東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2018年10月10日 | Weblog

 明治期の大関、朝汐太郎(初代)は若い時、しこ名を変えてはと親方から勧められた。「朝汐なんていう素人相撲にありそうな安っぽい名はやめろ」。朝汐は首を横に振ったそうだ。「自分が出世したら朝汐でも立派に聞こえましょう」▼金のしめこみ。締まった体。昭和の名横綱も同じ決意で本名の姓にこだわったか。そしてその名を歴史に刻んだ。第五十四代横綱の輪島大士さんが亡くなった。七十歳▼右を絞り、相手の体勢を高くしておいて、切れのある下手投げを打つ。往時の技を思い出す人もいるだろう。北の湖との「輪湖時代」を築いた。あのころの少年は輪島のダイナミックさと力士としての様子の良さに夢中になった▼一九七四年七月場所千秋楽。本割で北の湖に並び、優勝決定戦も制した。取組の前、トイレから見えた北の湖優勝を見越したパレード準備を見て奮起した▼早くから天才の呼び声が高かったが「自分はちがう」と思っていた。「本当の天才は北の湖さん」。そう考えることで闘志をかき立てたのだろう▼青梅街道を西へ。杉並区役所を過ぎて右に折れる。かつて花籠部屋がここにあった。七二年の初優勝。このあたりをパレードして気分がよかったそうだ。歩いてみる。輪島が手を振る。同じ「阿佐ケ谷勢」の貴ノ花がいる。魁傑がいる。歓声と拍手…。今は、街道からの車の音しか聞こえない。

 
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


今日の筆洗

2018年10月07日 | Weblog

 一九四五年十二月、フランス赤十字の一員としてポーランドのワルシャワに勤務していた女性医師マドレーヌ・ポーリアックさんは恐るべき事実を知る。カトリック教会の複数の修道女が旧ソ連軍によって集団で性的暴力を受け、妊娠させられた▼フランスとポーランドの合作映画「夜明けの祈り」(二〇一六年)はこの医師の手記が基になったという。純潔を教えられた修道女たちは性暴力を受けたことを恥ととらえ診察をためらう。教会も事実を隠そうとする。恐怖と信仰上の悩み。混乱する修道女たちが見ていられぬ▼戦争、紛争状況下の性暴力は遠い過去の話ではない。今年のノーベル平和賞。紛争下の性暴力の根絶に取り組むお二人が選ばれることになった。コンゴ(旧ザイール)の医師デニ・ムクウェゲさんと、過激派組織から受けた性暴力を国際社会に向け、告発するイラクのナディア・ムラドさんである▼ムクウェゲさんは五万人を超える被害者の治療や支援に当たってきた。ムラドさんは悲痛な体験を沈黙ではなく、証言によって性暴力と闘う道を選んだ。頭が下がる▼性暴力を戦術として意図的に使うケースがあると聞く。精神的ダメージで地域を支配しやすくする。性暴力は武器、しかも人間が手に入れやすい武器である▼今回の受賞を単なる賞に終わらせることなく野蛮な武器をなくすための一歩としたい。

 
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


今日の筆洗

2018年10月06日 | Weblog

 あまり見かけない「俥」という漢字は「くるま」と読んで人力車を意味する。右側に車があり、人偏はそれを引く人だ。なかなかうまくできた漢字で、辞典には「日本製」ともある。車夫がかじ棒を握って街を走る姿も、想像できる字だろう▼<もともと私は俥に乗るのが好きなので…>。作家の内田百〓(ひゃっけん)は、人力車を題材に、随筆を書いている。金策に駆けまわる時にも、乗ったというほど好きだった人だ。魅力はやはり人偏の部分にあるようで、随筆には顔なじみの老車夫らとの思い出が多く記されている▼では次世代の「車」の隣には、何偏がふさわしいだろう。技術にちなんで手偏か。自動の「自」か。右側にトヨタ自動車、左側にソフトバンク。両トップが並んだ写真に、そんなことを思う▼新しい自動車像が生まれようとしていて、生き残りの競争が始まる。自動車業界の危機感もいや応なく知らされるような驚きの組み合わせによる提携が発表された▼人工知能などの力で、運転が自動化された車が街を走る時代が迫っているのだという。車は端末としての性格を強め、所有形態も含めて、大きく変わる可能性があるそうだ▼百は、交通機関が発達しすぎると、人間は忙しくなりすぎて、<いつも何処(どこ)かへ行く行きがけか、その帰り>にならないかと心配した。企業の人にも、使う人にも優しい変革であることを願う。

※〓は、門構えの中に月

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


今日の筆洗

2018年10月05日 | Weblog

 明治時代に来日した英国の女性旅行家イザベラ・バードの旅は、古き良き人々との出会いの日々でもあった。貧しくても子どもを絆に楽しく暮らす家族、礼儀正しい肉体労働者たち、もてなしてくれる田舎の宿の主人…。約二千キロに及ぶという旅の記録として知られる『日本奥地紀行』には優しさや親切との遭遇がある▼何よりこわごわ出発したバードは、実際の旅の安全に感心した。<恐怖心とはまったく無縁だった…世界中で日本ほど女性が危険にも無礼な目にもあわず安全に旅できる国はない>などと賛辞を繰り返す▼古くから街道が発達し、お遍路やお伊勢参りといった伝統もある国だ。外国人の目に、育まれてきた伝統が大きな驚きとして映ったようだ▼旅人を迎える心が今もなお生きているとすれば、それが悪用された逃避行だろう。大阪の富田林署から逃げ、山口県内で、先日捕まった男である。約五十日間に及ぶ逃走の中身が、分かってきた▼大きな荷を積んで、自転車で長旅をしている人をみればねぎらいたくなる人は多いだろう。偽装を疑えた人はいただろうか。愛媛県庁では「日本一周中」の紙をもらったそうだ。お遍路のかさも持っていたらしい▼二人旅も装っていた。警察の見逃しは残念だが、なんという悪知恵か。自転車で一人旅をする人々の印象まで傷つけることにならないか。いやな逃走劇である。

 
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


今日の筆洗

2018年10月04日 | Weblog

「大群獣ネズラ」は、東宝の「ゴジラ」の人気に対抗して当時の大映が企画した怪獣映画。一九六三(昭和三十八)年というから大映のヒット映画「ガメラ」より前の話である。主役は巨大化したネズミの大群。鳥の群れが人を襲うヒチコックの「鳥」がヒントになったらしい▼こんな逸話が残っている。撮影のため、たくさんのネズミが必要となり、一匹五十円で買い取るという広告を打った。当時の五十円なら、ちょっとしたおこづかいだろう▼狙い通り、大量のネズミが撮影所に集められたが、問題が起きた。ネズミからダニが発生。撮影どころではなくなり、企画自体がボツになったそうだ▼場合によっては「シン・ネズラ」が撮影できるか-と愚かなことも言っていられぬ最近のネズミ問題である。豊洲市場への移転で閉場迫る築地市場。移転後に建物の取り壊しが始まれば、すみかを失ったネズミが周辺に逃げだす危険があるらしい▼ネズミには「楽園」だったにちがいない。なにせ魚や野菜など食べ物には事欠かぬ。古い建物はさぞや居心地が良かっただろう。五月と八月の駆除で千四百匹を超えるドブネズミやクマネズミを退治したそうだが、いったい、どれぐらいのネズミが今もいるのやら▼築地から一斉に走りだすネズミを想像するだけで身震いする。都の封じ込め大作戦を「チュウ(注)視」するしかないか。

 
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


今日の筆洗

2018年10月03日 | Weblog

ジム・モリス投手と聞いて、ぴんとくる人は野球ファンでも少ないだろう。大リーグ通算成績は登板二十一試合で、零勝零敗。防御率四・八〇。実働は一九九九年と二〇〇〇年の二シーズンのみ。成績だけなら見るべきところのない投手かもしれぬ▼それでも、その選手が語り継がれるのは、大リーガーになるまでの道程への称賛である。若い時はドラフトに指名されるほどの腕前だったが、腕を故障。高校の先生になったものの、夢あきらめきれず、ある球団の入団試験に挑戦。苦労の末、大リーガーとして初マウンドに立ったときは三十五歳になっていた。普通なら引退する年齢である▼安倍改造内閣の組閣名簿を見て、その投手の半生を描いた米映画の邦題をふと思い出した。『オールド・ルーキー』。十二人が初入閣。しかも、当選回数を重ねながらも、なかなか大臣に手が届かなかった方々が目立つ▼初入閣の適齢期といえば、衆院議員なら当選五、六回ぐらいだろう。今回は当選七、八回での初入閣が七人。失礼ながら「出世」が少々遅れていた人たちといえるだろう▼自民党の「在庫一掃処分市」と皮肉ってもいいが、本日はやめておく。良き仕事をと言っておく▼大臣が夢だったわけではあるまい。大臣として、国民のために何をなすかを夢見ていたはずである。オールド・ルーキーたちの仕事を厳しく見守るとする。

 
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


今日の筆洗

2018年10月02日 | Weblog

 大相撲の世界で「恩返し」といえば、入門当時、稽古をつけてもらった先輩力士に土をつけることである▼世話になった人に勝つことが「恩返し」。先輩力士にすれば、おもしろくないかもしれないが、科学研究者の世界にも、こういう「恩返し」があるらしい▼この方も「恩返し」の人である。二〇一八年のノーベル医学生理学賞の受賞が決定した本庶佑・京都大特別教授。体内で異物を攻撃する免疫反応にブレーキをかけるタンパク質を発見したことが評価された。多くのがん患者に希望と光を与え、がんを死なない病気に近づけた功績。受賞は当然であろう▼若き日、抗体遺伝子研究の道へと導いてくれた先生がいたそうだ。世話になったが、その後、本庶さんは、結果的にその先生が提唱していたモデルが実は間違いであるという内容の論文を発表することになる▼「先生への恩返しになったのではないかと思う」。当時を振り返っている。科学の進歩はだれかが何かを考え、もしその考えがだめなら次に行くことだという。先人への「恩返し」は人類全体への恩恵につながった▼「教科書に載っていることは常に疑いなさい」。若い人に向けて語っていた。定説を覆すような行為は嫌われるし、クレームもつきやすい。が、その先にしか人のやっていないことはない。「オンリーワン」の人の教えが若者たちの背中をたたく。

 
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】


今日の筆洗

2018年10月01日 | Weblog

 十八、十九世紀のドイツでは学生同士の決闘行為がよくあった。ルールがあり、命までは奪わないらしい。ハイネ、マルクス、ニーチェ、シーボルト。歴史上の人物たちも若き日の決闘の経験者と聞く▼大学時代の一年半で二十五回の決闘をしたのが鉄血宰相ビスマルク。顔に刀傷が残ったという。宰相時代も決闘を申し込んでいる。「ソーセージの決闘」(一八六五年)という。相手はビスマルクを批判する政治家ルドルフ・フィルヒョウである▼決闘は申し込まれた方が武器を選べる。科学者でもあった、フィルヒョウが選んだのは二本のソーセージ。一本には寄生虫が潜んでいる。「さあ一本選んで食べよ。残った方を私がいただく」。ビスマルクは結局選べず、決闘は行われなかったという▼この長引く決闘をどう収めるか。米中の貿易戦争である。トランプ米政権は先週、対中制裁関税の第三弾を発動し、これに対し中国も報復関税を実施した▼これで米国は中国からの輸入総額のほぼ半分、中国は米国からの七割に関税を課したことになる。お互いの首を絞め合う懲罰と報復の果てなき争い。もはや危険なレベルに入っている▼世界一位と二位の決闘にもやはりソーセージを出すか。そのソーセージは一本だけではなく、両方ともに世界経済の大打撃という猛毒が入っている。話し合いのテーブルにつくしかあるまい。

 
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】