映画『ラストサムライ』で、トム・クルーズが演じた人物には、実在のモデルがいる。フランス軍人、ジュール・ブリュネ大尉だ。フランス軍事顧問団として来日したジュール・ブリュネは、函館戦争で、旧幕府軍とともに官軍と戦った。
函館で撮影された、榎本軍とフランス軍人。前列、左から2人目が、ジュール・ブリュネ。
ナポレオン3世が、徳川幕府に派遣したフランス軍事顧問団(前列右から2番目が、ジュール・ブリュネ)。幕府の形勢が不利になると、すぐにフランスは中立の立場をとり、軍事顧問団の帰国を命じる。
しかし、旧幕府軍に共感した、ジュール・ブリュネ大尉たち5人は、フランス政府の命令に反して、軍事顧問団を脱走して、旧幕府軍に合流する。
ほかに、横浜に住んでいた元軍人の3人のフランス人と、旧幕府軍の侍たちに共感して、フランス海軍を脱走した2人の水兵が、榎本軍に加わった。つまり、榎本武揚を総裁とする旧幕府軍には、10人のフランス人が参加していたのだ。(トム・クルーズの映画のように、アメリカ人ではなかった。ラスト・侍を尊敬して、侍、最期の戦場をともに戦ったのは、フランス人だった。)
旧幕府軍に参加して函館で戦った、このジュール・ブリュネたちフランス人たちの存在を、わたしが知ったのは、鈴木明さんの著書、『追跡 一枚の幕末写真』(集英社 1984年)だった。
はこだて人物誌 ジュール・ブリュネ http://www.city.hakodate.hokkaido.jp/soumu/hensan/jimbutsu_ver1.0/b_jimbutsu/jyuuru_buryune.htm
映画『ラストサムライ』で、トム・クルーズ演じるネイサン・オールグレン大尉が、日記をつけ、絵を描いていた。実際のジュール・ブリュネ大尉も、画才豊かな人だ。日本人を描いた、みごとなスケッチが残っている。 旧幕府の侍たちに共感した武人らしい、文武両道の才人だ。
箱館戦争・決戦前日、ジュール・ブリュネ大尉たちフランス人は、総司令官・榎本武揚の助言で、函館湾に停泊していたフランス軍艦で脱出した。フランスに帰国したジュール・ブリュネは、裁判にかけられるが、普仏戦争が勃発して特赦され、軍務に復帰する。そして、フランス陸軍参謀総長まで登りつめた。日清戦争では、日本軍を支援して、明治政府から勲二等旭日重光章がおくられている。1911年、73歳で亡くなった。
新選組副長、土方歳三もまた、箱館戦争を戦い、戦死した。ラストサムライのひとりだ。
どんな映画も、テレビ・ドラマも、どんな役者も、実在の侍や軍人たちの緊張した存在感を再現することはできない。フィクションは、フィクションにすぎないということだ。函館で撮影された、この土方歳三が好きだ。じつにかっこいい。
ジュール・ブリュネ The Last Samura-The True Story http://www.youtube.com/watch?v=Wn1Ee4DnoU8