真夜中の12時ちかく、歩きたくなって、近所の稲荷神社まででかけた。照明があっても薄暗い境内の、イチョウの木に、たくさんの実がみえる。銀杏(ぎんなん)だ。
また、秋か。この巨木の、ぎんなんの実をみたのは、すこしまえのような気がする……一年が過ぎるのは、なんと速いことか。
帰り道、スーパーで安ワインを買った。まだ地下鉄は、終電ではない。勤め帰りの若い人たちが、駅からどっとでて、自宅に帰っていく。スーパーもコンビニも、お客がたくさんいる。午前0時だが、北海道・帯広の昼の繁華街より、はるかに人通りは多い。
(数年まえ、ひさしぶりに帯広に帰った。人が歩いてない。メインストリートの西2条通りに、ショックをうけた。この静けさは、なんだ? )
部屋のちかくまで来ると、赤ん坊を背負ってあやしている若い母親がいた。きっと、向かいのマンションの住人だろう。
ここのところ毎晩、真夜中に、まさに火がついたように泣く赤ん坊がいる。病気か? ひどい泣き声だ。長いな! いつまでつづくんだ。虐待か? 警察をよぶべきか? と思っているうちに、泣き声は聞こえなくなった。それが、毎晩のようにつづいていた。
泣きやんでいたのは、母親が、こんな真夜中に、外で、おんぶしてあやしていたのか。
『おれも、おしめ付けて、たれながしのガキのとき、母さんに、こうしてあやしてもらったんだろうな』