接し、その実態してきたことにあります。
私たちが福島原発事故の今とこれからを考える上で、極めて示唆に富んだ取材になっています。
このためこれまでも僕は馬場さんの共著書である『低線量汚染地帯からの報告』などをとりあげてきました。以下の二つの記事です。

 明日に向けて(977)ウクライナの悲劇=被曝の現実を読み解く(ポーランドを訪れて-5)
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/83669290d338e0f63d694c7e55bfbee2
 
 明日に向けて(979)ウクライナの悲劇=被曝影響の隠蔽と第2世代の健康悪化・・(ポーランドを訪れて-6)
 http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/4fe8468358e177a263eb02d2c943b422

今回、その馬場さんが京都に来られると知って、どうしても直にお話が聞きたくて参加し、講演中、夢中でノートテークしてきましたので、何はともあれみなさんにご紹介したいと思います。
なお録音が禁じられていたため、あとからノート内容を確かめて修正することができなかったので、上述の書や、その後に新たに馬場さんたちが作られたドキュメントから補足を行いました。
「原発事故 国家はどう補償したのか~チェルノブイリ法 23年の軌跡」(NHKETV特集2014年8月23日放映)がそれですが、いずれにせよ、あくまでも守田がかく聞いたという内容であることを明記しておきたいと思います。

以上を踏まえた上で、ノートテーク内容をご紹介しますが長いので2回に分けます。コメントはその次の号で行います。

***

チェルノブイリから学ぶこと(馬場朝子さん講演会より)上 
2015年2月24日 向日市まこと幼稚園礼拝堂にて 
主催:ミンナソラノシタ 後援:まこと幼稚園

私は福島原発事故のとき、本当に怖い思いをしました。正しい情報がどこからも出てこない。私自身、放送局の中にいるのに、現地に取材に入った人からちらちら情報が入るぐらいでした。
それから半年、一年と水をどうしようか、食べ物をどう買ったらいいのか悩みましたが、チェルノブイリの人たちは長い間、ずっとそんな思いを続けてきたのですね。その方たちのところに行きたいと思い、取材にいって話を聞くことができました。
ウクライナには2012年と昨年と二度行きました。2回目は生活保障がどうなっているかを取材しました。今日は健康被害について取材したVTRをまずは紹介したいと思います。

大地を汚染した放射能にもいろいろありますが、このVTRで問題にされているのはセシウムの影響です。ウクライナの医師たちはセシウム汚染が一番の問題と言っています。
ウクライナはもともとヨーロッパの穀倉と言われた豊かなところです。みなさん、自家菜園をもっていて生活していました。豊富に採れるキノコやベリーを食べてきました。
チェルノブイリ原発事故から数年間は、みなさん、これらを食べるのを控えていましたが、食べ物への注意深さを維持するのは大変なことで、今では多くの方がもういいだろうと食べ始めています。医師たちも食べています。
そんなに長く、気にしていられないのです。そこに住み続けているともう仕方がない。そのために内部被曝が起こって病気が増えているという実感が医師たちにあります。

番組ではこの後、白内障について取り上げています。国際機関は白内障は250ミリシーベルト以上での被曝で起こると言っていて、低線量、100ミリシーベルト以下での被曝で発生することを認めていません。
ウクライナの研究者たちは汚染の高い地域と低い地域の比較研究を行い、低線量下でも白内障が起こっていることを証明する論文を提出しましたが認められませんでした。
この他にも、ウクライナの医師たちは、ありとあらゆる病気が増えていることを発表しています。

国際機関はなぜウクライナの医師たちの主張を認めないのか。疫学的な証明が足りないからだと言うのです。それも被曝線量などあらゆるデータが揃っている疫学的証明です。
その上である集団の被曝線量と健康被害との間に統計的に有意な相関があって初めて病が証明されたと言えるがウクライナにはそのようなデータがないと言うのです。
しかし平時ではデータをとることが可能かもしれませんが、事故によるあの大混乱の中でどれだけデータをとることが可能だったのでしょうか。

そもそも事故当時は放射線の空間線量を測る機器さえ少なかったのでした。ホールボディカウンターなど、ほとんどありませんでした。そのため被災者のうちのおよそ40パーセントしか被曝量が分かっていません。60%の人がどれだけ被曝したのかすら分からないのです。
しかも当時のソ連社会では原発に関することは軍事機密とされていました。すべての情報が秘密になっていました。そのため事故後、3年間は汚染情報は出てませんでした。この間に、原発事故の収束作業をした作業員がたくさん死んでいますが、そのデータも秘密にされていました。
今は少しはデータが出ていますが、あるロシア人ジャーナリストで、当時、被曝医療に携わった医師を取材した方が、医師たちに被曝した数値を低く見積もるようにと指示があったことを教えてくれました。こうしたことはありえただろうと思います。

被災地域の住人たちは、原発から30キロ以内はすぐに避難しましたが、その後に避難先からも移動していて、どこに行ったのか追跡するのが困難な人も多くいます。このような状況で国際機関が求めるすべてが揃った疫学的データなど、あまりにハードルが高すぎるのです。
またウクライナは貧しい国で研究のための人員もお金も足りません。その上、国際機関に認められるためには英語で論文を書き、英文の科学雑誌で採用されなくてはなりませんが、そうしたことを出来る人は非常に限られています。
このため国際機関が無視を続けているのですが、ウクライナの医師たちは、自分たちの実感が無視されていると考えています。しかし必ずいつか、自分たちが明らかにしたことが真実だということが証明される日がくると信じて頑張っています。

私自身は熊本に関わりがあるのですが、このウクライナの状況と水俣病となんと似ているのかと思いました。
水俣病では住人にはっきりとした症状が出ているのに、原因が工場による水銀の排出にあると特定するまで10年以上かかってしまいました。現地の医師は、当初からおかしいことが起こっている、排水が疑われると言っていましたが、データが不備だということで却下されてしまいました。
国家が企業を優先して原因を解明しようとしなかったのです。そのあり方がとても似ています。

次に番組ではヨウ素によって引き起こされている甲状腺がんについて放映しました。私が取材した中で、この甲状腺がんについての事実が一番衝撃的でした。
事故から数年経ったときに、ベラルーシの子どもたちの手術を受ける映像を観たことがあって、あの頃が甲状腺がん発生のピークだと思っていたら、毎年、発生件数が増え続けているのです。今も増え続けています。
ヨウ素の半減期は8日です。2ヶ月でゼロになります。その影響が何十年も経って出ているのです。今でも毎年600、700人が甲状腺がんの手術を受けています。

今、福島でもたくさんの子どもたちから甲状腺がんが見つかっています。その時、チェルノブイリ原発事故では甲状腺がんの発生は4年後だったから、今見つかっているものは福島原発事故由来ではないというコメントが繰り返されています。
しかしウクライナの現場では3年後の89年には甲状腺がんが増加していることが医師たちによって捕まれていて、国内のシンポジウムで発表もされていたのです。にもかかわらず当時のソ連政府に無視されたのでした。
私が取材したコロステンでも、医師が翌年の87年から甲状腺がんの子どもが出ていたと語っていました。

事故から4年経つと日本からの援助もあって検査機器が増え、検診が強化されました。そのことで爆発的に見つかったのです。この経験からウクライナの医師たちが福島が心配だと語っています。必ず検査を受けてくれ、データを採ってくれと言っていました。
しかし福島では、県が行っている検診に行かない人が増えているそうです。どうしてかというと、検診を受けても、A,B,Cの判定が渡されるだけで何の説明もないからです。
コロステンでは毎年検診を行っていて、医師から、エコー検査の写真などを示しながら、とても詳しい説明がなされています。福島ではこれが全くないのです。

もっとこの検査は何のためにやっているのか。10年、20年後のためにもやっているという説明をしなくてはいけない。そういうことがとても大事です。
ある医師は「住民の不安を煽るとよくないので詳しい説明はしない」と語っていました。しかしウクライナでは住民たちは「最悪の情報でもいいから伝えて欲しい。それを知れば対応することができるから」と語っていました。
伝えることを検査をする側が取捨選択してはいけないのです。

続いて第二世代の病について放映しました。この点については医学的に解明されていない部分がとても多いですが、「遺伝的影響はない」ということになっています。
いずれにせよ、セシウムによる内部被曝が続いているのは確実です。番組に登場しているステパーノバ博士の意見では、放射線によって細胞の中のミトコンドリアがダメージを受けて、いろいろな疾患が増えているのだろうとのことでした。
彼女はこの点についてさらに研究をしたいと思っているのですが、今のところは予定化できていないそうです。

それにしても子どもたちに病気が多いことには本当に驚きました。現地に行く前に汚染地の子どもの78%に病気があると聞いて、まさかと思いました。ところがコロステンの学校に取材にいったら、実際にそうでした。子どもたちは見るからに痩せていました。顔色も悪いのです。
原因として経済困難などもあるかもしれません。ジャンクフードもたくさん出回っているので、それが健康を悪くさせている面もありえます。
しかし地元の医師たちは、何よりも放射能の影響だと思っていると語っていました。ウクライナの人々は、今もなお不安の中で生きているのです。

続く

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